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本編
16話 開店 その4
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「おう、ようこそ、ユーフォルビア第2女子寮へ」
ジャネットが笑顔でアニタ達を出迎えた、満面の笑みでおちゃらけた仕草である、アニタの後ろには5人の女生徒が学校帰りのままに付き従っていた、これから彼女達の面接兼顔合わせなのである、
「ジャネットだ、おひさしー」
「いや、さっきまで一緒だったでしょ」
「あら、御丁寧にありがとうございます」
「うわ、そうか、ジャネットもいるんだ」
「うわってなんだよ、傷つくなぁー」
それぞれにワイワイとはしゃいでいる、ルーツに連れられた夫人達とは違い皆明るく楽し気である、
「はいはい、アンタ達、少しは緊張しなさいよ、泣くはめになっても知らないからね」
アニタが釘を差しつつ食堂に入る、中は前回の面接同様にテーブルが並び変えられていた、それに加え今回は脇にジャネット達の席が用意されており、そこにはケイスとパウラが神妙な顔で席に着き、黒板を背にしたエレインとその側に立つオリビアも表情が硬い、
「お疲れ様です、アニタさん、ジャネットさんとアニタさんはそちらへ、それと皆さんはこちらに」
エレインは静かにそう伝える、小さな声であるが参加者の耳には正確に伝わったようだ、その冷たく事務的な言葉に皆一気に静まり返ると、静々と歩を進める、皆が席に着いたのを見計らってエレインは話し始めた、
「ユーフォルビア六花商会、代表のエレインです、それと共同経営者となります、ジャネット、ケイス、アニタ、パウラ、それとオリビアです、面識もあるかと思いますが宜しくお願い致します」
先程迄とは打って変わった雰囲気に女生徒達は面喰いながらもコクコクと頷いた、エレインは感情を排した声音を意識する、
「まずは、お仕事の募集に手を上げて頂いた事感謝致します、それと、学校帰りのお疲れのところ御足労頂いた事にも合わせて感謝致しますね、で、まずは・・・」
エレインがオリビアを見る、軽く頷いてオリビアは厨房に消えた、
「皆さんの中には既に食した人もいるかと思いますが、私共の商品をまずは御賞味下さい、それと、ジャネットさん」
エレインはジャネットに目配せすると、ジャネットはガラス容器からミルクアイスケーキを取り出す、
「こちらも我々の主力製品です、合わせて御賞味下さい」
それからの流れは前回の面接を踏襲したものになった、条件の提示と諸注意、質疑応答を簡単に済ませて個別の面談へ移る、
「さて、ジャネット達を呼んでくれる?意見を聞きましょう」
個別面談を終えたエレインはオリビアに他の4人を呼ばせた、4人は仏頂面を崩さずに個人部屋へ入って来る、
「で、皆さんからは何かあります?」
エレインが問うと、特に反応は無い、
「では、全員採用でいいですね?」
さらにエレインが問うと、皆静かに頷いた、
「はい、では」
とエレインが腰を上げ、5人を引き連れて食堂へ戻る、
「面接の結果ですが」
皆が席に着いたのを確認してエレインは話し出す、
「全員、採用です、本日はこのまま顔合わせと簡単な研修を、明日からはより本格的な活動をと考えます、急な話しで恐縮ですが皆さん宜しくお願い致します」
エレインはやっと笑顔を見せた、列席者は一様にホッとした表情となる、
「では、こちらの木簡にサインを下さい、内容は面談の時に確認頂いたものです」
エレインは一人一人呼び出してサインを貰いニコヤカに挨拶を交わす、5人全員がサインを終えた所で、
「ジャネットさん、もう良いですわよ」
面接の間ずっと落ち着きのなかったジャネットにエレインはやっと許可を出した、
「ぐはー、やっと、終わったー」
途端にジャネットはテーブルに両手を投げ出した、
「そうですねー、緊張しましたー」
ケイスが続き、
「あー、きついわー、慣れないわー、きついわー」
アニタはだらしなく椅子の背にしな垂れかかる、
「こっちまで、面接されてるみたいでしたよー、もー、やー」
パウラは立ち上がって大きく伸びをした、
「えっ、どういう事?」
生徒の一人が声を出す、
「あ、皆さんももう猫をかぶらなくても良いですよ、面接は終了ですわ」
エレインがニヤリと笑みし、オリビアも、
