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本編
12話 クレオノート家の悲哀 その6
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伯爵家からの使いは学生達が登校した後すぐ訪れた、使者はなんの事は無いライニールである、
「おはようございます、本日は一日私共にお付き合い頂ければ幸いでございます」
一時的にではあるがお嬢様の監視下から離れたライニールは肩の力が抜けた良い顔をしている様に見える、玄関先での簡単な挨拶であるが、そこには何の憂いも感じられない、
「御丁寧にありがとうございます、本日お招き頂きました、ミナ、レイン、供として子爵家エレインお嬢様と、同じく子爵家ライダー卿、それとわたくしソフィアになります」
ソフィアは優しく返礼し、エレインとトーラーを供として紹介した、
「御丁寧にありがとうございます、エレインお嬢様とライダー卿におかれましては、故無き招待であったかと存じますが、御対応頂きました事感謝致します」
「こちらこそ伯爵家との縁等、望んでも得られるものではありますまい、奇縁によってこの場に招聘された身ですが、是非とも、良縁として関係を築ければ幸いと存じます」
トーラーが受け、その答えにライニールは安堵の笑みを浮かべる、
「では、拙速で失礼かと思いますが、御案内できればと存じます」
スッとライニールは身を躱し左手で馬車を示す、
「はい、宜しくお願い致します」
ソフィアは一礼してミナとレインの手を引くと、馬車へ向かった。
そこからは実に目まぐるしかった、一行が連れて行かれたのは貴族街の中央にある仕立て屋である、勿論のように貴族向けのドレスや訪問着が取り揃えられた店であった、
「さ、ミナさん、レインさん、ソフィア様もこちらで一式、仕立てさせて頂きます」
ライニールはニコリと笑みを浮かべる、
「そこまで必要かしら・・・」
と店の前で躊躇するソフィアに、
「お嬢様の御指示でございます、是非、皆様方に良い訪問着をと仰っておられました、また、当家としましてもそれなりの服装でなければお客様として遇する術がありません」
ライニールの弁に、ソフィアは渋い顔を崩さなかったが、
「まぁまぁ、こういう世界があると触れるだけでも良い経験ですわよ」
エレインはあからさまに他人事とニヤケた笑みを浮かべる、
「これだから貴族連中は不健康極まりないというのよ、まったく」
ソフィアは毒付きながらも溜息を吐いてライニールに従った、
「一着、幾らになるのかしら?」
店内では、ソフィアは終始眉根に力が入り、ミナははしゃぐがレインはまるで興味が無いのかされるがままである、一人あたり三人がかりで採寸から着替え迄至れり尽くせりの対応であった、
「ふふ、ミナさんもレインさんも、お姫様ですわね」
エレインは着飾ったミナとレインを楽しそうに見詰める、ミナは手にした木工細工をレインに付け直してもらい、
「レインもソフィも忘れちゃ駄目ー」
ミナは二人に注意を促した、ハイハイと二人は笑って木工細工を付け直す、
「お前もこの年の頃は可愛らしかったがなぁ」
トーラーの恐らく地である無神経な発言が時折顔を出したが、既にエレインはそれを柳に風と受け流す術を体得したらしい、今朝までなら左の拳がトーラーの何処かしらにめり込んでいても不思議はなかった。
「皆様、大変お美しくおなりです」
ライニールは着付けの終わった一同を馬車に誘い、やっと今日の主目的であるクレオノート伯家の屋敷へ馬車を向けた、
「ふぅ、なんか、もう、これだけで疲れるわね」
馬車の中で知った顔だけになった瞬間、ソフィアは溜息を吐く、ちなみにライニールは御者台である、
「そうですわね、私も久しぶりに訪問着など着ましたから、もう、暫くは結構ですわね」
エレインとソフィアは笑いあう、
「それは、あれか、肥えたとかなんとかか?」
トーラーのいちいち勘に障る発言に、
「ソフィアさん、分かって頂けますか?」
とエレインは同意を求める、
