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本編

20話 ガラス鏡はロールケーキとともに その11

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それから、急遽始まった話し合いは時間を忘れて行われた、生徒達は生徒達の、研究所は研究所の、大人は大人の意見が飛び交い、やや身を引いて見守る形となったソフィアが折衷案を出す、それによりさらに議論は白熱するを繰り返した、

「夜分にすいません」

玄関口に来客が有り、何かしらとソフィアが出ると難しい顔をしたブラスであった、聞くとブノワトが遅いので迎えに来たという、そんな遅くまでやってたかしらとソフィアは思わず口にするが、

「もう、寝る時間ですよ」

とブラスは怒りを押さえている様子であった、

「あら、御免なさい」

とソフィアは慌て、その日はお開きとなった、

「あー、そうよねー、ブノワトさんとコッキーさんはブラスさんと一緒に帰んなさい、私はアニタとパウラを送っていくから」

とユーリが立ち上がる、

「えー、大丈夫ですよー」

と二人は遠慮するが、

「あのね、大人でも女一人では危ない時間よ、子供二人で歩かせられるわけないでしょ、それに向うで騒ぎにでもなっていたら知った顔と行った方がいいわ、私が説明すれば拳固一発で済むでしょ」

「拳固は確定なんですね」

とパウラはまいったなと顔を顰め、

「でも、それ言ったら先生だって」

とアニタはユーリの心配をする、

「あん、私に勝てる男が何人いると思っているの?紹介してほしいくらいよ、カトカとサビナは少し待ってなさい、私が戻ったら送るから」

なんとも男らしい言葉を残して三人は連れ立って表にでる、

「じゃ、ほら、お前らも何してたかしらないがこんな時間迄迷惑だろうが」

怒り顔のブラスに、

「ごめんて、仕事の話ししてたら、その」

とブノワトは上目遣いとなる、

「すいません、ブラスさん、私も興奮しちゃって」

コッキーも身を縮めている、

「あー、お前さんの所も騒ぎになってたぞ、謝るのはそっちにだ、勿論、うちもだがな」

「えー、あー、そうだよねー」

ブノワトとコッキーはさらに小さくなる、

「ま、いい、無事だったならな、ほら、挨拶して帰るぞ」

「はい」

二人は見送るソフィアに頭を下げつつ寮を辞した、

「あらあら、ま、こいうのも有りかしら?」

どうもソフィアはこういう状況を楽しんでいる節がある、

「えっと、ソフィアさん、じゃ、私達も」

とオリビアが食堂に戻ってきたソフィアに声をかけた、

「そうね、ま、いろいろ意見も出たけど面白かったでしょ」

「はい、そうですね」

オリビアは笑みするが疲れた顔でもある、

「うん、さ、あなた達は休みなさい、ユーリが戻るだろうし、カトカさんとサビナさんは少し待ってなさい、白湯があるから少し頭を冷やしましょう」

「そうですね、ありがとうございます」

「いや、久しぶりに白熱しましたね」

二人は脱力して椅子に寄りかかった、

「では、すいません、おやすみなさい」

生徒達は静かに2階へ上がり、食堂内には新たにソフィアによって光源魔法が展開された、それはそれまで食堂内を漂っていたエレインの精霊とは異なり、球形の力場が光を発するものである、

「なんでも出来るんですね」

とカトカは光の力場を見て呟いた、

「そうねぇ、冒険者なんかやっていたからね、使えるものや使えそうなものは片っ端からかじったのよ、でもね、私もユーリも全然目が出なくて、そうね、若い時は失敗ばっかりだったわ」