「はい、面接は終わりです、何です皆さん、らしくないですよ」
意地の悪い笑みである、
「ちょっと、オリビア・・・」
メイド組の二人は呆気に取られている様子である、
「そうね、ほら、あなた達への教育のつもりだったのよ、それとうちの共同経営者にもね」
エレインは理解出来ていない5人へ説明を始める、
「仕事に就くって結構大変だからね、この程度の緊張ではまるで足りないわよ、それと、ちょっと意識を変えてもらう為ね、お仕事である以上、上司と部下はできちゃうでしょ、仲良く仕事するのも楽しく仕事するのも大事だけど、それはどこまでいっても遊びとは別次元ですからね、皆さんがオリビアやアニタと仲がいいのは聞いていますし、私達とも仲良くやっていけるものとも思います、しかし、あくまで仕事です、私達は皆さんを金銭で雇う事になります、そういう意味で、ちょっとだけ意識を変えてくださいね、また、こちら側もそのように意識を持ちましょう、いいですね」
エレインの視線は生徒達から離れジャネット達に向かう、
「そうだぞ、ふふん、今からお前達はジャネット様の子分となったのだ、こき使ってやるぜい」
ジャネットが立ち上がる、
「あー、駄目な上司がいたら言ってちょうだい、六花商会は労働者の味方ですからね」
「ん?エレイン様、自分の事言ってるの?」
ジャネットは不思議そうにエレインを見る、
「あ・な・たの事ですよ、ジャネットさん」
エレインはキッとジャネットを睨む、
「え、わ・た・し?いやー、上司だってー、どうしましょう?」
クネクネと大袈裟に恥じらうジャネットに、
「だから、もー、アニタさん、その唐変木を黙らせなさい」
「はい、ほら、ジャネット、落ち着いて座りなさい、もう、少しジッとしているだけでこれなんだから」
「え?えへへー、アニタが優しい、さては、今日雨かな雪かな?」
「うるさい、このスカポンタン」
アニタの雷が落ちた、やっとジャネットは静かになるがどこか楽しそうである、
「あー、駄目なジャネットになってるわー」
女生徒の一人がボソリと呟き小さな笑いが起きる、やっと場が和んだようであった。
食堂ではそのまま研究所謹製の新装備の試用が行われた、紫大理石を2台並べ新たな火山岩のプレート、それからコンロを並べてわいわいとやっている、そんな中エレインとオリビアは食堂の端に木簡を並べて招待状の制作に忙しかった、
「うーん、リシア様はこれでいいと思うのですが、レアン様にはどう言ったもんでしょう」
「申し訳ありません、レアン様の方は私にも情報が足りなくて」
「そうなんですよね、私もお茶会について行っただけですし、うーん、お茶会の返礼といった形にしてミナさんとソフィアさんの名前を借りましょうか・・・」
「そうですね、無難にいきましょう、こちらが下である事だけは確定なので、失礼が無ければそれで宜しいかと」
「そうね、それと学園長と事務長にも必要ですし、こちらはやはり同じ内容でそれぞれに出さないと失礼ですわよね」
「はい、それとヘッケル夫妻は・・・必要無いですね、それとそのリューク商会へも必要かと思いますね」
「そうね、うん、それと」
わいわいと楽し気な声が響く中二人はうんうんと唸りながら木簡をしたためている、
「わー、人がいっぱいだー、みんなどうしたのー」
ミナとレインが日課の買い物を終えて食堂に入って来た、
「おう、ミナっち、新しい手下だぞ」
ジャネットが新しい紫大理石の前でニカリと笑う、
「手下ー、えー、すごーい」
素直に喜ぶミナに、
「まって、ミナさん、手下は駄目です、仲間ですよ」
パウラが優しく修正する、
「へー、仲間?」
「そうです、仲間です、皆大事なお友達なんですからね」
パウラはそう言って新しい生徒達にミナとレインを紹介する、
「よろしくな」
皆が笑顔で受け入れた為かミナは満面の笑みである、レインも恥ずかし気に笑みしていた、
「そうだ、ミナっち、ソフィアさん呼んできて、3階にいると思う」
「3階?分かった」
ミナはタタッと駆け出した、
「えっと、私達の大恩人を紹介しておかないとね、この料理の生みの親のお母さんみたいなもんだから」
ジャネットの表現に、
「随分迂遠な言い方ですね」
ケイスが辛辣な評価を下す、
「えーでも、そんな感じじゃん、うん、でも、懐かしいよね、最初私とアニタとパウラでね屋台に出せるものないかなーってのが始まりだもんね」
