セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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31話 スイカとメロンと干しブドウ その3

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「わー、凄いなー、吊るしの服って見てるだけで楽しいですねー、何かこう心が豊かになるっていうか、幸せっていうかー」

「そうね、あ、これとか良いんじゃない?可愛らしい感じで」

「えー、可愛らしすぎますよ、これ、あれですよ、ミナちゃんとかなら似合うんじゃないですかー」

「大丈夫、大丈夫、まだ若いんだから、全然似合うわよー」

「いや、あの、もっと、落ちついた感じで、あ、これとか・・・」

「それは、地味すぎよー、こっちは?」

「ミナ、これがいいー」

「えー、ミナちゃんそれ渋いわー」

「むー、かっこいいでしょー」

「かっこいいかもだけど、ミナちゃんはそれこそこっちよ」

「わー、フリフリだー、スゴーイ、可愛いー」

「でしょう」

「テラさんこちらなどどうです?」

「いやー、若すぎますよ、年齢相応というものが・・・」

「では、こちらを」

「あ、いいですね、あー、でもちょっと収まらないかしら?」

「なにがです?」

「えっと、その胸が・・・」

「え、これで収まらないんですか・・・」

「そうですね、もっとゆったりしてないと・・・」

「オリビア、あなたは自分のを優先なさい」

「そういうお嬢様こそ、それは派手すぎます」

「ま、ならこれはオリビアに譲りますわ」

「私は地味なので良いのです」

「いいえ、あなたこそ派手になさりなさい、普段からまったくお洒落をしないのですから」

「お洒落してますよ、見えないところで」

「あら、見せなければ意味が無いですわよ」

「そうなるとこれなんかどうです?」

「あら、華やかね、派手ってほどではないですし、良い感じじゃないの」

「そうでしょうか、私はやはりこのくらいのが」

「だから、地味ですってば」

「ですからー」

「わ、この刺繍可愛い」

「あら、百合かしら?」

「そうですね、あ、こっちのも」

「まぁ、ミナこんなのはどう?」

「むー、なら、こっちー」

「ん、何それ?」

「わかんない」

「あのねー」

「でも、可愛い、これのフリフリがいい」

「うーん、フリフリかー」

店舗の2階、吊るしの衣装が並ぶ一室で一行はキャッキャッと楽し気に服を選ぶ、やや離れてニコニコと笑顔を浮かべる従業員とめんどくさそうな顔で所在無げにぶらつくレイン、ソフィアはミナの服に見当をつけ、レインを引っ張ってくると、

「ほら、これなんかどう?」

「好きにするがいいわ、何を着ても似合うからのう」

「また、そんな事言ってー、なら、これは?」

「幼すぎるわ幼児じゃないんだぞ」

「あら、何でも似合うんじゃなかったのー」

「ええい、ならこれじゃ、これでいいじゃろ」

「わー、レインちゃん、大人っぽいー、かっこいいねー」

「当然じゃ」

「むー、ならこっちー、レインはこっちー」

「あら、じゃ、これは?」

「ええーい、好きにせい」

「なら、これ」

「じゃから、それは幼すぎるわ」

「えー、似合うと思うよー」

「じゃから、こっちで良いじゃろ」

「んー、ちょっとなー、ならこれは?」

「む、それならまぁ、良いかのう」

「ふふ、じゃ、これ、あら、ミナと同じ色になっちゃうか・・・なら、ミナは・・・こっちはどう?」

「フリフリがいいー、フリフリ着てみたいー」

「そっか、フリフリかー、じゃぁねー」

女性の買い物には時間がかかる、それが身を着飾る事となるとより、服の事となるとさらにである、喧々諤々と続くおしゃべりは終わりが見えないようであったがそれでもなんとか終息し、漸くそれぞれにお気に入りの品を定めた、オリビアとブノワトは3着選び、テラとエレインも2着選んでいる、それでも予算的にはかなりの余裕があり、エレインとソフィアはやはり返したほうがいいですねと相談しあった、

