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本編

13話 夏の日の策謀 その7

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その頃3階の個人部屋の一つにソフィアとレイン、ミナが詰めていた、ミナは床に座って図鑑を広げており、ソフィアとレインはテーブルに置かれた木簡と巻物を前にして羊皮紙に翻訳結果を記入している、

「それで、この文字って何処のものなの?」

「うむ、前帝国の地方文字じゃな、帝国は多民族だったじゃろ、言葉も多かったが文字も多かったんじゃ」

「へー、じゃ、この文字がこの辺に住んでた人達の文字ってわけ?」

「そうなるのぅ」

「え、でも、同じ帝国内で文字も言葉も違うって、大変じゃない?」

「うむ、じゃから共通語も使っておったじゃろ、確か公文書?と言ったかな役所の書類や軍隊内の言葉は共通語を使用していたと記憶しているがのー」

「へー、帝国時代も結構大変なのねー」

「そりゃ、でかい国じゃったからなぁ、この街と同じくらいの街があちこちにあってな、そりゃあ華やかじゃったぞ、街中には神々の像が乱立していてのう、建物の外壁には壁画が飾られていてな、街中を歩くだけで楽しかったわ、人々の装いも派手でな、年頃のおなごはみんな赤い髪をしていてなぁ、それと常に水の流れが感じられるんじゃよ街中なのにな」

レインが遠い目をして木戸から青空に浮かぶ雲に視線を取られた瞬間、

「お疲れ様でーす」

扉が開きサビナがヒョイと顔を出す、

「あら、サビナさんいらっしゃい」

「作業の方、問題無いですか?」

茶を載せた盆を手にしてニコヤカに入ってきた、

「今の所は大丈夫よ、ただ、うーん、どうなんだろう、全部訳すのこれ?」

と資料に視線を向ける、

「そのように聞いてますけど、何か問題ですか?」

「えっとね、木簡は全て表示看板?なのよ、倉庫とか街の番地とか」

「あー、そうでしたかー、そうなると後廻しでいいと思いますねー」

「そうよねー、うん、そうしましょうか」

と木簡を一纏めにすると背後の棚に置いた、

「はい、ちょうど空いたんでお茶です」

サビナは茶を二つテーブルに置き、

「ミナちゃんのもこっちに置くからねー」

ともう一つもテーブルに置いた、ミナは図鑑から顔を上げるとニヘラと笑みし再び図鑑に向かう、

「あらあら、よっぽどその図鑑気に入りましたかね」

ミナが真剣に読んでいるのは動物図鑑である、

「やっぱり、絵があるのが良いのよ、私でも見ていて楽しいもの」

「そうですよねー、あ、それで何か面白そうなものありました?」

「うーん、そうねぇ」

とソフィアは一番上に置いた巻物を示すと、

「これがね、下水道の管理説明書みたいなのね」

「管理説明書ですか?」

「そうね、下水道の管理について長々と書かれているわね、これが下水道から出たものでしょう?他のは直接関係なさそうなのよね、これなんか、手紙よ、どうしたものかしら」

一番下に置いた巻物を捲って見せた、

「うーん、そうなると作業効率を考えた場合、優先順位が必要になりますよね、というか、何も全てを翻訳する必要はソフィアさんにもこの研究所にも無いわけですし」

「そうねぇ、ユーリが来たら相談しようかと思ってたんだけど、ユーリはまだ?」

「はい、今日は現場の方見に行くって言ってましたから」

「そうなると、遅くなりそうよね、まぁ、仕方ないわね」

ソフィアは茶に手を伸ばし、口を付ける、

「んじゃ、また、顔出しますね」

「はいはい、ありがとねー」

ソフィアはヒラヒラと手を振ると、

「さて、もう一仕事やったら夕飯準備かしらねー」

「うむ」

レインは茶を一気に煽ると巻物に向かうのであった。



ヘッケル工務店の工場は街外れの工場地帯のさらに外れにある、木工を専門とする工場が集まった箇所にあり、その規模は資材置き場と商品倉庫を加えるとそこそこ大きい部類であった、その敷地の裏手に簡易テントが張られ冒険者数人と学生達が屯していた、学園主導の下水道調査隊である、人員は集まっており昨日迄なら探索を始めていたであろう時間であるが、今日に限って開始の指示が出ない、集った面々は何とも所在無げにブラブラしている。

