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本編
31話 スイカとメロンと干しブドウ その6
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「お皿が大事なの、お皿を活かすの」
屋敷の厨房ではどういうわけだかミナの厳しい指導が飛んでいた、
「はい、ミナ先生、えっと、この皿を使いたいと思うんですが如何ですか」
ミナを調子に乗らせた原因は専らジャネットである、パウラと共に意気揚々と乗り込んできたミナとレインを先生と呼び、事あるごとに先生、先生と元気に呼ぶものだから、レインは早速面倒がり、ミナは見事に調子に乗った、
「うん、良いと思うの、ジャネットは賢いの」
「ありがとうございます、先生、お褒めに預かり光栄です」
ビシッとミナの前で直立するジャネット、うんうんと頷き踏ん反り返るミナ、
「では、次なの、ニャンコを書くの、ニャンコ以外認めないの」
「はい、ニャンコですね、分かりました」
ジャネットはサッと作業台に向かうと、
「先生、ニャンコは何味が良いでしょうか?」
「うん、見た目は黒ニャンコがいいの、でも味はイチゴなの、他は認めないの」
「黒ニャンコですね、黒糖でしょうか、イチゴで赤ニャンコも良いと思うであります」
「赤ニャンコはいないの、イチゴを使うのは、三毛ニャンコなの」
「三毛ニャンコですね、分かりました」
ジャネットは漸く作業に取り掛かる、他の面々はレインとケイランの指導の下粛々と制作に励んでいた、
「なるほど、確かにこうすれば様々な味を一度に好みで味わえるんですね」
ケイスが手を止めて自身の皿をしみじみと見下ろす、
「そうですね、但しあくまで主として中央に置くアイスケーキとそれに対する従として添えられたソースという形は崩すべきではないとも思います、この場合の従とは主を活かす為の何がしかと考えておりました」
「そうじゃの、その線を守れば料理そのものの主張がとっ散らかる事は無いからのう、主を肉として、従をそれ用の調味料として置き換えれば、甘味以外の料理にも応用は効くであろう?」
ケイランとレインの冷静かつ的確な説明に、アニタとパウラとケイスはなるほどと頷いた、
「但し、今回はあれだの、聞く限りではやんごとなき方々向けとの事じゃろ?」
レインがオリビアに問う、
「はい、そのように考えております」
オリビアの答えに、
「そうなるとのう、ミナが騒いでいたようにまずは皿、それから、主となる料理にも工夫が必要かものう」
「そうですわね、皿・・・難しいですわね、あるもので何とかするしかないですね、クレオノート伯家でも普段使いの皿や食器は平民の物と大きく変わりません、良い皿はその用途で使われる事は殆ど無いですね、あれは装飾品でしたね」
ケイランが思い出したように口にする、
「なるほど、確かにのお茶会でも見たが棚に並べられておったのう、あれじゃ、絵の描かれた皿じゃろ、しかし、あれで食事は難しいじゃろう」
「まぁ、レインさんは目敏いですね、そうなんです、皿として扱われる事の無い陶器製の皿が高級品としてあるのですが、あれは美術品ですね、皿として扱われる皿となると、銀食器が最高級で、陶器のものになると地味なものが多いですね」
「うむ、しかしあの華美な皿では料理が死んでしまうわ、あれは見て楽しむものじゃろう、ふむ、そう考えると皿から作らねばならんが、その時間は無いのであろう?」
レインがオリビアを見上げる、
「はい、確かに皿を作る時間はありません、皿を作るのにどれだけ時間がかかるかも分からないですけどね」
オリビアが控えめに微笑むが居並ぶ面々は渋い顔であった、どうやらオリビアとしては笑いどころであったらしい、その控えめな微笑みは刹那の内に消え去った、
「うむ、であれば、皿はあるものを使おう、出来るだけよくある若干良い品じゃな、ま、それはそれとしてじゃ」
レインはそれぞれが飾り付けた皿を見渡しつつ、
