セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

25話 銀色の作法 その3

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翌日、朝食後に生徒達はバタバタと事務所へ向かい、ユーリは、

「あー、採点メンドー、魔法でなんとかならないかしら、あー、サビナにやらそうかなー、ソフィアあんた手伝わない?手間賃弾むわよー」

白湯を手にしてダラダラとしている、生徒の目が無い事も手伝ってか実にだらしない、

「はいはい、仕事でしょ、しっかりやんなさいよ」

「そんな事は分かってるのよ、あー、メンドー」

グチグチ言いながら白湯を飲み干すと3階へ上がっていった、ソフィアはやれやれとその背中を見送って、

「ミナとレインはどうする?今日も御本読む?」

二人は暖炉前でお手玉に興じていたが、サッと立ち上がり、

「うん、読む、面白いのよ、この御本」

「そうじゃの、中々に興味深いぞ、ソフィアも読むといいぞ」

「へー、レインが言うなら本物ね、うん、お仕事終わったらね、あ、掃除と洗濯終わったら茸を干しましょうか、丁度いい縄あったかしら?」

「ホント?ミナ手伝う」

「仕方ないのー」

二人は乗り気のようである、

「そ、じゃ、まずは落ち着いて勉強なさい、分からない所はちゃんと聞くのよ」

はーいと快活な返事が響き、ソフィアはまずは洗濯からと腕捲りをしつつ作業部屋へと向かった。



「おはようございます、納品でーす」

ブノワトが六花商会の事務所に顔を出した、

「あ、ねーさん、おはようっす」

丁度廊下にいたジャネットが元気よく出迎えた、

「あら、今日は休み?」

「そうなんす、昨日、進級試験で」

「あー、そっかー、じゃ、皆いるの?」

「そっすねー、後、これから会議なんすよ」

「それは聞いたわよー、で、それに間に合うようにって持ってきたからさ」

ブノワトが背後の荷車を見せる、ジャネットが荷台の荷物を見て、

「あー、鏡ですか?」

一目でその中身を看破した、

「そうよ、エレインさんが従業員にお披露目するからって」

「なるほど、うふふ、皆の驚く顔が想像できますわ」

意地悪く笑うジャネット、

「そうね、あ、エレインさんいる?」

「いますよー、呼びますね」

ジャネットは事務所に顔を突っ込んでエレインを呼ぶと、

「今、来ます、じゃ、荷物受け取りますよ」

「あ、じゃ、お願いしようかな」

二人は連れだって荷車へ向かい、荷の拘束を解く、

「あ、この結び方教えて欲しいなー」

ジャネットはブノワトを手伝いながら呟いた、

「いいわよー、これ便利なのよねー、学園で教わってない?」

「あー、無いですね、戦術では教わらないと思いますよ、ねーさんは工学でしたっけ?」

「そうよー、そっか、戦術では確かに使わないかもね、ほら、工学とか建築に行くとみっちりやるわよ、いろいろあって楽しいんだから」

ジャネットが興味を持ったそれは、俗に輸送結びと言われる結び方の一種である、縄一本で荷物を固定でき、緩む事が無い実に便利な結び方である、

「おはようございます、ブノワトさん」

エレインがパタパタと表に出てきた、ブノワトは明るく挨拶を返すと、

「回転機構の試作品も持ってきたわよ、見る?」

と荷台の端に積まれた莚を指差した、

「わ、ありがとうございます、そうなると研究所にも一声必要かしら?」

エレインがはてと一考している間に他の従業員も集まってきた、

「おはようございまーす」

アニタとパウラが生徒部を連れて元気よくその姿を現し、婦人部の姿も通りの先に見えている、

「あら、集まって来ちゃったか、じゃ、後ででいいかしら、ささっと運んじゃいましょう」

エレイン達は丁度良かったとアニタ達に荷を運ばせ、