「では、冒険者ギルドはこの仕事から手を引くという事で宜しいですね」

ユーリとストラウクそれにダナの3人は眼前でニヤニヤと笑みする男性に食って掛かった、

「いや、そうは言ってないだろう、昨日も話した通りだ、今の金額では受けてくれる人員は限られる、表を見てみろ、昨日からどれだけ減ったか、見ただけで分かるだろう」

冒険者ギルドのサブマスターの一人、ベンインクは不適な笑みを崩さずに視線をテント外へ向ける、

「当初の予定では、15人工を10日間、継続派遣するとの約束であったと思いますが」

ダナは冷静である、

「そうね、その約束よ」

ユーリが同調すると、

「いやいや、書面になって無いし、だろ、書面あるか?それにだギルドとしては斡旋はできるが、仕事の強要はできないぜ、言っただろうが美味い仕事があればそちらを優先するのが俺達だって、それに人工と期間については、そっちとしても皮算用だったろうが、場合によっては長くなるだの短くなるかもだの言っておいて、何を今更だ」

「それはそうですが」

ストラウクはベンインクの言葉に黙り込むしか無かった、

「なるほど、分かりました、では、本件にそちら側は人員を割けないとそういう判断をさせて頂いても宜しいですね?」

ユーリは溜息と共に確認する、

「まぁ、俺としては何度も同じことを言うがさ、金だよ金、それだけさ」

ベンインクはにやりと笑い踏ん反り返った、

「理解しました、では・・・」

とユーリは踵を返すと、テント外に屯する人員を確認する、冒険者は5人、生徒は15人、予定では、3人ずつの5チームで下水道内を探索する予定であったが、今日に関しては人員を組み替えるしかないようであった、

「本日は、そうね、探索チームは2つにして、残った生徒は現在迄の探索結果を纏める事にしましょう」

ユーリはストラウクにそう提案する、

「・・・しようがありませんな、では、私も探索組に加わります、さすれば冒険者3人、生徒3人で2チーム作れますな、残りの生徒はユーリ先生にお任せします」

「はい、それでいきましょう、それと今日参加している冒険者の面々に明日以降の参加確認をお願いします、場合によっては直接雇用が可能であればそのように」

「おい、直接雇用は御法度だぞ、堂々と何言ってやがる」

ユーリの聞こえよがしの言動をベンインクは当然のように非難した、

「いいえ、学園の雇用であれば問題ありませんよ、ねぇ、ダナ?」

ユーリは涼しい顔でベンインクを見下ろす、

「はい、王立学園として冒険者を雇用する事は冒険者ギルドとの提携契約により認められております、戻って法務担当に確認した方が宜しいですよ」

ダナは冷静に言い放つ、

「まったく、冒険者ギルドの顔を立てようと思って依頼したのが間違いだったわね、ギルドに依頼した分の上乗せ額も冒険者に支払いましょう、そうすれば少しはこっちに来てくれるかしら?」

「えぇ、恐らくは、彼等に参加希望者を連れて来て貰いましょう、仕事としては身の危険の無い楽なものですからね、何かあっても生徒を守って逃げてくれればいいのだし」

ストラウクはスッと先に立つと冒険者達に合流する、

「えっと、冒険者ギルドさんへの依頼は本日付けで取り消しますので、ダナ、手続きと支払いを」

ユーリはダナに残務整理を命じ、自身は生徒達の元へ合流した。
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