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本編

30話 雨を降らせた悪だくみ その9

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「おう、こっちは終わったぞ」

唐突に食堂の木戸からブラスが顔を出した、

「わ、おっちゃんかー、びっくりしたー」

ミナが大袈裟に反応し、振り向いた瞬間にお手玉が綺麗にポトリと頭に乗った、

「あー、もー、ミナちゃん可愛いー」

ブノワトがその様に歓喜し、

「ホントだ、可愛い」

ソフィアも笑顔となる、

「むー、おっちゃん邪魔すんなー」

ミナは急に怒りだし、

「おいおい、なんだよ、悪かったよ」

ブラスが苦笑いとなる、

「せっかく、上手くなってきたのにー」

ブツブツ言いながらミナはお手玉を構え直し、仏頂面のまま玉を操りだした、

「おー、上手いもんだ、すごいなミナ坊、大したもんだ」

「練習したもん」

ブラスの称賛を背後に受け、ミナは得意気である、確かにミナの操る玉は綺麗に回り続けている、ここ数日暇を見ては練習に明け暮れていた為、玉が二つであればかなり流麗に扱えるようになっていた、

「凄いねー、やればできるんだねー」

「当然じゃろう、師匠が良いのじゃ」

レインが小さな胸を張る、

「そうね、レインは教え方が上手いわよね」

ソフィアがレインを褒めると、

「むー、ミナも頑張ったのー、レインは教えただけでしょー」

ミナの嫉妬が爆発した、

「まぁ、勿論ミナも大したもんよ、偉い、偉い」

ソフィアの誉め言葉にミナはフンスと鼻を鳴らす、

「そうじゃのう、では、玉を3つに増やそうか」

レインがどうする?と目で訴えかける、

「む、やる、頑張る」

ミナは手を止めるとレインの手にする玉を受け取り、左手に一つ右手に二つの玉を握ると、じっと考え込んでしまった、

「えっと、投げて、取って、渡して・・・」

ブツブツとなにやら呟いている、

「ほれ、取り敢えずやってみるのじゃ、コツはの、玉を高く投げて時間を稼ぐことじゃ、それと、一定の拍子を維持するのじゃぞ、こんな感じじゃ、見ておれ」

レインは動けなくなったミナを見かねて実践してみせる、3つの玉を綺麗に回しながら、

「常に玉を二つ投げておくのじゃ、高く、拍子も合わせての」

「うわ、レインちゃんも凄いな、大したもんだ」

ブラスの素直な誉め言葉をレインはフンと鼻で笑う、

「む、やる」

意を決したミナが玉を投げる、一つ目を投げ空中のそれを目で追いながら二つ目を投げた、素早く左手の一つを右手に送り、一つ目の玉を左手で受けると右手の玉を投げる、

「あら」

ソフィアが上手くいきそうと思った瞬間に、投げられた玉が斜め前に高く放られた、

「むー、難しいー」

ミナはさっと立ち上がると壁にぶつかった玉を拾いに走る、

「力が入りすぎじゃの、軽く、軽く、ポン、ポン、ポン、じゃ」

レインは手を止めお手玉を全て手中に収める、

「うん、わかった、ポン、ポン、ポンね」

「そうじゃ、拍子を合わせて力を抜くのじゃ、出来るぞ」

「うん」

ミナは真剣な瞳でお手玉に視線を落とし、キッと天井を睨むと玉を投げ始める、一つ目、二つ目、三つ目、しかし三つ目の玉がやはり先の二つとは別の軌道を描いてしまう、

「うー、もう一回」

ミナは床に倒れ込むように三つ目の玉を拾うとサッと姿勢を直した、

「うむ、出来るぞ、二つ出来たら三つも出来る、三つ出来たら4つじゃ」

「わかった、がんばる」

ミナの瞳は熱く燃え上がっていた、朝から続いた不調はすっかり回復したようである、恐らくであるがジャネットと戯れた事により神経が覚醒したのであろう、すっかりいつもの調子となったミナは負けん気の強さを全身に滾らせている、

「ミナも負けず嫌いよねー、ま、良いことかしら?」

「そうですね、小さいうちは可愛いもんですけどねー、これが男の子だと、喧嘩っぱやいし、乱暴だしで、ヤンチャで済んでるうちは楽しめるんでしょうけど」

ハーと小さく吐息を吐いてブノワトがチラリとブラスに視線を送る、

「なんだよ、喧嘩なんて暫くしてないだろうが」

「別に、アンタの事じゃないわよ」

「あん、その眼は俺が悪いって言ってるときの眼じゃねぇか」

「はぁ?何も言ってないでしょ、そういうの被害妄想っていうのよ」

「あん?」

売り言葉に買い言葉である、小さな喧嘩が始まりそうになった瞬間、

「はいはい、夫婦喧嘩は家でやりなさい、仲が良いのは分かったから」

ソフィアがニヤニヤと止めに入り、二人はアッと小さく呻いて赤面して俯いた、

「で、ブラスさんどうしたの?」

「あっ、そうだ、あれだ、エレイン会長が回転機構の打ち合わせしたいってさ」

ブラスが赤面したまま顔を上げる、

「何よ、先に言ってよもー」

ブノワトが慌てて腰を上げた、

「それと、君達はいいのかい?事務所に若いのが集まってたぞ?」

ブラスがフイッとジャネットとケイスに顔を向けた、

「あ、そうだ、みんな来てるんだ、生還祝いでブロンパン食べよーってなって」

ジャネットも慌てて立ち上がる、

「生還祝いってまた大袈裟ねー」

ソフィアは小さく笑い、

「じゃ、ほら、みんなも呼んで洗髪なさい、どうせみんなも泥だらけなんでしょ」

「いいんですか?」

「いいわよー、せっかくお湯沸かしたしね、あ、でも、作業場狭いかしら?」

「全然ですよ、なんとかしますよ、嬉しいですよ、ありがとうございます」

ジャネットは早口で捲し立て、

「ケイスもほら、早く着替えて、ブロンパンと洗髪で生き返ろうぜ」

「いや、生きてるから、もー」

ケイスも楽し気に席を立つと、階段へ向かう、

「あ、じゃ、サビナさん呼んできますね、先行ってて」

「はいよ」

ブラスがヒョイと木戸から顔を抜き、

「じゃ、そういう事で、向こうに行きますね」

ブノワトは律儀にソフィアへ頭を下げると階段へ向かった、

「さて、私はどうしようかしら」

ソフィアはあっという間に人の減った食堂を見渡して、

「洗髪剤作っておいてあげないとかな、あ、火の番もしなきゃだわ」

よっこらしょと腰を上げた、

「むー、無理ー、ダメー」

ミナは何度目かの失敗で大の字に寝そべってしまった、

「ほう?ミナにはまだ早かったかのう?」

ニヤニヤと見下ろすレインに、

「むかー、やるー、できるー」

ミナはムクリと起き上がり、

「レインに出来るなら、ミナも出来るもん、負けないもん」

「ほう、その意気じゃ」

お手玉のカショカショと鳴る子気味良い音が食堂を支配するのであった。
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