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本編

15話 商会設立 その7

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「じゃ、俺は早速動くからよ、面接の時には顔出すぜ、二人共またな」

打合せを終えたルーツは実にあっさりとその姿を消した、しかし3階へは向かわず玄関から表に出る、

「はいはい、良い人連れてくるのよー、あんたはそれしか取り柄が無いんだからー」

ソフィアはこれも礼儀と見送った、戦友で同じ釜の飯を食った仲であるが実にあっさりとした関係である、

「それでだ、エレイン嬢、一つ相談なんだがな」

ルーツが去って緊張の解けた食堂内で今度はクロノスが神妙に切り出した、

「はい、なんでしょう」

エレインは咄嗟に背筋を伸ばす、王太子からの相談など大事以外の何者でもない、

「うん、商会を作ったのであれば、どうだろう、ソーダ粉末の販売の元締めもやらんか?」

「ソーダ粉末の元締めですか?」

エレインは突然の提案に面喰って動きを止めた、

「何とか商品化の目途が付いてな、まぁ、生産体制が整った程度だが、少量だが流通が始まってな、それで、この街の取り扱い商会を探しているらしい」

「それは、素晴らしい、光栄です、お声がけいただいて、そうなると・・・」

エレインは何が必要になるかと思案する、

「うん、まぁ倉庫だな、それと袋詰めの作業とかか、ユーリはどう思う?」

ボウっと聞いていたユーリに水を向ける、

「そうね、それと買い付けの資金かしら、それと、商品展開と、販売対象は一般家庭?でもお店に卸した方が良さそうよね、あれでしょ、あのソーダ水って奴の事でしょ」

「何?今度は」

玄関口からソフィアが戻ってきた、

「はい、ソーダ粉末を販売しないかと誘われまして」

「あら、いいじゃない、正直な話、飲食だけだと大変よ、やっぱり商品も売らないと」

ソフィアは実に理解が速かった、

「そう思われますか・・・そうですね、はい、やらせて下さい」

エレインは即決する、

「そうか、ならそのように手配しよう、細かい話は俺では無理だからな、別で人が来る事になるが、別途連絡するよ」

「ありがとうございます」

深々とエレインは頭を下げる、

「でも、そうなると、倉庫よねー、作業場も必要かしら・・・」

ユーリは天井を見上げる、

「確かに、どうしましょう、ブノワトさんに倉庫とか紹介してもらいましょうか・・・」

エレインは腕を組む、

「いや、慎ましく始めるんじゃなかったの?」

ソフィアは心配顔である、

「難しいようなら、少し待たせるか?」

クロノスは3人の表情を伺うが、

「そうだ、クロノス、お金出して、裏の土地買ってよ」

ユーリはポンと手を叩いた、

「土地ってお前、そんな簡単に・・・」

クロノスは呆れ顔である、

「いやいや、あのね、ソフィアの研究に必要になってね、近くの土地が欲しかったのよ、で、両隣は高いんだけど裏はほら手付かずで道も接してないから余ってるらしいのね、で、安いんだわ、で、買って」

