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本編

30話 雨を降らせた悪だくみ その7

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打合せを終えブノワトが事務所を辞する頃合いにポツリポツリと雨が落ちてきた、ブノワトは雨具を薦めるエレインに遠慮しつつ悲鳴を上げて荷車に走ると、そのままの勢いで帰途へ着く、

「今日は店の方も閉めましょうか?」

天を睨んでエレインがテラに問うと、

「そうですね、もう少し様子を見ても良いかと思いますが、このまま振り続きますかね?」

「どうでしょう、今日は合宿組も帰ってきますし、生徒と交代する時間で・・・判断はテラさんにお任せします」

「分かりました、では、そのように、客足を見ながら対応という事で」

テラはそう言って店舗へ走った、シトシトと降り始めた雨が、乾燥して埃っぽくなっていた街路の色を塗り替え始める、

「さて、では、事務作業かしら、やる事やっておかないとオリビアが怖いわねー」

エレインはうーんと伸びをして事務所へと戻った。



それから暫くして、強弱をつけ降り続ける雨音を引き裂くように甲高い声が寮の玄関に響いた、

「やっと戻ってきたー、しんどかったー」

声の主はジャネットである、足を拭ってバタバタとスリッパに履き替え食堂に入る、

「もどりましたー」

常とは異なる大声である、食堂にいたミナとレインが迷惑そうに顔を上げる、

「ジャネットだー、久しぶりー」

ミナは仕方がないなーとばかりにジャネットを迎えた、

「なんだよー、ミナっち、元気だったかー」

ジャネットは木戸に頭を載せたミナに駆け寄ると、

「会いたかったぞ、ミナっちー、うーん、子供の匂いー」

背後から抱き付いて思いっきり髪の匂いを吸い込んだ、

「うー、止めろー」

ミナがジタバタともがくがジャネットの腕から逃れる事が出来ない、

「そう言うなよー、やっと、文明社会に戻ってきたんだよー、生きて帰ってきたんだよー」

「シラナイー、キタナイー、クサイー」

「酷いよミナっち、優しくしてよー」

「やだー、ジャネット、クサイー」

「失礼なやつめー、こうじゃー」

ミナの両脇腹をまさぐるジャネット、

「ヤメロー、こそばいー」

「まだ言うかー」

ジャネットの可愛がりという名の虐待が続くが、ミナも徐々に覚醒したようで、

「むー、負けるかー」

気合一閃両足で床を蹴りジャネットの腕の中で体勢を変えると、

「お返しだー」

ジャネットの脇腹と言わず背と言わずあらゆる箇所を両手でまさぐった、

「あはは、ミナっち、止めれー」

攻守は逆転し、今度はジャネットが嬉しそうに悲鳴を上げる、

「やめるかー、レイン、捕まえてー」

興味無さそうに読書に励むレインに助力を叫ぶミナ、

「うむ」

レインは静かに頷くと背後からジャネットに覆い被さり、

「ふふん、ジャネット嬢は何処が弱いのかのー」

ジャネットの耳元にフーと息を吹きかける、

「ニャー、レインちゃんそれ駄目ー」

「何が駄目なのかなー」

レインは追い打ちとばかりに耳朶を舐め上げた、

「にゃー、ゴメン、ワカッタ、あたしの負けだから、離してー」

「やだー」

「うむ、まだじゃ」

二人の攻めは続き、ジャネットの悲鳴は真に命の危険を感じさせるものになっていく、

「ヒー、ゴメンて、悪かったよー」

過剰な刺激にとうとうジャネットの腰は砕け尻もちをついてしまう、

「ふ、2勝目だの」

レインは満足気に手を離し、

「うん、ま、ジャネットじゃなー」

ミナは誇らしげにジャネットを見下ろす、

「そうじゃの、もうちっと強い奴でないとな、我等の本気は見せられんのう」

「だね」

ミナとレインは不適に笑いパンと一発ハイタッチを交わす、

「うう、二人共いつの間に・・・いつか超えられる日が来ると、思っていたが・・・」

ジャネットはゆっくりと大の字に寝そべると、

「まさか、たった数日会わない間に・・・私を倒す術を身につけるとは・・・」

「何か言ってるよ?」

「うむ、どうやらそういうものらしいぞ、どれ可哀そうじゃ・・・止めを刺してやろうかのう」

レインはキョロキョロと周囲を見渡すが使えそうなものは無い、

「うーん、じゃ、埋める?」

「そうか、若しくは見せしめに吊るしておこうかのう?」

不穏な事を言い出す二人、

「丈夫な縄があればじゃが、倉庫にあったかのー」

「えー、でも、ジャネット重いよー」

ミナが不満そうに言った一言に、

「何をー、軽いわー、重くないわー」

ジャネットは叫んでムクリと上体を起こす、

「ほう、まだ、元気のようじゃ」

「そうだねー」

再び不適な笑顔となるミナとレイン、

「ま、待って、御免、私の負け、ね、許して」

ジャネットは左手を大きく振って降参の意思表示とする、そこへ、

「こら、何を騒いでいるの」

2階からソフィアが下りて来た、

「んー、ジャネットと対決したの、勝ったよー」

「当然じゃな」

「そだね」

「うー、ソフィアさん助けてー」

三者三様の有様に、

「もう、ジャネットさんお疲れ様、合宿はどうだったの?」

ソフィアはいつもの事かと溜息を吐きつつジャネットを慮る、

「あ、今回のはホントにきつかったです、はい」

ジャネットはサッと床の上で居住まいを但してソフィアに向き直る、

「そ、じゃ、あれね、お湯沸かすから身体洗いなさい、あと、髪も」

「あ、嬉しー、はい、お言葉に甘えます」

「うん、宜しい、水は溜めてあるから少し待ちなさい、ほら、着替えてきなさいな、洗い物もあるでしょ」

「あ、はい」

静かに立ち上がるジャネット、

「ケイスさんは?」

「あー、そろそろ戻ると思います、あっちはあっちで何か反省会してましたー」

「そっか、科が違うとまた違うのね」

「そういう事だと思います、実習の内容も違いましたし」

床に置いた荷物を手にしてジャネットは階段へ向かう、そこへ階上からブノワトとブラスが降りてきた、

「あれ、ねーさん、にーさん、お疲れっす」

「あら、お帰りなさい、実習だって?」

ブノワトとブラスはやや疲れた様な顔をしているが笑顔でジャネットに答える、

「はい、やっと戻ってきましたよ、今回はホントにきつかったっす」

「そっかー、ま、何事も経験よ、経験」

「うん、特にお前らはあれが日常になるんだろ、きついよなー、話しでしか知らんけど」

ブノワトとブラスは見事に他人事である、

「あー、そっかー、あれが兵士と冒険者の日常かー、考え直そうかなー」

「あら、そんなにきつかったの?」

「そりゃもー、あー、そうだ、甘い物食べたかったんだ、店いこー」

ジャネットは二人の隣をすり抜けるように自室へと上がっていき、その項垂れた背を見た二人は、

「今回は凄かった見たいねー」

「うん、ユーリ先生が監督だっけ?本格的にやったのかな?」

「ユーリ先生・・・容赦無さそうよね・・・」

「うん、何か、そんな感じがするな・・・」

二人は静かにジャネットを見送った。
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