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本編

20話 ガラス鏡はロールケーキとともに その10

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「で、あれは一体どういう事なのよ」

スイーツの皿が片付けられ、ミナとレインが満足して宿舎へ戻り、オリビアがソフィアと共に皿洗いに引っ込んだ所でブノワトとコッキーが皆の視線を集めた、

「どういう事と言われても困るんですが、ソフィアさんからの依頼で作ってみたんですよ」

「そうですね、私はねーさんから依頼を受けて言う通りにしたまでです、びっくりですよね」

ブノワトとコッキーはなんとも困った顔である、

「でも、あんた達が慌てる理由は良く分かるわ、これはあれね、とんでもないわね」

ユーリは鏡をみつめる、

「製法とか聞いてもいいですか?」

サビナが静かに問うと、

「えっとですね」

とブノワトが口を開いた瞬間に、

「あー、それは黙っといた方がいいかもよー」

と前掛けで手を拭いながらソフィアが入ってきた、

「えー、でもー」

とブノワトがソフィアを見る、

「そうね、サビナさんやこの場にいる人なら話しても良いとは思うけど、正直、暫くは秘密にした方がいいとも思うわ」

「そうですね、私もソフィアさんの意見に賛同しますわ」

エレインが静かに言った、

「そうは言いますけど・・・」

サビナは口をへの字に曲げている、

「そうよ、仕組みはかなり簡単なの、真似し易いのよね」

「そうですか・・・というと、あれですか、製品化も考えているんですか?」

「うーん、それは私の範疇じゃないけど、そうね、さっきも二人には話したんだけど、完成品とは言えない状態なのよね」

「これでですか?十分実用に耐えると思いますけど」

とアニタ、

「それはだって、銅鏡しか見てない人からしたらとんでもないけどね、もっと良くなるのよ」

「そうなんですかー」

「すいません、ソフィアさん」

エレインが立ち上がると真剣な目でソフィアを見る、

「この商品の権利を譲っていただけませんか?お金なら言い値で払います」

おおーと小さな歓声が上がる、

「権利って、ま、そう思うわよね」

とソフィアは椅子に座ると、

「うーん、私もこんなに上手くいくとは正直思ってなかったのよね、ほら、コッキーさんのガラスのケースを見てね、出来るかもなーって思ってね、それとブノワトさんの技術もしっかりしたものだったし、私としては半分賭けのようなもんだったのよね」

ソフィアは明るく笑い飛ばす、

「いや、笑いごとでは無くてですね」

エレインは真剣である、

「うん、でね、ある意味私の手を離れてはいるのよ、だって、あんた達もう駄目って言っても作るでしょ?」

とソフィアはブノワトとコッキーを見る、

「そうですね・・・」

「はい、作りたいです」

「そうなるでしょ、さらに改良点も教えちゃったしね、という訳で、エレインさんが口説くべきは私じゃなくてこっちの二人よ、それと、可能であればあれね、工場ごと取り込まないといけないと思うわ」

話しがやや大きくなってくる、

「その意見には賛成ね、ソフィアの言う事には一理あるわ、少々強引だけど、取り込むのはソフィアじゃなくて職人の方ね」

ユーリがソフィアの意見に賛同した、

「・・・いや、すいません、そうなると・・・」

とエレインは眉間に皺を寄せて席に着く、

「難しくなるわよねー、で、案としては二つの工場?工務店と独占契約を結んで六花商会でガラス鏡を一手に引き受ける事ね、二つの工場で生産して、売るのは六花商会、どうかしら?」

とソフィアはブノワトを見る、

「はい、それであれば商工ギルドを後ろに置けば有効な契約が結べると思います、実際に貴族向けの家具屋さんとかそういった形を取っていると聞いてます」

「ね」

とソフィアはエレインを見る、

「しかし、それでは、ソフィアさんの利益が無いですよ」

「そうかしら、私としては面白ければいいんだけど・・・」

「あー駄目よソフィア、あんたはホントそういうところが駄目駄目よ」

ユーリが目を細めてソフィアを睨む、

「えー、何よー、いいじゃない気楽でー」

「全く、昔っからあんたはそうなんだから、何でもできるくせに適当で、タロウさんによく似てるわ、似たもの夫婦ってほんとよね」

「いや、あの人と一緒にしないでよ」

「一緒にするわよ、まったく、いい、あれは私達の生活を変えかねない品なのよ、一家に一枚どころか一人に一枚は絶対に売れるわ」

「あら、ユーリもそう思う?」

「思うわよ、それをそんな簡単に手放して、面白ければなんていい根性してるわね」

「じゃ、こうしましょう、私が納得できる品が出来るまでは販売は出来ないって事にして、私にお金を払いたいのであればその時にあらためて相談って事にしましょう、今、この瞬間に決める事ではないわよね、それに・・・」

とソフィアはニヤリと笑い、

「さらにガラス鏡を使った良い物があるのよね、それはそれこそ貴族相手に大儲け出来る筈よ」

「え、さらに上があるんですか?」

「ふふん、あれは凄いわよ、さらに研究所の技術が加わったら最強ね」

「えっ、こっちを巻き込むつもり?」

「そうよー、クロノ・・・じゃなかった、私達の求める所に一歩近づけるわ」

「ふぬー、その話あとでゆっくり聞かせなさい」

「はいはい、忘れてなかったらねー」

「ちょっと、ソフィア」

「ま、そういう事で、じゃ、私からの条件ね、お二人には私が納得できるだけの品を作る迄は製品として売らない事、それを破ったらどうしようかしら?他の工務店とお付き合いするようになるだけ・・・かしらね」

「いや、それは、嫌です」

「はい、私も」

ブノワトとコッキーは悲しそうな顔である、

「別に難しい条件じゃないでしょ、簡単に出来るとは思って無いし、さっき話したように小さい品から開発していけばいいのよ、で、エレインさんの方は早急に二つの工務店と独占契約を結ぶことね、ついでにあれよ、他の商品も商会で売れるようにすればいいのだわ」

ソフィアは実に簡単に言い放った、

「・・・しかし、そんな簡単には・・・」

「そうよ、簡単では無いわよね、でも、商会としては必要な事でしょ、このままあの店舗だけで慎ましくやっていくの?飲食も楽しいけど、エレインさんの出自はこういう高級品も扱ってこそだと思うわよ、さらに言えば研究所の品々も今後普及させたいんじゃないの?コンロは材料が少ないからだけど、紫大理石とか溶岩板とかガラスケースもね、そこにある保存箱も、ちゃんと商品化して販売する事を考えないと研究所の遊び道具で終わるわよ」

ソフィアの意見にユーリは頬をひくつかせ、他一同は静かに納得するのであった。
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