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本編

20話 ガラス鏡はロールケーキとともに その5

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そのまま夕食時となり、誘われたブノワトはミナとレインの相手をしつつ皆が揃うのを待っていた、ブラスは会合があるとの事で姿を消している、

「へー、これ楽しいねー」

三人は暖炉前に座り込んで、カシャカシャと小気味いい音を立てる小さな袋を手慰んでいた、

「えへへ、ソフィが作ってくれたの、えっとね、オテダマっていうのよ」

でねでねとお手玉を二つ手にして天井に向けて投げては取り、取っては投げた、

「ミナはー、そうではない、こうじゃろ」

とレインは二つの玉を取って、一つを投げ上げるとタイミング良くもう一つを投げる、タイミング良く繰り返していき、やがて二つの玉はレインの前で大きな円を描きはじめた、

「おぉー、レインちゃん凄い、大道芸みたい」

ブノワトはその手わざに驚きの声を上げる、

「むー、ミナもやるー」

対抗意識に燃えるミナが挑戦するも中々上手くいかない、

「コツはの、右手はなるべく動かさない、で、左手を上手く使って右手に玉を投げ入れることじゃの」

ひょいひょいと淀みなくレインの玉は宙を舞っている、

「えー、ムズカシイー」

とミナは床に転げてしまった、

「あはは、そうね、簡単には出来ないよねー」

とブノワトも挑戦するが、

「わ、難しい、えっと、右手を動かさないで・・・」

とレインの助言を思い出しつつ玉を投げ上げると、

「あ、出来たかも」

二つの玉は綺麗に宙に舞い続けた、

「おう、器用じゃのう、少し手元が不細工じゃがな」

「レインちゃん、厳しいなー」

とブノワトは照れ笑いを浮かべる、

「むー、ブノワトねーさん、ずっこい、ミナもやるー」

ミナはムクリと起きると、再び玉を手に取った、

「うむ、すぐに諦めてはいかんぞ」

「うん」

とミナは頷いて、玉を投げ上げ始めた、

「急がないでよいぞ、ゆっくり、確実にやってみよ」

「うん」

ミナはたどたどしくもなんとかそれなりに玉を回し続ける、

「むー、レインみたく綺麗にいかないなー」

ポテッとお手玉が頭の上に落ちた状態で手を止めた、

「あはは、かわいい、ミナちゃん、そうだなー、幾つ載せれるかやってみましょうか?」

「え、どういうの?」

「じゃあねぇ、ミナちゃん上向いて、おでこに幾つ載せられるか競争ね」

とブノワトは上を向くと自分の額にお手玉を積み上げていく、

「あー、それならミナも出来るー」

とミナは嬉々としてブノワトを真似た、

「なんじゃ、それなら誰にでも出来るじゃろう」

レインも手を止めると額に玉を載せていった、3つ4つと載せたところで、

「じゃあね、このまま立ち上がるのは?」

ブノワトはゆっくりと立ち上がる、

「簡単、簡単」

ミナとレインはあっさりと立ち上がる、

「そっかー、これは簡単かー」

と三人はキャッキャッと盛り上がっている、

「もどりまー、あー、ねーさんだー」

ややお疲れ気味のジャネットが食堂へ入ってきた、

「あー、お帰りー」

と3人は天井を見上げながらジャネットを迎える、

「何やってるのー、何か楽しそう」

と勉強道具を床に置くジャネット、

「あのねー、ソフィがオテダマ作ってくれたのー、楽しいよー」

とミナがゆらゆらと身体を揺らす、

「オテダマ?」

「うん、あのねー」

と3人はジャネットを加えてお手玉の講習が始まった、やがてその輪にケイスとエレインが加わる、

「すごーい、レインさん、上手ねー」

「ふふん、ほらケイスもやって見せよ」

「手触りがいいですわねー、中は何が入っているんです?」

「あ、お豆なんだって、面白いよねー」

エレインはしげしげとお手玉を見つめ、ブノワトは手触りを楽しみつつ遊び方を模索する、

「ねぇねぇ、こんなのは?」

とブノワトは片手で2個のお手玉を宙で回転させ始めた、

「おおー、すごい、えー、どうやるの、どうやるの?」

ミナは喰い付き、

「む、やるな、ブノワトめ、負けてられんのじゃ」

とレインも真似るが今一つである、

