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本編

30話 雨を降らせた悪だくみ その1

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翌朝テラが食堂に入るとミナとレインが朝食をとっており、食堂は朝食の良い匂いと最近では珍しい若干湿った空気に支配されていた、

「おはようございます」

「テラさんだー、おはよー」

「ほう、テラは早いのう、感心じゃ」

レインの偉そうな態度はいつもの事であるが、ミナは奇妙に静かである、

「あら、ミナさんどうしたの?今日は調子悪い?」

テラが席に着いて心配そうにミナを見る、

「だいじょうぶー」

いつものミナらしくない返答であった、どうしたのかしらとテラが怪訝な表情を浮かべると、

「おはようございます、昨日はゆっくり休めました?」

ヒョイとソフィアが食堂に入ってきた、

「おはようございます、こちらは静かで良いですね、都会だからもっとうるさいのかと思ってました」

テラは愛想良く微笑む、

「そうね、なんかこの辺りは人が少ないらしいのよ、集合住宅とかあるにしては静かでいいわよね、繁華街とも遠いしね」

「なるほど、そういう事でしたか」

「そうらしいわ、あ、朝食はトレーに乗せてあるから、おかわりが欲しかったら言って下さいね」

「あ、ありがとうございます」

テラは腰を上げ、トレーを手にして座り直す、

「昨日の夕飯もですが、朝も豪華ですね」

トレーに視線を落としてテラは呟いた、今日の朝食はオートミールを中心に生野菜とゆで卵、炒めた干し肉、それから湯気の立つミルクが添えられている、

「そう?ほら、食べ盛りの生徒さん達ばかりだからね、夕食もだけど朝もしっかり食べさせないと申し訳ないから、あ、麦粥は味薄いからお好みでお塩振ってくださいねー」

「なるほど、私としてもこれは大変嬉しいです、時々凄い塩辛い麦粥ありますよねー」

「そうなのよ、麦の味がしないぐらいのあるからね、あら、ミナは今日調子悪い?」

ソフィアは食の進んでいないミナに気付いたようである、

「ぬー、だいじょうぶー」

ミナはスプーンを口に咥えて答えるが、常とは異なる精彩の無さを隠そうともしていない、

「そっか、もしかしたら今日は雨?」

「かものう、雲も厚かったしのう、昼前辺りから降るかものう」

レインがミナを斜めに見ながら答える、

「そっか、じゃ、しょうがないわね」

「あ、もしかしてそういう事ですか?」

テラがミナの様子を見ながら口を挟む、

「そうね、この娘はどうしても雨に弱くてね、ま、そのうち気にしなくなるでしょう」

「そうですね、もう少し大人になればそこまで気にしなくなるそうですよね、それにあれですよ、実家の方では雨娘って呼ばれて重宝されてましたよ、機嫌の良し悪しで雨が降るのが分かるから、農家さんにはチヤホヤされてましたね」

「農家さんか、なるほどそうよね、雨だって分かれば作業も変わるでしょうしね」

「はい、それに大人になると魔力が強くなるんですよね、私の知り合いにもいますよ、今、向うの研究所にいますけど、私なんかではもう太刀打ちできないのが一人、その人も昔は雨娘だったらしくて、今は全然大丈夫らしいですね」

「へー、そうなの?それは知らなかったなー、ミナ、あなたおっきくなったら強くなれるわよー」

ソフィアが柔らかい笑みをミナに向けるが、

「どーでーもいー」

ミナは心底そう思っているのであろう、視線をトレーに落としたまま呟いた、

「あらあら、もう」

ソフィアは苦笑いを浮かべ、テラはオートミールに塩をパラパラと振りかけ口に運んだ、

「あら、美味しい、大麦の風味が良いですね、どうやってるんです?」

「分かるー?大麦を入れる前に軽く塩を振って炒めてあるの、香ばしさが出て味が良くなるのよね、食感は若干硬くなるけど」

「良いと思います、うん、美味しいですね、麦粥を美味しいと感じる事はあまりないですが、これは美味しいです」

「ホント?私の好みで作っているからそう言われると嬉しいわ」

ソフィアは素直な笑顔を見せ、テラは嬉しそうにオートミールを口に運ぶ、

「おーはーよーございますー」

エレインが2階から下りて来た、呟くように朝の挨拶を口にし、いつも通りのボサボサの髪とだらしない姿勢のままストンと鏡の前に座り込む、

「おはようございます、会長」

テラが顔を上げると、

「あー、テラさんおはよー、昨日はどーでしたー」

鏡から視線を外さずに何とも胡乱な質問である、

「こちらは静かですね、ソフィアさんともそう話してました」

「そっかー、そうよねー、うん、静かだわー」

エレインはヘアブラシを鏡の脇を探って手にすると髪を梳かし始める、

「テラさんは朝強いのー?」

「えっ、朝ですか?普通ですよ」

「そっかー、私はもー、駄目なのー、いろいろー勘弁してねー」

エレインは実にだらしない口調である、まだ半寝ぼけなのであろうか、同じ場所ばかり何度も梳いており傍から見るとまるで作業が進んでいない、

「お嬢様、先に顔を洗いましょう、少しはマシになりますよ」

オリビアがトレーを持って食堂へ入ってきた、

「あー、オリビア、おはよー、うん、そうねー、先に顔よねー」

フラリと立ち上がるエレイン、

「井戸に石鹸と手ぬぐいを置いてあります、お使い下さい」

「うん、わかったー」

フラフラと厨房へ向かうエレイン、その背を見送ってオリビアはヤレヤレと腰を下ろす、

「おはよう、オリビアさん」

「おはようございます、テラさん」

二人はニコヤカに挨拶を交わし、

「オリビアさんは、朝からしっかりしてますね」

「そうでしょうか?小さい頃からそのようにしてましたので、習慣ですね」

「そっかー、あ、御両親も御屋敷勤めなんだっけ?」

「そうですね、ですから、恐らくその影響ですね」

オリビアは表情を変えずに淡々と答える、

「でもねー、あれよー、オリビアさんも毎日しっかりしてるわけではないのよー」

ソフィアがニヤリと笑って割って入った、

「ソフィアさん、その話しは勘弁して下さい」

オリビアがジロリとソフィアを睨む、

「えー、どうしようかなー、ま、そのうち見れるかしら?」

ソフィアは尚ニヤニヤ笑いを隠さない、

「そうならないように、注意しております」

オリビアが若干鼻息を荒くしてトレーに向き直ると、

「オリビアー」

内庭で彼女を呼ぶ声がして、

「はい、ただいまー」

オリビアは大きく返事をして腰を上げるとパタパタと厨房へ走る、

「あー、これはあれかしら、将来的にはエレインさんのオリビア離れが必要そうですね」

テラは二人の様子を微笑ましく眺め、

「そうねー、ま、エレインさんがこのままお金持ちになれば大丈夫でしょ」

「あ、そういう解決方法もあるのですね、ふむ、御貴族様の生活って便利なんだか不便なんだか分からないですね」

「確かに、何か話しで聞く限りは私は結構だわ」

「あ、私もです」

ソフィアとテラはそう言って小さく笑いあった。
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