セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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29話 エレイン様とテラさんの優雅?な一日 その3

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その後、3人が取り留めも無く話し込んでいると、

「いるかー?」

来客のようである、落ち着いた男性の声が店内に響きブノワトがサッと腰を上げ、

「あら、兄貴だ」

そう呟いてパタパタと走り寄った、

「こっちに来るのって珍しいね」

「まぁな、こいつが出来上がったから持って来たぞ、確認頼むわ」

なにやらガチャガチャと音がする、エレインとテラはお仕事かしらと耳をそばだてつつ、邪魔をしては悪いかしらと腰を上げる、

「あ、ちょうど良かった、紹介するからこっち来て」

ブノワトがその男性をエレインの元へと誘う、腰を上げ茶器を纏めていたエレインとテラに、

「あ、そのままでいいですよ」

とブノワトは慌てつつ、

「あ、ごめんなさい、突然で申し訳ないんだけど、実兄のリノルトです、リノルト・フローケル、フローケル鍛冶屋の一番上です」

ブノワトは背後に立つ長身の若者に振り返り、

「こちら、六花商会のエレイン会長、それと鏡屋さんの店長になるのかな?テラさん」

簡単に両者を紹介するブノワト、

「あ、それはどうも、すいません妹がお世話になっておりまして、ありがとうございます」

リノルトは慌てて頭を下げ、

「あらあら、これは、こちらこそです、ブノワトさんには大変お世話になっております」

エレインも驚きつつ頭を下げた、

「そんな、そんな、こちらこそですよ、ガラス鏡のお陰でもう忙しくさせて貰っています、あれは、あれですね、凄いですね、親父達もそうですが、メーデルの所も忙しくしてますし、そのおこぼれといっては駄目ですが、その影響でうちも忙しくさせて貰ってて、まったく、感謝です、ありがとうございます」

リノルトは再び深々と頭を下げた、

「それは良かったです、こちらとしても早く確実に利益を出せるよう頑張っている所ですわ、今後とも宜しくお願い致しますね」

エレインの柔らかい笑みにリノルトは恥ずかし気に後ろ頭を掻いた、

「えっと、あれです、私では出来ない事とか、足りない所とか要は本格的な鍛冶仕事は私の実家に流すことにしたんです、正直私の手では手に余る事が多くて、それに変な言い方ですけど、うちは工務店ですからね、やっぱり本職でないと難しい事も出てきたので・・・」

ブノワトが恥ずかしそうに話す、

「なるほど、いえ、良いと思います、そういう現実的な対応が出来る所がブノワトさんの良いところと思います、変に意固地になってなんでもかんでも自分がやるでは回らなくなる事もあるでしょうし、なにより、人脈は力ですよ、最近それを実感してます、私も」

エレインの評価にブノワトが曖昧な誤魔化し笑いを浮かべ、

「いやー、そう言って貰えると何ともむず痒いですが、あ、で、なんだっけ」

ブノワトがリノルトに問う、

「おう、あれだ、焼き印だ、ブラスに持ってったらお前さんに確認してくれってさ」

そう言って肩に下げた革袋に手を突っ込み、棒状の物体を3本取り出す、

「ほら、これ、要望通りだとは思うが、実際に使ってみるか?」

「あー、見せて」

焼き印と言って取り出されたそれは、真っ黒い鉄の棒であった、棒そのものの太さは変わらないようであるが先端には大きさの異なる鉄の塊が付けられている、ブノワトはその先端の塊をじっくりと観察し、自身の手の甲に押しつけその跡を確認する、

「うん、良い感じだと思う、エレインさんも確認下さい、部会で使用する予定の検印です」

「あー、そんな事も言ってましたね、確か頭文字を使うとかなんとか」

エレインはそう呟いて差し出された一本を手に取った、ブノワトは気軽に扱っているが見た目の通りにズシリと重く、エレインはおっとと落としそうになりつつ、しっかりと握り直す、

