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本編

20話 ガラス鏡はロールケーキとともに その4

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「いや、先生、計画は理解できるのですが・・・」

ブラスは言葉を濁した、

「?何かある?」

とユーリはトントンとテーブルを叩きつつ訊ねた、

「ええ、まずはこの水路の傾斜が少し・・・」

とブラスは図面の該当箇所を指す、

「えっと、理想的な勾配が1割だと習ったのですが、この図面だと2分ですか?」

「あ、それはね帝国時代の図面がそうなっているのよ、それをそのまま使ってみたのね」

「へー、なんででしょう?」

とブノワトも首を捻る、

「実験してみる?何か違うかもよ」

「そうですね・・・えっとその配管を流れるのは汚物ですよね、排水だけではなく・・・流れるのかな?」

とブラスは尚も疑問を口にした、

「・・・そっか、そういう所からも考えてみないといけないのね」

とユーリは腕を組み、

「でもこの勾配であれば掘削の量は減らせますしね、恐らくですが敷地内で廃土の処理も可能になるかなと思います、それと、排水先があの川ですか・・・そこは大丈夫そうですね、あ、でもこの水を抜くための配管が難しいかもな」

「何か仕掛けのようなもので排水って難しい?」

「うーん、水車か風車でしょうか、大がかりになっちゃいますよ」

「あ、あれはあの足漕ぎの排水設備」

とブノワト、

「いや、あれも結構な大きさだぜ」

「そっか、うんそうかもなー」

「そうなると、あれかしら、いっそのこと地下の下水道へ繋げてしまおうかしら」

へっとブラスはユーリを見る、

「それが出来ればかなり楽ですね、あ、でもいいのかな?」

「何か問題?」

「はい、許可とか必要なんですかね?」

「あー、大丈夫じゃない?だって今迄無視されてたような施設だもの、たまたま繋がっていたって事にしちゃえば?」

「いや、先生、それは雑すぎますよ・・・でも、ま、いいのか・・・な」

とブラスは額を掻いた、

「そうね、じゃあ何だけど、この図面を渡すからちょっと考えておいて、その勾配の件も検証してもらえると嬉しいわ」

とユーリはまとめに入った、

「はい、わかりました、えっと確認ですが」

とブラスは自身の黒板に目を落とし、

「先にこの敷地の塀と橋ですか、これを第一期工事としまして、これは材が整い次第入れます、で、草刈もやって、塩も撒いてしまいます?」

「そうね、雑草対策としては砂利も必要なんだっけ?」

「はい、出来れば、ま、それはいつでも出来ますんで、先の工事が終わって状態を見てからでも・・・はい」

「うん、じゃ、そういう事で」

「はい、それで、明日は難しいかな?明後日にも土地の測量に入りますね、塀の概要と橋の概要を図面にして、確認頂いてから正式なお見積りになります、工期自体はそれほどでもないですが、あ、資材搬入で店の邪魔になるかな?」

「あー、それもあるわね、エレインさんには話しておくわ」

「はい、そうして頂けると嬉しいですね」

「うん、じゃ、諸々宜しく」

とユーリはテーブルの書類を整え出した、

「あ、終わった?ブノワトさん借りていい?」

ヒョイとソフィアが顔を出す、その足元にはミナの顔が覗いている、

「いいわよー、なら、このまま使いなさいな」

とユーリは書類を持って立ち上がる、

「ありがと、じゃ」

とソフィアとユーリは入れ替わり、

「ごめんね、次から次へと」

とソフィアは愛想笑いを浮かべる、

「いいですよー、もう、バンバン来いってなもんです」

とやや疲れた顔でブノワトは虚勢を張る、

「えっとね、お願いしたいのが色々とあるんだけどー」

「色々ですか・・・」

とブノワトはゴクリと喉を鳴らす、

「簡単なのからね」

とソフィアは手にした黒板を二人に提示した、

「これは、調理器具ですか?四本フォーク?」

黒板には一般的な肉刺しフォークのような形状で爪が4つある図が描かれている、

「そう、調理器具というよりは食器になるのかしら?これ、便利よ、木でいいから作ってみて」

ソフィアはユーリのそれと違わない気楽さである、

「スプーンとナイフで駄目なんですか?」

「そうね、それでも今の所は十分なんだけどね、これがあるとより優雅になるわね」

「優雅?ですか・・・」

とブノワトはブラスを見るが、ブラスも何とも不思議そうな顔で黒板の図を見ている、

「そうよ、昔ね、エルフの里にいった時に使ってたものなんだけど」

「えっ、エルフ・・・って、実在するんですか?」

とブノワトは驚いてソフィアを見る、

「実在するわよー、場所は教えられないんだけど、良い人達だったわー」

とソフィアは当然とばかりに言って、

「そこではね、木製のこれとスプーンで食事をするのね、料理をこう、突き刺して口に運ぶんだけど、なるほどこれは便利だと思ってね、で、そのうち作ってやろうと思っててすっかり忘れちゃってたのよ」

ソフィアは明るく話すが、二人はハーと気の無い返事である、

「で、側面が大事でね」

とソフィアは側面から見た図を示しながら説明を続けた、

「わかりました、ちょっとまって下さいね、これ写します、それと大きさはどれほどで」

とブラスが漸くやる気を見せた、

「普通のスプーンと同じでいいわ、ブラスさんなら簡単なもんでしょ?」

「えぇ、まぁ、作るだけなら、そうですね、何本か作ってお持ちしますね、それで、どれがソフィアさんの思う所に近いのか確認しながらの作業となるかと思います」

「はい、それでいいわ、で、ブノワトさんに相談なんだけど」

とソフィアはブノワトに視線を移し、

「銀細工は扱える?」

と問うた、

「えぇ、できますよ」

「どこまで薄くできるかしら?」

えっと、とブノワトは右手拳に額を載せて、

「例えが難しいですが・・・あっあれですね、銀貨一枚を200枚分くらいまで薄く広くできます」

「へー、そっか、なら出来るわね」

とソフィアは黒板のフォークの図をあっさりと消し、別の図面を嬉々として描き出すのであった。



打合せを終えソフィア達が食堂へ下りると、

「ブノワトさん、この泡立て器、すごいです」

オリビアがブノワトの姿を見付け、抱き付かんばかりに駆け寄った、

「あ、そう、良かったわ」

少々驚きつつもブノワトは笑みで答える、

「おかげで新商品の目途が立ちました、お待ちください、美味しいものを提供致します」

オリビアさんってこんな情熱的な人だったかしらとオリビアは思いながらも、

「そう、楽しみにしてるわ、ソフィアさんも是非にって言ってたし」

「お任せ下さい」

とオリビアは胸を張って厨房へ戻る、

「はー、なんだか変な一日だわ」

とブノワトはオリビアの背を見ながら大きく溜息を吐くのであった。
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