「はいはい、それは何度も聞いてるわよ」
女生徒の一人が笑顔で呆れる、
「うん、これはこの何だっけ新しい名前?」
「ブロンパンです」
先日の打合せで新商品の薄いパンはブロンパンと名付けられた、ブロンドの髪のような色と薄さであるからとパウラがそう名付けたのである、
「あ、そっか、ブロンパンを焼くのに最適よこの岩盤、流石研究所の人達よね、ミルクアイスケーキも見てて楽しいけど、ブロンパンを焼くのもこれは見世物になるわね」
熱気が籠る為額に汗を掻きながらもアニタは新設備に御満悦である、
「なるほど、直接焼けるんですね、うーんこうなると、あれですね焼き方ももう少し洗練したい所です」
パウラも新設備に興味深々であった、しかし、新しい従業員にはコンロが最も評判が良いようである、家にも欲しいとか寮母に贈りたい等と大絶賛であった、
「はいはい、来たわよー、楽しそうねー」
やがてミナに手を引かれてソフィアが下りて来た、
「あっ、ソフィアさんすいません、新しい従業員に紹介したくて」
ジャネットは手にしたヘラを置いてソフィアの元に来ると、
「えっと、皆さん、私達の大恩人で大切な寮母さんのソフィアさんです、皆、平伏すように」
「ちょっと、平伏すって、もう、ジャネットはー」
アニタはすぐにジャネットを抑えつつ、
「大恩人で大切な寮母さんてのは正しいからね、皆さん失礼のないようにね」
アニタは訂正しつつ紹介する、新人は声を合わせて宜しくお願いしますと挨拶を返してきた、
「あらあら、こちらこそ、宜しくね、まぁ、私は大した事してないからね、大恩人は言い過ぎよ」
ソフィアはなんとも背中がむず痒くなりつつ苦笑いを浮かべた、
「あぁ、すいません、ソフィアさんちょっと相談宜しいですか?」
オリビアがサッと立ち上がるとソフィアを呼びつける、ソフィアは新人達の羨望の視線から逃げるようにエレインとオリビアの元に身を躱した、
「ふー、騒がしいと思ったら、まぁ、楽しそうでいいわね」
食堂内の雰囲気とは真逆の顔で木簡を睨むエレインにソフィアは苦笑いのまま話しかける、
「すいません、ソフィアさん、7月5日の模擬販売の招待状を作っていたのですが、この面子の他に必要な人ってありますかしら?」
「ふーん、どれどれ・・・」
ざっと並べられた木簡を見渡す、
「そうねぇ、あるとしたらギルド関連かしら?そっちはどうなの?」
「あー、そうですよねー、商工ギルドはこれからお世話になりますからねー、うーん受付の担当してくれたお姉さんに出しておきましょうか・・・ブノワトさんのお陰もあってとても親切にしてくれたんですよねー、はい、出しましょう」
「そうね、後は・・・近所の人は?挨拶周りの感触はどうだったの?」
「それが、通りを一通り回ったのですが、集合住宅はしようがないのですが、ダナさんの言っていた通りで貴族の別宅は殆ど人がいませんで・・・どおりで夜も静かだなーと思っていたのですがその理由が良く分かりましたわ」
エレインは腕組みをして首を傾げる、
「ならいいじゃない、呼べば良いってもんでもないし、新しい従業員の家族とかも来るんじゃないの?正式開店前に疲れ切っちゃうわよ」
「それもそうですね」
エレインはフッと肩の力を抜いた、
「では、すいません、リシア様の分をお願いできますでしょうか?それとレアン様の分にサインを頂けると嬉しいのですが・・・」
エレインは2枚の木簡を選び出す、
「はいはい、じゃリシア様の分は預かるわね、レアン様の方は・・・そっか、私の名前で出さないと変だもんね、うん、ごめんね気を使って貰って」
「いえいえ、これ位は全然ですよ・・・」
エレインは恐縮しつつ再び悩み始める、
「今度はどうしたの?」
「ええ、忘れてはいけない人はいないか思案中です、私の個人的な繋がりもあると言えばあるので・・・でも、皆遠いので、正式開店してからでもいいかなと思うのですよ」
「そっ、ふふ、頑張って、じゃ、リシア様には責任持って対応するわね、レアン様分はこれで、レアン様にはどうやって届けるの?」
「あっ、普通にあれです門番に渡します、明日の私の仕事ですね」
「そう、ではそれで宜しくね」
さてとソフィアは立ち上がった、
「何か足りないものある?」
ソフィアはうんうんと悩むエレインに問い掛けるが、
「たぶん、今の所は・・・はい、なんとか」
