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本編

23話 裏山にて その2

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夕食後、ソフィアとユーリはエレインの自室に居た、報告と相談があるとの事で、普段であれば食堂でダラダラと話すのが常であるが、ジャネットとケイスの邪魔になるかなというエレインの意見に二人は賛同し、エレインの自室が打合せの場として選ばれた次第である、

「初めてねこの部屋は、でも流石オリビアさんね、綺麗だわ」

ソフィアはニコニコと室内を見渡し、

「そうね、貴族趣味って訳でも無いし、エレインさんの人柄が出てるわね」

ユーリはそう評して供された茶に手を伸ばす、室内は簡素であった、しかし置かれた品はそれなりの物のようである、過度な装飾は無いが重厚感のある調度品がバランス良く配置され、主の人柄を表している、

「ありがとうございます、オリビアも座りなさい」

エレインも笑顔で茶を啜ると、

「すいません、なんか改まって話すとなると緊張しますわね」

と困った笑みを浮かべつつ、

「今日、ブノワトさんとコッキーさんの所の親方?まぁ、それぞれの長と面会してきまして、それでお二人に報告をと思いまして」

「なるほど、どうだった?」

ソフィアが受ける、

「はい、諸々感謝していらっしゃいましたよ、ブノワトさんの所は以前からお仕事を貰っていた点もお礼として伝えて欲しいとの事でした」

エレインがユーリを見る、

「まぁね、良い仕事を気持ち良く熟して貰ってたからね」

ユーリは素っ気なく答える、

「コッキーさんの所もガラス鏡もそうですが、ガラスペンがガラス屋らしくて良いって頑張っているそうです、特にあの弟君の方が」

「あーそれは良かった、売り物になればいいけどね、ま、それも考えているんでしょ」

「そうですね、で、親方さん達と話したんですが、やはり商工ギルドの中に一部門を作ってそこでガラス鏡の技術を育てていくのが良いかなという見解になりまして」

「なるほど」

「はい、で、お二人に相談なんですが、その部門の相談役をお願いできないかなと」

エレインはやや言い難そうに切り出した、

「・・・相談役?」

「あー、そういうのは、ちょっとねぇ」

二人は渋い顔となる、

「やはり、難しいでしょうか」

その渋面にエレインもつられて苦い顔となる、

「うーん、その組織の全容も明らかでは無いし、なにより皮算用過ぎない?エレインさんとこと工務店が2つで部門って作れるものなの?」

「そうね、ソフィアの言う通りだわ」

「はい、その点については大丈夫のようです、特に親方さん達は長年商工ギルドに係わっていますから部門そのものの設立は難しくないようです、まぁ、正式に動くとなればギルド長とか上の方での話し合いが必要であるのは確かなのですが、ガラス鏡を見ればその重要性と将来性は一目瞭然と二人は勿論家族の方も太鼓判でしたわ、それに二人ともがその上の方の一員でもあるらしくて」

