セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

24話 お嬢様と4本フォーク その2

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「こんな、旨いもの食べてたのか?ねーちゃん、ずっけー」

デニスは供されたロールケーキを口にするやいなや姉への暴言が口をつく、皆の前には試作品として作っていたロールケーキが並び、ソーダ水も供されている、

「だから、言葉遣い、お土産貰った時あんたも頂いたでしょ」

「一口だけだぜ、ねーちゃんとかーちゃんで食っちまったじゃねぇーかよ」

スプーンを咥えたままデニスは避難の目で姉を見た、

「だから、言葉遣い、それに行儀悪い」

めんどくさそうにコッキーはデニスを睨み、

「そうだよなー、ずるいよなー」

ブラスはデニスを見て笑顔になる、

「コッキーも連れてくれば良かったのよ、家族ごと、お店の方にさ」

ブノワトが微笑みつつそう言うと、

「それはそれで煩いんですよ、兄貴もこいつもおふくろも親父も」

「全員かよ」

ブラスは笑い、

「こいつって何だよ、ねーちゃんだって口悪いじゃんかよー」

「あー、もう、分かったから、なら、ほら、打合せ終わったらお店で食べまくりましょうよ、冷たくて美味しいのがあるから」

「ホントだなー、ねーちゃん出せよー」

「はいはい、分かったわよ」

コッキーは嫌そうながらどこか楽しそうに弟を宥めた、

「お口に合ったようでなによりですわ、で、ガラスペンが出来たのですか?」

エレインが微笑みつつも水を向ける、

「あ、はい、では、テーブル空けますね」

コッキーは空いた皿をすいませんと言いつつ回収すると、デニスが木箱を空いた空間に置いた、

「んじゃ、どうしよう、私から説明するのがいいんだよね」

コッキーはやや緊張しながら木箱を開ける、中にはおが屑に埋もれた数本のガラス棒とインク壺、羊皮紙の束が入っていた、

「まぁ、綺麗ね」

「そうね、見栄えは良いわね、楽しくなるわ」

ソフィアとエレインは上々の反応である、

「ありがとうございます、それぞれ手に取って見て欲しいんですが、ペン先?でいいのかな、デニスが様々に工夫しまして、この4種類の形がいいんじゃないかなって思うのですね」

とコッキーはデニスを見る、デニスもまた緊張しているのか口を真一文字に結んでいた、

「なるほど、確かにそれぞれ違うわね」

ソフィアは嬉しそうに中の一本を手に取る、そのペン先はやや細長く形成された涙滴型で螺旋の溝はうねる様にその周囲を装飾している、

「こちらの品も楽しいですわよ」

エレインが別の一本を取り出した、そちらは先こそ細いが円筒形をしている、螺旋の溝はやや浅いが溝の数が多い、他にはソフィアが作って見せた涙滴型よりはイチゴに近い形状のものと、円錐形で尖った針のような形状の品となる、

「あ、書き味もお試し下さい、インクはそれを、あ、お水頂けます?」

「いいわよ、エレインさん先にどうぞ」

ソフィアは立ち上がり、エレインは早速とインクと羊皮紙を取り出した、

「それぞれに書き味って変わります?」

エレインがどれを試そうかとペンを選びつつ問うと、

「えっと、それが、あまり変わりないですね」

コッキーは答え、

「え、そうなの?」

エレインはパッとコッキーを見る、

「はい、何度か試したんですが、違いがあるとすると、インクの吸い上げる量とか、持ち手とペン先との距離とか、そんな感じです、普段からあまりインクを使わないので、どんなもんなのか判断に困りまして」

