セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

15話 商会設立 その1

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その日は朝からバタバタとしていた、

「オリビア、あの書類は何処ですの?」

「あの書類って、どの書類ですか?」

「エレインさん、落ち着いて、大丈夫よ、一つ一つ確認しましょう」

朝食後すぐにオリビアが来寮し、それをエレインと学園を休んだオリビアが出迎え、そのまたすぐに食堂のテーブル上には様々な書類が広げられた、

「もー、昨日あんなに確認しましたのにー」

雑然とした中でエレインの悲痛な声が響き渡り、オリビアも眉間に皺を刻んで書類を一つ一つ確認している、

「あらあら、大変ねー」

そこにサビナとカトカが降りて来た、

「おはようございます、皆さん」

「あら、おはよう、どうしたの二人して」

エレイン達の惨状を苦笑いで眺めているソフィアが二人を苦笑いのまま迎える、

「えぇ、今日は外仕事です、仕入れ物が多いですから今日中に済ませてしまおうかと」

サビナは楽し気であるがカトカは変わらずやや険のある相貌である、

「ほら、カトカさん、もっと、笑うの、折角の美人が台無しよー」

サビナはカトカの肩を抱いて摩るがカトカはさらに困った顔になってしまう、

「どうしたのー、今日は皆忙しいのー」

ミナとレインがフラリと食堂に入って来た、こちらも菜園を一通り世話した後で昨日と同じように大工さん見学をと思っているようである、

「うわ、書類の山じゃのう」

レインはテーブルに広げられた紙と木簡の束に目を剥いた、

「うわー、何これー、エレインもお勉強?」

テテッとミナがエレインの側に走り寄るが、

「ごめんなさい、ミナさん、ちょっと今は勘弁してくださる」

エレインのつれない返事に、ミナはホヘーとエレインを見上げ、暫くして寂しそうにソフィアの元に来ると、

「エレイン・・・忙しい?」

囁くようにソフィアに問い掛ける、

「そうね、エレインさんは今ちょっと忙しいだけよ、ほら、大工さん仕事始めてるでしょ」

ソフィアがミナと視線を合わせ衣服の皺を軽く直す、

「あら、ミナさんそんな寂しい顔しないの、どう?ミナさんも買い物行く?」

サビナは寂しげに俯くミナを見下ろして優しく誘った、

「買い物?何処までー?」

フイっと視線をサビナに向ける、

「えっとね、石屋さんと焼物屋さん、行った事ある?」

「むー、行った事ない・・・かも、どんな所?」

「石屋さんは石を売ってるの、で、焼物屋さんはお皿とか?」

「・・・見た事ない・・・楽しい?」

「楽しいわよ、石屋さんは綺麗な石がいっぱいあるし、焼物屋さんも綺麗なお皿とか壺とかいっぱいよー」

「ほへー・・・どうしよう、ソフィ行ってもいい?」

ソフィアに視線を戻すと、その顔はもう寂しげなものでは無く、新しい何かを求めるキラキラとした瞳でいっぱいである、

「いいの?邪魔になるかもよ」

「かまいませんよ、ミナさんもレインさんも良い子ですもんねー」

サビナは二人に目配せすると、

「うん、ミナもレインも良い子だよ」

ミナはピョンピョンと飛び跳ねた、

「ホント?しようがないわね、レインしっかり見てあげてね」

「うむ、当然じゃ、いいのか?」

「そんな事言って、あなたも興味あるんでしょ?」

「うむ、当然じゃ」

レインは元気に胸を張る、

「じゃ、ごめんなさいサビナさん、宜しくお願いしますね、ミナもレインもサビナさんとカトカさんの言う事ちゃんと聞くのよ、それとお二人はお仕事で行くんですからね、邪魔しちゃだめよ」

「うん、分かった、ありがとう、ソフィ」

ミナは一転、完全な笑顔になるとサビナの足に纏わりついて輝く笑顔でサビナを見上げる、

「サビナ、宜しくね」

ニコヤカなミナの顔に、

「うん、じゃ行こうか、ほらカトカもいい加減笑顔になりなさい」

サビナはカトカの尻を叩きつつミナとレインを引き連れて玄関へ向かった、

「で、そっちはどうなの?手伝う事ある?」

「大丈夫ですよー、何とかなりますよー」

書類に溺れ、朝だというの憔悴している二人を見詰めつつオリビアはのんびりとした笑顔を見せた。



ソフィアはさらに3人を見送った後、日常業務を済ませ、さてと厨房の作業台に寄りかかると、大きく溜息を吐いた、

「こういうのも、たまにはいいわよね」

久しぶりに一人である、風の音、街の音は感じられるが他人の息遣いが感じられない精緻な孤独である、ミナもレインも側にいないのは実に久しぶりであった、何年ぶりかしらとソフィアは思う、ユーリと共に冒険者として忙しくして、タロウと出会ってミナを抱き締めて、それからずっと誰かと一緒、騒がしくて楽しくてそして辛い事も危ない事だらけな時も、巡り巡って優しくも愉快な人達に囲まれる今は何て幸せな事なのだろう、杖も剣も持たなくなって、今手にしているのは包丁か巻き割りの鉈くらいのものか、これが普通の生活なのだと最近やっと実感する事が出来るようになった、田舎にいたときはなんだかんだと冒険者っぽい事もしていたなと笑みを浮かべる、

「さて、今のうちにやる事は何かあるかしら・・・」

手持無沙汰となり若干荒れた指先に視線を落とす、忙しくする気も必要も無いのであるが動き続ける生活が身体の隅々に浸透しているらしい、何か無いかと考えているのがどこか滑稽に感じ、再び自嘲気味に笑みを浮かべる、

「うーん、魔法石か、あー、エレインさんの事一報入れておこうかしら、大工さんに白湯でも・・・」

何とはなしにどれでもないかなと、足が動こうとしない、眼を瞑り大きく深呼吸をする、戯れに意識を広げると近い場所で大工さんの鼓動と金槌の音が響き、さらに遠くには街の何がしかの動きが感じられる、さらに意識を拡散し街の端々の喧騒が騒がしく感じられ、下水道の中へ意識を移すと、虫と小動物の微かな動きとそれを蹴散らすように幾人かの足音が木霊となって穴の中を掻きまわしている、さらに街の外へ、小麦畑は収穫を終えたのか静かであり、農民は作業場の中で蠢いていた、森の中では野生動物が闊歩して川の水面を大魚が跳ねた、

「ふふ」

ソフィアは楽し気に微笑む、今日は魚かしら?買い出しどうしよう、レインに頼んで、と無意識に作業台から腰が離れそうになり、レインもミナも居ない事を思い出して、何度目かの自嘲的な笑みを浮かべた、

「ふー、駄目ね、どうせじっとしていられないんだから」

若い頃ユーリに何度か言われた事がある、どうせあんたは何かしら動き続けないと駄目な人なのよ、止まったら死んじゃうわよ・・・、結局ソフィアを一番理解しているのはユーリなのかもしれない、そしてそんなユーリもソフィアから見れば止まったら死んじゃう人の代表格であったりするのであるが、

「じゃ、パトリシア様に一報入れて、あとは魔法石か・・・確認しておいて、次のあれも考えましょうか」

作業台から自然に腰が離れる、次の一歩はとても軽く動き出した。
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