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本編

16話 開店 その11

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「あ、エレインさん、いらっしゃいましたよ」

と玄関口にソフィアが姿を現した、

「はい、今、行きます」

エレインはダナと事務員に囲まれていたがサッとその場を辞して寮に走る、

「あら、エレインさん、御機嫌用」

にこやかに笑みするパトリシアとアフラを含め私服のメイド達が6人、食堂内に佇んでいる、

「これは、リシア様、玉体をお運び頂いた事感謝の言葉もありません」

「あら、エレインさん、リシアと呼んでおいて、玉体とは矛盾ですわ、どう思いますアフラさん?」

パトリシアは冷たい視線をアフラへ向ける、

「はい、エレイン様には是非、王城にて再教育が必要かと、その際はそうですね、貴賓室をお使い頂く事になるかと思いますが、如何でしょうか、リシア様」

「そうね、それは良い考えです、如何かしらエレインさん」

「えっと、リシア様、アフラさん、その冗談ですよね・・・」

エレインは脂汗を滲ませつつ困った顔をする、

「そうね、冗談と言えば、冗談、本気と言えば本気かしら、まぁ、いずれにしろ・・・」

とパトリシアはそっとエレインの手を取って、

「お久しぶりねエレインさん、御招待頂いて嬉しいですわ、毎日遊びに来ても良いのだけれど、アフラに止められてね、もっと、頻繁に招待状を頂けないかしら?そうすれば遠慮無くお邪魔できるのですよ」

「そんな、リシア様、光栄・・・、いえ、嬉しいです、さ、是非、店舗を御覧下さい」

二人は笑顔で店舗に向かう、

「でも、リシア様そのさらに美しくとなったと思うのですが?」

「あら、お世辞かしら?そうね、少し太ったかしら?お腹もすこしばかり膨れてきましたのよ」

「あぁ、順調なんですね、良かったです」

「ふふ、そうね、こっちは順調よ、まだまだだけどね」

右手で下腹あたりを撫でさする、

「あっ、でも、そういう事では無くて・・・うーん、なんでしょう」

「あら、エレインさんもクロノス並みに鈍感なのかしら?」

「えっ、その男性と一緒というのは・・・女の矜持に関わりますわ」

エレインは目を細めパトリシアを注視する、

「あぁ、髪が、とても輝いて、サラサラですね、わ、美しい、それとこれは薔薇の香りでしょうか、甘い、良い香りがします」

「あら、やっと、気付きましたね、アフラ、ほら、エレインさんなら気付くと言いましたでしょ」

「はい、リシア様の仰る通りでした、流石です」

アフラは静かに笑みする、

「えっと、それは?」

「えぇ、ソフィアさんに教えてもらった洗髪を屋敷のメイド総出で研究しましたの、それでこの美しさと香りが実現できたのですよ、そうね、後でお分けしますから使ってみて下さいね」

「へー、それはすごいですね、楽しみです」

二人の会話はアフラを挟みつつも友人のそれに近いものになっていく、

「はい、で、こちらが、新店舗になります」

「まぁ、これは可愛らしい、それに、前掛けを使ってくれているのね、明るくて良いわね」

エレイン自らが案内する雰囲気の全く異なった集団に人垣は静かに場所を空けた、

「はい、ありがとうございます、それと商会名もユーフォルビア六花商会としました」

「それは聞きました、こちらこそ光栄です、でも、そういうのも嬉しいものなのよね、エレインさんのお陰で新しい事ばかりです、楽しいですわ」

「そう言って頂けると光栄・・・いえ、嬉しいです、さ、どうぞ、では、マフレナさん説明をお願いします、それとスペシャルセットを7つ用意して、オリビア、給仕を」

「はい、ではこちらへ、マフレナです、宜しくお願いします」

マフレナがエレインの代わりに商品の説明を始める、パトリシアは楽し気に、お付きのメイド達は興味津々で説明に集中する、

「では、こちらへ、食堂でゆっくりとお楽しみ下さい」

「あ、リシア様ー、お久しぶりー」

店舗の脇からミナが駆け寄った、

「あら、ミナさん、お久しぶり、元気そうね?」

「うん、ミナもレインも元気だよ、リシア様も食べに来たの?ミナはイチゴ味が好きー」

「そう、では、楽しみにしますね」

「うん、絶対、お勧め、それとね、黄色のはちょっと苦いの、でね、黒いのは素朴な甘さ?」

店舗の周りで遊んでいた為かマフレナの説明をすっかりと覚えてしまったようだ、

「まぁ、ミナさんも説明できるようになったみたいね、すごいすごい」

マフレナの誉め言葉に、えへへと照れ笑いを浮かべる、

「ふふ、そうね、ではイチゴ味から頂きましょうか、楽しみです」

うんうんとミナは頷いてエレインを見送る、

「さ、一番大切なお客様です、気合を入れてお願いしますね」

エレインは真剣な顔で従業員を見ると、

「はいはい、スペシャルセットのスペシャルで」

婦人部から仕事を引き継いだジャネットが腕捲りをして取り掛かる、

「でも、スペシャルのスペシャルって、どうしたもんでしょう?」

隣りのパウラは首を傾げるが、

「とりあえず、心を込めればいいんじゃね?」

適当に答えつつも鮮やかな手捌きを見せるジャネット、

「そうか、なら、心を込めて」

とパウラは皿を並べつつソースを慎重に飾り付けるのであった。



「満足致しました、しかし、この新商品は凄いですね、このパンの食感は新しいですし、ソースも素晴らしい、大したものです」

パトリシアはソーダ水を片手に吐息を吐いた、

「ありがとうございます、あの、足りないようでしたら、単品で立ち食いかベンチになりますが、店舗の者に御注文下さい」

「宜しいんですか?」

アフラが喰い付いた、

「えぇ、勿論、本日はご満足頂ける迄お楽しみ下さい」

エレインの笑みに、

「どうしましょう?少しはしたないかしら?」

「今さら何です、こういう時は素直に楽しみなさい、私の方は良いから、ほら、あなた達も」

パトリシアの言葉にメイド達は顔を見合わせつつ腰を上げる、

「ごめんなさいね、皆、招待状を頂いてから楽しみにしていたのです」

「それは良かった、ゆっくりお楽しみ下さい」

御付きの者ははやる気持ちを抑えつつ、音も立てずに店舗へ向かう、

「ふー、私も頂こうかしら、でも、夕食前ですし、そうね、また、食べに来れば良いわね」

パトリシアはニコリと笑みし、

「トーラーとはどうなの?上手くやってる?」

「はい・・・いえ、まぁ、でも、上手くはやっているつもりです」

正直なエレインにパトリシアはさらに笑みを浮かべる、

「そうね、まぁ、仲良くね、彼は近衛としても優秀だし、腕っぷしも良いらしいわよ」

「そうですね、それは、はい、理解はしているのですが」

その後、二人はつらつらと近況の話から香水の話等、楽し気に時を過ごすのであった。
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