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本編

25話 銀色の作法 その2

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「疲れたよー」

「疲れましたねー」

「はー」

試験を終えた3人が揃って食堂で項垂れている、ジャネットは言うに及ばずケイスも疲れ果てており、珍しくもオリビアまでがだらしない姿を晒していた、

「むー、どうしたのー」

食事時となった為ミナとレインが食堂に駆け込んできたが、3人の様子にその足をピタリと止めた、

「お疲れなのよー、ミナっちは元気かにゃー」

ジャネットは項垂れた顔だけをミナの方に向ける、

「元気だよー、えっとね、今日ね、レインとキノコ狩りしたのよ、いっぱい採れたの」

「へー、あー、ソフィアさんが言ってたわねー、そんなに採れるのー?」

ケイスも顔だけをミナに向けた、

「採れるのー、でもね、あんまり採りすぎちゃ駄目なんだって、暫くすればまた生えてくるってレインが言ってた」

「そっか、そうよね、レインは賢いニャー」

「何を今更じゃ」

レインはミナの背後で踏ん反り返っている、

「でねでね、ソフィアに頼んで干してもらう事にしたのよ」

ミナは嬉しそうにピョンピョン跳ねた、

「干すんですか?茸を?」

「うん、干すの」

「薬にするんですか?それともお茶ですか?」

オリビアがムクリと上体を上げて問う、

「えっとね、干すと美味しくなるんだって、あのね、あのね」

ミナが暖炉に走りマントルピースの上、花びらの壺の隣に重ねられた分厚い書物を椅子に上って持ち出すと、

「えっとね、これにね書いてあったの、最初の方だよ」

3人の前に書物を置きペラペラと頁を捲る、

「わ、立派な本だ、どこで手に入れたの?」

「ユーリが貸してくれたの、これで、勉強しなさいって、で、あった、これ」

ミナが茸の挿絵のあるページを指差した、

「ふーん、見してみそ」

3人はどれどれと顔を寄せあう、暫し黙読すると、

「なるほど、確かに、保存食になるのか、なるほどな」

「へー、面白いねー、西の方の村ですか、カトウェイクのさらに田舎の方ってどこら辺でしょう?」

「ここからだと、王都を超えてさらに先ですね、カトウェイクは地方名なので、フェルベーク公爵領ですね」

「流石、オリビアさん、貴族知識もしっかりしてるんですね」

ケイスが褒めると、当然ですとオリビアは無表情で答える、

「えっと、待ってね、確か、フェルベーク公爵様は、王弟様よね、継承権第二位の」

ジャネットは目をつぶり眉根に力を入れている、

「おおー、ジャネットさん、ちゃんと憶えてましたね、試験には出なかったけど」

「へへん、どんなもんよ」

ジャネットは嬉しそうに胸を張る、

「こっちでは出ましたね、ま、生活科としては最も大事な部分ではありますが」

「へー、そうだよねー、貴族関連って重要だよねメイドさんになるなら」

「騎士になるにも重要ですよ、最低限の礼節と知識は必要ですからね」

「えー、だけどさー、やっぱこっちはこれよこれよ」

とジャネットは右腕で力瘤を作って左手でバシバシと叩いて見せる、

「はー、ノーキンですねー」

「全くです」

二人の溜息に、ジャネットはなんだよーと不満顔となる、

「あ、で、うんうん、保存食としても優秀であるが、その味もまたより深みを増す、主にスープに使用され、また、水を含ませると生の茸とは違った食感が良い・・・なるほど」

ケイスがふんふんと目を走らせた、

「ね、ね、美味しそうでしょ」

ミナが3人を見上げ、

「凄いな、ミナっち、こんな本を読んでるの?」

「えっと、博物学?初めて聞く学問ですね・・・ん、パウロ・アウグスタ編集?」

ケイスが最終頁にある署名を確認した、

「学長ですね、確か博物学という学問を作ったと、なるほど、これがその成果ですか・・・」

へーと二人が感心しつつページを捲ると、

「あ、これは私も知ってるな、この模様と形の茸は食べちゃ駄目なんだよ」