「あ、ごめんなさい、重いですよね、すいません」

ブノワトがエレインの手つきに焦りながら謝まる、

「大丈夫です、ブノワトさんがあまりに軽そうに扱うもんだから、やっぱり鍛え方が違うんですね」

エレインは誤魔化し笑いを浮かべ、

「いやー、それはだって、しようがないですよー」

「そうですね」

二人は誤魔化すように笑いあった、

「あ、なるほど、モニケンダム、商工ギルド、ガラス、鏡、の頭文字ですか」

エレインは棒の先についた反転された文字列を確認する、かなり細かくかつ精巧な品である、

「そうですね、4文字で分かり易くと思ってました、ま、これは偽造しにくければそれで十分なので、それなりに凝った文字でしょ」

「確かに、うん、これであれば十分かと思います」

エレインはテラにも確認を促した、

「そうなると、これはいつから使います?」

「えっと、そうですね、部会の設立後になります、あ、クロノス様への納品分から使いますか?対応は可能ですが」

「そうね、私もできればそうして欲しいかなと思いました、でも、梱包してしまったのでしょう?」

「それは大丈夫ですね、取り出すのは簡単ですし、大した手間ではないです」

「そうですか、であればお願いできますか、大した事は無いとはいえ手間を増やして申し訳ないですが」

「いえいえ、その程度は全然ですよ」

ブノワトは笑顔で答えた、

「ん、これでいいのであればブラスの所に持っていくぞ、それから焼き印を押すようにも言っておくか?」

リノルトが気を利かせたようである、

「あ、じゃ、お願いできる、手間かけさせて悪いね」

「この程度は大した事じゃないさ」

テラから焼きごてを受け取り3本纏めて袋にしまう、

「後は・・・あ、そうだ、今、兄貴に回転機構の歯車も作ってもらってたんですが、あれでなにか要望とかあります?」

ブノワトがポンと手を叩く、

「回転機構ですか・・・、そうなるとオリビアを呼んできましょうか、調理関係はオリビアが取り纏めてました」

「そっかー、じゃ、後日改めてかな?」

「あ、それなら私も聞いてました、あのあれですよね、泡立て器を回転させる箱の・・・」

テラが小さく手を上げた、

「そうそれよ、じゃ、ちゃんと打合せをしましょうか、時間大丈夫?」

エレインはリノルトに確認の目線を送る、

「はい、勿論ですよ、あ、でも、あれだな、ブラスに悪いかな?」

「じゃ、簡単に、言いますね」

テラはえーとと思い出しつつ、

「要望としてあったのは、2点かな?一つはボールを入れる空間が狭い事ですね、現状は四つの柱で支えているので取り回しが若干やりにくいかなって事でした」

「なるほど、それもそうですね、ま、現状の木製だとどうしても荷重を支える為にそうしてましたが、柱を鉄にすれば何とかなるかな?」

ブノワトが簡単に解決策を口にし、

「柱を鉄にするのは簡単だが作業空間の問題であれば、もう一考欲しいかな?奥側で支えるようにするか?そうすれば空間を作る事が出来ると思うぞ」

リノルトがブノワトの意見を取り入れつつ発展案を提示する、

「そうなると、あれだね、荷重もそうだけど回転の時の力に耐えられるかな?」

「うーん、やってみてかな、どうだろう、作業空間の確保といった方向で受け止めていいですか?」

リノルトがテラに問うた、

「はい、こちらとしてはあくまで要望の一つなので、ボールの取り回しが楽になれば何でもとは言いませんが、お任せします」

テラは柔らかく答え、

「で、もう一つの要望が問題なのですが、どうしても片手でボールを支える形になってしまって、その点が不評でした、できれば両手でボールを支えて角度を変えながら攪拌したいとの事でした、少しばかり贅沢な悩みとも思うのですが、どうでしょう」