「それは・・・強いわね」

「うん」

「そこで、あちらの皆様には情報は秘するようにお願いしてありますが、まぁ、いずれ漏れ出る事は確実なので、先手先手をと思っておりました」

「ふーん、そこで、相談役?なんかとばしてない?」

ユーリは首を傾げる、

「とばしてはいるのかな?現時点での構想としましては、部門長にブノワトさんを置いて、補佐にブラスさんとバーレントさんを置こうと思っております」

「バーレント?」

「コッキーさんのお兄さんね」

ソフィアが答えへーとユーリは納得する、

「はい、最初は、女性のブノワトさんには荷が重いとの意見もあったのですが、お二人との関係性や、私の業界の師匠でもあるので私が譲らなかったのです」

「あら、お強い」

「まったく、あなたも変に強気な所あるわよね」

「そうでしょうか」

エレインが柔らかく笑みした、

「なにせ、あの品はソフィアさんがいないと作れなかった品ですし、ユーリ先生がいたからこそブノワトさんとのお付き合いがあるものですので、で・・・」

とエレインは言葉を区切り、

「相談役としてガラス鏡に関する知恵を頂ければなと思っているのですね」

と結び茶を啜った、

「なるほどね、そうなると、ソフィア、あんた逃げれないわね」

「え、わたし?」

「でしょうね、話しを聞く限り私の出番ではないわ」

「そ、そうかな?出役はあなたでしょ、私は裏方がいいわ」

「出役って、相談役程度は裏方だと思うけど」

「なにすればいいか分からない事に首を突っ込む趣味は無いわよ」

「どうなるかわからん事を人にやらせるくせに?」

「あー、酷い言いぐさだわー、ねー、酷いよねー」

ソフィアはエレインと静かに傍観するオリビアを見るが、二人共が苦笑いである、

「ほら、皆そう思ってるわよ」

「・・・そうかしら?少し自重しようかしら」

「それは駄目です、自重はしないでください、楽しいですし、有意義であると思いますので」

オリビアがやっと口を開いた、

「あら、オリビアさんは私の味方なのね、嬉しいわ」

ソフィアがニコリと笑みする、

「わたくしも同意見ですわ、ソフィアさんから学ぶ事はまだまだ山のようにありそうですし」

「山のようには無いかしら?・・・その内、タロウさんも顔を出すでしょうからあっちの方が学ぶ事は多いと思うわよ・・・、あっそうか、タロウさんを学園の先生にしたら?」

ソフィアは急な思い付きを口にする、

「あー、それもいいかもね、あの人なんのかんの言って世話好きだし、でも、規格外すぎるわよ、私やあんたみたいなのを量産されたら世界が滅ぶわね」

ユーリの意見はどこまでが冗談か分からなくなってくる、

「でも、別に私達は破壊的な事はしてないわよ」

「そうだけど、性根から破壊的な人はいるものよ、それに学問として、というか技術としてあの人のあれやこれやを伝播するのはどうだろう・・・記録として残す必要は・・・あるかな?でも、御伽噺になりそうなのよね・・・」

やや壮大な話しになってくる、

「すいません、ちょっとズレてきていると思いますので、申し訳ないのですが」

エレインが言葉を選びつつ話題を止めると、

「とりあえずガラス鏡についてはこのような段階なのですね、六花商会としましてはその販売の元締めを担う形になればなと思っておるのです」

「そうか、そうよね、うーん、でも相談役ってのはちょっとなー」

「となれば、商会の相談役となって下さい、勿論、謝礼は支払います」

「あー、そういうのもなー」

ソフィアは腕を組んで右に左に身体を揺する、

「まったく、煮え切らないわね、他人を巻き込んでニヤついてるだけじゃ済まなくなってるのよ、いい加減腰を据えなさい」

ユーリはピシャリと言い放った、

「そうは言うけど、以前にもエレインさんには話したじゃない、協力はするし対価はそのうち物でって」

「そうですけど」

「十分協力してると思うわよー、別に肩書が無くてもいろいろやってみせてるし、これ以上望まないでよー」

「確かにそうなのですが、その関係性を維持する為に必要な事であると思うのです、すくなくとも私とオリビアは来春には此処を出ますし、そうなると、気軽に顔を出せるとは思えませんし」

「そんな事?ブノワトさんは卒業しても気軽に顔を出してるでしょう?それに店舗だってあるんだし、私が寮母の間はその関係性とやらは続くんじゃないの?」

「・・・そうですが」

とエレインは黙り込んだ、

「すいません、このようにお考え下さい」

オリビアが静かに語り出す、

「お嬢様も私もソフィアさんのお陰で未来が開けたと思っております、その恩を返したいのと縁を繋げたいのです、根本にあるのはただそれだけなのです」

「・・・そっか、ソフィア、あんた慕われてるわね」

ユーリはにやりと微笑む、

「それは、光栄だけど」

とソフィアはそっぽを向いて、

「うん、この話しは棚上げで、相談役は引き受けないけど相談は受けるわ、それと気が向いたら新商品は開発してもらうからね、ガラス鏡についてはあと二つ三つ作りたいのがあるのよ」

「あらあら、ま、今日はこんな所でいいんでないの?変に意固地になられたら私でもどうしようもないわよ」

ユーリはエレインに笑い掛ける、

「はい、そうですね」

エレインも薄い笑いで受けると、

「もう一点、これはユーリ先生にお聞きしたいのですが」

エレインはクロノスとの会見の件を切り出した、紹介するという人物についてである、

「面識あるわよ、うん、あの人なら大丈夫じゃない?しっかりしてるし経験もあるし、美人だし、年齢も上だからなめられる事もないだろうし、ただ、こっちに引っ越すのかな?」

「あ、そういうのもありますよね、クロノス様も思い付いた段階だったので、先方の気持ちもあるでしょうし」

「そうね、まぁ、その内連絡来るでしょ、私としては推薦できる人・・・かな?」

ユーリはうんうんと頷いて、

「あ、そっか、そうなると、こっちの品も商品化を考えないとね、誰かさんに遊び道具とか言われちゃったし」

ソフィアがジロリとユーリを見る、

「ふふ、そうですね、その際は是非当商会を御活用下さい」

「そりゃもう、そのつもりよ、便利に使ってあげるから心しなさいよ、私はこの子と違って勘違いした遠慮はしないからね」

「勘違いした遠慮?ってなによ」

ソフィアはさらに目を細める、

「あん、的確な表現だと思うわよ、ねぇ」

ユーリがエレインとオリビアを見る、二人は何とも困った顔となるのであった。
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