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本編

16話 開店 その2

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「7月5日に模擬販売をしますので、是非、お越し下さい」

「あら、午後から?」

「はい、前回の模擬販売のように招待客のみです、新商品もありますのでお楽しみにして下さい」

「それは・・・楽しみね」

ブノワトとブラスは笑顔で退出した、オリビアが二人を見送りエレインは食堂にて再び疲れ切って脱力している、

「お嬢様、大丈夫ですか?」

「うふふ、そうね、大丈夫かも・・・ね・・・」

かもってとオリビアは微笑み、

「ダナさんがそろそろ来るかと思います、手土産用意しますね」

オリビアは厨房に消える、

「はー、オリビアは凄いわねー、うーん、年かしら?いや、駄目だわ・・・」

エレインの大きな独り言が響くと、

「そうね駄目ね」

2階からソフィアとダナが降りてくる、

「なっ・・・その・・・」

エレインはパッと振り返り赤面した、

「あはは、年だなんだを言い訳にするには10年早いわよ、で、その頃になると今度はね、若作りに励むようになるのよ、人って面白いわよね」

「そうですね、さらに年を取ると、今度はそれを言い訳に使いだすんです、まったく、人ってのはあれですよ、結局自分勝手なんですよ、私なんて老人に囲まれてますからね、まったく年より共は・・・」

ダナが笑った、

「そんな・・・もう・・・」

エレインは赤面しつつも破顔する、

「御免ね、上に居たのよ、ほら、研究所の様子も見たかったんだって、それと寮の打合せもあってね」

「そうですね、来たら店舗に集まってたみたいなんで、こっちの仕事を先に済ませたんです、で、準備できたらいきます?」

ダナはエレインの斜向かいの席に着く、

「はいそうですね、少し、オリビアを待ちましょう、手土産を用意してますので」

とエレインは厨房を見るがオリビアの姿を確認できるわけではない、

「そう、御近所に挨拶周りだっけ?」

「はい、開店とそれに今後御迷惑を掛けるかもしれないので、ダナさんにお願いしたのです、学園の敷地内の店舗ですからね、勝手にやってると思われるとそれはそれでと思いまして」

「すごいわね、私もそこまでは気がつかなかったわ」

ソフィアは笑顔になる、

「はい、パウラさんの発案でして、なかなか気が付かない部分ですが、大事ですよね」

「そうね、うん、大したもんだわ」

ダナはうんうんと頷いている、

「そういえば、私も挨拶周りした方が良かったのかしら?まったく都会の御近所付き合いって分からなくて・・・」

ソフィアは小首を傾げる、

「あぁ、そこまでは大丈夫ですよ、正直な話、この辺って上級になりきれない貴族様の別邸が多いんです、それと集合住宅ですね、なもんで、集合住宅は挨拶はやりようがないですけど、貴族様の別邸には一言入れておけば十分ですよ、殆ど住んでないらしいですし」

ダナはつらつらとこの地域の事情を説明する、

「へー、なんかユーリが両隣りを買おうとして高かったって言ってたけど、住んでいればまず売るって事がないもんね、そんなもんなのかなって聞き流したけど・・・」

「はい、両隣りは確かどこかの男爵様の別邸だったような・・・他の屋敷もこっちで仕事する時用に所持しているらしいのですが、それ以外は使ってない様子ですよ、管理人もおりませんからね、実質的に空き家みたいなもんですね」

「そうだったの・・・まるで気にしてなかったわねー、どうりでミナとレインが騒いでも文句言われないわけだわ」

へーとソフィアは納得しつつ、では、内庭に施した結界の意味が無いかしらと思ってみたりする、

「うーん、でもそう考えると、夜の静けさにも納得がいきますよね、でも、逆に治安が悪くなりそうですけど・・・」

エレインも思うところがあるのか首を傾げている、

「そうね、でも、貧乏貴族の別宅に貴重品が置いてあると思う?まぁ、勝手に住み付いたりするとかが問題になるんでしょうけど、繁華街から離れてるからね、不便なんじゃない?」