「ブノワトさんも参加する?さして面白い事は無いけど、これの話しもあるし、紹介したいなって思ってたのですが」

エレインが莚を片付けているブノワトに問う、

「あー、どうしましょう、回転機構の説明もありますしね、まぁ、顔見知りもいるし、いいですよ、端で見てますから、あ、挨拶とかは勘弁で」

「ありがとうございます、忙しいでしょうから先に済ませますね」

「じゃ、そういう事で、荷車は・・・あっ、こっちに入れておきましょう、すぐ行きますんで」

ブノワトは屋敷の内庭への通り道に荷車を運び込んで事務所内へと入った、中は学生たちの黄色いはしゃぎ声が響き、その中でもジャネットの高くよく通る声がキンキンと耳に煩い、ガラス鏡は布に包まれたまま壁際のテーブルに立てかけられており、その側にあわせ鏡と手鏡も同様に布に包まれて置かれていた、

「皆さん席に着いて下さい、婦人部が揃い次第始めますよ」

オリビアがパンパンと手を叩き、静かになると同時にそれぞれが移動を始める、席は既に決まっているのか皆整然と席に着いた、

「ブノワトさんはあちらに」

とエレインが悪だくみでもしているのかニヤニヤとガラス鏡の側にブノワトを座らせた、

「あ、そうだ、全員が揃う前に確認しておきますが」

黒板の前に立ったエレインが思い出したように話しかける、

「皆さん、試験は大丈夫でしょうね」

厳しい視線を生徒達に投げかける、

「結果発表は明日ですか、留年となった場合はお仕事は難しくなりますから、その点何度も申し上げておりました、皆さんを信頼してもおりますが、学業を第一にする事を今後も念頭に置いて下さい」

やや説教臭いエレインの言葉に一同は神妙に耳を傾けているが、既に来ていた婦人部は何ともニコヤカに微笑んでいる、他人事である故であろう、ブノワトは今の内かなと思い立ち、皆の視線がエレインに向いているの確認しつつ、音を立てないように腰を上げると、ガラス鏡の布を外し、慎重に向きを変えた、今日持ってきたのは大鏡2枚とあわせ鏡2枚、それから手鏡も2枚である、ガラス面の保護の為ガラス面同士を合わせて運搬していた、その為最重要なガラス面が表を向いていなかったのである、クロノスの屋敷で行われたお披露目を思い出し、やや劇的に披露したいな等とブノワトも笑みを浮かべていた、

「で、会長からもお話しの通り、留年となった場合は、学園と相談の上で祭りでの屋台のみ、就業して頂くこととなるかと思います、つまり日常業務からは外れて頂くという事です、先に申し述べたのは聞いてなかった等とごねられては困るからですね、皆、この場にて説明した事をしっかりと覚えておいてください」

オリビアがエレインの言葉を次いで事務的な口調のままより具体的に語り、

「では」

と黒板に本日の議題を板書し始めた、

「あ、もう力を抜いて良いですよ、今から硬くなったり、勉強を始めても遅いので」

エレインは席に着き、

「あー、なんだよー、朝の爽やかな空気が台無しじゃんよー」

ジャネットが悲鳴にも似た声を上げ、

「何度も言われたじゃないですか、昨日は疲れてたから聞かなかったですけど、大丈夫なんですよね」

ケイスがジャネットに確認すると、

「何だよー、ちゃんとやったって、大丈夫・・・だと、思う、あ、うん、たぶん」

ジャネットはしどろもどろになり、

「アニタさんもですよ、私達がしっかりしないと示しがつかないんですから」

ケイスの矛先はアニタに向かう、

「ひゃ、ひゃい、大丈夫、ですと、思いますです、たぶん」

二人の頼りない返事に笑い声が起こった、そうして場が幾分か和んだ所に残りの婦人部が揃う、ブノワトがチョコンと座っているのを見て、あらあらと世間話をしそうになる婦人部の面々にブノワトは、

「お仕事、お仕事、先」

と着席を促し、従業員は揃ったようである。
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