ユーリは実に朗らかである、そしてかなりの大事を玩具をねだるかのように口にした、

「なるほど、そうか、それね、うん、買って」

ソフィアはユーリの考えを察してニヤリと笑うと賛同する、

「でも、土地と倉庫は話が違うだろう・・・」

渋るクロノスに、

「倉庫なんて壁と屋根があれば十分でしょ、安い安い、だから、買って」

ユーリは尚も強引である、

「そうよ、ふふ、これであれに手を付けれるわね」

ソフィアはワザとらしく囁くと、

「まったく、あれだこれだとお前らは、で、幾ら必要なんだ?」

クロノスは簡単に折れたのであった。



「おう、居るか?」

ルーツは街の中心部にある一軒の民家に無遠慮に入った、

「はい、こちらって、会長じゃないですか、表から入って来るって、え、どうしたんです」

民家の奥、書類棚に囲まれた一角の机にはルーツよりも年嵩の男がいた、突然の来客に腰を上げるがそれが自身の上司である事に驚いている、

「おう、元気か?」

ルーツはズカズカと入って来ると来客用のソファーにドサリと座る、

「へい、俺は全く」

「順調?」

「はぁ、特に問題は無いですぜ」

状況を理解できないまま男は矢継ぎ早の質問に考える暇も無く返答する、

「なら、いい、モーザスは?」

「え、はぁ、えっと公務時間後に来ると思いますが、何です?何か問題でも・・・」

男はやっとルーツの側に近寄り、その皺だらけの顔を顰める、

「いや、新しい仕事だ、それと、隊の名簿あるか?一通り見せてくれ」

「名簿ですか、はい、少々お待ちを・・・」

男は踵を返すと棚から木簡をゴソリと持ち出すとルーツの前に積み上げた、

「これで、全部です」

「おう、ちょっと、確認する、用があったら呼ぶよ」

ルーツは木簡に手を伸ばしつつ男を下がらせた、

「へいへい、まったく突然、なんなんです?まったくもう」

と男はグチグチ言いながら机に戻った。



「戻った」

厳つい長身の男が宿舎兼事務所としている民家に入ると、応接ソファーにはむさ苦しい男が木簡に埋もれて寝そべっていた、

「あん、誰だっ・・・って、うわ、会長ですか、こりゃ、お久しぶりで、って、何です?エフモントこりゃどういう事で?」

エフモントとは先に居た男の名である、

「どうもこうも、ま、いつもの事だよ、で、そっちは何かあるか?」

エフモントは気にするなと目配せしつつ、モーザスに定期報告を求める、

「あ、あぁ」

モーザスはルーツを気にしつつもエフモンテへ口頭での報告を済ませた、

「おし、終わりか、エフモント、モーザスちょっと座れ」

ルーツはよっ、と勢いを付けて上半身を起こし数枚の木簡を別にしてテーブルを整理する、

「へいへい」

と二人はルーツの対面に座った、

「こっちで、一仕事増えてな、ただ、商売にはならん」

二人が席に着くなりルーツは説明を始める、

「で、今後増える事も考えられるが、今回はサービスだ」

「へー、会長のただ働きですか、そりゃ、高そうだ」

エフモントがヒューと口笛を鳴らす、

「うるせえよ、この話はよ、いろいろ面倒なんだよ、で、仕事としては何気に有効活用できそうでな・・・」

ルーツは六花商会への人材紹介について説明する、

「なもんで、ほれ、こっちが実家で戻ってきた隊員でよ、その嫁さんで子育ても一段落した暇そうなの、いるだろ、元メイドとか料理上手なら尚良いな、そんなのを紹介しようと思ってな」

そう言って選り分けた木簡を指差した、

「へー、なるほど、それは良いですな・・・」

エフモントは腕組みをして考え込み、

「あれですね、うん、確かに会長の言う条件の女どもなら暇してるし、少々手間賃が安くても文句は言わない、それにうちとしても旦那の仕事もだが嫁さんの仕事も世話できるとなれば人が集まりやすくなる」

「おう、話が早いな」

ルーツはエフモントを見てニヤリと笑う、

「だが、商売にはなりにくい、大人数を雇うわけではないし、今後水平展開するとしても商売相手は一般の商会が主となると思う、だから、まぁ、紹介料を貰えればまぁいいか程度でな、が・・・」

「エフモントの言うとおりなら、立派にうちの売りになりますね」

モーザスもやっとその有用性に理解を示す、

「それと、なにより情報収集だ、貴族連中もだが商会で力を付けてる奴等も多いからな、そういう所に入り込めたら・・・」

「へへ、美味いですね」

エフモントは絵にかいた悪人ヅラで笑みした、

「そこで、まずは今回の件でな、これからこいつらの家を廻って話をしたいと思ってな」

「会長自らですか?」

「そりゃ、厚遇だなー、でも会長がいきなり行っても・・・」

「だから、お前を待ってたんだよ、俺の顔知っているのは精々隊員迄だろ、このツラがいきなり行ってみろ衛兵呼ばれるわ、それに番地を見てもわからん、案内も欲しいしな」

「へへ、なるほど、了解しました」

モーザスは笑顔を見せる、歴戦の勇士で30人からの隊員を纏める男である、その指揮能力も戦闘力も秀でた男であるが、否、それゆえか笑顔は実に魅力的である、

「それによ、少しばかり見得張っちまってな、先方に明後日連れて行くって言っちまってよ」

ルーツは大袈裟に頭を掻いて見せた、

「そりゃ、時間が無いな」

「へー、会長でも見得張る事があるんですね」

「うるせぇよ、行けるか?」

「へい、あ、その前にその木簡見せてください、そういう案件なら推薦したいのがおります」

モーザスは木簡に手を伸ばす、

「おう、頼んだ、行けるようになったら教えてくれ」

ルーツはゴロリと仰向けになる、

「あ、それとだ」

そう言ってすぐに起き上がると、

「えーと、こっちは何だっけ、赤ガラスとグルア商会だったか?」

エフモントに問う、

「へ、あ、裏ですか?ええ、赤ガラスとグルア商会が大きい所で、それと新興のオーガの牙ってのもありますが」

「そいつらの上と話したいんだが、行けるか?」

「えぇ、行けますが、陽の高いうちよりも商売始めた時間の方が都合が良いと思いますがね」

「そうか、なら、案内してくれ」

「それは、構いませんがどういった用向きで?」

「警告」

ルーツはそう言って再びソファに倒れた。
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