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本編

10話 祭りの後、新しき友人達 その3

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その日の夕食は若干荒れた、それはそうである、突然明日から講師が住みこむと言い出したのだ、さらに、先程の屋台問題もある、料理は文句の付けようもないものであったが、何とも普段とは違う奇妙な雰囲気に包まれていた、

「えーっ、本気ですかー」

ユーリの住み込みに対して露骨に嫌そうな顔をするのはジャネットである、彼女の性格から来るものと、ユーリが直接の担当講師である点とで当然のように嫌悪の感情を示した、

「なーに、ジャネットさん、そんなに嫌なのー?」

ユーリは当然のように夕食を囲んでいる、一度学園に戻り所用を済ませ再び顔を出したのだ、

「嫌ってほどではないですけどー、そうですねぇ、やっぱ、嫌です」

ジャネットはキッパリと言い切る、

「清々しいわね、あなた、気に入ったわ」

ユーリは呆れた顔をしつつも余裕を見せる、

「でも残念ながら決定事項です、というか、3階がガラっと空いてるし、1階も個人部屋が空いてるんでしょ、女生徒自体が少ないとはいえ、無駄が多すぎますからね、有効活用というものです」

「そりゃ、そうでしょうけど・・・」

ジャネットは尚譲らない、

「ならさ、アニタとパウラをこっちに呼んでよ、良い奴じゃんあいつら」

「そういう問題ではないでしょう、この寮に入るには支度金が必要なのは皆さんも御存知なのではないですか」

オリビアが苦言を呈する、

「むー、オリビアはこっち側だと思ったのに・・・」

「どちら側でもないですよ、学園が決定したんだからそうなるでしょう、それに確か規約では講師又は学園職員が住み込む事になっていたはずですから、そういう意味では今までが規約違反だったのです」

「そうね、流石オリビアさん、その通りよ」

ユーリは快哉を上げる、

「しかし、急ですね」

ケイスの発言である、

「まぁねぇ、こっちにも色々あるのよ、下水道の件もあるし、私の研究の件もあるしね、あっ、そうだ、下水道の件で先に話しておくけど」

ユーリは下水道調査が本格的に始まる事とその参加の詳細について話した、

「で、参加希望者いる?」

「はい、やる」

威勢よく手を上げたのはジャネットである、

「エレインさんは?好きそうだけど?」

「そうですねぇ、それよりも気になる事がありますから、そちらを優先したいです」

エレインらしくはないが貴族の令嬢っぽい奥ゆかしさはあった、

「はい、オリビアさんとケイスさんも、やらないわね」

二人に水を向けるも沈黙での返答となる、

「じゃ、ジャネットさん、学園で正式に案内が出されたら申し込むように、冒険者の実地体験と思えば有益だと思うわよ、それに学生にも手間賃くらいは出るようだしね」

「やったね、エヘヘ」

先程迄の態度とは打って変わってジャネットは実に嬉しそうである、

「そこまで言うなら、もっと詳しく話したら?あなただけじゃないでしょ、住むの」

ソフィアはレインの皿に野菜を取り分けながらユーリを促す、

「そうねぇ、研究員の2人も引っ越す事になるわ、それと3階は全て研究所扱いになるから、後はそうねぇ、そんなもんかしら?」

「研究員って、どちらも・・・」

「そうよ、女性、男性が良かったかしら?」

「そんなわけないです」

ケイスは即答する、

「そうよね、まぁ、仲良くやりましょう」

ユーリは何とも軽く考えているが、生徒達は終始懐疑的であった。



翌日、放課の時刻から暫くして内庭には葡萄棚の材料を抱えたエレイン達3人とブノワト、それと内庭にて合流したケイス達3人が集っていた、

「あら、早速?、ありがとう」

ブノワトの足元にある資材を見てソフィアは察して礼を言う、

「いやー聞きましたよソフィアさん、お酒ありがとうございます」

「別に、私が買ったわけではないわよ」

「いやいや、それが、かなりいい酒でしたよ」

「なら、エレインさんの目利きのお陰ね、でしょ、エレインさん」

「あら、そう思われますか」

エレインは嬉しそうに胸を張る、

「そういう所は流石よね、良い物をしっているのはそれだけで世渡りに長けているといっても良いわよ、特に贈答品はね」

「あぁー、贈答品で思い出した」

葡萄棚の材料を観察していたジャネットが顔を上げる、

「ブノワトねーさん、この木工細工ってまだあります?」

「ん、あ、それ、付けてくれてるの?嬉しいわぁ、まだあるわよー、絶賛販売中」

「なら、店に行けば買えますか?」

パウラが質問を引き継ぐ、

「うーん、私か旦那がいればね、他の人だと接客苦手なんだわ、たぶん、若い娘が店に来ただけで大騒ぎよ、今日なんかさ、エレインさんが入ってきたらそれだけで皆浮足立っちゃって」

