上 下
206 / 1,062
本編

26話 優しい小父さん達と精霊の木 その6

しおりを挟む
それからソフィアは食堂を片付け洗い物を済ませる、天井付近に浮かんだ光源魔法に照らされ、さて戸締りかしらと手を拭っていた所に4人が勝手口から入ってきた、

「ちょっと、ソフィア、話があるんだけど」

やや抑えた声音でユーリがソフィアを呼びつける、

「ん、どうかした?」

ユーリの後ろの3人は、困ったような顔でサッと食堂へ入ると、

「では、私たちはこれで」

「はい、私もお休みなさい」

中々に危機察知能力が高まっている様子である、3人はソフィアとユーリを残して素早くその姿を消した、

「ふー、ちゃんと聞いておきたいんだけど」

「なによ、あー、白湯でもいる?」

「いる」

ユーリとソフィアは白湯を片手に厨房の作業台を囲んだ、背のない丸椅子に腰掛けると、

「で、どういうことなの?」

ユーリはジロリとソフィアを睨む、

「何が?」

「あのね、おかしいでしょう、あれは・・・あんなでは無かった筈よ」

「裏山の事?」

「当然でしょ」

ユーリの鼻息は荒い、

「まぁ、あれよ、てっぺんがね丁度良い感じの広場になってたから、遊び場にしたいなーって思って」

「あん?それであれ?どうやったの?」

「まぁ、いろいろと」

ソフィアは視線を宙に彷徨わせてどう誤魔化そうかと思案する、

「あのね、あんたなら分かるでしょうけど、私は誤魔化せないわよ、他の連中と一緒にしないで」

「それは、知ってるし、一緒にはしてないわよ、まぁ、あの違和感に気付けるのは昔の仲間なら当然かしら」

昔の仲間とは俗に救国のパーティーと呼ばれていた面々である、

「なら、白状しなさい」

ユーリは腕を組んで踏ん反り返った、

「白状っていっても、ちょっと調子に乗ってみたの、それでいいじゃない」

曖昧な笑みを浮かべ尚誤魔化そうとソフィアは試みる、しかし、ユーリはより粘っこい視線をソフィアへ向け、

「本当の事は教えてくれないの?」

「本当と言われてもあれだけど・・・前にも言ったじゃない」

「前にも?」

ユーリはソフィアへ視線を向けたまま黙り込み、

「やっぱり、レイン?」

ユーリの問いにソフィアは答えない、しかしそれは沈黙による肯定であるとユーリは理解する、

「ふー、クロノスにも聞かれたけど、大丈夫なの」

ユーリは一転して態度を和らげた、燻っていた奇妙な違和感の正体が朧げながらも形になり、無意識下に感じていた疑問の答えにも近づいた、しかし、親友と呼べる唯一の存在が頑なに言葉にしない事、そう出来ない事に改めて別の不安を感じる、

「大丈夫もなにも、平和そのものじゃない」

「いや、そう思っているのはアンタだけよ、私達って何気に危険視されているんですからね、アンタも理解してるでしょ」

「そりゃ、そうだろうけど、別に誰かに対して敵対していないし、正体だっておおっぴらにはしてないし・・・」

グズグズごにょごにょとソフィアは呟く、

「まったく」

ユーリは呆れて吐息を吐いた、

「あのね、何かあったら、なくてもいいけど、ちゃんと話しなさいよ、アンタ程じゃないけど私だって出来るんだから、いろいろと」

「それは知ってる」

「当然よ、ま、それを確認できただけど良しとするわ、で、あの大木が精霊の木なの?それは事実?」

ユーリは埒が明かない事を飲み込んで疑問を変えた、

「事実みたいよ、というか、エルフの里で見たのと一緒だし、森の中で迷った時に見たのとも一緒だしね、間違いないと思うわ」

ソフィアはやや安堵したのか白湯を口にする、

「んっ、アンタが森で迷うって?タロウさんと一緒に動いてた頃の事?二人揃って?」

「うん、迷った・・・っていうか、うん、迷ったわね、二人して珍しい事もあるもんだって笑ったけど」

「それって、ありえるの?・・・いや、今はそこではないわね、気になるけど」

とユーリは作業台をトントンと指先で叩きつつ、

「精霊の木である事が確定なのであれば、やっぱり報告しておいた方がいいのかしら?」

「まぁ、大人としては当然よね」

「どの口が言うのよ」

「えー、でもさ、私がそうである事を教えなければ誰も気付かなかったんじゃない?」

「・・・それはそうだけど」

「あー、ちょっとした話しなんだけど」

ソフィアは前置きして、

「エルフに教えて貰ったんだけど、あの木は優しすぎるから周辺の他の樹木を管理してあげないといけないらしいのよ、そうしないと死にはしないけど他の樹木に押しつぶされて、本来の力を発揮できないらしいのよね、ほら樹木も生き物でしょ、だからね、己が一番って感じで他者を押しのける力は動物とは比べられないほど強いらしいのね、で、精霊の木とか護り樹を大切にするならば、ある程度の広場にポツンと置くのが良いらしいの、でもね、そうなると今度は寂しくなって力を失うらしいのよ、面白いわよね」