「昔からなんですか?」
ソフィアの問いに、エレインは静かに頷いた、
「なるほど、左拳が飛ぶのが理解できました」
ソフィアは呆れた笑みを見せ、エレインは理解を得られた事に喜びの笑みを見せた、
「何の話だ?」
トーラーが問うも、二人は素早く話題を変えるのであった。
屋敷に着くと巨大な正面玄関には出迎えの男性が一人立っていた、
「伯爵家執事長、リシャルトで御座います」
馬車から降りた一行を低頭したままリシャルトは迎える、サッとライニールは一行とリシャルトの脇に立ってそれぞれを紹介した、
「本日は、お招き頂きまして光栄に存じます」
代表してトーラーが一礼する、リシャルトが顔を上げ、外面の良い笑顔を見せるが、トーラーを確認した瞬間額に皺が寄った、
「こちらこそ、お嬢様の招聘にお答え頂いた事、感謝致します、こちらへどうぞ」
リシャルトは優雅に踵を返し先に立って屋敷に入っていく、一行はその後に従い、ライニールはその後に従った。
「こちらで、お待ち下さい」
1階へ入り右手にある待合室へ通される、待合室とされるがその広さは寮の食堂2つ分はありそうな程広かった、
「わぁー、広ーい、それに金ぴかー」
ミナはキャッキャと走り出した、
「こりゃ、ミナ、はしたない」
レインの声も届かずミナは中央にあるソファーにダイブする、
「うわー、フカフカー、すごいよーフカフカで、スベスベだよー」
「まったくもう」
と一行はミナの寝転ぶソファへ座った。
「ライニール、あの男性は何者だ?」
待合室の扉を閉めた瞬間にリシャルトは耳打ちする、
「先程お伝えした通り、ライダー子爵家のトーラー様であります」
「それだけか?」
「はい、私も本日お会いしたばかりです、詳しくは失礼に当たるかと思い、伺う事はできませんでした」
ライニールはリシャルトの追及に小首を傾げる、
「そうか・・・」
リシャルトは納得いかない顔である、
「なにか?」
ライニールの問いに、
「いや、うん、まぁ、大丈夫であろう」
と自身を無理矢理に納得させたようである、
「さ、お嬢様に連絡を」
リシャルトはライニールを走らせると仕事は終わったとばかりに執務室へと戻っていった。
「おはようございます、本日は一日私共にお付き合い頂ければ幸いでございます」
一時的にではあるがお嬢様の監視下から離れたライニールは肩の力が抜けた良い顔をしている様に見える、玄関先での簡単な挨拶であるが、そこには何の憂いも感じられない、
「御丁寧にありがとうございます、本日お招き頂きました、ミナ、レイン、供として子爵家エレインお嬢様と、同じく子爵家ライダー卿、それとわたくしソフィアになります」
ソフィアは優しく返礼し、エレインとトーラーを供として紹介した、
「御丁寧にありがとうございます、エレインお嬢様とライダー卿におかれましては、故無き招待であったかと存じますが、御対応頂きました事感謝致します」
「こちらこそ伯爵家との縁等、望んでも得られるものではありますまい、奇縁によってこの場に招聘された身ですが、是非とも、良縁として関係を築ければ幸いと存じます」
トーラーが受け、その答えにライニールは安堵の笑みを浮かべる、
「では、拙速で失礼かと思いますが、御案内できればと存じます」
スッとライニールは身を躱し左手で馬車を示す、
「はい、宜しくお願い致します」
ソフィアは一礼してミナとレインの手を引くと、馬車へ向かった。
そこからは実に目まぐるしかった、一行が連れて行かれたのは貴族街の中央にある仕立て屋である、勿論のように貴族向けのドレスや訪問着が取り揃えられた店であった、
「さ、ミナさん、レインさん、ソフィア様もこちらで一式、仕立てさせて頂きます」
ライニールはニコリと笑みを浮かべる、
「そこまで必要かしら・・・」
と店の前で躊躇するソフィアに、
「お嬢様の御指示でございます、是非、皆様方に良い訪問着をと仰っておられました、また、当家としましてもそれなりの服装でなければお客様として遇する術がありません」
ライニールの弁に、ソフィアは渋い顔を崩さなかったが、
