セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

9話 豊穣の神の祭りあるいはレインの日 その6

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「いや、なんかすいません、すごくその買っていただいて」

当初の勢いは何処へやらといった感じで恐縮するブノワトと硬さが抜けないブラスに、

「こちらこそ、良い買い物をいたしました」

とパトリシアは微笑んだ、

「では、もう少しサービス致します、そろそろ祝福の行列が始まると思いますので、特等席を確保しましょう」

ブノワトは率先して一行を案内する、

「この大広場のさらに奥に豊穣の神様の神殿がありまして、行列はそこから始まります、そして大広場から大通りに出てそのまま郊外へ抜けるんですが、地元民としては大広場の手前辺りが一番良いかなぁと思うんですよね」

再びブノワトの良く回る舌が活躍し始めた、

「あ、ほら、あそこ、馬車が準備されてるでしょ、それも馬は神殿の装束です」

ブノワトの指差す方向に派手に着飾った2頭立ての馬車が数台並んでいた、いずれの馬車も馬車本体から幌を外されておりその車体も美しく装飾されている、

「あの馬車から花びらが撒かれるんですよ」

周囲には人だかりができ始めている、大通りとはいえ普段は馬車道と歩道は区別されない、故に慣れないと非常に危ない道ではあるのだが、祭りの日には衛兵がそこかしかに立ちさらにロープで馬車道と歩道が区分けされていた、人々は歩道内を神殿方向に歩を進めつつ行列の開始を待っている、

「楽しみですわね、どのような光景になるんでしょう」

人波とその熱気、遠目に見る馬車の美しさにパトリシアは嫌でも期待をかき立てられる、

「そうですね、ミナ、あの馬車見える?」

「うん、見えるよ、ピカピカ、ヒラヒラだね、お馬さんカッコイイ」

「あれ、そんなにお馬さん好きだっけ?」

ソフィアが問うと、

「うん、お馬さん好き、それと鳩とウサギさん好き、カラス嫌い」

子供らしい好みである、

「では、こんどお城に来たらお馬さんに乗ってみますか?」

パトリシアの誘いに、

「ホント、乗る、乗りたい、えっと、お馬さんは黒いの?それとも白いの?」

「お色ですか、いっぱいいますよ何色がお好きです?」

「えっと、茶色、白もかっこいいけど、茶色がかっこいい」

「茶色ですか、それはまた一般的な・・・渋い選択ですわね」

思っていなかった答えに皆が微笑んでいると、

「祝福の儀式が終わりましたー、祝福の儀式が終わりましたー」

数人の広報官が神殿から出てくると、朗々と儀式の終了を告げる、と同時に神殿の鐘が鳴り響いた、

「巫女のおなり、巫女のおなりー、町娘の帰還、町娘の帰還」

衆目の集まる中神殿から巫女達が静々と歩み出てくる、その手には巨大な籠が抱えられていた、巫女達は歩みを止めずそれぞれ決められた馬車に乗り込み、さらに仮装した町娘もそれに続いた、

「祝福の行列、祝福の行列」

広報官が行列に先立って大通りを練り歩く、広報官は大広場の中央で大通りと支道に別れそれぞれの担当する通りを儀式の始まりを告げながら歩き続けた、

「さぁ、始まりますよ」

ブノワトが皆の視線を馬車に向けさせる、ブノワトの言葉からややあって馬車はゆっくりと動き出した、馬車にはそれぞれ一人の巫女と二人の町娘が乗っている様子である、

「わぁ、動いた、始まった」

ミナが最前列でピョンピョン跳ねる、はぐれては一大事とソフィアは手を繋ぎつつしゃがんでミナの腰を押さえた。

行列は静かに動き出し、大通りの人だかりに差し掛かると巫女は手にしたベルをシャランと鳴らす、それが合図のようで町娘が籠の中から花びらを掬い上げ沿道に撒き散らした、

「なるほど、これは綺麗ですわね」

太陽光を受けて様々な色の花びらが輝きながら風に舞いつつ人々に降り掛かる、

「凱旋式や、国王祝賀では逆ですけど、なるほど、祝福を浴びる側になるのはまた違ったもののようですね」

アフラは関心する、

「お花、お花、集めないと」

ミナが舞う花びらに手を伸ばす、ソフィアが周囲を見渡すと他の見物客は頭にボールを載せてそれに集めたり、スカートを広げて受け止めたりと様々に祝福の花びら集めを行っていた、

