セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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12話 クレオノート家の悲哀 その3

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午後になると食堂には昨日と同じように生徒達が集まっていた、しかし、今日は4人である、ジャネットとアニタは下水道探索組であるとの事で、2人欠けた状態であった、

「それでは、試作していきます、パウラさんはアイスケーキの作成をお願いします、こちらでパンケーキとスポンジケーキを作成します」

エレイン主導の元で作業は始まった、試作品は2種、スポンジケーキでミルクアイスケーキを挟んだものと昔ながらのパンケーキでミルクアイスケーキを包んだものである、

「楽しみー、まだ?まだ?」

昨日とは異なり試食ができるとあってミナとレインが同席している、席に着いているがバタバタと手足はうるさい、

「はいはい、待ってて下さいねー、美味しいケーキが出来ますよー」

パウラは優しくミナに語り掛けながら手早くミルクアイスケーキを作り上げた、そしてミナとレインの好奇の目に晒される事暫し、2種の試作品が完成した、

「はいできました、では、試食してみましょう」

始めに学園長の発案で生み出されたスポンジケーキとミルクアイスケーキのミックス製品である、打ち上げの食事会の時は皆に絶賛された食し方であったが、あらためて製品としてどうかという点が課題であろうか、一同は小分けにされた試作品を口にする、

「うん、味は安定してますね」

「どうかしら?美味しさが喧嘩している気もします、それぞれ単品で満足できる味なので調和という観点ですと今一つかしらと思いますわね」

「エレインさんのおっしゃる通りかもしれませんね、スポンジケーキは紅茶と蜂蜜入りでしたか?であれば、あの干し果物入りの方ですと、食感の違いも楽しめた上に干し果物の種類を変える事で酸味も楽しめるかと思いますが」

「そうですね、どちらで甘さを調整するかだと思います、いっその事どちらも下味は薄くして黒砂糖のソースで甘さを調整するのも手かと、見た目も楽しくなるんじゃないかと考えますが・・・」

「うふ、美味しいね、苺入りはー?」

各自が厳しく吟味するなか、ミナとレインは嬉しそうに食している、幾つかの修正案が出されそれらは黒板に羅列されていった、

「次に、こちらですね」

各自は次の試作品に手を付ける、薄いパンケーキの中央にミルクアイスケーキを載せ三角に巻いた品である、以前ソフィアが開催した食事会で供された食べ方を参考にした一品であった、

「これは、美味しいですね」

「そうね、あれ、このパンケーキは小麦のみですか?」

「そうですね、余計な味は加えてません」

「なるほど、うーん、ソフィアさんの時を思い出すと、蕎麦・・・それと卵でしたか・・・そっちの方が合うかもしれませんねぇ」

「なるほど、こちらは食べやすさも向上してますね、この丸めた状態で提供すれば木片も必要ないでしょうね」

「これも、美味しいー」

やはり新規性という点で審査は若干優しいモノになるようである、概ね好評であったがこちらも改善案が何点か出された、

「ふむ、やはり、実際作成してみないと分からない事ばかりですわね」

エレインは大きく溜息を吐く、

「はい、でも、つい先日は、あんなに一生懸命頑張りましたのに、本日はなんだか・・・」

オリビアは食堂内の何とも甘ったるい雰囲気を危惧している、

「オリビアさんの言いたい事分かりますねぇー、なんて言うか、切羽詰まってないからですかねぇ」

ケイスはニコニコ笑顔である、

「そうですね、恐らく期日が決まっていないと頑張るというか、焦らないんですよ、試験の時みたく」

パウラの発言に皆は一様に同意した、

「でも、そんな時だからこそ、積み重ねが大事なのです、今日の作業も決して無駄では無いですわよ」

エレインの総括に皆は静かに頷いた、

「そうだ、ミナさんとレインさんの意見を聞いてませんでしたわ、如何でした?」

エレインが二人に水を向けると、

「美味しかったよー、イチゴ入りのが食べたーい」

「悪くなかったわい、しかし、どれもこれも見た目が良くなればさらに良いじゃろうな、菓子は見た目も愉しむものじゃ、いつぞや学園長から貰った菓子はその点良かったのう」

レインの建設的な意見に、皆は感嘆の声を上げた、

「すごい、レインさん、分かってらっしゃる」

「なんじゃ、皆の者、儂をなんじゃと思っとる」

レインは鼻息を荒くしてしかめっ面になるのであった。



「あちゃー、しまった、どうしよう」

その日の夕食時、ソフィアは珍しくも自責の悲鳴を上げた、

「どうしたんです?」

隣りに座るオリビアが問う、

「うーん、明日だったのよ、領主様のお茶会、一緒に行ってくれる人手配してなかったー」

あらあらとオリビアは他人事である、

「どうしようか、うーん、適当に誤魔化すか、それとも有効利用してしまおうか・・・考えときゃよかったわー」

ソフィアが頭を抱える様を生徒達は珍しそうに眺め、ミナとレインは気にしていないそぶりでチラチラと盗み見ている、

「こうなると、どうしようかしら、そうね・・・」

ソフィアはチラッとエレインを見る、その瞳には怪しい光が浮かんでいた、視線を感じたエレインは気付かないフリをするが、ソフィアの無遠慮な視線は時間と共に強くなり、エレインの我慢は次第に額に浮かぶ光る物として表出する、

「エレインさん、あのー、頼み事があるんだけどー」

頃合いを見計らって満面の笑みを浮かべたソフィアはさらに貴重な猫なで声を発した、あまりにも突然の高い声と絶妙なタイミングに、エレインは耐えきれずに口を押さえて吹き出してしまう、

「すいません・・・はしたない事を、でも、これは・・・」

唐突に発生した笑いで嗚咽にも似た苦しい息遣いとなる、つられてオリビアもケイスも堪えきれずに視線を外して忍び笑う、

「うん、うん、なんだぁ、そんなに嬉しかったのねー」

当のソフィアはこの状況を計算づくで引き起こしたのであろうか、余裕の笑みでややズレた事を口にする、

「すいません・・・ソフィアさん・・・その被せはダメです」

エレインは治まるどころかより激しく呼吸を乱した、笑っているのか苦しんでいるのか既に定かではない、オリビアもケイスも忍び笑いでは耐えられず、結局笑い声を発してしまう、

「・・・という事は、助けてくれる?」

それは何処から発声しているかも分からない可愛い声であった、その仕草も潤ませた瞳も少女のそれである、エレインはソフィアのさらなる追撃に対抗する事もできず笑い苦しみながら無言で何度も頷いて了承するのであった。
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