「主となるアイスケーキじゃな、もう少し何かが欲しいと思うのじゃが」
フムと唸って考え込む、
「そうね、アイスケーキそのものの種類としてはイチゴを混ぜたものとミカンを混ぜたものか・・・でも、それだとソースと味が被っちゃうのよね」
「そうですね、アイスケーキを二つ並べるとか・・・」
「うーん、そうすると見た目的に今一つな感じなのよね、ならほら、大きいの一つどんって置いた方が良くない?」
「そっか、主が弱いんだねぇ、どうだろう?やっぱり3種のアイスケーキを主として黒糖とアンズソースで飾り付けてみる?」
「うーん、じゃ、パウラはそれをお願いします、私は大きいアイスケーキで作り直してみますね」
「じゃ、私は他の何か・・・何かあります?」
ケイスは困った顔で皆を見渡す、
「その何かが問題なのよねー」
アニタとパウラが首を捻った、
「うむ、ではの、あれじゃ、いつぞやソフィアが作った揚げた薄パンがあったじゃろ」
レインが助け舟を出す、
「あ、はいはい、あれもサクサクして美味しかったです」
「そうじゃろう、あれも主とはならんが従としてあっても良いのではないかの」
「なるほど、確かにそうですね、はい、流石レイン先生、ありがとうございます」
ケイスは嬉しそうな笑顔になる、
「うむ、それとじゃ、ブロンパンのパンじゃな、これも大事な要素じゃぞ、忘れてはならん」
「あ、そうだね、そうだよね、うん、そっか、あれも使えるよね、じゃ、ケイスさんはその揚げパン?とブロンパンをお願いしていい?」
アニタの指示に、ケイスは了解ですと明るい声で答え、
「うむ、楽しみじゃのう」
レインはニヤリと微笑み、
「流石ですね、みなさん」
ケイランも楽しそうに微笑んだ、
「だから、イチゴなの、イチゴは正義なの」
「正義ですね、分かりました、先生」
「うん、分かればいいの、黒ニャンコはこう書くの、可愛くしなきゃ駄目なの」
「はい、先生」
「失敗してもいいの、舐めればいいの」
「先生、それはちょっと・・・」
「いいの、先生の言う事が大事なの」
「分かりました、先生」
静かに真剣に作業を続けるアニタ達を尻目にミナとジャネットは独自の道をひた走っている様子であった。
屋敷の厨房ではどういうわけだかミナの厳しい指導が飛んでいた、
「はい、ミナ先生、えっと、この皿を使いたいと思うんですが如何ですか」
ミナを調子に乗らせた原因は専らジャネットである、パウラと共に意気揚々と乗り込んできたミナとレインを先生と呼び、事あるごとに先生、先生と元気に呼ぶものだから、レインは早速面倒がり、ミナは見事に調子に乗った、
「うん、良いと思うの、ジャネットは賢いの」
「ありがとうございます、先生、お褒めに預かり光栄です」
ビシッとミナの前で直立するジャネット、うんうんと頷き踏ん反り返るミナ、
「では、次なの、ニャンコを書くの、ニャンコ以外認めないの」
「はい、ニャンコですね、分かりました」
ジャネットはサッと作業台に向かうと、
「先生、ニャンコは何味が良いでしょうか?」
「うん、見た目は黒ニャンコがいいの、でも味はイチゴなの、他は認めないの」
「黒ニャンコですね、黒糖でしょうか、イチゴで赤ニャンコも良いと思うであります」
「赤ニャンコはいないの、イチゴを使うのは、三毛ニャンコなの」
「三毛ニャンコですね、分かりました」
ジャネットは漸く作業に取り掛かる、他の面々はレインとケイランの指導の下粛々と制作に励んでいた、
「なるほど、確かにこうすれば様々な味を一度に好みで味わえるんですね」
ケイスが手を止めて自身の皿をしみじみと見下ろす、
「そうですね、但しあくまで主として中央に置くアイスケーキとそれに対する従として添えられたソースという形は崩すべきではないとも思います、この場合の従とは主を活かす為の何がしかと考えておりました」
「そうじゃの、その線を守れば料理そのものの主張がとっ散らかる事は無いからのう、主を肉として、従をそれ用の調味料として置き換えれば、甘味以外の料理にも応用は効くであろう?」