「申し訳ありません、品数が多い為、お直しに時間が欲しい所です、お渡しは明日午後になりますが、宜しいでしょうか?」

商品の選定には殆ど口を出さなかった店員が、それぞれの試着を終えた後で確認を求めた、

「それで構いません、こちらの住所へ届けて下さい、それと支払いはこの場で、下で良いですか?」

オリビアが諸々を済ませ、部屋の一角にあるテーブルを囲んで一服している一行に合流したのは昼を過ぎた頃合いであった、午前をまるまると買い物に費やした事となる、しかし皆それなりに満足した顔で疲れた顔は一つも無い、実に充実した時間であった様子である。

「テラさん凄いねー、そんなにお胸があるなんて・・・」

「恥ずかしいですからあまり見ないで下さい」

ブノワトの遠慮の無い視線がテラの胸元へ向かう、ホッと一息吐いた状態で垣根の低い女子会が始まったようであった、

「そんな隠さなくても、腰も細いですし、身長もあるからまるで気付きませんでした」

「そうそう、えっと普段はどうしてるんです?」

「あー、布で締め付けてますね、なんともほら邪魔くさくて」

「ま、何てことを」

「はい、一度言ってみたいですね、邪魔くさいなんて・・・」

エレインとブノワトが大袈裟に驚き、

「そうね、羨ましい限りだわ」

ソフィアも同意を示す、

「いや、でも、ホントにあれですよ、肩は痛いし、寝るときは息苦しいし、走ったりするともう、ほんとに邪魔で・・・」

「ま、追加されましたわ」

「ね、それはあれですよ、持っているもの優越ってやつです」

「だから、目立たないように締め付けているんですよ」

「えー、でも折角だから綺麗に見せればいいのにー」

「そうは言いますけど、難しいですよ、歳とともにこう、全体的に下がっていくんです、胸の下が汗で蒸れるし、そうなると痒くなって、良いこと無いですよ」

テラは大きく溜息を吐くが、それに同意する者はいない、

「ま、さらに追加されましたわ」

「もう、エレインさんはー」

苦笑いでエレインを窘めるブノワトと静かに紅茶に手を伸ばすオリビア、

「あ、オリビアも結構あるのよ、あなたはどうしてるの?」

不意にエレインがオリビアに問う、

「そう・・・ですね、テラさんと同じだと思います、布で締め付けてますね、その・・・作業の邪魔になるので」

「ま、オリビアあなたをそんな事言う娘に育てた覚えはありませんよ」

「うわ、敵が増えた」

エレインとブノワトが正に敵を見る目でオリビアを見る、

「そんな、あっても、その・・・普段は使わないですしね、テラさんのおっしゃる通りです」

静かで冷静なオリビアの言葉に、テラはやっと仲間が出来たとホッとして、エレインとブノワトはさらに頬を引き攣らせる、

「なんて贅沢な・・・ブノワトさん、これはわたくしどう対抗すれば良いのでしょう」

「エレイン様、ここは素直に負けを認めますか・・・その、あまり、噛みついてもこちらがだんだんとその悲しく・・・なってきます」

「そんな、ブノワトさん、ここは頑張りどころですよ、負けてはなりません、持たざる者同士、力を合わせなければなりません」

「また、そんな事いってー、だってエレインさんだって少しはあるんでしょう?」

「少しはの、少しの加減が難しいですわよ」

「うんとそうね、あれで、手で持てるくらい?」

「なんですって・・・どうかしら?」

エレインはそっと自分の襟元から服の中を覗いた、

「お嬢様、はしたないです」

冷静なオリビア、エレインの所作にさらに困った顔になるテラ、

「私も自分で言っててどうだろう・・・」

ブノワトは服の上からそっと胸を持ち上げ、

「うん、持てるくらいはあるかな?」

「なんですってー」

エレインが叫んで席を立った、

「そんな、それでは、敵ばかりではないですか、これでは、私の味方は・・・」

