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本編

10話 祭りの後、新しき友人達 その5

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翌日、3階の研究室が本格稼働を始めた、助手の二人が常駐し、ユーリは転送室から学校と寮を行き来している、ソフィアにとっては通常業務としていた掃除の段取りについて、3階はどう対応しようかと思案しつつの新たな日々の始まりであった、

「すいません、ソフィアさん早速で申し訳ないのですが」

ソフィアが共用部分の掃除を終えてから、ミナとレインと共に寝藁を作成中にカトカが1階へ姿を現した、

「はいはい、なんでしょう?」

「作業中すいません、コンロの改良についてユーリ所長から打合せをするようにとの指示を受けまして、お時間がありましたらと思ったのですが・・・」

美しい眉が歪む、ソフィア達の作業に気付き、

「もしかして、私達の分ですか?」

とおずおずと訊ねた、

「そうねぇ、新しい住人さん達の分とついでに作り溜めしておこうと思って」

ソフィアは笑って作業を続ける、わかりましたとカトカは引っ込み、サビナを連れて戻ってきた、

「手伝います、なんか、申し訳なくて」

「そうね、寝藁なんて自分で作るもんでしょ」

二人は腕捲りをして作業場に入って来る、

「いいわよ、これは寮母の仕事なんだから」

ソフィアが遠慮するも、

「いけません、自分達の分は自分でやります」

そういってカトカは厳として譲らない、綺麗な顔の厳しい視線はそれだけで魅力的なのだな等とソフィアは詮無い事を考えるが、

「あぁ、こちらでしたか」

とさらに作業場の入り口にはダナが顔を出す、諸々の打合せに来ましたとソフィアに告げ、狭い土間に大人3人と子供2人の状態に、

「何をされているんです?」

と当然の質問をする、

「うーん、じゃ、カトカさん、サビナさん、申し訳ないけどお願いしますね、ミナ、レイン、ちゃんとお手伝いするのよ」

ソフィアは渋々とその場をカトカに任せた、

「任されたのじゃ」

「了解なのじゃ」

レインはソフィアのお願いに快く返答し、ミナはレインの真似をする、ソフィアが藁屑を部屋の角で落として食堂に入る頃には、作業室内は女の楽し気で愉快な声で溢れかえった、

「はい、ごめんなさいね」

ソフィアは一度厨房に入り、白湯を手にすると食堂に戻ってきた、

「いえ、こちらこそ、定期的にお邪魔する予定が全く来れなくてすいません」

食堂の席に座るダナの前に座り、白湯をダナと自分の前に置く、

「そうよね、でも、顔はちょくちょく見てたから、でも、本来の仕事での打合せってもしかして初めてかしら?」

「そうですね、申し訳ないです、他の寮の対応に追われまして、ほら、特に清掃に関する事で」

ダナはニヤリと口元だけで笑みを浮かべる、

「なによ、それ私のせいなの?」

「いえいえ、おかげで生活が改善されました、さらに各寮の予算も増やされたんですよ、どうしても人員が足りない事が発覚しまして」

「へぇー、でも、うん、分かる気がするわね、私の今の作業量だと寮生4人が丁度良い位だもの、ミナとレインに手伝ってもらってよ、これで人数が増えるとなると、手が回らない事が多くなりそうだわ」

「おっしゃる通りです、各寮の寮母さんに聞き取りしたら、殆どの寮母さんが手が回っていない状態でした、これでは、その、ゴミ屋敷になるのもしようがないかなという結果になりまして、ソフィアさんのお陰で業務改善できそうです」

「それは良かった」

「はい、それで本日の打合せなんですが」

とダナは足元の布袋から木簡を何枚か取り出して、ソフィアに見せる、食事の予算、ソフィアの給与、経費類の清算等である、

「良かった、そうよね、人が増えるから食費をどうしようかと思ってたのよ、先に予算が来ないと手出しする所だったわ」

「ですよね、すいません、ユーリ先生の件も急に決まったものですから、本来であればもっとゆっくりな対応なんでしょうけど、ぶっちゃけた話ですが、ソフィアさんなら大丈夫だろうとの学園長と事務長の判断です」

「それはまた、信頼されているのか、呆れられているのか・・・どっちもかしら?」

「どうでしょう、でも、失礼ながら悪い印象では無いと思いますよ」

「ならいいけど・・・」

ソフィアは真面目に数字を確認する、

「研究所の方々へのお酒代は含まれてないわよね」

「当然です、含まれていませんし、用意する必要もありません」

「ツマミ代も?」

「当然です」

「了解したわ、そのように対応します・・・まぁ当然よね」

ソフィアは笑顔を見せつつ、

「はい、確認しました、充分やっていけると思います」

「ありがとうございます、では、お金はこちらです、食糧費と経費類は一緒になってます、給与はこちら、確認の上各木簡にサインを下さい」

ダナは革袋を二つと石墨をソフィアの前に置く、ソフィアは二つを確認し、木簡にサインした、

「一番大事な所は以上ですね、で、何か相談事等ありましたらと思うんですが」

「色々あるんだけど、実際、どうなのかしら、学園で問題になってない?」

「何がですか?」

「私が来てからよね、その、下水道の件と屋台の件、掃除の件は上手く治まったようだからいいとしてもよ」

ダナはうーんと首を傾げつつ

「・・・そうですね、学園長と事務長の評価です、これは私も同意なのですが、少なくとも悪い影響では無いかなと、先程もいいました通り悪い印象ではないです、かといって・・・」

「手放しで喜べるものでもない?」

「そうですね、何と言うか、うーん、言って良いのか悪いのか、まぁ、言ってしまいますね、その気になれば王太子の権限で私物化できる人達という評価です、これはユーリ先生に対してもです」

「あら、はっきり言うわね」

「はい、私としてはユーリ先生もですがソフィアさんも単純に凄い人だなと思いました、なにせ屋台の商品はソフィアさんの発案と聞いています、何気に生徒達の間でも噂になってますし、下水道の件もありますし、そういった諸々を含めて、私個人はソフィアさんのファンというんでしょうか信奉者は・・・言い過ぎですかね、そういった感じです」

「それはまた、身に余る光栄だわ・・・ってこれも言い過ぎかしら」

「そうでしょうか、寮母になって一月経っていないのに、こんなに騒動を起こしているんですよ、これは凄い事ですよ」

「誉め言葉と受け取っておくわね」

ソフィアは柔らかく微笑んで白湯に手を伸ばす、

「まぁ、恐らくですがそういう評価なので、今回、上手い事ユーリ先生と一緒にしておこうという事になったのかなと」

ソフィアは口に含んだ白湯を吐き出しそうになり、何とか飲み込んだ、

「えっ、そういう事なの?」

軽くむせながら問い掛ける、

「そのようですね、これは・・・」

ダナは一際声を小さくする、

「イグレシア学部長の入れ知恵というか策謀があった様子です」

「イグレシア・・・あぁ、ユーリの上司?」

「はい、学園長も事務長も学園内の政治力は弱いようです、疎いと言った方が良いかしら、政治力が強いのは実はこの学部長でして、つまり、そういう事なのかなと・・・」

「ふーーん、でも・・・まぁいいか、なら逆に自由にやっていいのかしら・・・」

「へっ?」

「いや、実はね、やりたい事があるんだけど、予算を付けてもらえないかなって、前にユーリ経由で鉄パイプの予算回ったでしょ?」

「はい、確かに、何で処理したかな、雑費で計上したと思いますが」

「うん、あれを使ってね、さらなる生活向上を図ろうかと考えてるのよ」

ソフィアの眼がキラリと光った。
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