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本編

21話 美容の師匠は鏡の前に その2

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「なるほど、これは、とんでもないですね」

鏡の前にはブラスが立っている、

「大工のおっちゃんどうしたのー」

ミナがその足に纏わりつくが、ブラスはその小さな頭に手を置いて、

「えっと、これをうちのとコッキーが作ったので?」

とソフィアを見る、

「そうよ、作り方は一緒に聞いてたでしょ」

「あ、あの銀とガラスですか、ひやーこうなるんだ、いや、びっくりです、信じられない」

「あはは、そうよねーあれだけでこうなるとは誰も思わないわよね」

「そうですよ、話しを頂いた時はまるでチンプンカンプンで、想像すら出来ませんでした、正直まったく理解できなかったですよ、ひゃー、凄いなー」

ブラスは鏡を覗き込むように観察し始める、

「椅子に座ってゆっくり見なさいよ、お金は取らないわ」

ソフィアの冗談に、

「あ、すいません、じゃ、失礼して」

と真面目に答えるブラス、

「えへへ、ほら、変な顔ー」

ミナが得意の変顔を披露するも、

「おおう、凄いな、ミナは何でも遊び道具にするんだな」

と視界の端でミナを捉えつつ心の無い事を言って、

「俺って、こんな顔色だったんだ、あ、皺あるな、ジジイ共を笑えないな、あ、鼻毛が・・・」

とまずは自分の顔をしげしげと見つめ、それからその目の焦点は鏡そのものに当てられる、

「綺麗に写る所と、曇りが入った部分、それとやっぱり歪んで見える所もありますね、うーん、ゴミも入ってるし、これはどういう事だ?」

「あら、それの前に座ってガラス鏡そのものを観察できたのはブラスさんが初めてかもね」

「えっ、そうですか?でも、これは結構気になるでしょ、まぁ、女どもはそれよりも自分の顔でしょうけど」

「あっはっは、あれねやっぱり職人気質なのね」

「へへ、そう言われると恥ずかしいですが」

とブラスは腕を組んで首を捻る、

「おわ、動作がまったく同じだ、当然だけど、なんかキモイ」

「そりゃそうでしょ」

「あの、この瑕疵といったらいいのかな、上手くない所の原因て分かります?」

ブラスは素直にソフィアへ問うた、

「昨日、ブノワトさんには話したわよ、詳しく話すとね」

とソフィアはガラス鏡の問題個所を指しながら、その原因と思われる事を一つ一つ話して聞かせた、

「で、ここまではあくまで私の見解ね、たぶんこうだろう程度の話、そういった点は作成工程を変える事で解消されるかもしれないし、下地に使用した木を別の何かにして、銀を綺麗な平板にするだけでもいいかもしれないし、そこはブノワトさんとコッキーさんの頑張り次第かしら、綺麗で上手く出来ている箇所も多いでしょ、そこを参考にしながらがいいんじゃないかしら?ま、猫にネズミ捕りね・・・私としてはこのくらいしか言えないかな」

「いえ、十分過ぎます、理解できました、ありがとうございました」

ブラスは律儀に鏡に向けて頭を下げた、

「で、昨日ねブノワトさんには話した事なんだけど」

と商品化についてソフィアが出した条件と、販売に関する案を話す、ブラスは暫く難しい顔をした後で、

「・・・なるほど、了解致しました、その商売についての御助言は喜んで受けたいと思います」

「?それは?」

「はい、俺も悩んでいたんですよ、ソフィアさんやエレインさん達のお陰で木工細工が売れているじゃないですか、でも、販売に人を割く余裕が無いですし、販売員を雇う余裕もその知識も無いです、筵を敷いて観光客相手にするのは簡単なんですが、平時でそれをやろうとするとやはり無理がありまして、そういう点で悩んでいたんですよね」

「あー、そうよねー」

「はい、職人達は無愛想だし、お袋はめんどくさがるしで、身内でやれば小遣い稼ぎにはなるんですが、細かな仕事なので利益と労力が合ってなくて、暇な時にチョコチョコやってた物が妙に売れちゃって、あ、これはあの嬉しい事なんですよ、でも、正直、商売としては難しい面もあったんです・・・要はあれですね、販売に関しては不得手なんですよね」

「なるほど」

とソフィアは相槌を打つ、

「なもんで、先程のソフィアさんの案はこちらとしても嬉しいですね、ま、このガラス鏡が商品化すればの話ですが、うちで作ってる細かな品も取り扱ってくれるとしたら、渡りに船って感じです」

「そっかー、それもいいかもね、あ、でね、この木工細工に一手間・・・かな、こういうのが欲しいなって思うんだけど」

とソフィアは腰に下げた木工細工を手に取って、一つの商品案を語る、

「それは、いいですね、うん、そっか、手鏡は常時持ち歩けるものではないし、高価だし、身に着ける鏡ですか・・・いいですね」

「ま、高価なものになるのはどうしようもないんだけど、例えばね、街中で綺麗なお姉さんがこの位の大きさの鏡で、自分の顔を覗いていたらどう思う?」

「えっと」

とブラスは目を閉じ、

「あ、ブノワトには言わないでくださいよ」

と前置きし、ソフィアが微笑みで了承すると、

「絶対に見ますね、で、いいなーって思います、それと、少しだけ幸せになります」

健康な男性らしい意見を正直に吐露した、

「えー、安い幸せね、でも正直で宜しい」

とソフィアは笑って、

「でね、女性の視点だと、あの人何を覗いているのかしらとなるのね・・・」

「・・・そうすると・・・」

「その品が噂になっていって、さらに実際の品を知った瞬間に・・・買わざるを得なくなるわ」

「・・・すげー、何か想像できますね」

「ふふ、そういうふうに考えると販売という仕事も面白いものよ、ま、現段階では皮算用なんだけどね」

「なるほど、そうですか、昨日はこんな話をしてたんですか」

とブラスはソフィアを見上げる、

「そうね、挙句に生徒と大人達がしゃべくりまくるもんだから時間を忘れちゃったのよ、今後は気を付けるわ」

「いや、いいですよ、そういう事であれば・・・納得できました・・・そっか、少しばかり怒り過ぎましたね、戻ってブノワトに謝って、コッキーの家にも事情を話さないと、二人に申し訳ないです」

「あら、殊勝ね」

「へへ、夫婦円満のコツですよ」

「へー、仲良いのねー、中々出来ないわよ、そういうの、男ってやつは嫁には頭を下げない生き物だとばかり思っていたわ」

いやーとブラスは頭を掻いて、

「それはどうでしょう、俺はあれですよ、頭上がらない事の方が多いっすね」

「そうなの?ま、それぞれって事ね」

とソフィアは笑い、ブラスはそうっすねと照れ笑いを浮かべた、それから真面目な顔で鏡に向かうと、

「うーん、でも、自分の中の自分との乖離が凄いですね、もう少しイケてると思ってたんですが、妙に黒いし、煤けてるなー、ムダ毛も多いし、銅鏡だと見えない部分が丸分かりですね、髭剃るのもう少し工夫しなきゃなー」

と表情と顔の角度を変えて鏡に見入る、

「あ、そうだ、サビナさんが相談あるかも、ちょっと待ってね」

ソフィアはパタパタと階段へ走り、

「あ、すいません、長居して」

ブラスはその背に軽く頭を下げる、

「お話し終わったー?」

お絵描きをしていたミナが顔を上げ、

「中々に興味深い話じゃったのう」

レインはしたり顔でブラスを見るのであった。
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