ソフィアは真面目に解説するが一点だけ嘘がある、この知識は茸を採りながらレインから聞いた事であった、

「そこまで詳しく知っていたの?」

「そうねぇ、エルフの里ではすんごい大きい精霊の木にね、エルフ達が交代で住むのよ、何十家族も、でっかい洞とか太い枝の上に家を作って、面白いのがほら、交代で住むって所よね、こっちだとどうしても権力者とか巫女様とかがでかい顔して占有しちゃうじゃない、でも1年毎に丸っと交代する感じでね、大事なものは共有して管理しようってのがあの人達の良さかもね」

「・・・まぁ、エルフの里にも興味はあるけど・・・」

ユーリは困った顔になる、

「だから、ほら、ブランコは必要なのよ」

「あ、それよ、えっ、もしかしてあれの言い訳?精霊の木って貴重なのよ、あんな遊び道具作っちゃってどういうつもりよ」

「だから、精霊の木を寂しくさせない為?子供好きなんだって精霊の木って、それに小さいからねあの木は、だからエルフみたいに住むのは無理でしょ、ならせめてね、ミナやレインが遊べるようにして、そうすれば、そのうち精霊達も寄ってくるでしょうし、動物たちも増えてくれば寂しくないでしょ、こんな都会のど真ん中で野生動物も難しいかなって思うけど、栗鼠とフクロウは居たわね、あと蛇とカエルか、それと野鳥、名前知らないけど」

「はぁ、もう、それと、どうも変なんだけど、私以外の連中って嫌に飲み込みが早いのよね、それが当然って顔するし、変であることに気付いていないっていうか・・・」

「そう?あれよ、皆さんおおらかなのよ、たぶん・・・」

ソフィアは韜晦するが、レインが無意識で振り撒いている能力の為である事をソフィアは知っている、

「おおらかねぇ、まぁ、そういう事にしておくか、であれば、問題も大きくはならないだろうし」

ユーリも大分落ち着いてきたのか白湯を含んで溜息を吐いた、

「あ、どうしよう、学園長に報告しておく?あとクロノスにも、学園の敷地なのよね、問題は無いにしても、知ってて黙っていたら逆に問題になるわよ」

「あー、そうよねー、勝手に遊び場にしました、精霊の木がありましたー、じゃ何かあっても面子を潰すだけよね」

「そうね、うん、学園長には私から話しておくわ、まぁ、パウロ先生なら喜んで遊びに来そうだけど、クロノスにもその内話しておくわね」

「ありがと、宜しくね」

ソフィアは柔らかく微笑む、

「でもあれよ、はっきり言っておくけど、レインは本当に何者なの?大丈夫なの?」

「あー、大丈夫よ、可愛い娘じゃない」

「あの年頃の娘は大概可愛いわよ、あの歳で可愛くない子供なんているの?」

「そう?あのくらいの歳の頃って、私たち喧嘩ばっかしてたじゃない、ブースバーカって言い合って」

懐かしそうに笑うソフィア、

「あー、話しを変えようとしないでよ、下手糞ね」

「そうかしら?」

「まぁいいわ、その内ちゃんと話して貰うからね、まったく、無駄に頑固なんだから」

怒りは霧消したが結局一番の疑問は解決されないままユーリはそれで良しとする事にしたようである、それはソフィアへの絶対の信頼の表出であり、ユーリ自身の確固たる実力から来る余裕の賜物でもある、

「じゃ、私は休むわ、あ、明後日から現場研修で私も居ないから」

「ダナさんから聞いてるわよー、用意するものとかあるの?」

「いらん、いらん、ナイフ一本で野宿も出来ないんでは、冒険者どころか兵士にもなれないわよ、生徒達には自然の恐怖を存分に味わって貰うつもりだから」

ユーリは邪悪にほくそ笑んだ、

「お手柔らかにね、ジャネットさん達にはいいけど、ケイスさんには不要でしょ、そういうの」

「そうかしら?どんな状況でも生きていけるようにするのも教育ってもんじゃない?私達の時もほら先輩に散々いびられたでしょ、おかげで生きていられるんだし、今思えば感謝だわ」

「へー、あんたも大人になったのねー、いつか殺すって喚いてたじゃない」

「そうね、ま、そう言われない程度に優しく地獄に落してあげるつもり」

「そ、あ、明後日は朝から?」

「うん、朝は普段どおりでいいわ、38日の午後迄不在ね、なにかあれば戻るけど遅くはなるわ、あ、その気になればすぐか、それとカトカとサビナを宜しくね、好きに休んでいいとは言ってあるから、ちょっと働きすぎなのよね、暇だったら相手してあげて」

「はいはい、二人共大人なんだから大丈夫でしょ」

「そうだけど、私の大事な子分なのよ、親分としては気にかけないとね」

はいはいとソフィアは笑い、ユーリは重い腰をゆっくりと上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

悪行貴族のはずれ息子【第1部 魔法講師編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第2部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/450916603 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...