セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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27話 トイレと楽しいキャンプ その5

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「これがそうなのか」

「そのようですね、しかし」

「ふむ、そこらの樹木と変わらんな、なんというか、もっとこう、なんかあるもんだと思っていたが」

「はい、遠目にするかぎり、普通の木と言われればそうですし、そうだと言われてもなんとも困りますね」

クロノスとリンドはほぼ同時に首を傾げた、

「でしょうね、二人共実物は見た事無いの?」

「うむ、王都の神殿のも見た事はないぞ、王族にも見せないからなあいつらは、まぁ、歴代の王達も大して気にしてなかったみたいだが」

「そんなもんなの?ならあれね、黙っておけば良かったかしら、変に口を滑らしたもんだから、もう、面倒な事この上ないわ」

「まぁ、そう言うな、ユーリの言う通り、豊穣の連中に見付かったら面倒だしな、知っているのと知らないのでは対処の仕方がまるで変わるぞ」

「その豊穣の人達だって、ここにあるのを何十年も気付かなかったのよ、この木だって昨日今日に生えたわけではないんだから」

「それはそうだな」

クロノスは笑いつつ、

「近くで見ても良いのか?、それとあの縄はなんだ?」

「いいわよ、縄は遊び道具、ミナとレインの為に作ったの」

「遊び道具って、いいのか?それ?」

「大丈夫よ、エルフなんてこの木に家を建てて住んでるのよ、この木は寂しがりやなんだって」

「へー、それは面白いな、木も寂しがるのか・・・」

クロノスとリンドは精霊の木に近づくとその幹を撫で葉に触る、ソフィアがそれらについてレインとエルフから得た知識、昨日の学園長からの知識も合わせて簡単に解説した、

「なるほどな、葉を見ただけでも特殊である事は理解できる・・・気がするな、気がするだけだけど」

「そうね、ま、私の知識も大したものではないからね、後はそう、精霊が集まってくるらしいけど、あれはほら、好みの激しい存在だからね、私達みたいな擦れた者には近寄らないかもね」

「それもあれだな、精霊使いの平野人は世捨て人が多いからそう言われてるだけかもしれんぞ、実際の精霊だって何度か見かけた事があるだろう?」

「ま、あるけど、正直それも御伽噺の類じゃない」

「エルフだって御伽噺だ、お前とタロウはエルフの村に行ったことがあるんだろう?」

「ま、そうだけど」

二人は何とも難しい顔となる、リンドはその二人の様子を伺いつつ、

「そうですな、取り敢えず大っぴらに喧伝する必要は無いかと、クロノス様と学園上層部、それとクレオノート家ですか、取り敢えずその程度で押さえておけば問題にはなりますまい」

「それで済めばな、俺らと学園長周りはいいとして、クレオノートだな、あそこは信心深いのか?」

「そうですね、領主としての付き合い以上の事は無い筈です、それこそ奥方の問題がありまして、神頼みもしたと噂では聞いております、しかし、快癒される事は無く、ソフィア様が関与するまでは苦しまれていたと・・・」

リンドはチラリとソフィアを見る、

「あー、そんな事もあったわね、それにそこのお嬢様とその従者も特には重要視していなかったし、あの家は割とあれね現実主義なのかもね」

ソフィアの分析にクロノスはニヤリと微笑み、

「確かにな、であれば、後は学園長と相談しておいて・・・というか、ここはどうするつもりなんだ?」

クロノスはふと湧いた疑問を口にする、

「どうって?」

「いや、ここ、この広場、見晴らしも良いし、夏だというのに涼しいくらいだ」

「あ、ここね、ミナとレインの遊び場かしら?そのうち、一般に開放してもいいかなって思ってたけど」

「おいおい、ミナとレインはいいとして、一般開放?」

「そうよ、子供向けにね、都会の子供って走り回れる場所が少ないのよね、それと大騒ぎしても邪魔にならない所?それに学園の土地であり、王様の所有地でしょ、なら一般人の土地だわ」

「ま、確かにそうだがさ、いいのか?管理とか大変になるんじゃないか?」

「管理もそうだけど、さっきも言ったでしょ、この木は寂しがりやなの、子供の声が一番好きらしいのよ、ならね、この場を遊び場として開放するのも悪くないでしょ」

「・・・まぁ、お前さんがそう言うなら、良いか」

クロノスは納得いかない顔のまま何とか飲み込んだ、

「そうなると、逆にバレないか?信心深い連中もいるだろう?」

「そうね、でも、そういう人達だってこの木が精霊の木って分かるのかしら?あの放浪しまくった学園長でも初見だったのよ、王都の神殿にあるっていう、精霊の木だってホントにあるかどうか疑問だわ、挙句それを見た人なんているの?」

