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本編

16話 開店 その3

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「で、食事しながら聞いて欲しいのですが」

エレインは白湯に手を伸ばしつつ話し始めた、

「以前話したように、今日の午前中に正式にギルドへ加入致しました」

おおーと歓声が上がる、

「それと夏祭りの参加募集も始まっていたので登録してしまいました」

さらに歓声が上がる、

「で、夏祭りについては以前話したように隣りあった区画を取りましたので、屋台を二つ並べて商売できます」

さらにさらに歓声が上がる、

「まぁ、実際の取り回しは当日までに考えましょう」

と締めくくり野菜スープに手を伸ばす、

「うん、じゃ、あれね、取り合えず順調ね」

ジャネットがうんうんと頷いた、

「で、人材の方も確保致しました」

「へー、良い人いました?」

ケイスの問いに、

「えぇ、皆さん良い人だと思いますよ、お子さんが手を離れつつある年齢なので、そうですね、ユーリ先生やソフィアさんと同世代かと思います」

「へー、おばさんだねー」

先程の一騒動が忘れられないミナがボソリと言うが、

「そうね、でもしっかりした人達だと思いますね」

オリビアが軽く補足した、

「そうですよ、ミナさん、ミナさんもそのうちおばさんになるんですからねー」

パウラがニヤリとミナを諭すと、

「むー、ミナはならないもん」

「えー、そうなのー、じゃーあれねーミナは小さいままなのねー」

ケイスが珍しくもミナをからかう、

「むー、もう、知らない」

ミナはプイとソッポを向いた、

「まぁ、ですので、皆さん、仲良くお願い致します、予定では3日の午後から研修しますので御協力お願い致しますね」

エレインがミナの頭を撫でながら話を続けた、

「あ、では私から、生徒の人選についてなんですが」

アニタがエレインの言を引き継ぐと、

「メイド課で二人、戦術科で三人、真面目で良い感じの子に声を掛けました、オリビアさんメイド課の・・・」

とアニタが女性名を二つ上げる、

「えぇ、二人は私が誘いました、勤勉でメイドらしい娘です、私からも推薦致します」

オリビアは静かに答える、

「へー、オリビアに認められるなんて大した娘のようね、その他の三人は?」

エレインがアニタに先を促す、

「はい、私達と同じ教室なのですが・・・」

アニタが三人の名を告げると、

「へー、その娘達なら確かよ、ジャネットさんよりも座学は上だしね、それとパウラさんよりも実技が良かった筈ね、うん二人共負けちゃ駄目よ」

ユーリがしれっと話すと、

「うわ、そうだ、先生がいたんだ」

「ゲホッ・・・先生急に酷いです」

ジャネットは非難の声を上げ、パウラは咳こんだ、

「そうそう、学業を疎かにしたらお仕事禁止される事もあるからね、エレインさん以外の人は気を付けるよーに」

さらにしれっと先生らしい事を言うユーリに、

「えー急に何だよセンセー」

「そうですよ、もー」

と生徒達は非難轟轟である、

「なによ、当たり前でしょ、あんた達若いんだから、無理する事を覚えなさい、若いうちに努力する事を身に着けた人は何があってもなんとか出来るようになるもんよ、無責任だけど頑張んなさいな、そうね、3日徹夜しろなんて言わないけど、仕事と勉強を両立する為にしっかりと頭を使いなさいね」

急に説教口調になるユーリに生徒達はぐうの音も無く押し黙った、

「そうでした・・・ユーリ先生は先生なんですよね」

エレインは何気に失礼な事を言うと、

「あによ、私を何だと思ってたのかしらエレインさん?」

ユーリはキッとエレインを見るが、皆エレインの言葉に笑いを堪えているようだ、

「所長、所長の負けですよ、エレインさん、上手です」

サビナが笑顔でユーリを宥め、エレインに賛辞を贈った、なにおと言葉にせずに振り返るユーリにサビナは笑顔でカトカは冷めた視線を送る、どうやらここは黙っておけという二人の意思表示らしい、ユーリはしかめっ面でスプーンを持ち直した、