「あー、ソフィアさんでもそういう時期があったんですか?」

とサビナは白湯に手を伸ばしつつ静かに問う、

「勿論よ、それこそあなた達の方がよっぽど凄いわよ、ユーリなんかねー」

と二人で冒険者になった頃の失敗話を訥々と話し出した、

「へー、らしいですね、何か凸凹コンビって感じです」

「そうよね、今、思うとまったく、エレインさん達が羨ましいくらいよ」

「あ、待ってたの?」

ユーリが静かに入ってきた、

「勿論よ、戸締りは私の仕事なんだから、ほら、明日も早いでしょ、起こしにいかないからね」

とソフィアは腰をあげる、

「はいはい、じゃ、二人共送っていくわ、学校閉まってないでしょうね?」

「あー、閉まってるかも・・・ね」

とサビナはカトカを見る、カトカはそうですねと頷いた、

「そっか、じゃ、泊って行きなさい、私の部屋の寝具を使えばいいわよ、着替えは明日の朝一番でいいでしょ、身の安全の方が大事よ」

「そうですね、ではそうします」

「はい」

と二人は素直に頷いた、

「ん、じゃ、ソフィアもおやすみなさい、楽しかったわ」

「楽しいで済ませる気はないんでしょ?」

「当然よ、やっぱあんたは俯瞰出来ているのね、研究所の方もしっかりしないと、やっぱあんた所長をやりなさい」

「やーよ、私はあくまで」

「寮母なんでしょ、分かってるわ」

と三人が階段に向かい、ソフィアは戸締りを確認しつつ宿舎へ向かうのであった。



「お疲れ様でした」

エレインの自室に入るとオリビアは疲れた顔でそう言った、

「オリビアもよ、お疲れ様ね」

とエレインはお気に入りのソファに座り、

「さて、課題が一気に出たわね、あ、あなたも座りなさい少し話しましょう」

オリビアははいと答えつつエレインの対面に座った、

「ソフィアさんの言う事は正しいと思うわね、それに飲食だけでは駄目っていうのも頭にあった事なのよ、それと貴族相手の商売も、確かに貴族を知っている人間がやれば失敗は少ないわよね」

「はい、そう言えばソーダ粉末の件、音沙汰が無いですね」

「・・・それもあったわね、でも、こうなると、ちゃんと人を雇って場所も確保して・・・」

「えぇ、トーラー様のお陰で拠点は出来ましたし、倉庫も使えると思います」

「それに研究所製の品々も、取り扱えるとなればかなりの利益を生むわね」

「そうですね、一般販売には向かないと思っていましたが、ソフィアさんもユーリ先生もどうやら何か目標があるみたいですし・・・」

そうねとエレインは大きく息を吐くと、

「・・・人は・・・、どうかしら、秋の卒業生に声をかけてみようかしら」

「はい、先が決まっている生徒は少ないですからね、正式雇用であれば人材は豊富かと思います」

「でも、あれよ、接客とか商品管理とか人材管理を学園上がりの人間にやらせるの?」

「私達は学園すら上がってませんがやってますよ」

オリビアは柔らかく笑みする、

「・・・それもそうね、それもこれも・・・まったく、人に恵まれ過ぎね、困ったわどうやって返していけばいいのかしら?」

「従業員には十分に納得できる賃金で、そして働きやすい環境と、それと・・・なんでしょうか・・・遣り甲斐のある仕事でしょうか、店舗の皆さんは皆楽しそうに仕事ができていますよ」

「そうね、ふと思ったのだけど、子供が生まれて家に入っている女性ってどれくらいいるのかしら?」

「・・・そうですね、かなりの数・・・と思いますが」

「その人達を中心にして仕事が出来ればいいと思わない?」

「それは、でも、子供の世話と家事があるから家に入っているんではないですか?」

「その通りよ、でも、子供の世話を・・・というか安心して子供を預けられる場所があれば、仕事に出てこれるんじゃないかしら・・・」

「なるほど、それいいかもですね、明日マフレナさんに聞いてみます、他の婦人部の人にも」

「そうなると、さっきあなたが言った、働きやすい環境が生まれるわね・・・」

「ふふ、そうですね」

「うん、前向きに検討しましょう、家に縛り付けるのは社会の損失よ」

「それは、また、意見が別れそうな言葉です」

「なら、有効活用は?経験もある、度胸もある、やる気もある、技術もある、けど、口は悪くて小うるさい人達」

「あー、最後のは言わぬが花です」

「そうね、けど、あなたにはそうなって欲しいけどね」

「どういう意味ですか?」

「ちゃんと結婚して子供を生んで、井戸端会議で旦那と子供と姑の愚痴を言い合うような」

「・・・先の話です」

「そうね、でもそれが幸せなのかもよ、婦人部の人達はとても充実して溌剌としているし、それに・・・」

とエレインは少しばかり言葉を選んで、

「ふふ、そうね、子供はやっぱり可愛いわね、あー、イージスに会いたいなー」

「まったく、お嬢様は・・・」

とオリビアは腰を上げると、

「本日の集計を済ませましょう、明日の釣銭を用意しておかないと、婦人部の人達に何言われるか」

「そうね、やってしまいますか」

エレインもよっこいしょと立ち上がるのであった。
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