「でも、これも干して煎じれば薬湯になるとありますね」

「へー、で、で」

「はい、効能は腹痛に良く効き、また安眠効果も有る、但し、生食は厳禁、また、地方によっては矢じりにこの茸を塗り付け使用すると・・・」

「へー、おもしろ」

「でしょ、でしょ、面白いでしょ」

ミナは嬉しそうに微笑み、3人はうんうんと頷いた、

「でね、茸をねソフィに頼んで干してみるの、でね、美味しくなったら食べるのよ」

「うんうん、どんな味なんだろう?」

「そうですね、興味深いです」

「でしょ、でしょ、うふふ、楽しみー」

3人はページを捲る都度、感嘆の声を上げ、その様にミナは喜び、実に有益なおしゃべりが展開された、

「準備できましたわ、あら、皆でお勉強?」

エレインが前掛けで手を拭いながら食堂へ入ってくる、

「わ、すいません、お嬢様がお手伝いをされていたのですか」

オリビアがエレインの姿に驚いて席を立った、

「あー、大丈夫、大丈夫、シロメンの作り方を習いましたのよ、とっても美味しくできましたわ」

エレインが満足そうに笑みを浮かべる、

「シロメン?」

ジャネットが問い返すと、

「昨日の白くて長いのです、今日はまた違った料理ですけど、美味しいですよ」

「えっ、ほんと、楽しみー」

「シロメンっていうんですか?昨日のあれ?」

「さ、準備なさって、上の人達も呼んでくださる?」

はいと元気良く3人が答え、先程迄の疲れは何処へやらと言った感じで夕食の準備が始まった。



「なるほど、焼きシロメンですか」

「すごい、万能ですね、そのままでも美味しかったのに、焼いても美味しいなんて」

「でしょー、次はどうしようかしら?確かスープに浸けても美味しいのよね」

その日の夕食は若干豪華なものとなった、大き目の皿に盛られたのは昨日と同じ白く長い料理であるが、本日のは炒めた野菜類と渾然となった品で、真っ白いそれは魚醤の色であろうか、茶色に染められており、野菜類と一緒に口中に放り込むと野菜の口当たりと麺の柔らかさの中にある弾力、それから染み出す塩味が一体となり絶妙な食感と旨味を醸し出している、さらに一人一枚供された鶏肉の揚げ物も存在感があった、獣肉のそれとは異なり薄く大きな揚げ物となっており、ご丁寧に切り分けられている、

「美味しいですねー、これ、屋台とかで食べたいかも」

「うんうん、エレインさん、どうかな?新商品にならないかな?」

「そうですわね、溶岩石の岩盤で作れれば面白そうですけど」

「だよね、だよね、あ、お皿とかどうしようかな?そうなると屋台よりもちゃんとした食事処でないと無理かな?」

「うーん、トレーに盛るのは難しいでしょうし、そうなるとお皿ですよね、屋台では難しいのかなぁー」

「そうですわね、どうでしょう、いっその事、シロメン自体を販売してもいいような感じなんですよね」

エレインはフォークを器用に回しながら考え込む、

「今日お手伝いをして思ったのですが、パンよりも手間がかからないんですよ、日持ちはしなさそうですが、茹でれば食べれますでしょう?昨日のように茹でた後で冷やしても美味しいですし、このように野菜と炒めても美味しいです、こうなると、最終調理前の状態で販売するのも面白いのかなと」

「へー、そっか、そうだねー」

ジャネットはなるほどーと続けて勢いよく口に放り込む、

「あんたらはもー、お仕事も大事だけど、食べながらする話しではないでしょ」

ソフィアの苦言に4人はすいませーんと口を合わせた、

「おかわりあるからね、昨日みたいに食べ過ぎないように注意してよ、特に大人達は」

ソフィアは静かに食べている3人を見る、

「あー、美味しいのが悪いのよ、つまり、あんたのせいね」

ユーリはモゴモゴと大変に失敬な事を言う、

「あら、そんな事言うの?ならそうね、今度は思いっきり酢でもかけようかしら?」

ソフィアも負けてはいない、

「あ、ごめん、すいません、許して、友達でしょー、幼馴染でしょー」

あっという間に負けを認めたユーリに、食堂内は笑いの渦に包まれた。
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