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本編

23話 裏山にて その6

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「そうなりますと、こちらへ住み込みでは如何でしょうか?」

エレインは暫し思案してそう提案した、エレインが領主邸へ木簡を届け商工ギルドに顔を出して事務所に戻ると、サビナが一人の女性を連れて事務所の中を覗いていた、エレインの姿を見付けると、事の次第を告げ、エレインはあらあらと二人を事務所に通すとそのまま3人による面談が始まった、

「住み込みですか?私としては願ったりかなったりですが」

エレインの前に座る女性はやや驚いた顔である、エレインはその女性から渡された羊皮紙に目を落としつつ、

「はい、テラさんが良ければこちらには問題はありません、但し、そうですね・・・」

エレインは顔を上げ階段口を睨む、女性はテラ・ベイエルと名乗った、クロノスが紹介するといった件の人物である、クロノスの評する通り、女性から見ても美しい顔立ちと佇まいである、年齢は30台後半であるが肌や目元を見る限り20台と言っても誰も疑わないであろう、スッと伸ばした背筋と言葉使いはそこらのメイドでは太刀打ちが出来ない程の気品が感じられた。
エレインに提出された羊皮紙にはその来歴と職歴が細かく記載されていたが、エレインにとってはまるで馴染みのない商店名と商会名の羅列であった、辛うじてその職場でどのような職務を担っていたかも表記されていた為、クロノスが推薦する理由は十分に理解できた、

「この屋敷の3階がその部屋になります、問題があるとすればこの屋敷は現在、誰も住んでいないのですね、来春には私とオリビア・・・私の専属ですが、その二人が暮らす予定なのです」

「なるほど」

とテラが小首を傾げると、

「わかりました、来春となると半年以上はありますね、であれば、その間は私が住み込みつつ管理をすれば良いかなとも思います、で、商会長がこちらに住まわれる頃にはある程度こちらの街にも慣れるでしょうし、そうなれば、別の住居も見付けるのは難しく無いと考えます」

テラはニコリと笑みする、

「それは良かった、でも、そうね、部屋は余ってるし、テラさんが良ければそのまま住んで貰ってかまいませんよ、ま、その時になったらまた考えましょうか、では、住居についてはそんな感じで、給与についても了解を得た・・・と、後は・・・」

エレインはうーんと眉間に皺を寄せ、

「一番大事な点を忘れていましたわね」

自嘲気味に笑みすると、

「仕事そのものについてですが」

と切り出し、商会の現状と展望について静かに語りだした、

「すると、暫くはあちらの店舗の運営とガラス鏡?ですか、そちらの商品展開が私の業務となるという事ですか」

「そうね、それとソーダ粉末についても力を入れていかないといけません、こちらはクロノス様の肝いりなので、より重要かとも思っております」

テラはなるほどと頷く、

「あ、それと、研究所製品も忘れないでね」

唐突にサビナが口を挟んだ、

「そうですね、そちらも対応していこうと考えております」

エレインは静かに受け取る、

「あ、なるほど、そうですね、その点もクロノス様から伺っておりました、向こうの研究所は宝の山だぞって笑ってましたけど」

「宝の山?・・・確かにそうね、ちゃんとすれば売れそうなものばかりだわ」

サビナがニヤリと笑みする、

「ちゃんとしてないんですか?」

テラは不思議そうに問う、

「研究所だからね、商品にする事はあまり考えてないのよ、でも、ね」

とサビナがエレインに目配せすると、

「そうですね、商品というよりも便利で役に立つ技術が貯め込まれている感じです、店舗の方を見て頂ければわかりますが、恐らくびっくりしますよ」

「・・・それは楽しみです」

テラは今一つ理解していない様子であるが、取り合えず納得したらしい、

「そういえば、テラさんは魔法についてはどんなもんなの?」

サビナが問う、

「そうですね、それなりだと自負していましたが、向こうの研究所では下の方でした、知識についても適正についてもまるでまるで」

テラはフルフルと首を振る、

「あー、研究所に雇われるような人達と比べるのはどうかと思いますよ」

エレインが苦笑いを浮かべ、

「そうかもね、でも、それが分かるのであれば優秀だと思うわよ、でも、今、商品化に当たって必要なのは普通の人の普通の感覚なのよね、だからこそ六花商会の御婦人方は有用でね、エレインさんには今後嫌でも協力して貰おうって所長とも話していたのよ」

「あら、それは怖いですわ」

エレインはニコヤカに笑みする、

「なるほど、そうですよね、どのような品にしろ誰にでも使える品でないと売り捌くのも難しいですし、クロノス様も個人適正によらない技術を開発しなければならないと仰ってました」