エレインの素っ気ない返事にソフィアは微笑みつつ3階へ戻るのであった。
ジャネットが笑顔でアニタ達を出迎えた、満面の笑みでおちゃらけた仕草である、アニタの後ろには5人の女生徒が学校帰りのままに付き従っていた、これから彼女達の面接兼顔合わせなのである、
「ジャネットだ、おひさしー」
「いや、さっきまで一緒だったでしょ」
「あら、御丁寧にありがとうございます」
「うわ、そうか、ジャネットもいるんだ」
「うわってなんだよ、傷つくなぁー」
それぞれにワイワイとはしゃいでいる、ルーツに連れられた夫人達とは違い皆明るく楽し気である、
「はいはい、アンタ達、少しは緊張しなさいよ、泣くはめになっても知らないからね」
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「お疲れ様です、アニタさん、ジャネットさんとアニタさんはそちらへ、それと皆さんはこちらに」
エレインは静かにそう伝える、小さな声であるが参加者の耳には正確に伝わったようだ、その冷たく事務的な言葉に皆一気に静まり返ると、静々と歩を進める、皆が席に着いたのを見計らってエレインは話し始めた、
「ユーフォルビア六花商会、代表のエレインです、それと共同経営者となります、ジャネット、ケイス、アニタ、パウラ、それとオリビアです、面識もあるかと思いますが宜しくお願い致します」
先程迄とは打って変わった雰囲気に女生徒達は面喰いながらもコクコクと頷いた、エレインは感情を排した声音を意識する、
「まずは、お仕事の募集に手を上げて頂いた事感謝致します、それと、学校帰りのお疲れのところ御足労頂いた事にも合わせて感謝致しますね、で、まずは・・・」
エレインがオリビアを見る、軽く頷いてオリビアは厨房に消えた、
「皆さんの中には既に食した人もいるかと思いますが、私共の商品をまずは御賞味下さい、それと、ジャネットさん」
エレインはジャネットに目配せすると、ジャネットはガラス容器からミルクアイスケーキを取り出す、
「こちらも我々の主力製品です、合わせて御賞味下さい」
それからの流れは前回の面接を踏襲したものになった、条件の提示と諸注意、質疑応答を簡単に済ませて個別の面談へ移る、
「さて、ジャネット達を呼んでくれる?意見を聞きましょう」
個別面談を終えたエレインはオリビアに他の4人を呼ばせた、4人は仏頂面を崩さずに個人部屋へ入って来る、
「で、皆さんからは何かあります?」
エレインが問うと、特に反応は無い、
「では、全員採用でいいですね?」
さらにエレインが問うと、皆静かに頷いた、
「はい、では」
とエレインが腰を上げ、5人を引き連れて食堂へ戻る、
「面接の結果ですが」
皆が席に着いたのを確認してエレインは話し出す、
「全員、採用です、本日はこのまま顔合わせと簡単な研修を、明日からはより本格的な活動をと考えます、急な話しで恐縮ですが皆さん宜しくお願い致します」
エレインはやっと笑顔を見せた、列席者は一様にホッとした表情となる、
「では、こちらの木簡にサインを下さい、内容は面談の時に確認頂いたものです」
エレインは一人一人呼び出してサインを貰いニコヤカに挨拶を交わす、5人全員がサインを終えた所で、
「ジャネットさん、もう良いですわよ」
面接の間ずっと落ち着きのなかったジャネットにエレインはやっと許可を出した、
「ぐはー、やっと、終わったー」
途端にジャネットはテーブルに両手を投げ出した、
「そうですねー、緊張しましたー」
ケイスが続き、
「あー、きついわー、慣れないわー、きついわー」
アニタはだらしなく椅子の背にしな垂れかかる、
「こっちまで、面接されてるみたいでしたよー、もー、やー」
パウラは立ち上がって大きく伸びをした、
「えっ、どういう事?」
生徒の一人が声を出す、
「あ、皆さんももう猫をかぶらなくても良いですよ、面接は終了ですわ」
エレインがニヤリと笑みし、オリビアも、
「はい、面接は終わりです、何です皆さん、らしくないですよ」
意地の悪い笑みである、
「ちょっと、オリビア・・・」
メイド組の二人は呆気に取られている様子である、
「そうね、ほら、あなた達への教育のつもりだったのよ、それとうちの共同経営者にもね」
エレインは理解出来ていない5人へ説明を始める、
