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本編

25話 銀色の作法 その5

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「はい、では、こちらですね」

結局ケイランが除幕を担当する事になった、

「えっと、どうしましょう、では、代表してどなたかこちらへ」

と椅子をガラス鏡の前に置く、どうやら領主邸でのエレインの仕掛けを真似ているらしい、あの時はレアン様とユスティーナ様を二人並べていたなとほくそ笑む、

「じゃ、あれね、生徒代表一人と婦人部から一人にしましょう、ほら、座って座って」

一同が席を立って遠回しに円を作り、鏡の前にはアニタに小突かれて生徒が一人座り、押し出されるようにマフレナが椅子を持って来て座った、

「はい、会長、口上をお願いします」

ケイランがニコリと微笑み、

「そうですね、こちらが今後、我が商会の主力製品になると思います、皆さん刮目してくださいね」

エレインが目で合図すると、ケイランはゆっくりと布を取り外した、木戸から入る陽光を反射しながらガラス鏡がお披露目される、

「えっ」

と一同は言葉を無くし、それから暫く沈黙が続く、そこから寮での時もパトリシアの時も領主の前であってもほぼ変わらない騒動が巻き起こった、

「やー、こうなるよねー」

「うんうん、でも、なんか楽しいですねー」

「はー、これで、そうか、いよいよ本格的に動き出すのかなー」

「そうですよね、奥様方に披露してしまってはあっという間に広まっちゃいますよー」

「それを言ったら学園もだよ、私も秘密にしなくてよくなるしなー」

「ジャネットさん、言いふらすのは駄目だと思いますよ」

「えー、でもさー」

「でもも何も、まだ販売できる形になっておりませんからね、聞かれたら答える程度に抑えましょう」

オリビアの冷静な答えにそうだよねーと経営陣は頷き合う、

「あ、ちょっと待ってね、実はー」

ブノワトが楽しそうに大鏡の裏からもう一枚の大鏡を慎重に持ち出して横に並べた、

「はい、これで皆さん喧嘩しないでいいでしょ」

ブノワトがニコヤカに振り向くと

「わ、2枚もあったんだ」

「えー、隠してたのー」

「最初からそうしなさいよー」

婦人部の口の悪さが一気に加速したようである、

「あー、そういう事言うんだー、どうしようかなー」

ブノワトがへそを曲げたような口をきくと、

「あ、ごめん、ブノワトさん可愛い」

「うん、流石ブノワトね、私の見込んだだけの事はある」

「今度、子作り教えてあげるから」

「いや、いらんし」

ブノワトと主婦達の生々しい掛け合いが響き、

「では、そうですね、これはエレインさんに見せて頂きたいかなと思うんですが」

一歩下がったケイランが布を被せたままのあわせ鏡をエレインに渡した、

「そうね、じゃ、マフレナさん、そのまま鏡を見てて」

マフレナは鏡の前の席を一切譲らずに自身の姿に見入っている、

「はい、これでどう?」

エレインがあわせ鏡の布を取ってマフレナの背後に立つ、

「わ、これって、え、私の後ろ頭?や、なんか、だらしない」

マフレナの感想に笑いがおきた、

「ジャネットさん、もう一枚ありますから、ほら、そちらで」

エレインがあわせ鏡をジャネットに手渡す、

「はいよ、ほら、背中とか頭とか良く見えるでしょ」

ジャネットがこちらも席を譲らない生徒の背後に立った、

「わ、オモシロ、えっ、なんか小汚い」

「そうだよねー、みんなそんなもんだよ」

「わー、何か嫌ー、でも、すごーい」

「ふふん、これはエレイン様の発案なんだぜー」

「えっ、会長凄い、流石です」

「まっ、当然ですわね」

エレインがニヤリと微笑み、

「さて、ほら、皆さんじっくりと見たいでしょ、ちゃんと交代しなさいね、喧嘩したら首が飛ぶからね」

あわせ鏡をケイランに手渡しつつ、一同に釘を差した。



それから暫くは鏡の前は戦争状態であったが、一通り順番が廻ったようで落ち着きを取り戻しつつあった、

「さ、じゃ、会議を進めますよ、鏡はほら逃げないから」

エレインの言葉に皆は渋々とではあるが従い、それぞれの席に戻るが落ち着きがなくチラチラと鏡の方を窺っている、

「では、えーと、鏡に関しては事務所に一式置きますね、なので、店を開く前とかにしっかりと身支度をするように心掛けて下さい」

で、とエレインは言葉を次いで、

「この件は、出来るだけというか、あまり大っぴらにしないように、というか黙っていて下さい、いいですね」

エレインは語尾を強くして語りかける、それなりの圧のある言葉に皆は神妙に頷いた、

「今後、私達の大事な商品となりますし、また、この商品を取り扱う段取りも出来てはいません、今日、このように披露したのは皆さんを信頼した上での事です、また、実際に見たいと言われても関係者以外に見せるつもりは現時点ではありません、その点重々御理解下さい」

「はい、会長、そうしますと以前お話ししておられた、貴族相手の商売とはこれの事なのですか?」

マフレナが手を上げた、

「そうなります、商品を見たら皆が手を上げるかもとも話したかと思いますが、如何ですか?」

「はー、なるほどー」

マフレナのみならず婦人部の多数が溜息とも納得ともとれる吐息を吐いた、

「ですので、現在、新店舗を画策しております、その他に・・・」

エレインは今後の商会について構想を話し始めた、やや熱っぽくなるが、その視界の端にブノワトの姿が入り、

「あっ、ごめんなさい、先にそうですね、まず、この鏡を作ったのはブノワトさんと、コッキーさんですね、コッキーさんはメーデルガラス店の娘さんです、知っている方いるかな?」

一人が頷いたのを確認し、

「で、元になったのがこれも研究所経由の技術です、それを二人が再現して、見事な商品に昇華して下さったのです、全女性を代表してブノワトさんに感謝致しましょう」

かなり大袈裟なエレインの物言いにブノワトはやや引き気味であるが、一同の視線は熱くブノワトに突き刺さり、やがて拍手となって表現された、

「ですので、皆さん、ブノワトさんは大事な取引先であると同時に大事な仲間です、虐めることは無いように」

どうやら笑う所であったらしいが、一同は神妙に頷いた、

「では、ブノワトさんから何かあれば・・・」

エレインがブノワトを見るが、ブノワトは首を大袈裟に振って拒否の意を伝える、

「ですか、では、すいません、付き合わせてしまって」

「いえいえ、こちらこそ、また、お邪魔しますね」

とブノワトは逃げるようにその場を辞した、

「さて、では、話しを戻しますが」

それから会議は静かに進行していき、給料の支払いも終えたが、ガラス鏡に慣れたもの以外はガラス鏡の前で再びの喧噪を巻き起こすのであった。
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