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本編
25話 銀色の作法 その6
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「ふー、今日はこんなもんかしら?」
会議は終わったが帰ろうとしない面々の背中を見ながらエレインはオリビアに確認した、
「はい、しかし、あの様子ですと忘れている可能性もありますが、まぁ、仕方のないこととも思います」
オリビアもエレイン同様その視線は集団へ向いている、
「あ、じゃぁさ、その木箱使ってみていい?」
ジャネットがヒョイと二人の視線を遮った、
「勿論ですよ、えーと、どうしましょう?厨房に運びます?」
「そだねー」
とジャネットが箱に手をかけ、
「あ、私もー興味あるなー」
「じゃ、私もー」
アニタとパウラがジャネットに続き、ケイスは静かにその後ろに付いている、
「では、私も確認しておきますね」
「そうね、皆さん宜しく、さて、私はと」
エレインが腰を上げたところに、来客のようである、玄関口に男の声が響き、婦人部の一人が気付いて対応に出た、すぐにエレインの元へ木簡と共に来客の件が伝えられ、エレインはあらあらと玄関口へ走る、来客はライニールであった、
「あら、ライニールさん御機嫌よう」
「こちらこそ、エレイン様、御機嫌麗しゅう」
二人は慇懃に頭を下げると、
「木簡確かに受け取りました、領主様にはお忙しい中お骨折り頂きましたこと感謝申し上げます」
木簡には商工ギルドとの打合せの期日とその参加者及び趣旨が記載されていた、
「はい、エレイン様にはヘッケル工務店とメーデルガラス屋ですか、そちらの段取りをお願いしたく、また、当日は現品をお持ちいただくように領主からの伝言でございます」
「はい、お任せください、しっかりと準備致します」
エレインとライニールは真面目な顔で頷きあう、
「それと、もう一つ、今、お時間を頂けますでしょうか」
「今ですか?はい、可能ですがどういった御用件で」
「良かった、本日はレアンお嬢様と出向いておりまして、ソフィアさんからお聞きの事と思いますが、4本フォークに関する事でございます」
エレインはあー、と小さく声をあげ、
「はい、確かに伺っておりました、はい、そういう事であれば、是非、そうですね、事務所はちょっとばかり騒がしいので、今、2階の準備をさせます、少々お待ち下さい」
エレインは音もたてずに素早く動くと、厨房のオリビア、それと鏡の前にいるケイランに指示を出す、二人は突然の事であるが、その表情は一切変えずに素早く動き出した、
「申し訳ありません、実は本日はお店をお休みにして会議の日であったのです」
「そうですか、確かにお店が閉まっているので焦ってしまいました」
ライニールはニコヤカに答える、
「それと、ガラス鏡をお披露目したのですね」
とエレインは事務所へチラリと視線を移す、
「あー、なるほど、すると大騒ぎですか・・・目に浮かびます」
ライニールも領主邸での騒動を思い出す、
「はい、早いうちが良いかなと思っての事ですが、まぁ、案の定ですね」
「そうですね、屋敷では、ユスティーナ様とレアン様が毎朝二人並んで鏡の前で楽しそうにしてますよ、それこそ御館様の入る隙間が無いくらいで」
「まぁ、それは微笑ましい」
二人が笑いあっているところにオリビアが静かにエレインに耳打ちし、
「では、2階の貴賓室の準備が終わりましたのでそちらへ」
「ありがとうございます、お嬢様をお連れします」
ライニールは頭を垂れると踵を返し、すぐにレアンを先頭にして華美な箱を持ってついてくる、
「エレイン会長、突然すまないな」
レアンは微笑み、
「いえいえ、お越し頂いて光栄に思います、レアン様」
エレインは恭しく頭を垂れ、いつのまにやらエレインの背後に控えているオリビアとケイランも静かに礼をする、
「うむ、いや、堅苦しいのは無しだな、実はの、相談したい事があってな、忙しい中申し訳ないが時間を頂けるかな」
レアンはやや困った顔でそう言った、友人として接するべきか、貴族としての外面を装うべきか、どっち付かずの状態であるからであろう、ミナがいれば気遣い等無く話しが出来るが、今日に関してはミナがいると本来の用向きを熟すことすら難しいであろう、
「はい、では、こちらへ、少々・・・そうですね、簡素ではありますが貴賓室を用立てております、そちらでゆっくりと」