「貸して貸して、ねーさんにできるなら」

とジャネットも見様見真似でお手玉を扱うと、最初はいびつながらも徐々にコツを掴んだのか気持ち良く玉が回り出した、

「おおー、ジャネットすごいー」

ミナの羨望の視線に、

「へへー、片手の方が楽かもなー」

とジャネットは得意気に鼻を擦る、

「夕飯の準備できたわよー」

とソフィアが食堂を覗くと、床に座った面々はハーイと元気よく立ち上がるのであった。



「なるほど、あの、中見てもいいですか?」

食後、サビナはオリビア特製のスイーツを待つ間に食堂の端に置かれた箱の説明を終えた、

「いいわよー、でも、開けっ放しは駄目ね」

とサビナは箱を開けて見せる、箱からは霜を含んだ冷気が溢れだし、初見の者はおおっと小さく驚く、

「へー、なるほど、小さな氷室ですね、田舎には雪と氷のでっかいのがありますよ、あれは土の中ですけど」

とケイスは理解が早い、

「すごい、ケイスさん大正解、それをね、より使いやすくできないかなって事でこうなってるのよ」

とソフィアがニコニコと補足する、

「そっかー、そうなるとどうなるんでしょう」

ケイスは小首を傾げる、

「サビナさん、これの大きいものは作れますか?」

ふいにエレインが興奮気味に大声を上げる、

「あら、エレインさん、これの有用性が理解できましたね」

とサビナがニヤリと微笑んだ、

「はい、これはあれですわ、上手く使えば一年中イチゴのソースが作れます、ミカンのも勿論ですが、凄い事ですわ、中はどうなっているんですの?」

とエレインはサビナの元へ走り寄った、

「中はまだ実験中よ、こっち側にあるのが予め凍らせたもので、こっちは何もしないで入れたものね、あ、こっちも凍ってるな」

とサビナとエレインは箱の中に首を突っ込んだ、

「なるほど、そうですわね、凍らせた状態でそれを保てば良いのですね、うんうん、サビナさん、実用化はいつですか?」

「うーん、もうちょっと待ってね、これはあくまで試作品なのよね、実用と言われると検証したい点がまだまだあるから」

とサビナは慎重である、

「なら、ほら、実用に耐えそうな形の物を作ってさ、使って貰えばいいじゃない」

とユーリが簡単に言い放った、

「あー、それも考えましたけど、何せ第一号ですよ」

サビナは難色を示す、

「そう?お店で使っているのだって試作品じゃないの、あれも実用化を考えるとちょっとって感じだけど、上手い事使えているんでしょ?」

とユーリはエレインを見る、

「はい、紫大理石と溶岩板、それとショーケースそれからコンロもしっかりと使えております」

とエレインは振り返った、

「なら、これも同じでしょ」

とユーリ、

「そうですけど、うーん、じゃ、大きいの作ってみる?設置場所とか搬入とかブラスさんと相談しなきゃだなー」

とサビナはブノワトを見ると、

「・・・ええ、確かにこの品は場所と重さが凄いので、っていうか、仕事多過ぎですよ、今日の件だってまだまだこれからなんですから」

とブノワトは意識はしていないのか悲鳴じみた愚痴をつい口にする、

「あはは、そうね、ヘッケルさんの所ばかり、仕事を頼んじゃだめよねー」

とユーリは明るく笑った、

「あ、仕事は嬉しいんです、ですが、こう、立て続けにお仕事を頂いて・・・特にこれはその、作った事が無いものだったもんで、親父さん達が・・・」

と言葉を濁すブノワト、

「そっか、うーん、そうなると、あれかしら、他の工務店さんとかも考えた方がいいのかしら?でも、ブラスさんもブノワトさんも良い仕事してくれるしなー」

「それは、ありがとうございます・・・」

ブノワトは複雑な顔である、

「まぁまぁ、では、こっちはそうですね、次の仕事って事で考えておいてください、陶器板の製作もありますし、改良点も出てくると思いますし」

サビナは仲裁しつつ、

「そういう事で、ね、エレインさんには悪いけどちょっと待ってね」

視線で謝る、

「そうですね、ブノワトさんにはお世話になってますし、仕事し過ぎで倒れられても困りますし」

とエレインが不承不承に納得した所で、

「はい、用意できました」

オリビアが明るい声で食堂へ入って来たのであった。
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