上 下
110 / 1,062
本編

16話 開店 その1

しおりを挟む
7月1日となった、生徒達はウキウキと学園へ向かい、エレインは食堂で書類と格闘した後ギルドへ向かう、ミナは学習したのであろうか食堂と書類とエレインが揃うと遠巻きに眺めるようになってしまった、

「さて、今日は大工さんも作業しないんでしょ?レイン、3階でお手伝いお願いね」

日常業務を熟しながらソフィアはレインに話をつけた、翻訳作業の事であろうとレインはすぐに気付き、

「そんな事もあったのう」

と溜息半分で了承する、

「宜しくね」

ソフィアが作業を終わらせる頃、ミナとレインも菜園仕事を切り上げて食堂に入ってきた、

「ソフィー、すごいよー、緑の小さなイチゴだよー、赤くないイチゴ初めて見たー」

キャッキャと笑うミナに、

「えっ、早すぎない?」

ソフィアは驚きレインを見る、レインはわかりやすく目を逸らすと両手を頭の後ろで組んだ、

「レーイーンー」

ソフィアは静かにレインを睨む、

「なんじゃろのう、土と水が良いからのう、それにミナも頑張って世話したしのう」

レインはサッとミナの背に隠れる、

「えへへ、うん、ミナ頑張ったよ、レインも頑張ったんだよ」

レインの言葉にミナは胸を張った、褒めて欲しいとばかりにソフィアを見上げるが、ソフィアは怒り顔に近い表情である、

「むー、ソフィア、怒ってる?」

「・・・怒ってはいないけど、まぁ、気付いてはいたし・・・レイン、遣り過ぎは駄目だって言ってるでしょ」

ミナの肩越しにレインを睨むが、レインはミナの頭越しにソフィアを伺いつつ、

「そうじゃのう、遣り過ぎてはいないかのう、ほれ、そろそろ一月経つしの、うん、誤魔化せる誤魔化せる」

「そりゃ、あんたはその気になればなんでも誤魔化せると思ってるんでしょうけど、それが効かない人もいるんですからね」

「そりゃそうだ、うむ、身に染みておるぞ」

「そう、なら、いいわ、まったくもう、ほら、お仕事するわよ」

ソフィアはプリプリしつつも二人を連れて3階へ上がった、

「あら、おはよー、今日から勤務?」

3階ホールで作業中のサビナが振り返る、

「うん、勤務ー、辞典貸してー」

タタッとミナはサビナに走り寄る、

「はいはい、持って行っていいわよー、同じ場所に返してねー」

「うん、ありがとー」

ミナは勢いそのままに直角に曲がると書棚から分厚い動物辞典を両手で抱えて、ソフィアとレインの入った部屋へ駆け込むのであった。



午後になると六花商会の6人とヘッケル夫妻が店舗の前に屯していた、

「それでは、正式なお引渡しになります、皆さんで各部を確認して頂いて木簡にサインを頂きますが、えー、前回のような何とも足りない事があるかもしれませんので、しっかり確認して下さい」

ブノワトが音頭をとってお引渡しが始まった、「足りない部分」をやや強調してブラスを睨みつつブノワトは6人を店舗に誘う、

「えっと雨戸を開けてみてください、その店舗内の上部の留め金を外して手前に折りたたむ、周り注意して下さいね、けっこう重いので、ですのでこの作業は二人がかりでやらないと、道路側に人がいると危ないので・・・」

ブノワトの説明が始まると同時にジャネットがズカズカと店舗内に入ると、薄暗闇の中手を伸ばして留め金を探り当てる、通路側ではアニタが雨戸を支えて開閉作業を実際に行った、