エレインは慇懃な態度は崩さぬままに2階へ二人を案内する、
「ほう、うむ、これはあれだな落ち着いて話しができるな、うん」
2階の貴賓室は常からオリビアの手によって清潔に保たれていた、いつ高貴な方々の訪問があっても良いようにとの配慮からであるが、エレインがこの部屋を使うのは実は初めてであったりもする、
「そうですね、さ、そちらへ」
中央のソファーへレアンを誘い、自身も対面に座る、
「ケイランさん、ソーダ水を、それと、茶請けがあればお願いします」
ケイランがスッと頭を垂れて退室する、
「さて、では、早速なのだが」
レアンは前置きしつつ、
「4本フォークの事は聞いているかな?」
「はい、伺っております」
「うん、で、屋敷で父上とも話したのだが、面白そうだやってみろと言われてな」
「それはそれは」
エレインが大袈裟にうなずく、
「母上とも相談して、なによりもな、ライニールがうるさいのだ」
と背後に立つ自身の従者を睨む、
「なるほど」
エレインは微笑む、
「でな、今日相談したいのはこちらの構想と商品展開をどうしていくか、それと職人だな、ソフィアさん曰く、商売にするなら六花商会を使えとの御下命だからな」
フンスとレアンは鼻息を荒くして、
「でだ、まず見てほしいのが」
とライニールの手にする箱を受け取ると蓋を開いてそのままエレインに見せる、
「まぁ、綺麗ですね、もう、出来たのですか?」
「手に取って見てほしい、どうだろうか?」
箱の中には2本の銀で出来た4本フォークが並んでいた、綺麗な布の上に鎮座するそれは作られたばかりの為かピカピカと発光しているようにさえ見える、しかし、装飾は無くノッペリとした柄で、銀の板を引き延ばしただけのような代物であった、
「早いですね、つい先日の事と思っておりましたが」
「そうだの、そちらも良い職人を抱えているようだが、こちらも負けてはおれんのじゃ」
「なるほど」
エレインは微笑んでフォークを手にする、
「確かに、これは使いやすそうですね、それにとても綺麗です、うん、食事が楽しくなりそうです」
「そうだろ、でだ、構想としては、このフォークとスプーンそれとナイフだな、取り敢えずはこの3種をセットとして意匠と大きさを統一したものを作りたいと思っておってな」
「まぁ、それは面白そうですね、意匠の統一ですか・・・」
「そうなのだ、これが、また、このライニールが頑として譲らなくてな」
再びライニールを睨む、ライニールは表情を変えずにソッポを向いた、
「なるほど、確かに、それは面白い、いや、良い発案と思います、実際の所、食卓で使用するナイフは調理用のそれと変わらない品であるのが普通ですし、さらにスプーンに関しても装飾の入った品があるにはありますが、皿やグラスのように華美な物はあまり無い様に思いますね」
「そうなのだ、こうして黙っているがな、フォークを父上に見せた時のライニールは、まぁ、一生分は喋り倒したぞ、意匠の統一だの、優雅な食事風景だの、新しい貴族の在り方だの、所作も美しくあるべきだの、びっくりしたわ」
三度ライニールを睨む、ライニールはそこでやっと口元を歪ませた、笑っているのであろうか、
「すいません、ライニールさんがそれほど情熱的な方だとは思いませんでした」
「儂もだ」
エレインとレアンは揃って笑い、ライニールは苦虫を噛み潰した顔となる、
「そうなりますと・・・・」
エレインは銀製のフォークを見つめながら考え込む、レアンはそんなエレインを黙して待った、そこへケイランが音もなく入ってきて二人の前にソーダ水を静かに供する、
「おお、これは嬉しい、ケイラン、ありがとう」
レアンは早速とソーダ水に手を伸ばし、
「そうですね、あー、黒板・・・」
エレインが不意に頭を上げる、
「少々お待ち下さい」
オリビアがサッと姿を消し音も無く戻ると黒板と白墨をエレインに手渡す、
「ありがとう」
エレインは黒板をレアンにも見えるように置くと、
「問題点を洗いだしましょう、それから、物語を作りましょう」
「物語?」
「はい、レアン様のやろうとしている事は貴族社会のみならず平民社会にとっても大きな変革になる事かもしれません、いえ、より大きな視点でみれば新しい文化の創出といっても過言ではないと思います」
気宇壮大な表現にレアンは眉をしかめ、ライニールもやや不機嫌な顔になる、
