セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

25話 銀色の作法 その9

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「エレインさんいますー?」

唐突にジャネットが姿を表した、食堂ではソフィアとケイラン、それからライニールが静かにお茶を飲んでいる、

「あー、裏山に行ったわよ」

何事かとソフィアが腰を上げた、

「そ、そうですか、裏山?」

ジャネットが小首を傾げる、

「そう、裏山、ミナがへそ曲げちゃってね、御機嫌取りに遊びに行ったわ」

「ありゃ、ミナっちが御機嫌斜め?それは珍しい」

「そうかしら、レアンお嬢様にほっとかれちゃってね、そりゃあ、ミナで無くても怒るわよね」

ソフィアが困り顔の微笑みを浮かべる、

「そっか、あ、私もいってもいいですか?裏山」

「いいわよー、あ、たぶん大丈夫とは思うけど、つっかけで行くのであれば足元注意しなさいよー」

「はい、ありがとうございまーす」

ジャネットはヒョイと姿を消す、裏山、裏山、と呟きながら日頃の喧噪が全く失せてしまった店舗の脇を抜けて内庭へ入り、そのまま、

「こっちかな?」

広くなった敷地を眺めながら橋へと向かった、

「あ、そっか、新築なんだ、あ、汚ねー川ー」

ぶつくさと見たままを口に出しつつ道らしきものを辿って山を登る、

「あー木陰が涼しくていいなー、やっぱ、木は良いよなー、あ、鳥だ・・・食えるかな?」

ふと足を止めて幹に止まっている小鳥を見上げる、鳥はキョロキョロと周囲を伺ってあっという間に飛び去った、ジャネットはムーと鳥を目で追いつつ足を動かしてやがて頂上へ辿り着いた、

「へー、すごーい、広場になってるー、眺めいいー、気持ちいいー」

そこではエレインとオリビアが並んで立ち東側の景色を眺めている様子で、ミナとレインとレアンが中央の巨木から垂れ下がっている縄で遊んでいる、

「うわー、なんだあれ、楽しそう」

ジャネットは巨木に向かおうとする身体を、何とかエレインの方へ向かせ二人に近づいた、

「あら、ジャネットさんどうしたの?」

ジャネットに気付いたエレインが振り返り、オリビアも楽しそうな笑顔のままジャネットを見る、

「凄いねー、こんな所あったんだねー、あ、湖まで見えるよ、気持ちいいねー」

「そうですわね、レインさんがね苦労したのじゃって言ってたけど、あれよね、ソフィアさんがまたなんかやったんじゃないかなって、オリビアと話していたんですよ」

「あー、確かに、そんな感じだねー」

ジャネットは大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す、

「うーん、空気も美味しい気がするー、あれだねー、ここでブロンパンとか食べたら美味しいかもねー」

「そうですわね、それもオリビアが言ってました」

エレインが小さく笑いつつオリビアを見る、

「発想がジャネットさんと被るとは・・・」

オリビアが悔しそうに呟いた、

「あー、オリビアー、何だよ、それー」

ジャネットが口を尖らしてオリビアを睨む、

「いえ、こちらの話しです」

すました顔でソッポを向くオリビア、

「あー、そういう娘には新製品を教えてあげないんだからー」

「あら、出来ましたの?」

「うん、ほら、あの回転機構?の検証ついでに作ってみたのさ、えっとね、良い感じだとは思うけど、試してみる?」

「そうですね、頂きましょうか」

エレインがでは、どうしましょうかと巨木ではしゃぐ3人へ視線を向けた、

「ならさ、ここに持ってきて食べようか、気持ち良さそうだし、皆いるし」

「それも良いですね、ソフィアさんに一旦確認を取りますか、ここも学園の敷地との事らしいので私達が勝手していい場所ではない様子なのですよ」

「へー、そーなんだー、うん、じゃ、戻って聞いてみるよ、お二人は待ってて駄目だったらまた来るからさ」

ジャネットはそう言ってサッと踵を返す、

「お待ちしますね」

エレインに見送られジャネットは速足で下山の途に着く、暫くして、エレインとオリビアがミナの指導の下ブランコに興じていると、ソフィアとライニールそれからケイランが姿を表し、それを追うように様々な荷物を持ったジャネット、ケイス、アニタ、パウラがキョロキョロと風景を楽しみながら広場に着いた、

「へー、気持ちいですねー、木陰が涼しいー」

「うん、あー、下生えも柔らかい、昼寝したいなー」

「あ、それ良いね、田舎でよく寝転がってたよー、母さんに怒られてさー」

「そうですよねー、こっちは緑が少ないからなー、あっても狭いしねー」

キャッキャッと楽し気な声が木々の間を木霊した、

「わー、どうしたの、みんなしてー」

ミナがソフィアの下に駆け寄った、

「んー、なんか、新商品だって、みんなで食べようって事でね、ちょっとしたピクニックかしら?」

「ピクニック?」

「そうよ、お外で遊びながらおやつを頂くのよ」

「ピクニック、凄い、ピクニックだー、お嬢様ー」

ミナはレアンの下へ駆け出してピクニック、ピクニックと飛び跳ねた、

「なんじゃそれは?」

レアンはブランコを止めミナに問う、

「うんとね、お外でおやつを食べるの、遊びながら」

「ほう、そうか、お茶会かな?」

「うん、たぶんそれ、いこう、お嬢様も、レインもいこう」

興奮してはしゃぐミナに、

「あら、私とオリビアは誘って下さらないの?」

エレインがうんしょとブランコから立ち上がり、意地悪気にミナに問うが、

「エレイン様もオリビアもいこう、いこう」

ミナはそんなエレインの声音には気付かずエレインとオリビアの手を掴んで引っ張り始めた、

「わ、ミナさん、大丈夫ですよ、ほら、皆さんがこちらに来ますから」

オリビアが優しくミナの肩を抱きクルリと振り向かせる、

「良い樹だねー、なんていう樹なんだろう?」

ジャネットが護り樹を見上げて誰にともなく問い掛ける、

「精霊の木よ、ジャネットさんは初めて見る?」

ソフィアが答えた、

「へー、これが精霊の木ですか、初めて見ましたー」

ケイスが惚れ惚れと見上げ、

「そうですねー、なんか、森の中の奥の方にしか無いって聞いてましたけど、これがそうなのですかー」

パウラは不思議そうに見上げ、

「えっ、精霊の木ですか?モニケンダムにもあったとは、これは凄い」

ライニールは驚いている、

「あら、まぁ、そうか、中々見えるところには無い物よね」

ソフィアがそれぞれの反応にやや驚いているが、そういうものかと飲み込んだ様子である、

「そうですよ、殆どの人が見た事は無いと思います、あっても、神殿の中とかじゃないですか?」

「うんうん、ほら、豊穣の神殿?とかが秘匿しているって話は良く聞くよねー」

「そうです、そうです、王都の大神殿の中央にはあるって聞きました、ソフィアさんなら見た事あるんじゃないですか?」

ケイスがソフィアに問うと、

「あー、王都の大神殿は行った事ないわねー」

「そうですか」

ケイスが残念そうに呟く、

「そうね、特に興味も用も無かったし、近くまでいっても通りすぎちゃってたわね、ほら、人が多くて」

ソフィアはそう誤魔化して、

「えっと、ここら辺でいいじゃない?」

とジャネットに大樹の根元を指差した。
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