コッキーは後ろ頭を掻いた、

「確かにそうね、インクってあまり使わないわよね」

若干汚れた壺を手にしてソフィアが席に着く、

「でもインクの量とかに違いがあるのであれば、商品の差別化は出来るわね」

ソフィアは先程手にしたペンにインクをつける、スッと黒色のインクが吸い上げられガラスペンに色が入った、

「あら、綺麗ねやっぱり、どうエレインさん」

「はい、これは楽しいですね、螺旋の模様が美しいです、じゃ、こちらも」

エレインは円筒形のペンにインクをつける、クルクルと回りながらインクは吸い上げられた、

「まぁ、こちらもいいですわね、何か上品な感じです」

「そうね、じゃ、こっちも」

と残った2本にもインクを吸わせ、それぞれの違いを楽しむと、

「じゃ、書き味ね」

とソフィアは羊皮紙に自身のサインを書きつけた、

「うん、いい感じ、凄いわね、たかだた数日でここまでできるなんて」

ソフィアの素直な誉め言葉にデニスはやっと緊張を解いた様子である、ホットしたような嬉しようなまだ幼いといえるその顔に表情が生まれた、

「確かに、これは書きやすいですね、それにインクの持ちも良いです、なるほど、溝の深さと数?それと長さによって変わるんですわね、これは使いやすいですよ」

エレインの絶賛の声に、デニスは俯いてにやけている様子であった、

「良かった、お二人に認めてもらえたのであれば頑張った甲斐がありますよ、主にこの子が」

コッキーが嬉しそうにデニスの頭を撫でると、

「なんだよ」

とデニスはすぐにその手を振り払う、

「あらあら、照れなくていいわよー」

「そうそう、そのうち相手してもらえなくなるんだから・・・ってそれはどっちもか」

ソフィアとブノワトは笑い、コッキーとデニスは再び赤面し俯いた、

「そっか、そうなると、どうでしょう、ソフィアさん、こちらの製品化も検討したいと思うのですが」

エレインはペン先を見つめながら呟くようにそう言った、

「えぇ、大丈夫じゃない?この品質なら胸を張ってお金になると思うわよ」

ソフィアはニコヤカに答える、

「そうですか、良かったー、ソフィアさんの合格が無いと、不安で不安で」

コッキーは胸を撫でおろし、デニスも嬉しそうに顔を上げた、

「但し」

とソフィアはペンを持ったまま人差し指を上げると、

「この柄の部分ね、ここの装飾が欲しくなるかしら、この状態だとあまりに無骨ね、持った感じは良いけど、恐らく長時間使用すると滑るわね」

ガラスペンはソフィアの指摘の通りであった、ペン先の加工に対してペン軸の部分は何の装飾もないただのガラスの棒である、

「確かに、せっかくの美しいペン先が台無しとまではいかなくても、もう少しお洒落?にしたいですわね」

エレインもソフィアの意見に賛同する、

「・・・実は、その点を相談したかったんです」

おずおずとデニスが口を開いた、

「その、ソフィアさんが御存知のその村でしたっけか、そこではどのようにしていたのかなと、それで、それが俺にも出来ることなのかなと・・・思いまして」

なにやら悔しそうにそう言った、

「うーん、そうよね、それを知りたくなるわよねー」

ソフィアはペンを木箱に立てかけると腕を組む、

「ここまで教えてたのですよ、その先も御教示頂かないと」

エレインは楽しそうにソフィアを見て、

「そうですよ、半端は良くないです」

ブノワトも茶化しつつ、

「相談には乗ってあげないと、せっかくここまで出来たんですから」

ブラスもニヤニヤとソフィアを見る、

「もう、あんた達は」

とソフィアは溜息を吐いて、

「そうね、私の知っているのは2種類ね、単純にこのペンだと半分位で折って木製のペン軸を付ける方法ね」

ソフィアはペンを手にするとこの辺かしらと指差す、

「この場合、楽しいのはペン先とペン軸の組み合わせで自分だけの品を作れるところよね、それとどうしてもペン先は消耗品になっちゃうから使い慣れたペン軸を使いまわせる点でも良いかなと思うわ」

「なるほど、するとあれですか、ペン軸は別の職人が作っていたのですか?」

ブラスが食いついてきた、

「そうよ、木だからね工芸品みたいなのから使い勝手を考えたもの、簡素なもの、使用者個人に合わせたものとか様々だったわ、金属のもあったと思うわね」

「へー、そうなると宝石入りとか?」

ブノワトの問いに、

「勿論よ、金細工で赤い宝石が入ったのとか、でもあれは実用向きではないと思うわよ、重いし、ゴツゴツしてるし、観賞用かしら、それとも職人さんが作ってみたかったからかしら、そんな感じね」