「なるほど、じゃ、ほら、ミナ、こうやって」

ソフィアはミナの前掛けを受け皿のように広げ花びらを受け止めた、

「やった、ソフィ、ありがとう」

馬車の列は6台続きそれぞれが一定の感覚で花びらを撒いていく、やがて馬車は終わってその後ろを午前の行列と同じように賑やかしの楽団が付いて行く、

「あっという間ですね、でも、見れてよかった、これは綺麗で楽しいイベントでしたわ」

パトリシアは輝く笑顔でそう評した、

「良かったです、ほら、私も沢山頂きました」

ブノワトも嬉しそうに両手いっぱいの花びらを見せる、

「なんか、もっと少ないのかと思ってましたよこの花びら、でも、思った以上に量があるんですね」

「えぇ、この場所が良かったのです、毎年大広場と神殿のあいだ辺りが見物客が多いのですね、なもんで撒く量が違うのですよ、それにここを過ぎると馬車が別れちゃって別々に支道に入って行っちゃうんです、ですので、ここが正に特等席なんです」

ブノワトが胸を張る、

「ソフィすんごいいっぱいになちゃった、どうしよう?」

ミナは広げた前掛けに山となった花びらを見て困った顔をする、

「大丈夫、寮に戻ったらそうね、皆に分けたりお守りにしたりしましょう、ちょっと待ってね」

ソフィアは懐から大振りのハンカチを取り出してミナの受け取った花びらを優しく包む、

「はい、これでこれを持って、さて、帰りましょうか?」

「そうですね、ブノワトさん、楽しかったですわ、案内頂きましてありがとうございました」

パトリシアの丁寧な礼に、

「そんな、恐れ多いです、そのまた、お会いする事があればなんなりと・・・はい」

流石のブノワトもパトリシアの前では緊張するようである、

「そうだ、どうします、今日来ます?あの娘達の報告とか聞きたいでしょ?」

「うーん、明日でもいいかなぁとは思ってたんですけどね、うちの片付けもありますし」

「そう、じゃ、あの娘達にはそう言っておくわね」

「ありがとうございます」

パトリシア一行はそこでブノワトと別れて帰路に就いた、道すがら屋台で買い食いしつつ珍しい菓子や肉料理を物色する、

「はぁ、楽しかったですわ」

寮に着いた途端、パトリシアは大きく満足気な吐息を吐いた、

「まったくです」

アフラ達従者も晴れ晴れとした表情である、

「お茶にしましょう、もう少しゆっくりできますでしょう?」

ソフィアはにこやかに一行を食堂に誘うが、そこには先客がいた、

「おかえいなさー」

6人の娘達が死んだようにテーブルに突っ伏していた、

「わ、あんた達どうしたの?」

ソフィアはあまりの様子に何かあったかと大声を上げる、

「えへへ、えっと、大好評でして、売り切れてしまいました」

パウラが疲れ切った顔を隠しもせずに笑顔で答える、

「こちらもです、売り切れてしまいました」

オリビアも同じような顔である、

「えっ、それで撤収しちゃったの?凄いわね屋台で早仕舞なんて・・・、ほら、リシア様が来てますよ、シャンとなさい」

ソフィアの言に6人は何とか上体を起こす、

「いいですよ、ソフィアさん、皆さんお疲れなんでしょう、でも、売り切れとは凄いわね、大したものです、お疲れさまでした」

パトリシアの優しい言葉に、

「ありがとうございますー」

空気が抜ける様に6人は再びテーブルに突っ伏した、

「やれやれ、じゃあ、お茶をいれましょう、あんた達も飲むでしょう、あと、レイン、さっき買った屋台のお菓子みんなで頂きましょう」

「うむ、ほら皆の者しっかりせい、おやつの時間じゃ」

レインの言葉に抑え目の歓声が上がった。
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