キョロキョロと周囲を見渡しソフィアに視線を合わせる、その目は縋りつく者のそれであった、

「あ、私も持てるくらいはあるよ」

あっさりと答えるソフィア、

「なんですって」

エレインは絶句し、その視線はとうとう不思議そうな顔で静かに茶を舐めているミナとレインに向かった、

「ありゃー、エレインさん、ミナとレインに救いを求めては駄目駄目よー」

ソフィアの容赦の無い言葉に、エレインは言葉も無く朽ち果てたかのように座り込んだ、精気の無い姿は色さえ失ったかのように見える、

「むー、何の話しー?」

ミナがそっとソフィアに問う、

「ミナには分かんない事よー」

「えー、分かる、分かるから教えてー」

「大人になったらねー」

「やー、今教えてー」

「そうね、うーん、普段は邪魔なんだけど、有ると威張れる事の話し?」

「なにそれ、変なの、なぞなぞ?」

「そうね、変ね、そのうち分かるから」

ニコニコとソフィアはミナの頭に手を置いた、

「あ、そうだ、そんなに困ってるなら、どうだろう、戻ったら一つ面白いのを作ってみようかしら?」

ソフィアの何度目かの思い出しである、思い付きとも気紛れとも言う、

「なんですか?私やります?」

ブノワトが敏感に反応した、このソフィアの口からで出る面白いのという単語には無限の可能性がある事を経験上身に染みているのである、

「あー、ブノワトさんに頼むほどではないかしら、材料もあるし、うん、ちょっと作ってみるよ、あ、期待しないでね」

あっさりと答えるソフィアに、ブノワトとオリビアは期待と不安が混ざった複雑な視線を送り、テラは首を傾げて不思議そうにしている、

「ま、そういう事で、じゃ、どうする? 戻る?あんまり長居しても失礼になるんじゃない」

「そうですね、お茶も頂きましたし、失礼致しましょうか」

オリビアが席を立つとそれに習って皆腰を上げた、

「お嬢様、いつまでも現実逃避なさっていないで、戻りますよ」

頽れたままのエレインにオリビアが優しく声をかける、テーブルに置いた指先がピクリと動いて二つの瞳がギョロリとオリビアを捕らえた、

「オリビア・・・いつか・・・いつか、追い越して見せますわ」

「まぁ、それは楽しみです」

余裕の笑いを見せるオリビアに、

「むきー、オリビアの癖にー、もー、あんなに可愛かったオリビアは何処に行きましたのー」

「目の前に居りますよ、ほら、お嬢様がしっかりしていないと恥ずかしいですよ」

「もー、ソフィアさん、大きくする薬とか魔法とか無いんですの?ソフィアさんなら絶対に御存知の筈ですわ」

「はずって・・・うーん」

ソフィアが首を傾げて考え込む、また、難しい事をと皆の視線がソフィアへ集まるが、

「無理」

ニコヤカに微笑むソフィア、

「そんな事を仰らずに」

食い下がるエレイン、

「うん、無理」

再度にこやかに答えたソフィア、

「そんな、最後の希望が・・・オリビア、こうなったらあなたの少し分けなさい」

「そうですね、それが出来たらいつでも、先程も言いました通り、邪魔なので」

辛辣に言い放つオリビア、

「また、何てことを・・・これが、持てる者の余裕・・・」

再び頽れるエレインに、

「もう、エレインさんほら、遊んでないで、帰りますよ」

ソフィアに窘められエレインは何とか立ち上がると、

「そうですわね、女の価値は仕事です、ですよね、ね、ね」

いよいよ逃避的な思考である、誰彼と構わずに質問し、皆苦笑いとなった、

「はいはい、戻ってゆっくりしましょうね」

ソフィアとオリビアが何とかエレインを宥めながら、一行は店舗を後にするのであった。
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