「なるほど、これならまぁ、閉めておけばとりあえず安心ですわね」

エレインはうんうんと頷く、

「こっちは結構楽だけど、どうだろう、皆手が届く?」

ジャネットは留め金に手を伸ばす、6人の中でも長身のジャネットであるが若干の背伸びが必要であった、

「そうねぇ、踏み台かなんかあれば大丈夫でしょ」

「なら良いか・・・でも、うん、凄いね、えへへ、お店だ・・・」

ジャネットは取り合えずと納得して開放された店舗内に目を向ける、

「何も無いと広いねー」

道路側からアニタが身を乗り出して中を見渡し、

「そうですねー、でも、やっぱり隅々迄ピカピカ輝いてますよー」

ケイスもアニタの隣で笑顔になる、

「あーでも、あれよね、その後ろの壁にも何か装飾が欲しいかもですね、お花か絵か飾りたくなります・・・邪魔でしょうか?」

パウラが店の壁を指差す、

「それ良いですね、でも、一旦稼働してからでしょうか、でも、お花は欲しいですね」

オリビアが賛同して、パウラが笑顔になる、

「如何でしょう?お店の方は御眼鏡にかなうでしょうか?」

ブノワトが静かにエレインに問い掛ける、

「ええ、勿論です、想像以上ですわね、見た目は合格ですわ」

「それは良かった、見た目が一番大事なので、店舗ですしね」

ブノワトはそれから2階を案内し、裏の倉庫も見せる、その場その場でキャイキャイと嬌声が上がり、最後に塀の各部を確認した、

「以上ですね、では旦那から、ほら」

とブノワトはブラスの尻を物理的に叩いた、ブラスは一瞬顔を顰めつつ、

「あー、御満足頂けたなら光栄に思います、その雨戸の件はすまなかったな、工期に間にあったとは言え、何とも恥ずかしい限りだぜ」

ブラスは後ろ頭をガリガリと掻いて、

「でだ、これはどうしようも無いんで言うんだが、屋根だな、雨漏りだけは実際に雨が降って、風が起きないと分からない部分があってな、なもんで、そういった問題が起きたらすぐに連絡してくれ、勿論無償で対応するから、まぁ、そういうもんだと思っていただけると嬉しいかな、うん」

ブラスは他になにかと腕組みをして、

「それと、あれだ、風だな、その・・・黒板の取り付けは十分しっかりしてると思うが、大風の時とかは外した方が良いかもと思う、取り外しできるように細工した分若干弱いんだ、うん」

「あ、どうやって外すんです?」

ジャネットが手を挙げる、

「おう、そうだな、脚立を用意してある、それでな・・・」

黒板の取り外しを実際に行い、固定の方法も教え込む、

「うん、こんなもんかな、俺からは以上だと思う、まぁ、実際に使って貰って瑕疵があれば俺が責任持って修理する、追加の棚とか足台とか細かい物が必要になるかと思うがそれはその時に要相談だ」

やっとブラスは笑顔を見せた、ブラスでも引き渡しとなると緊張するのであろう、

「はい、では、皆さんから何かあればと思うんだけど」

ブラスの言葉を継いでブノワトが6人を見渡す、特に発言は無い、

「では、こちらにサインをそれと支払いについてなんですが」

ブノワトは木簡をエレインに手渡す、そこには注文内容と金額が記入されていた、

「それとこちら錠前とカギです、2か所ですね、店舗側の入り口分と倉庫側の引き戸のものです、重いので御注意を」

ブノワトは用意してあった革袋からゴツイ二つの錠前を取り出す、

「使い方は御存知かと思いますが、足に落としたら余裕で怪我しますんで重々扱いには気を付けて下さいね」

では私が、とオリビアが受け取った、

「はい、確かに、ではサインは中で、お支払いもですね、オリビア行きましょう、それと皆さんは各部をあらためて点検お願いします」

エレインは木簡に目を落としオリビアを見るとそう指示して寮に向かった、

「よし、じゃあ、どうしよう、まだ埃っぽいから掃除したいかなと思うんだけど」

ジャネットの提案に、

「え、ジャネットが掃除?」

「やば、明日嵐よ、駄目よジャネット、折角店が出来たのに」

「そうですよ、何言い出すんですか」

非難の声が上がり、

「何だよ、掃除くらいするよ、その、私でも・・・」

一気に消沈したジャネットに、

「そうね、今までの人生でやってこなかった分、掃除して貰おうかしら」

アニタは笑い、ケイスとパウラもつられて笑う、ジャネットもへそを曲げつつも笑顔になるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

悪行貴族のはずれ息子【第1部 魔法講師編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第2部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/450916603 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...