「仕事に就くって結構大変だからね、この程度の緊張ではまるで足りないわよ、それと、ちょっと意識を変えてもらう為ね、お仕事である以上、上司と部下はできちゃうでしょ、仲良く仕事するのも楽しく仕事するのも大事だけど、それはどこまでいっても遊びとは別次元ですからね、皆さんがオリビアやアニタと仲がいいのは聞いていますし、私達とも仲良くやっていけるものとも思います、しかし、あくまで仕事です、私達は皆さんを金銭で雇う事になります、そういう意味で、ちょっとだけ意識を変えてくださいね、また、こちら側もそのように意識を持ちましょう、いいですね」
エレインの視線は生徒達から離れジャネット達に向かう、
「そうだぞ、ふふん、今からお前達はジャネット様の子分となったのだ、こき使ってやるぜい」
ジャネットが立ち上がる、
「あー、駄目な上司がいたら言ってちょうだい、六花商会は労働者の味方ですからね」
「ん?エレイン様、自分の事言ってるの?」
ジャネットは不思議そうにエレインを見る、
「あ・な・たの事ですよ、ジャネットさん」
エレインはキッとジャネットを睨む、
「え、わ・た・し?いやー、上司だってー、どうしましょう?」
クネクネと大袈裟に恥じらうジャネットに、
「だから、もー、アニタさん、その唐変木を黙らせなさい」
「はい、ほら、ジャネット、落ち着いて座りなさい、もう、少しジッとしているだけでこれなんだから」
「え?えへへー、アニタが優しい、さては、今日雨かな雪かな?」
「うるさい、このスカポンタン」
アニタの雷が落ちた、やっとジャネットは静かになるがどこか楽しそうである、
「あー、駄目なジャネットになってるわー」
女生徒の一人がボソリと呟き小さな笑いが起きる、やっと場が和んだようであった。
食堂ではそのまま研究所謹製の新装備の試用が行われた、紫大理石を2台並べ新たな火山岩のプレート、それからコンロを並べてわいわいとやっている、そんな中エレインとオリビアは食堂の端に木簡を並べて招待状の制作に忙しかった、
「うーん、リシア様はこれでいいと思うのですが、レアン様にはどう言ったもんでしょう」
「申し訳ありません、レアン様の方は私にも情報が足りなくて」
「そうなんですよね、私もお茶会について行っただけですし、うーん、お茶会の返礼といった形にしてミナさんとソフィアさんの名前を借りましょうか・・・」
「そうですね、無難にいきましょう、こちらが下である事だけは確定なので、失礼が無ければそれで宜しいかと」
「そうね、それと学園長と事務長にも必要ですし、こちらはやはり同じ内容でそれぞれに出さないと失礼ですわよね」
「はい、それとヘッケル夫妻は・・・必要無いですね、それとそのリューク商会へも必要かと思いますね」
「そうね、うん、それと」
わいわいと楽し気な声が響く中二人はうんうんと唸りながら木簡をしたためている、
「わー、人がいっぱいだー、みんなどうしたのー」
ミナとレインが日課の買い物を終えて食堂に入って来た、
「おう、ミナっち、新しい手下だぞ」
ジャネットが新しい紫大理石の前でニカリと笑う、
「手下ー、えー、すごーい」
素直に喜ぶミナに、
「まって、ミナさん、手下は駄目です、仲間ですよ」
パウラが優しく修正する、
「へー、仲間?」
「そうです、仲間です、皆大事なお友達なんですからね」
パウラはそう言って新しい生徒達にミナとレインを紹介する、
「よろしくな」
皆が笑顔で受け入れた為かミナは満面の笑みである、レインも恥ずかし気に笑みしていた、
「そうだ、ミナっち、ソフィアさん呼んできて、3階にいると思う」
「3階?分かった」
ミナはタタッと駆け出した、
「えっと、私達の大恩人を紹介しておかないとね、この料理の生みの親のお母さんみたいなもんだから」
ジャネットの表現に、
「随分迂遠な言い方ですね」
ケイスが辛辣な評価を下す、
「えーでも、そんな感じじゃん、うん、でも、懐かしいよね、最初私とアニタとパウラでね屋台に出せるものないかなーってのが始まりだもんね」
「はいはい、それは何度も聞いてるわよ」
女生徒の一人が笑顔で呆れる、
「うん、これはこの何だっけ新しい名前?」
「ブロンパンです」
先日の打合せで新商品の薄いパンはブロンパンと名付けられた、ブロンドの髪のような色と薄さであるからとパウラがそう名付けたのである、
「あ、そっか、ブロンパンを焼くのに最適よこの岩盤、流石研究所の人達よね、ミルクアイスケーキも見てて楽しいけど、ブロンパンを焼くのもこれは見世物になるわね」