「えっと、で、生徒の面接なんですが、急でごめんなさい明日はどうでしょう?」

エレインは話題を戻すとアニタに問う、

「へっ、明日ですか・・・大丈夫と思いますよ、はい、では学校終わりで引き連れて来ますね」

「そうですね、皆さんもどうです一緒に面接します?」

「いやー、どうだろう、それはそれで・・・」

「はいそうですね、何か、うん、恥ずかしい・・・ような」

ジャネットとケイスは消極的である、

「でも、顔合わせはしたいでしょうしね、ま、知った顔でもね・・・」

「そうですけど、なら面接後にお茶会って感じでどうですか?その・・・条件の説明とかあると思いますし、何処まで知っていいのか、知るべきなのかが判断できません」

パウラが真面目に意見を出すと、

「何を言っているんでしょう?貴女方は経営者の一角なんですよ、できればいつ私の代わりになっても良いようにしたいのですが・・・」

エレインが当然のようにそう言った、すると大人達からは感嘆の声が上がり、生徒達は何とも難しい顔になる、

「ふふん、そういう心持ちでお願い致します、前にもそう言ったつもりだったんですけど、言ってなかったかしら?」

エレインはすました顔でオリビアを見る、オリビアはうんうんと頷いた、

「ほら、オリビアも納得していますよ」

さらに追い打ちをかけられた生徒達は口元を引き締めるのであった。



翌日、エレインの姿は3階にあった、

「はい、御注文の品よ、使ってみて」

サビナとカトカはエレインの前に2種類の石板を置く、一つは見慣れた紫大理石、もう一つは黒色の岩盤である、

「わぁ、大きいですね、それに分厚い?」

「そうね、これは店舗用と思って作っているから、大きい方が使い勝手が良いでしょうし、ソフィアさんのアレとは根本的に構造が違うのよね、作動原理が違う分消費する魔力量も減ってる筈だし、稼働時間も増えている筈・・・まぁ、実際に活用して貰って意見が欲しいわね・・・」

カトカは石板に視線を落としたまま説明する、

「この下にある陶器板に操作部分があって、この脇に魔法陣の端が見えるでしょ、そこにこのように・・・」

指先をゆっくりと滑らせる、音は無い代わりに紫大理石の脇に見える陶器板の端に氷を示す紋章が表れた、

「これで作動中、冷えるまでちょっと待ってね、で、こっちの黒い大理石も同じ、ただしこちらは、熱くなるわ」

同じように黒色の方も作動させる、こちらも音は無い、陶器板には炎を示す紋章が表れる、

「で、と、ちょっと待ってね」

じっとそれぞれの板を見つめ、

「うん、こんな感じ、直接触っちゃ駄目です、翳すくらいで」

カトカはそれぞれの板に手のひらを触れない程度に翳してみせた、

「はい、あぁ、なるほど、冷たい、それに熱い」

カトカを見習ってエレインも手を翳す、

「うん、で、材料は無いから、水でいいかしら」

「はいこれ」

隣りに立つサビナがコップに水を入れて差し出した、

「はい、落とすわよ」

つつっと紫大理石に水を垂らす、あっと間に端から凍り始めた、

「で、こっち」

黒い岩盤に水を垂らすと、ジュワっと音がして気化して消える、

「どうかしら?」

そこでやっとカトカはエレインの顔を見る、

「はい、これは凄いですね、注文以上かも、これは使えます、と思います」

じっとエレインは黒い岩盤を見る、

「こっちは何まで焼けるんでしょう?」

「うーん、何までと聞かれると何とも言えないわねー、まぁ、こっちはねほらソフィアさんに負けてられないってんで作ったもんだから、別にコンロも作ってあるから安心して」

「いえ、安心もなにも、この黒いのも使い方次第で途轍もなく有用だと思います、正直驚いてます」

「それは良かった」

カトカは笑顔を見せる、

「そうね、カトカに感謝しなさいよ、もう凄かったんだからこの数日は」

サビナがニカリと笑う、

「なによ、あんたも似たようなもんだったでしょうが」

カトカがサビナを睨んだ、

「えへへ、お二人に感謝を、謝礼はお幾らですか?」

「謝礼?あぁ、実際に試用して貰えればいいわ、そうね、どう使って、どこが良くて、どこが悪くて、こうしたい?とかここは駄目とかそういう意見を纏めて頂戴な、将来的に役立てるから」

「えっでも」

エレインが眉根に皺を刻む、

「それとあのガラス容器の方もね、コンロについても奥様方も使うんでしょ?ならより意見が集まるかな、そういう意見の方が今は必要なのよ」

サビナがカトカを補足する、

「何から何まで、その・・・」

「だから、意見を頂戴ね、良い反応も悪い反応も必要なの、これは立派な研究の一部なのだからね、そのように心して」

「そうそう、決して無償奉仕する気は無いからね、そうねあれよ、お金払えば良かったと思える程コッチがソッチを使い倒してあげるから」

サビナはほくそ笑む、カトカはうんうんと頷いた、

「分かりました、心します、そのありがとうございます」

エレインは二人に頭を下げる、

「はい、じゃ、止めるには・・・さっきと逆ね、それと板の熱が冷めるのにも時間がかかるからその点気をつける事、で、やってみる?」

カトカは再び陶器板に手を伸ばし、エレインはより詳しい操作説明と構造説明を受けるのであった。
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