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本編

26話 優しい小父さん達と精霊の木 その10

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「戻りましたわー」

エレインとテラが疲れた顔で食堂へ入ってくると、ミナとレインは小さな鉢植えをテーブルに置いてニヤニヤと覗き込んでいた、

「あら、どうしたんですの?」

エレインが静かに問うと、

「見て見て、えっとね、この葉っぱがね動くのよ、パタパターって」

ミナがニコニコと答える、

「動く?葉っぱ?」

エレインがハテ?と鉢植えを見ると、どうにも頼りなく元気のない縦長の枝が数本、萎れたように垂れ下がっている、

「葉っぱ?付いてないですわよ」

「ふふーん、見てて、見てて、そろそろよ」

ミナはニヤリとエレインを見上げ、レインもニヤニヤとしている、

「まぁ、いいですけど」

エレインはまた奇妙な事をと思いつつ席に着き、

「さて、疲れましたわね、少し休みましょうか」

とテラを対面に座らせた、

「そうですね、ま、あの反応はもう見飽きたのではないですか?」

テラも疲れた顔を崩さずに答えた、

「そうね、ギルド職員があんなに集まるとは思いもしませんでした、あんなに人がいたんですのね商工ギルドって、普段は仲の良い職員さんとしか話してませんでしたが、若い女性も多いですし仕方が無いとも思いますわね」

「そうですね、やれやれですよ、でも、打ち合わせはまずまず良い方向で纏まったと思うのですが」

「親父さん達が頑張って頂きましたしね、私やブノワトさんだけではどうしようも無かったかもしれませんわね」

エレインとテラは大きく溜息を吐いた、

「あら、お疲れね」

厨房からソフィアが顔を出す、

「あ、戻りました」

エレインが疲れた顔のまま帰寮を伝える、

「はい、お茶でも入れる?今日はこっちも忙しくてね、まいってた所なのよ」

前掛けで手を拭いながらが食堂へ入ってくる、

「へー、ソフィアさんがまいる事なんてあるんですか?」

「そりゃもう、まったく、皆していじめるもんだから、全く、私はただの寮母でまかないさんなのよ、何を期待しているんだか」

プリプリと静かに怒っている様子である、

「えー、でも、それは同意しかねますわ、ただの寮母さんなんて言われて納得する人はいないと思いますわよ」

「あら、エレインさんまでそんな事言うの?悲しいわ私、こうなったら違う猫の毛皮を買ってこなくちゃ、静かでゆったりとした生活をおくれないわね」

「やー、猫の皮一枚ではもう隠せないですよー、10枚くらいは着込まないとー」

エレインはニヤニヤと微笑み、

「あら、エレインさんも言うようになったわね、テラさん、あまり世間ずれしないように護ってあげないと、純粋で世間知らずでないとお嬢様の価値が半減ですわよ、なにより、からかいがいがないわー」

ソフィアが笑顔でテラを見る、

「エレイン会長はもう十分にすれてますよ、今日のギルド長と領主様を前にしての大演説をお見せしたかったです」

テラがニヤリと微笑んだ、

「あら、テラさんも言いますわね」

エレインが口をへの字に曲げ、

「あ、そうだったわね、どうなったの?」

ソフィアが楽しそうに問う、

「なんとかなりそうですわ、領主様もですが、エトさんとロブさん、あ、あれですコッキーさんとブラスさんのお父様ですわね、強力に後押しして頂きまして、それにやはり実物を持っていたのが良かったかと、問題があるとすればブノワトさんの件でしょうか」

「ブノワトさんが部会長?協会長?になるんだっけ」

「はい、私はそのように考えておりまして、エトさんとロブさんも納得して頂いております、ただ、領主様は今一つ納得していない様子でして、ギルド長はそれもありかもって言ってましたが」

「なるほど」

ソフィアは腕を組んで頷いた、

「そこで、エレインさんの大演説が始まりましてね」

テラがソフィアに微笑む、

「戦時から脱したこの世にあって、女性が子育てと家事を熟しつつ仕事もできる仕組みこそが社会を発展させると、それこそが平時の文化の創出となり、より豊かな生活と社会を生みだすはずだと、それは王都のような出来上がった都市では難しく、モニケンダムのような地方都市こそが担うべき使命であると、そんな感じです」

テラは楽しそうに要約して言葉にした、

「まぁ、力強い」

ソフィアは端的に感想を口にする、

「同席していた向こうの女性事務員も驚いてましたね、で、最後には是非力になるべきですって、ギルド長を説得してて、領主様と一緒に困った顔してましたわ」

テラは楽しそうに笑う、

「なるほどね、うん、あれね、エレインさんは扇動者として優秀なのかもね、テラさんはエレインさんがここにいる理由って聞いた?」

「?なにかあるんですか?」

「あー、ソフィアさんその事は・・・」

エレインは渋い顔でソフィアを見る、

「あら、そうね、うん、ま、そのうちどっかから聞くんじゃない?これだけ堂々と動いているんだもの、そのうち誰かが気付くかもね」

「・・・それもそうですね」

エレインは難しい顔で顔を伏せた、

「ま、それも含めて、エレインさんの力だと思うわよ、うん、それがなんだって言えるくらいに実力を付けなさい、悪名は無名に勝るというけど、美名は悪名に勝れども、それはまた人を集める・・・だったかな?でもあれか、それはさらに敵をも増やすだったかな・・・」

「・・・そうですね、はい、そうなれば・・・嬉しい・・・のかな?どうなんでしょう」

エレインは困った顔で微笑む、

「うん、大丈夫、大丈夫、テラさんもオリビアもいるでしょ、それにリシア様が付いているのよ、あ、あの人が一番の問題か・・・」

「それは失礼ですよ」

「そうです」

エレインは笑い、テラは本気で非難している様子である、

「ま、どっちにしろ上手く行きそうなのよね?時間はかかるでしょうけど、世の中はそんなもんだしね」

「はい、その点は大丈夫そうです、なので、次は店舗ですね、テラさんとも話して早々に動く予定です」

「そっか、忙しくなるわね」

「はい」

ソフィアとエレインは微笑み合い、その二人をテラは興味深げに眺めている、

「あ、ほら、葉っぱ、開いたよ、エレイン様、見て、見て」

ミナが3人の会話に割り込んできた、

「あ、はい、あら、ホントだ、葉っぱがある」

エレインはヒョイと鉢植えを覗き、

「え、確かに、さっきは何か奇妙な枝だなって思いましたけど」

テラも鉢植えを見てその変化に気付く、

「でね、でね、フーって息を吹きかけて」

ミナが鉢植えをエレインの眼前に突き付けた、

「息ですか?フーって?」

言われるがまま息を吹きかけると、パタパタと葉が折り畳まれる、

「わ、すごい、葉っぱが動いた」

「えっ、何ですかこれ?初めて見ました、魔物?」

二人は素直に驚いている、

「へへー、オジギソウって言うのよ、ガクエンチョー先生に株分け?してもらったの」

「まぁ、こんな植物があったなんて」

「はい、これは興味深いですね、どうしてこんな事をする必要があるんでしょう」

「えへへー、でね、でね、ショクチュウショクブツを見てきたんだよ、蓋がパタンて閉じるの、面白いのよ」

今度はミナが中心となって今日仕入れてきた知識の披露が始まるのであった。
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