ケイランとレインの冷静かつ的確な説明に、アニタとパウラとケイスはなるほどと頷いた、
「但し、今回はあれだの、聞く限りではやんごとなき方々向けとの事じゃろ?」
レインがオリビアに問う、
「はい、そのように考えております」
オリビアの答えに、
「そうなるとのう、ミナが騒いでいたようにまずは皿、それから、主となる料理にも工夫が必要かものう」
「そうですわね、皿・・・難しいですわね、あるもので何とかするしかないですね、クレオノート伯家でも普段使いの皿や食器は平民の物と大きく変わりません、良い皿はその用途で使われる事は殆ど無いですね、あれは装飾品でしたね」
ケイランが思い出したように口にする、
「なるほど、確かにのお茶会でも見たが棚に並べられておったのう、あれじゃ、絵の描かれた皿じゃろ、しかし、あれで食事は難しいじゃろう」
「まぁ、レインさんは目敏いですね、そうなんです、皿として扱われる事の無い陶器製の皿が高級品としてあるのですが、あれは美術品ですね、皿として扱われる皿となると、銀食器が最高級で、陶器のものになると地味なものが多いですね」
「うむ、しかしあの華美な皿では料理が死んでしまうわ、あれは見て楽しむものじゃろう、ふむ、そう考えると皿から作らねばならんが、その時間は無いのであろう?」
レインがオリビアを見上げる、
「はい、確かに皿を作る時間はありません、皿を作るのにどれだけ時間がかかるかも分からないですけどね」
オリビアが控えめに微笑むが居並ぶ面々は渋い顔であった、どうやらオリビアとしては笑いどころであったらしい、その控えめな微笑みは刹那の内に消え去った、
「うむ、であれば、皿はあるものを使おう、出来るだけよくある若干良い品じゃな、ま、それはそれとしてじゃ」
レインはそれぞれが飾り付けた皿を見渡しつつ、
「主となるアイスケーキじゃな、もう少し何かが欲しいと思うのじゃが」
フムと唸って考え込む、
「そうね、アイスケーキそのものの種類としてはイチゴを混ぜたものとミカンを混ぜたものか・・・でも、それだとソースと味が被っちゃうのよね」
「そうですね、アイスケーキを二つ並べるとか・・・」
「うーん、そうすると見た目的に今一つな感じなのよね、ならほら、大きいの一つどんって置いた方が良くない?」
「そっか、主が弱いんだねぇ、どうだろう?やっぱり3種のアイスケーキを主として黒糖とアンズソースで飾り付けてみる?」
「うーん、じゃ、パウラはそれをお願いします、私は大きいアイスケーキで作り直してみますね」
「じゃ、私は他の何か・・・何かあります?」
ケイスは困った顔で皆を見渡す、
「その何かが問題なのよねー」
アニタとパウラが首を捻った、
「うむ、ではの、あれじゃ、いつぞやソフィアが作った揚げた薄パンがあったじゃろ」
レインが助け舟を出す、
「あ、はいはい、あれもサクサクして美味しかったです」
「そうじゃろう、あれも主とはならんが従としてあっても良いのではないかの」
「なるほど、確かにそうですね、はい、流石レイン先生、ありがとうございます」
ケイスは嬉しそうな笑顔になる、
「うむ、それとじゃ、ブロンパンのパンじゃな、これも大事な要素じゃぞ、忘れてはならん」
「あ、そうだね、そうだよね、うん、そっか、あれも使えるよね、じゃ、ケイスさんはその揚げパン?とブロンパンをお願いしていい?」
アニタの指示に、ケイスは了解ですと明るい声で答え、
「うむ、楽しみじゃのう」
レインはニヤリと微笑み、
「流石ですね、みなさん」
ケイランも楽しそうに微笑んだ、
「だから、イチゴなの、イチゴは正義なの」
「正義ですね、分かりました、先生」
「うん、分かればいいの、黒ニャンコはこう書くの、可愛くしなきゃ駄目なの」
「はい、先生」
「失敗してもいいの、舐めればいいの」
「先生、それはちょっと・・・」
「いいの、先生の言う事が大事なの」
「分かりました、先生」
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