「へー、へー、凄いですね、そっか、そういう風にすれば、それはそれで商品になりますよね」

コッキーは一転明るい顔である、

「そうなのよ、で、もう一つの方が口で伝えるのが難しいんだけど」

とソフィアは立ち上がり黒板に向かう、

「まずね、ガラスに対する装飾、これについて考えてみて欲しいんだけど」

黒板に悩みながら三つの単語を書く、切り欠きと付加、それと着色である、

「これも私は見ただけよ、実際にやった事ないから、それにあんたら兄弟はその道の職人さんでしょ、知ってる事なら聞き流してね」

とソフィアは自身が書いた文字を見て、

「簡単なのはこれね、着色、これは得意でしょ?」

とデニスを見る、

「はい、青から緑から黄色から、難しい色もありますが大概は作れます、ただ、この色と言われると難しいですが」

「そうよね、なんだっけ、鉱物を混ぜるんだっけ?で、つぎがこれか、付加、分かる?」

「はい、溶けたガラス棒で皿に模様を付けたりしてますね」

「なんだ、それなら十分じゃない」

ソフィアはやや不満そうな顔になる、

「じゃ、これ、切り欠き?分かる?」

「えっと、すいません、それはどういった?」

デニスは眉根を寄せ、コッキーも不思議そうに黒板を見詰める、

「これも簡単・・・ではないわね、やるとすれば試行錯誤が必要かと思うんだけど、ガラス製品の表面に傷を付けるのね」

「傷ですか?」

コッキーは首を傾げる、

「そうなのよ、絵で書くとこうかしら」

ソフィアは悩みつつ食器の絵を描き、その表面に直線で構成された幾何学模様を描いた、

「網目のようですね」

「そうね、で、この直線の傷がやすりだと思うんだけど、流石に作り方は教えてくれなくてね、綺麗な直線なのよね、で、食器自体が割れるような傷ではなくて、厚手のコップの表面だけを削る感じかしら?想像できる?」

コッキーとデニスへ視線を向けると、

「何となくは・・・でも、うーん、出来るのかな?」

コッキーは首を傾げ、デニスも微妙な顔である、

「なら、そうね、まぁ、こういう技術があるって事で、出来ることから考えると、この着色と付加で取り合えず柄の部分を装飾してみたら?それとペン先を2色のガラスを組み合わせるとか、そうね、透明のガラス棒で軸とペン先を作って緑色に着色したガラスでこう装飾を入れてみるとか」

ソフィアはそう言いながら雑な図を描いた、何とも乱暴な手付きである、白墨と黒板の立てる音が一際激しく感じられた、

「なるほど、それなら出来ます、ね、デニス、出来るよね」

「・・・はい、出来ますね、大丈夫です」

二人は慌てて答えた、ソフィアがやや御機嫌斜めに見えたのであろう、

「そう、それと、わざと気泡を入れてみても面白いわよ」

「えっ、それは御法度ですよ」

デニスは驚く、

「そうなの?でも綺麗よ」

「そうですね、気泡の入ったガラス食器って何か味がありますもんね」

エレインが同意する、

「え、そうですか?いや、それは駄目だって言われてたから」

デニスは困った顔になる、

「ま、そういう事ね、いろいろやってみなさいな、デニス君の出来ることを全部詰めてみたら?商品として考えるのであれば、先に言った木製の軸ね、ちょうど良く職人さんもいるでしょ」

ソフィアはニヤリとブラスを見る、ブラスはやや口元をひくつかせ、

「仕事が増えていきますね」

「なによ、嫌なの?」

ブノワトがブラスを睨む、

「いや、嫌じゃないけどさ、手に負えなくなるぞ、今日の件だってこれからなのに」

「そりゃそうだけど、じゃ、他の人頼む?」

「それはそれで悔しいんだよなー」

ブラスはムスッとして腕を組んだ、

「そうね、まぁ、そういう事で、まずはガラス鏡に注力なさいな、その片手間といってはあれだけど実験的な感覚でガラスペンに取り組んでみれば?工芸品にもなるし、実用的な品だとも思うし、どちらにせよ平民にはまだ馴染まない商品だとも思うしね」

ソフィアはパンパンと手を叩いて白墨を落とすと席に戻った、

「で、エレインさんとしてはどうしたいの?」

とエレインへ主導権を渡す、エレインは暫し考え、

「そうですね、私としてはデニス君の熱意が伝わって来てこのまま発展させたいですね、これはしっかりと売れる品です」

ペンを水に浸けインクを落とす、

「貴族相手なら需要がありますし、贈答品としても面白いかと、男女の別を選びませんし。それにこのペンだと書類仕事も楽しくなりそうです、なので、将来的にはしっかりと商品として世に出しましょう、その為には先程のソフィアさんのお話しの通り、ペン軸の開発ですね、勿論ペン先についても継続して、どちらも試行錯誤が必要と思いますが、楽しくなってきましたわ」

エレインは微笑み、コッキーとデニスはその笑顔にホッと一息吐いた、

「あ、でもあれよ、この短期間でこれほどのペン先を作ったのは純粋に凄いわよ、あんな適当な作例からここまで出来るのはそれだけの蓄積があった証拠ね、このままだと軸の方も期待していいんじゃない?」

「それは誉め言葉と受け取っていいんですよね」

コッキーが恐る恐る尋ねると、

「そうよ、他にある?」

ソフィアの軽い返答に、コッキーはモーと悲鳴を上げた、それからガラスペンについて様々な案が出されているところに、

「ごめーん、遅れたー、待たせたねー、生徒が離してくれなくてさー」

とユーリがバタバタと顔を出し、議題は浄化槽工事に関する事へと変わっていくのであった。
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