「そしてこういう事はゆっくりじっくりと進めていくのが良いと思います」
エレインは二人を見つめニヤリと微笑んだ。
会議は終わったが帰ろうとしない面々の背中を見ながらエレインはオリビアに確認した、
「はい、しかし、あの様子ですと忘れている可能性もありますが、まぁ、仕方のないこととも思います」
オリビアもエレイン同様その視線は集団へ向いている、
「あ、じゃぁさ、その木箱使ってみていい?」
ジャネットがヒョイと二人の視線を遮った、
「勿論ですよ、えーと、どうしましょう?厨房に運びます?」
「そだねー」
とジャネットが箱に手をかけ、
「あ、私もー興味あるなー」
「じゃ、私もー」
アニタとパウラがジャネットに続き、ケイスは静かにその後ろに付いている、
「では、私も確認しておきますね」
「そうね、皆さん宜しく、さて、私はと」
エレインが腰を上げたところに、来客のようである、玄関口に男の声が響き、婦人部の一人が気付いて対応に出た、すぐにエレインの元へ木簡と共に来客の件が伝えられ、エレインはあらあらと玄関口へ走る、来客はライニールであった、
「あら、ライニールさん御機嫌よう」
「こちらこそ、エレイン様、御機嫌麗しゅう」
二人は慇懃に頭を下げると、
「木簡確かに受け取りました、領主様にはお忙しい中お骨折り頂きましたこと感謝申し上げます」
木簡には商工ギルドとの打合せの期日とその参加者及び趣旨が記載されていた、
「はい、エレイン様にはヘッケル工務店とメーデルガラス屋ですか、そちらの段取りをお願いしたく、また、当日は現品をお持ちいただくように領主からの伝言でございます」
「はい、お任せください、しっかりと準備致します」
エレインとライニールは真面目な顔で頷きあう、
「それと、もう一つ、今、お時間を頂けますでしょうか」
「今ですか?はい、可能ですがどういった御用件で」
「良かった、本日はレアンお嬢様と出向いておりまして、ソフィアさんからお聞きの事と思いますが、4本フォークに関する事でございます」
エレインはあー、と小さく声をあげ、
「はい、確かに伺っておりました、はい、そういう事であれば、是非、そうですね、事務所はちょっとばかり騒がしいので、今、2階の準備をさせます、少々お待ち下さい」
エレインは音もたてずに素早く動くと、厨房のオリビア、それと鏡の前にいるケイランに指示を出す、二人は突然の事であるが、その表情は一切変えずに素早く動き出した、
「申し訳ありません、実は本日はお店をお休みにして会議の日であったのです」
「そうですか、確かにお店が閉まっているので焦ってしまいました」
ライニールはニコヤカに答える、
「それと、ガラス鏡をお披露目したのですね」
とエレインは事務所へチラリと視線を移す、
「あー、なるほど、すると大騒ぎですか・・・目に浮かびます」
ライニールも領主邸での騒動を思い出す、
「はい、早いうちが良いかなと思っての事ですが、まぁ、案の定ですね」
「そうですね、屋敷では、ユスティーナ様とレアン様が毎朝二人並んで鏡の前で楽しそうにしてますよ、それこそ御館様の入る隙間が無いくらいで」
「まぁ、それは微笑ましい」
二人が笑いあっているところにオリビアが静かにエレインに耳打ちし、
「では、2階の貴賓室の準備が終わりましたのでそちらへ」
「ありがとうございます、お嬢様をお連れします」
ライニールは頭を垂れると踵を返し、すぐにレアンを先頭にして華美な箱を持ってついてくる、
「エレイン会長、突然すまないな」
レアンは微笑み、
「いえいえ、お越し頂いて光栄に思います、レアン様」
エレインは恭しく頭を垂れ、いつのまにやらエレインの背後に控えているオリビアとケイランも静かに礼をする、
「うむ、いや、堅苦しいのは無しだな、実はの、相談したい事があってな、忙しい中申し訳ないが時間を頂けるかな」
レアンはやや困った顔でそう言った、友人として接するべきか、貴族としての外面を装うべきか、どっち付かずの状態であるからであろう、ミナがいれば気遣い等無く話しが出来るが、今日に関してはミナがいると本来の用向きを熟すことすら難しいであろう、
「はい、では、こちらへ、少々・・・そうですね、簡素ではありますが貴賓室を用立てております、そちらでゆっくりと」
エレインは慇懃な態度は崩さぬままに2階へ二人を案内する、
「ほう、うむ、これはあれだな落ち着いて話しができるな、うん」