「まぁまぁ、こういう世界があると触れるだけでも良い経験ですわよ」
エレインはあからさまに他人事とニヤケた笑みを浮かべる、
「これだから貴族連中は不健康極まりないというのよ、まったく」
ソフィアは毒付きながらも溜息を吐いてライニールに従った、
「一着、幾らになるのかしら?」
店内では、ソフィアは終始眉根に力が入り、ミナははしゃぐがレインはまるで興味が無いのかされるがままである、一人あたり三人がかりで採寸から着替え迄至れり尽くせりの対応であった、
「ふふ、ミナさんもレインさんも、お姫様ですわね」
エレインは着飾ったミナとレインを楽しそうに見詰める、ミナは手にした木工細工をレインに付け直してもらい、
「レインもソフィも忘れちゃ駄目ー」
ミナは二人に注意を促した、ハイハイと二人は笑って木工細工を付け直す、
「お前もこの年の頃は可愛らしかったがなぁ」
トーラーの恐らく地である無神経な発言が時折顔を出したが、既にエレインはそれを柳に風と受け流す術を体得したらしい、今朝までなら左の拳がトーラーの何処かしらにめり込んでいても不思議はなかった。
「皆様、大変お美しくおなりです」
ライニールは着付けの終わった一同を馬車に誘い、やっと今日の主目的であるクレオノート伯家の屋敷へ馬車を向けた、
「ふぅ、なんか、もう、これだけで疲れるわね」
馬車の中で知った顔だけになった瞬間、ソフィアは溜息を吐く、ちなみにライニールは御者台である、
「そうですわね、私も久しぶりに訪問着など着ましたから、もう、暫くは結構ですわね」
エレインとソフィアは笑いあう、
「それは、あれか、肥えたとかなんとかか?」
トーラーのいちいち勘に障る発言に、
「ソフィアさん、分かって頂けますか?」
とエレインは同意を求める、
「昔からなんですか?」
ソフィアの問いに、エレインは静かに頷いた、
「なるほど、左拳が飛ぶのが理解できました」
ソフィアは呆れた笑みを見せ、エレインは理解を得られた事に喜びの笑みを見せた、
「何の話だ?」
トーラーが問うも、二人は素早く話題を変えるのであった。
屋敷に着くと巨大な正面玄関には出迎えの男性が一人立っていた、
「伯爵家執事長、リシャルトで御座います」
馬車から降りた一行を低頭したままリシャルトは迎える、サッとライニールは一行とリシャルトの脇に立ってそれぞれを紹介した、
「本日は、お招き頂きまして光栄に存じます」
代表してトーラーが一礼する、リシャルトが顔を上げ、外面の良い笑顔を見せるが、トーラーを確認した瞬間額に皺が寄った、
「こちらこそ、お嬢様の招聘にお答え頂いた事、感謝致します、こちらへどうぞ」
リシャルトは優雅に踵を返し先に立って屋敷に入っていく、一行はその後に従い、ライニールはその後に従った。
「こちらで、お待ち下さい」
1階へ入り右手にある待合室へ通される、待合室とされるがその広さは寮の食堂2つ分はありそうな程広かった、
「わぁー、広ーい、それに金ぴかー」
ミナはキャッキャと走り出した、
「こりゃ、ミナ、はしたない」
レインの声も届かずミナは中央にあるソファーにダイブする、
「うわー、フカフカー、すごいよーフカフカで、スベスベだよー」
「まったくもう」
と一行はミナの寝転ぶソファへ座った。
「ライニール、あの男性は何者だ?」
待合室の扉を閉めた瞬間にリシャルトは耳打ちする、
「先程お伝えした通り、ライダー子爵家のトーラー様であります」
「それだけか?」
「はい、私も本日お会いしたばかりです、詳しくは失礼に当たるかと思い、伺う事はできませんでした」
ライニールはリシャルトの追及に小首を傾げる、
「そうか・・・」
リシャルトは納得いかない顔である、
「なにか?」
ライニールの問いに、
「いや、うん、まぁ、大丈夫であろう」
と自身を無理矢理に納得させたようである、
「さ、お嬢様に連絡を」
リシャルトはライニールを走らせると仕事は終わったとばかりに執務室へと戻っていった。
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