「ふむ、なんだかめんどくさい話だな」

クロノスはフルフルと頭を振り、リンドはなるほどと思いながらもそれで良いのかなと首を傾げる、そこへ、

「あー、クロノスだー」

ミナの声が響き渡り3人の視界の端を黒い影が走った、

「おう、ミナ坊、元気か」

クロノスはミナの突進を華麗に受け止めて両手で抱き上げる、

「元気だよー、何してるのー」

「精霊の木を見に来たんだよ、ミナはどうした?」

「ガクエンチョー先生が来たから一緒に来たのー」

ミナが指差す先には学園長の頭が木々の隙間から微かに見えている、上下動を繰り返しつつやがて上半身が見えてきた、

「そっか、丁度良い、どれ、先生の知見を改めて伺うか」

クロノスはヒョイとミナを肩に乗せると山道へ向かう、

「あー、学園長も好きねー」

ソフィアは苦笑いを浮かべ、リンドは楽しそうに微笑むのであった。



「でね、今日ね、ここに野営するの」

「そっか、それはまた物好きだな」

「クロノスもしよう、野営、楽しーよー」

「いや、ミナさんよ、野営なんてしたくてするもんじゃないぞ」

「そうなの?でも、ジャネットとケイスが、えっと、ケンシュウ?で湖で野営なんだって、だからミナも野営するの、裏山ならいいってソフィが言ったの」

「そうか、あー、ユーリが言ってたな、現場研修だろ」

「そう、それ」

学園長が精霊の木を前にして大荷物を広げ始めた後ろで、ミナとクロノスが楽しそうに話している、ソフィアはそう言えばそんな事もあったかしらと、すっかり忘れていた事に気付き、さてどうするかと思案を始める、

「でね、ミナも行きたいっていたら、ソフィが駄目って言うんだよ」

「ほっほっほ、ミナちゃんでは駄目じゃのう、大きい熊に一飲みにされてしまうの」

学園長も楽しそうに会話に加わる、

「えー、でも、でも、薪を拾うのは得意なの、レインもソフィも褒めてくれたの」

「そっかー、それは偉いぞ、どう拾うんだ?」

「えっとねー」

ミナは楽しそうに話し続け、クロノスも嫌がる事無く相手をしている、案外クロノスは子供好きなのであろうか、レインは学園長の持ち込んだ様々な資料や道具を興味深々で眺めている、

「これは何に使うのじゃ?」

レインは我慢できなくなったのか道具の一つを指差して学園長に問う、

「うむ、それはの、試料を入れておく小皿じゃな、ガラス製だからの中の様子が見れる優れモノじゃぞ」

「なるほど、なるほど、こっちは何じゃ」

「そこら辺は模写用の画材じゃな、そうじゃのう、絵は好きかの?」

「む、好きじゃぞ、儂は写実派じゃがミナは印象派じゃ」

「印象?」

「うむ、ミナはの、見たものの印象を描くのじゃ、花びらを描いた時にはな、見た事のない茎と葉っぱも描いておったぞ、恐らくミナの中にある印象をそのまま絵にしたのじゃな、独創的で面白い絵を描くのじゃ、問題があるとすればの、対象を一度見ただけで観察しながら描かない事じゃの、しかし、それ故に良い絵になるのじゃ」

「ほう、それは凄いの、なるほど、印象を描くのか興味深いのう、ならばじゃ、道具を使ってよいから一緒に描くかの、画板は、ちょうど3枚あるしの」

「良いのか、ミナ、お絵描きじゃ」

レインがピョンと飛び跳ねる、

「ホント?ミナも書く」

「よしよし、では、これを使っての、どこから見れば良い絵になるか、その見極めが大事じゃぞ」

ミナがクロノスの足下からサッと離れて学園長の元へと駆け寄った、そんなミナの背を見てクロノスは肩の力を抜き、

「やれやれ」

と微笑む、

「あら、ミナに振られちゃったの?」

「そうだな、子供の相手は案外疲れるものだな」

「今の内に慣れておきなさいよ、春には人の親でしょ」

「そうだな、ミナとまではいかないが、元気な子であればそれで良いと思っておるのだが、あまりに元気過ぎるのもあれだな」

「そうね、王家の血筋になるんだから、元気なのは当然でさらに賢くないとこっちが困っちゃうわね、ま、あんたはあれだけど、パトリシア様の子供なら賢いでしょ」

「酷い事を言うなぁ・・・」

学園長を囲んでキャッキャッと楽しそうに騒ぐミナとレインをクロノスは優しい目で眺める、

「では、だ」

クロノスはソフィアを見ると、

「そうだな、領主が明日来るんだろ、その時の反応を見ながら対処を検討しよう、こちらはあれだ、神殿連中を黙らせる材料を探しておくよ」

「材料?言い訳って事?」

「そうとも言うな、一般開放だなんだはその辺が落ち着いてからであろうな」

「それはね、ほら、浄化槽の工事が済んでからかなって思ってたし、別に進んで開放したいわけではないしね、おいおいよ、おいおい」

「うむ、では、俺は戻る、他に何かあるか?」

「あー、どうだろう?エレインさんの事務所見る?まだ見てないでしょ」

「ほう、それもあったか、邪魔にならないかな?」

「そんなの気にした事あるの?あんたが?」

「無いな、うむ、リンド、次はエレイン嬢の事務所だ」

クロノスは大股で山道へ向かう、

「あ、じゃ、私もだわね、学園長、騒がしいと思いますが、ミナとレインをお願いします」

「うむ、任されたぞ」

学園長の機嫌の良い返答にソフィアは安堵しつつ、

「ミナ、レイン、学園長の邪魔しないのよ、言う事をちゃんと聞きなさいね」

「分かったー」

「分っておる」

こちらも実に気持ちの良い声である、ソフィアはまぁ大丈夫かとクロノスの後を追った。
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