ブノワトは思い出してケタケタと笑った、その場にいたエレイン達3人もクスクスと困った顔で思い出し笑いをする、

「なるほど、実はこれ欲しいって人が結構いまして、学園で、だから、気軽に買いに行けたらなぁって思ったんですけど」

「えぇ、ホントに、いやー嬉しいわー、そっか、皆着けてくれてるもんね、うんうん、わかった、ならさ、明日からそうね暫くの間は放課の時間に店開けて旦那を置いとくわ、じっくり選んで買いたいでしょうしね」

「ありがとうございます、私宣伝しますね」

「なら、わたくしも、実は結構、聞かれてましたので、この細工物」

静かであったオリビアも話に加わった、

「メイド課の人達ってお洒落するスキが少ないもので、普段からメイド服ですから、この大きさの細工物ですと邪魔にならないし、お洒落の自己主張は出来るしで、何気に良いですよ」

「おおう、メイドさんにも受けるのね、よし、旦那に増産させようかしら」

ブノワトは豪快に笑い声を上げた、

「わ、皆集まってる、なに、なにしてるの?」

買い物帰りのミナとレインが合流した、

「おかえりなさい、今日はレインが主役よ、レイン、葡萄棚の指示お願いね」

ソフィアが買い物籠を受け取りつつレインに目配せする、

「わかったのじゃ、皆の衆、大儀である」

「そんな言葉何処で覚えてくるのよ」

ブノワトは無神経にレインの言葉使いに茶々を入れるも、

「ふふん、通じればよいのだよブノワト嬢、さ、作業にかかるのじゃ」

レインは集まったいつもの面々に指示を出し始めた。



その頃、3階ではユーリの手によって個人部屋の一つの壁に転送魔法陣が2つ、描かれていた、一つは王城用、もう一つは学園の研究室用である、よく考えればこの転送室さえ作ってしまえばこちらの寮に研究室を作る必要は無いのであるが、この転送魔法陣は一般に開陳さていない魔法陣の一つであり、その点も踏まえて研究室の中心設備はこちらへ移動しなければならなかった。
転送魔法陣については使いこなせるのは現時点で数人である、それは使用者の魔力量調整に難がある為と魔法陣が難解である為であった、恐らく様々な職種及び産業で便利に使える魔法技術であり、流通という最も大きな労働を、肩代わりどころかその概念そのものをも消し去るほどの技術ではあるのだが、それ故に、王国の魔法機関により秘匿とされているのである。

「ふう、やっぱ、時々書かないと忘れるわよねこの魔法陣、けったいすぎるわ、でかいし、複雑だし、まったく」

ユーリは右肩口をグリグリと大きく廻す、壁に対して魔力を集中して腕を動かし続けた為背中と腕に疲れと痛みが走っていた、暫く身体の各部を無駄に動かして凝りを解すと、あらためて魔法陣に対して魔力を流し起動させる、魔法陣の中心部から暗黒の靄が発生しそれが長方形の魔法陣の四隅に行き渡ると魔法陣の姿はゆっくりと消えつつ別の部屋の光景が浮かんできてやがて安定した、

「お疲れ様です、無事開通ですね」

学園と繋がった魔法陣からユーリの助手カトカ・クルセクがひょいと顔を出した、

「あ、よかった、安定してる?」

「大丈夫そうですよ、警戒色も警戒音もありません」

カトカは首を出したままニコリと笑う、カトカはびっくりするほどの美形である、真っすぐな黒髪と白い肌、それとこれまた長く美しい睫毛と左右対称の顔、スラリと伸びた手足と細い腰、女性の視線すら集めてしまうほどであった、

「うん、さすがわたしね、じゃ、打合せ通りにこちらに運び込んで貰える?サビナさんは?」

「はいはい、サビナさん、繋がりましたよ」

壁の向うから快活な女声が響き、カトカに変わって丸い顔がにょきっと生えた、

「あら、ここが新しい転送室ですか、まぁ悪くはないですね」

サビナはニヤリと笑ってすぐに引っ込む、サビナは大柄な女性である、縦にも大きいが横にも大きい、食事量はユーリ達とそう変わりないのであるが、その体型を維持できているのはサビナ七不思議の一つと本人が笑って言うほどであった、

「ふう、やれやれ、あっ、先に魔法陣の覆いを頂戴、それとそっちの部屋もちゃんと保護してる?魔法陣にぶつかったら大惨事よ」

ユーリはひょいと学園の研究室に戻っていった。
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