テラは小首を傾げて二人に問う、

「あー、そうですよねー、うーん、どうだろう」

ブノワトもテラにつられて小首を傾げた、

「そうですね・・・」

とリノルトは顎先を右手で掻きつつ、

「足踏み式もできるかなと思いますよ」

「足踏み式ですか?」

エレインが怪訝そうに問う、

「はい、えっと、装置が若干大きくなると思います、足で踏む踏板を付けて、それで回転運動をさせる方式ですね、そうしますとそうだな、機構自体が子供くらいの大きさになってしまいますが出来なくは無いかなと思います、それと・・・鎖は使わなくてもいいか、そうですね音が大きくなるかなと思いますね」

「さすが、兄貴、確かにそれならできるかも」

ブノワトがリノルトを見上げる、

「ま、作った事の無い仕組みなので少しばかり時間を頂く事になりますが、出来なくはないかなと思います、箱の中身を鉄にしますんでより頑丈にもなりますし、足で踏板を踏みながら両手でこうボールを使えればいいんですよね、うん、出来ますね、あ、でも、回転数が落ちるかな?これも計算してみないとかなぁ」

「あ、発注元ってどうなってました?ユーリ先生の所でしたっけ?」

エレインがふと思い出す、何となく高価になりそうだな等と考えていたエレインであるが、回転機構そのものについては六花商会で注文した物ではない事を思い出した、これに関しては研究所が中心になっていた筈である、事務所の厨房に置いてあるのは研究の一環としてであった、

「はい、研究所さん、サビナさんからの発注で動いてました、特に歯車を金属にする所とかですね、あっ、そっか」

ブノワトは事の問題を認識したようである、

「そうなると、勝手に要望を伝えるのも何か違うわね」

エレインがテラを見る、

「そうですね、戻ってサビナさんも交えて話しましょうか、オリビアさんもいれば尚良いと思います」

「そうね、あ、うーん、では、やっぱり要望は取り纏めて後程という事で良いかしら?研究所さんを蔑ろには出来ないですわ」

エレインの済まなさそうな言葉に、

「いえいえ、こちらこそです、丁度良いかなって思った私が浅慮でしたね、すいません」

ブノワトは済まなそうに謝った、店内は一瞬で暗く静かになってしまう、

「ん、じゃ、後程指示下さい、こちらとしては楽しみにしていますんで、ほれ、そんな暗くなるこっちゃないよ」

リノルトがブノワトの頭を撫でつけ、

「では、今後とも宜しくお願い致します、うちもですが、こいつの事も」

リノルトはニコリと微笑み、丁寧に頭を下げた、

「あ、こちらこそです、何かと面倒をかけるかもしれませんがどうぞ宜しくお願いします」

エレインとテラも頭を下げる、

「はい、じゃ、ブラスの所によって帰るからさ、何かあるか?」

「いや、焼き印の件宜しく」

はいよ、とリノルトは微笑みつつ踵を返し、そのまま退出した、

「いい、お兄さんね」

エレインが呟くと、

「あー、そうなんですよ、何故かあの兄貴だけは優等生なんですよね、私なんか出来が悪くて・・・あー、ま、そんな感じです」

ブノワトは何とも複雑な顔になる、

「悪いお兄さんよりはいいですわよ、うちの兄貴なんかもう、取り合えず黙ってろって感じだから」

「トーラーさんですか?」

「そうよ、まったくもう」

エレインは鼻息を荒くし、ブノワトがその様子に微笑む、テラは聞いた事がある名前だな等と思案している、

「さて、そろそろ学生達が来る頃かしら?お店ってまだ繁盛してるの?」

エレインは唐突に話題を変えた、

「ええ、お陰様で、まだ売れてますよ、あ、テラさんも一つどうです、戻ったらミナちゃんに花びらを入れて貰って下さいよ」

「花びらですか?それはまたなんで?」

テラが不思議そうにブノワトに問う、

「えっとですね、あ、テラさんなら大丈夫かな?リシア様がお祭りでこちらにいらっしゃった時にですね」

ブノワトが説明を始め、エレインが時折口を挟みつつ、3人は再びお喋りの沼に嵌り込むのであった。
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