2階の貴賓室は常からオリビアの手によって清潔に保たれていた、いつ高貴な方々の訪問があっても良いようにとの配慮からであるが、エレインがこの部屋を使うのは実は初めてであったりもする、
「そうですね、さ、そちらへ」
中央のソファーへレアンを誘い、自身も対面に座る、
「ケイランさん、ソーダ水を、それと、茶請けがあればお願いします」
ケイランがスッと頭を垂れて退室する、
「さて、では、早速なのだが」
レアンは前置きしつつ、
「4本フォークの事は聞いているかな?」
「はい、伺っております」
「うん、で、屋敷で父上とも話したのだが、面白そうだやってみろと言われてな」
「それはそれは」
エレインが大袈裟にうなずく、
「母上とも相談して、なによりもな、ライニールがうるさいのだ」
と背後に立つ自身の従者を睨む、
「なるほど」
エレインは微笑む、
「でな、今日相談したいのはこちらの構想と商品展開をどうしていくか、それと職人だな、ソフィアさん曰く、商売にするなら六花商会を使えとの御下命だからな」
フンスとレアンは鼻息を荒くして、
「でだ、まず見てほしいのが」
とライニールの手にする箱を受け取ると蓋を開いてそのままエレインに見せる、
「まぁ、綺麗ですね、もう、出来たのですか?」
「手に取って見てほしい、どうだろうか?」
箱の中には2本の銀で出来た4本フォークが並んでいた、綺麗な布の上に鎮座するそれは作られたばかりの為かピカピカと発光しているようにさえ見える、しかし、装飾は無くノッペリとした柄で、銀の板を引き延ばしただけのような代物であった、
「早いですね、つい先日の事と思っておりましたが」
「そうだの、そちらも良い職人を抱えているようだが、こちらも負けてはおれんのじゃ」
「なるほど」
エレインは微笑んでフォークを手にする、
「確かに、これは使いやすそうですね、それにとても綺麗です、うん、食事が楽しくなりそうです」
「そうだろ、でだ、構想としては、このフォークとスプーンそれとナイフだな、取り敢えずはこの3種をセットとして意匠と大きさを統一したものを作りたいと思っておってな」
「まぁ、それは面白そうですね、意匠の統一ですか・・・」
「そうなのだ、これが、また、このライニールが頑として譲らなくてな」
再びライニールを睨む、ライニールは表情を変えずにソッポを向いた、
「なるほど、確かに、それは面白い、いや、良い発案と思います、実際の所、食卓で使用するナイフは調理用のそれと変わらない品であるのが普通ですし、さらにスプーンに関しても装飾の入った品があるにはありますが、皿やグラスのように華美な物はあまり無い様に思いますね」
「そうなのだ、こうして黙っているがな、フォークを父上に見せた時のライニールは、まぁ、一生分は喋り倒したぞ、意匠の統一だの、優雅な食事風景だの、新しい貴族の在り方だの、所作も美しくあるべきだの、びっくりしたわ」
三度ライニールを睨む、ライニールはそこでやっと口元を歪ませた、笑っているのであろうか、
「すいません、ライニールさんがそれほど情熱的な方だとは思いませんでした」
「儂もだ」
エレインとレアンは揃って笑い、ライニールは苦虫を噛み潰した顔となる、
「そうなりますと・・・・」
エレインは銀製のフォークを見つめながら考え込む、レアンはそんなエレインを黙して待った、そこへケイランが音もなく入ってきて二人の前にソーダ水を静かに供する、
「おお、これは嬉しい、ケイラン、ありがとう」
レアンは早速とソーダ水に手を伸ばし、
「そうですね、あー、黒板・・・」
エレインが不意に頭を上げる、
「少々お待ち下さい」
オリビアがサッと姿を消し音も無く戻ると黒板と白墨をエレインに手渡す、
「ありがとう」
エレインは黒板をレアンにも見えるように置くと、
「問題点を洗いだしましょう、それから、物語を作りましょう」
「物語?」
「はい、レアン様のやろうとしている事は貴族社会のみならず平民社会にとっても大きな変革になる事かもしれません、いえ、より大きな視点でみれば新しい文化の創出といっても過言ではないと思います」
気宇壮大な表現にレアンは眉をしかめ、ライニールもやや不機嫌な顔になる、
「そしてこういう事はゆっくりじっくりと進めていくのが良いと思います」
エレインは二人を見つめニヤリと微笑んだ。
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