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本編

13話 夏の日の策謀 その1

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クロノスの居城はかつての要塞であり、一時期魔王の根城であった建物でもある、前帝国時代に北の軍団基地として作られた軍港を、大破壊の後現在の民族が再建したもので、その際に港の一部を中心にして街を囲うように要塞とした、しかし、要塞化したとはいえ魔族の侵攻の前にあっさりと陥落し、約10年、魔王軍のこちら側の大陸での拠点として利用された、要塞はその期間の間に魔族による改修の手が入り、人の身には大きすぎる間口や人の手では届かない場所に明かり取りの窓が設えられていたりと、魔族仕様の建築物となっている、故にクロノスの使用している執務室は天井が異様に高く、夏場は涼しくて良いが冬場の冷えは酷いものであった、

「以上が報告となります、クレオノート伯本人は姿を現さず、また、事前情報通りその奥方は病であった様子でした」

トーラーはクロノスの執務室にて部屋の主の前に仁王立ちとなり、大きく胸を張りほぼ天井を見ながら昨日の茶会について報告する、朝一番での報告であったがトーラーは既に一汗流してきた様子であった、

「なるほど、まぁ、そうであろうな、噂通りという所か」

クロノスは石壁の一角を睨んで答える、

「はい、しかし、茶会そのものはソフィア様の奇行により有耶無耶の内に終わりました、今後伯爵家からの接触は途絶する可能性もあるかと思います」

トーラーは表情も姿勢も変えぬまま私見を口にする、

「うん、うんうん」

クロノスは納得したように2度頷く、ソフィアの正体を知っているクロノスとしてはその奇行こそが要点の一つでもあったのだが、ソフィアを知らぬ者から見れば彼女の行動は確かに奇行でしかないであろう、それは恐らく伯爵側でも同じことで、そうなればトーラーの言う関係断絶も当然有るべき結果の一つである、

「かの伯爵家がというよりも、その娘と従者か、その二人がこの機会を十全に活かせる知恵があれば良いが、ソフィアを知らぬ者にそれは難しいか、もしくは、藁を掴むか・・・」

クロノスはボソリとそう言って、

「で、お前さんの私用はどうなった?」

ニヤリとトーラーを見上げる、

「はい、愚妹とはかつての仲を取り戻すべく尽力しております」

トーラーは恥ずかしげも無く言い切った、

「というと、仲は戻らずか?」

「はい、いいえ、時間はかかるかと思います」

どっちだよとクロノスは笑みし、トーラーは尽力しますと言って姿勢を崩さない、

「分かった、今後なにかあればすぐにかの地へ飛んでもらう、近衛として俺の警護以上の仕事もしてもらうからそのつもりで」

「はっ」

「以上だ下がれ」

トーラーは一礼すると回れ右をして執務室を退出した、

「さて、どう思う?リンド」

クロノスは机の脇に立つ自身の最側近に問うた、

「はい、伯爵家への対応は暫くは受け身で良いかと、今回の件を上手く使えればとも思いましたが、途絶するのであればそれで、続くのであればそれもまた良しとして、ソフィア様に一任で宜しかろうと思います、かの人がいるのであれば、我々が制御し続ける事自体が難しくなるかとも思いますし」

「そうか、まぁそうだよなぁ、あいつはなぁー」

クロノスは暫し思案する、

「かのパーティーの人員は一人として普通ではありません、故に」

「面白く、興味深い上に、目を離してはならない・・・」

「はい、そのように考えます」

リンドはクロノスの意見に同意する、

「俺も、その一人なのだがな」

クロノスはリンドを睨んだ、

「はい、ですから、目を離してはおりません」

リンドは何を今更と冷ややかにクロノスの視線を受け止めた、ふんとクロノスは鼻で笑うと、

「取り合えず何をしたのか聞いておくか、そっちの方が面白そうだな」

と溜息交りで呟くと腰を上げようとして踏みとどまる、

「そういえば、研究所員の人選はどうなっている?それと、漁師の縄張り争いの件、どう治まった?」

「はい、人選については、こちらの木簡を、漁師の諍いについては、法務担当者に報告させます、それと小麦収穫の視察についてですが」

クロノスの忙しい一日が始まったようである。
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