ダナの意見は至極まっとうである、

「そうなると、挨拶周りと言っても・・・」

「そうね、玄関を叩いて出てきた人に話せばいいわよ、気楽にいきましょ、悪い事するわけじゃないし」

ダナがあっけらかんとそう言ったところでオリビアが大きな手提げ袋を持って食堂に入ってきた、

「じゃ、いきましょうか」

エレインはよっこいしょと勢いを付けて立ち上がる、

「あら、年寄り臭いわね」

ソフィアは耳敏くエレインの言葉をからかい、

「そうですね、でも、私よりも年上ですし、その辺で容赦しましょうよ」

ダナがニヤリと笑うと、

「あら、お嬢様、小じわが・・・」

厨房で聞いていたのであろうかオリビアまでもが話を合わせていやらしく笑みする、

「まったく、何も言えなくなっちゃうでしょうがって、オリビアが一番酷いわよ、どういう事?」

エレインは悲鳴に似た泣き声を上げて笑い声に包まれるのであった。



その日の夕食は打合せも兼ねてとの事でアニタとパウラも同席していた、

「わぁ、カトカさんとサビナさんも一緒なんですね、なんか人が増えて楽しいです」

パウラが久しぶりのソフィアの料理を楽しそうに待っている、

「そうねぇ、なんか、女子寮って感じよね、他の女子寮も食事の時ってこんな感じなの?」

背中合わせに座っていたユーリがなんとはなしにパウラに聞いた、

「えぇ、みんな集まってわやくちゃですよ、最初は楽しかったですけど」

「うん、慣れたら慣れたでうざったいのよね、休まる暇が無いっていうか、食べたらすぐどいてって感じになっちゃって」

アニタとパウラは頷き合う、

「ふーん、そういうもんかー、その上あのゴミ屋敷だったでしょう?少しはマシになった?」

「あー、はい、それはもう綺麗になりましたよ、寮母さんも一人増えましたし」

パウラは嬉しそうに答え、

「うんうん、えっと確かそれって・・・」

アニタは何かを思い出す、

「そうよー、ソフィアのお陰なのよね、その点でも感謝しなさいよ、変なことばかりしてるおばさんじゃないんだから、さらに言えばそのソフィアを連れて来たのが私なんだからね、私にも少しは感謝するよーにー」

ユーリは心のこもってない言葉を並べたてる、へーと二人が感心していると、

「ユーリもおばちゃんなのにねー」

やや離れた所でミナの聞こえよがしの声が響き、

「あんですってー」

ユーリは叫んで立ち上がるとミナを睨む、

「キャー、助けてエレイン様ー」

ミナはすぐ隣りのエレインの背に隠れ、

「大丈夫です、ミナさん、ユーリ先生の暴力からは絶対に守りますよ」

エレインもさっと立ち上がりユーリに対峙して見せた、その顔はキリリと美しく、周囲から小さな歓声が上がる、

「うぬ、ミナを渡しなさいエレインさん、後が怖いですわよ」

ユーリはニヤリとエレインの挑戦を受ける、

「何をおっしゃっているのでしょう、助けを求める幼子を守らないでこの王国の貴族は務まりませんのよ」

どこか芝居じみた台詞を吐くと、さらに大きな歓声がエレインを包み込む、

「うぬー、ならば、真の力を思い知るがいいわ」

ユーリの子芝居は続き、ミナはエレインの背に隠れつつも二人の遣り取りに夢中である、

「なんですの?」

「ジャネットさん、ミナを捕えなさい、報酬は期末試験の情報よ」

「なに、それは、くっ」

二人の様子に楽しそうだなーと傍観していたジャネットはサッとユーリの側に立つ、

「ごめんよ、ミナ、騎士ジャネットは権力に弱いのだ、ユーリ大先生、お力になります」

「ふふ、ジャネットさん、賢いですわね、アニタさんとパウラさんはどうなさるおつもり?」

「えっ、えっ」

急に振られたパウラは慌てて双方を交互に見る、

「ふふ、騎士ジャネットは我が生涯のライバル、できればその決着を着けたいが・・・ここは、騎士アニタはユーリ先生につく、ミナちゃん、覚悟なさい」

アニタもこういうノリが好きらしい、サッとユーリの側に立つと大仰に構えて見せた、

「さー、どうする、ミーナー、我が軍は強力だぞー」

ユーリが腕を組んで余裕の笑みを見せると、

「なにおー、エレイン様、やっちゃえー」

ミナもノリノリでけしかける、

「うむ、ミナ嬢のお望みとあれば我が剣の冴え、ここにみせようぞ」

エレインが見得を切った瞬間、

「はいはい、用意できましたよー、御免なさいね待たせちゃってー」

ソフィアが大きな皿を二つ持って食堂に入って来る、その後ろにはオリビアが続いた、

「ふ、時間切れだな、勝負は持ち越すぞ、ミーナー」

ユーリはニヤリと笑みを見せてサッと切り上げると席に着いた、

「むぅ、ユーリめー」

ミナは悔しそうにユーリを睨むが、

「ほら、座んなさい、あんた達も行儀悪いわよ」

食堂内で起きたちょっとした騒動を知ってか知らずか、ソフィアは次々と料理を運んでくるのであった。
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