セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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11話 お嬢様達の胎動、決意 その2

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「ふーん、お嬢様の教育係っていないの?」

食堂にはソフィアに代わってユーリが白湯を手にしてライニールの前に座っている、

「家庭教師はおります、ですが、教育係・・・躾役というと、私がそうといえばそうなんでしょうが、なにぶんお嬢様はお年頃ですので、いろいろと難しく・・・」

どういう話の流れかライニールの人生相談のような状況になっている、短い間とはいえ自分の担当講師であった人物が話し相手では、会話の内容を探るうちにそうなってしまったとしか言いようがない、

「まぁ、貴族社会のなんじゃかんじゃは良く分からないけど、少なくともあれよ、権力を笠に着てギルドで身辺調査はやり過ぎと思うわー」

昨日の宴会への乱入事件の事である、

「そうですが、戸口で断って頂いてもよかったと・・・」

「断れるわけないでしょ、こっちは平民よ、貴族様相手にどう断るってのよ」

ユーリの言葉にライニールは尚も肩を落とす、学生時代には仲が良いとは言えない間柄であり、ユーリその人の特性を理解していないが、これほどざっくばらんな人であったとはライニールは正直思っていなかった、

「はいはい、あんまり、虐めない、折角昨日のお礼に良い茶葉を頂いたのだからみんなでお茶にしましょう」

厨房からソフィアがティーセットを持ってくる、小麦他の納品があり厨房に引っ込んでいたのであった、さらに昨日のスポンジケーキも大皿で手にしていた、

「え、そうなの、まぁ、そりゃそうよね、うん、上の連中も呼んでいい?」

いいわよーとソフィアは軽く答えた、

「お嬢様もお呼びしましょう、ミナとレインもそうね、たまにはいいでしょ」

ティーセットをテーブルに置き再び厨房へ入る、ライニールは一人静かに食堂で待つのであった。



「なるほど、それでいつの間にやらこうなったと」

食堂では生徒達も合流して大人数でのお茶会になっていた、呼びに行ったそれぞれがそれぞれの相手を連れてきて茶を立てた辺りで生徒達の帰宅が重なり、折角だからと生徒達もご相伴に預かる事となったのである、最後に合流したのはケイスであったが、食堂に集った面々を見て何事かと側にいたソフィアに事情を聞いたのである、

「はい、ケイスさんも適当に座りなさい、美味しいお茶よ」

ソフィアは当然のようにティーカップをケイスに渡す、紅茶の良い香りがケイスの鼻腔を通りすぎた、

「これは、良い香りですねぇ、オリビアさんの入れてくれるお茶とはまた違っています」

お茶を愉しむという習慣は前帝国時代から存在はしているが、その時代から高級品である事は変わっていない、特に上流社会で好まれる茶は香りと味が重視された最上級品である、今手にした茶は比較的裕福であるとはいえ平民であるケイスが触れられる品では無いことだけは確かであった、

「スポンジケーキもまだあるわね、食べ過ぎないようにねぇ」

ソフィアはニコリと笑う、

「でね、この壺の中にね、いっぱい入れてあるの」

ミナはお気に入りの花びらの詰まった壺をレアンに見せている、

「ほう、これは良い香りじゃなぁ、花びらも集めると香りが立つものなのか」

「うん、お花の香り、で、これが薔薇でしょ・・・」

ミナは花びらを一枚ずつ出しては説明し、説明しては並べてと忙しそうである、

「聞いた感じよりも良いお嬢様じゃないの?」

ユーリはそっとライニールに囁く、

「・・・そう・・・ですね、とても穏やかです、あんなに優しい笑顔になって・・・」

ライニールは素直に喜んでいる、先程ユーリに無理矢理に愚痴を引き出されたが、その際の問題の中心は全てレアン絡みであった、その為、ミナと共に居るレアンの落ち着きと楽し気な顔は普段見せる癇癪持ちのそれではなく、年相応の娘に見えた、ライニールにとってその様子は心休まるものであった、

「そうねぇ、そちらの家庭がどういったものかは知らないけど、恐らくお嬢様に必要なのは一緒に遊んでくれる相手じゃないの?そういう人っている?」

「ほとんど・・・いませんね、はい、それが問題でしょうか・・・」

ライニールは首を傾げる、

「ねぇ、エレインさんはどうだった?お友達とかいた?貴族の時」

ユーリは隣りに座るエレインに問うた、

「変な質問ですね、でも、うーん、貴族の友人はいたと思いますが、上辺のお付き合いでしたよ、私には姉が居たので友人とは違いますが姉のおかげで寂しくはなかったですわ」

エレインはシレッと答える、

「失礼、エレインさんは、爵位をお持ちなのですか?」

ライニールは急に背筋を伸ばす、

「某子爵家の者ですわ、クレオノート伯には遠く及ばない身分ですので、気を遣わずに・・・」

エレインの何とも胡乱な返答にライニールは困り顔である、

「それで、さらに変な事を聞くけど、同年代の子とはどうやって付き合うの?」

ユーリはどうやら貴族の情操教育に興味を持ったらしい、

「うーん、どうやってと言われましても、我が家に関していえば、兄達は年齢が近かったですし、屋敷の者の家族・・・息子さんとか娘さんとかが遊び相手でしたわ、家庭教師が一緒に勉強を見てくれましたし、狩りに行くのも刈り取りの時も一緒でしたわね、戦場にも・・・従者として一緒であったと思います」

エレインは思い出しながら言葉を綴る、

「でも、それって身分が違う、言わば雇われ人の子供達でしょ、相手は・・・」

「そうですよ、でも、子供の頃ですからね、ただ・・・どうでしょう、子供なりに・・・その・・・お互いの立場は理解した上で遊んでいたと思います、そりゃ、衣服から何から違いますでしょ・・・それに、雇われ人といっても長年仕えてくれている人達の子供ですし、向うはこちらをたてて、こちらも向うを大事にする、そういうふうな関係性であったと思います」

エレインは当時の自分と遊び相手を考えながら、彼等がエレインに対した際の細かな表情を思い出していた、ライニールはエレインの言葉に思う所があるのか神妙に頷いている、

「なるほどね、同年代に囲まれた生活が必要であるならさ、学園に入れちゃえばお嬢様」

ユーリの発案にライニールはさらに渋い顔をする、

「・・・その・・・お館様・・・領主様が今一つ・・・」

ユーリはアッという顔をして、ゆっくりと肩を落とす、

「領主様かぁー、学園の事嫌ってそうね・・・」

「・・・はい、と言っていいものかどうか、正直、わたしもお仕えして日が浅く、その・・・お気持ちは測り兼ねておりまして・・・」

「ふーん、まぁそれなりに頑張ってんのねあんたも、まぁ良かったじゃない、よっぽど変な事しない限り安泰っちゃ安泰よね」

大人としては当たり障りが無く、それゆえに大変無責任な慰め方である、

「いや、そういう問題では・・・」

ライニールはいよいよ首を傾げていく、その言葉が消えかかった瞬間に、

「決めたぞ、ライニール」

不意にレアンは立ち上がる、何事かとライニールも立ち上がった、

「ミナを屋敷に招待するぞ、我が家の自慢の庭園を見せねばならぬ」

ライニールは言葉を無くして膝から崩れ落ちたのであった。
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