熱気が籠る為額に汗を掻きながらもアニタは新設備に御満悦である、
「なるほど、直接焼けるんですね、うーんこうなると、あれですね焼き方ももう少し洗練したい所です」
パウラも新設備に興味深々であった、しかし、新しい従業員にはコンロが最も評判が良いようである、家にも欲しいとか寮母に贈りたい等と大絶賛であった、
「はいはい、来たわよー、楽しそうねー」
やがてミナに手を引かれてソフィアが下りて来た、
「あっ、ソフィアさんすいません、新しい従業員に紹介したくて」
ジャネットは手にしたヘラを置いてソフィアの元に来ると、
「えっと、皆さん、私達の大恩人で大切な寮母さんのソフィアさんです、皆、平伏すように」
「ちょっと、平伏すって、もう、ジャネットはー」
アニタはすぐにジャネットを抑えつつ、
「大恩人で大切な寮母さんてのは正しいからね、皆さん失礼のないようにね」
アニタは訂正しつつ紹介する、新人は声を合わせて宜しくお願いしますと挨拶を返してきた、
「あらあら、こちらこそ、宜しくね、まぁ、私は大した事してないからね、大恩人は言い過ぎよ」
ソフィアはなんとも背中がむず痒くなりつつ苦笑いを浮かべた、
「あぁ、すいません、ソフィアさんちょっと相談宜しいですか?」
オリビアがサッと立ち上がるとソフィアを呼びつける、ソフィアは新人達の羨望の視線から逃げるようにエレインとオリビアの元に身を躱した、
「ふー、騒がしいと思ったら、まぁ、楽しそうでいいわね」
食堂内の雰囲気とは真逆の顔で木簡を睨むエレインにソフィアは苦笑いのまま話しかける、
「すいません、ソフィアさん、7月5日の模擬販売の招待状を作っていたのですが、この面子の他に必要な人ってありますかしら?」
「ふーん、どれどれ・・・」
ざっと並べられた木簡を見渡す、
「そうねぇ、あるとしたらギルド関連かしら?そっちはどうなの?」
「あー、そうですよねー、商工ギルドはこれからお世話になりますからねー、うーん受付の担当してくれたお姉さんに出しておきましょうか・・・ブノワトさんのお陰もあってとても親切にしてくれたんですよねー、はい、出しましょう」
「そうね、後は・・・近所の人は?挨拶周りの感触はどうだったの?」
「それが、通りを一通り回ったのですが、集合住宅はしようがないのですが、ダナさんの言っていた通りで貴族の別宅は殆ど人がいませんで・・・どおりで夜も静かだなーと思っていたのですがその理由が良く分かりましたわ」
エレインは腕組みをして首を傾げる、
「ならいいじゃない、呼べば良いってもんでもないし、新しい従業員の家族とかも来るんじゃないの?正式開店前に疲れ切っちゃうわよ」
「それもそうですね」
エレインはフッと肩の力を抜いた、
「では、すいません、リシア様の分をお願いできますでしょうか?それとレアン様の分にサインを頂けると嬉しいのですが・・・」
エレインは2枚の木簡を選び出す、
「はいはい、じゃリシア様の分は預かるわね、レアン様の方は・・・そっか、私の名前で出さないと変だもんね、うん、ごめんね気を使って貰って」
「いえいえ、これ位は全然ですよ・・・」
エレインは恐縮しつつ再び悩み始める、
「今度はどうしたの?」
「ええ、忘れてはいけない人はいないか思案中です、私の個人的な繋がりもあると言えばあるので・・・でも、皆遠いので、正式開店してからでもいいかなと思うのですよ」
「そっ、ふふ、頑張って、じゃ、リシア様には責任持って対応するわね、レアン様分はこれで、レアン様にはどうやって届けるの?」
「あっ、普通にあれです門番に渡します、明日の私の仕事ですね」
「そう、ではそれで宜しくね」
さてとソフィアは立ち上がった、
「何か足りないものある?」
ソフィアはうんうんと悩むエレインに問い掛けるが、
「たぶん、今の所は・・・はい、なんとか」
エレインの素っ気ない返事にソフィアは微笑みつつ3階へ戻るのであった。
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そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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