「そうね、うちの研究所というか所長の主張も同じでね、魔法をまったく使えない人でも使える品でなければならないと常々言ってるわ、少し聞いたところによるとね」

サビナは思い出し思い出し話し出す、

「所長が冒険者やってるときに傭兵だったかな、大戦時だから相手は魔族軍だったと思われるんだけど、6人でパーティー組んで行動してたらしいのね、で、魔族軍の罠にかかって魔力を吸い取られたらしいのよ」

「まぁ、そんな罠があるんですか?」

エレインは初めて聞く話しだと興味津々である、

「そうね、でね、そのパーティーのうち5人がその罠でぶっ倒れちゃって、勿論所長も、詳しくは聞いてないけど恐らくはソフィアさんもかしら、で、一人残ったのがまったく魔力の無かった人らしくて、所長曰くあの時その人がいなかたっら全滅してたわってね」

「へーへー、興味深いですね」

テラも真面目に聞き入っている、

「つまり、魔力の無い人はそれ以上魔力を吸われる事が無いから魔力欠乏になる事は無いという事よね、それと魔族軍のその珍奇な罠ね、スカウトの人もいたらしいんだけどまるで気付かなかったらしいわ、で」

とサビナは言葉を区切ると、

「所長はそこで、魔力重視のそれまでの考え方を改めたらしいのよ、正確な数字は不明だけど私達の周りだと、10人のうち3人か4人くらいは魔力を持たないじゃない、で、魔力はあっても使えない人が2から3人くらい、ここまででほぼ半数ね、残りの半数は使えるとしても個人差が激しいでしょ」

「そうですね、さらにそこに適正云々が加わりますので、誰もが炎を出せるわけではないですよね」

「そうね、所長曰く何故使える人と使えない人がいるかも疑問なんだけど、それ以上に使えない人の有用性を重視したいらしいのね、だから、さっきの罠にかかった後に、傭兵がパーティーを組む場合は魔力がまったく無い人を2人は必ず編成するようにしたらしいのよ」

「あ、それ、学園でも習いました、今では冒険者も騎士も倣っているとかなんとか」

エレインはポンと手を叩く、

「そうね、その元になったのが所長の発案らしいわよ、何気に凄いんだからうちの所長は」

サビナはニヤリと微笑んだ、

「へー、所長ってあのユーリ先生ですよね」

テラも関心している、

「そうよ、普段はほら、なんか適当な感じだけど、やる時はやる人だから、優しくしてあげてね」

サビナはテラを見てそう言うと、

「で、そういった経験を踏まえてかな?所長の価値観?なんだけど、技術というものは誰にでも使えるようにするべき、っていうのがあってね、そうでないと魔法に関してはしようがないとしても、普通の生活を送る上で人によって使える使えないがあっては不便極まりないでしょ」

「確かに」

「そしてこれは最近仕入れた話しなんだけど、旧帝国か、200年前のその時代は魔力を持つ人が迫害されていたらしいってのもあってね、魔力の有無で差別されるのはおかしいぞっと、所長はいよいよ考えたらしいのよ」

「あー、そんな事言ってましたね」

エレインは腕を組んで思い出す、

「そうね、下手するとこれからの時代は魔力を持たない人を迫害する風潮が生まれるかもしれない、でも、それは間違っているという事よね、生まれた時から持っている持ってないで区別されたらたまったもんじゃないし、先の話しのように有用性は認識できていて、さらに現在の日常生活にはまるで影響が無い事だからね」

「確かにそうですね、日常生活だと、殆ど使わないですもんね魔法なんて」

テラもしみじみと語り、

「魔法ってどうやって使ったかしら?」

やや不安気な事を言う、

「で、今、カトカが取り組んでいるのが例の魔法石への魔力の貯蔵ね、構想だとあれが上手くいけば魔力の扱いが不自由な人でも魔法を仕込んだ道具を扱えるようになると思うのよ」

「なるほど」

テラもまたクロノスの研究所で見聞きした事を思い出しつつ相槌を打った、

「で・・・長くなったわね」

サビナは自嘲気味に笑みしつつ、

「つまり何を言いたいかというと」

サビナは右手の人差し指を自身の鼻に押し付けると、

「自分で言っておいてなんだけど・・・研究所関連の商品化ってまだまだ先って事ね」

らしくない可愛らしい笑顔となる、

「もう、別に急がせてないじゃないですか」

エレインはズルッと身体を傾け、テラも困った顔で笑顔になるのであった。
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