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本編
9話 豊穣の神の祭りあるいはレインの日 その3
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「遠慮してはいけませんよ、ということで、プレーンセットを10人分それと果実入りを単品で10人分お願いしますわ」
暫くして一行に順番が回ってきた、行列は確かに大人数ではあったが仕込みの量を増やした為に手際はその分良くなっていたようである、
「リシア様、御機嫌麗しゅう」
「エレインさん、挨拶は不用です、お仕事をなさってください」
パトリシアの厳しくも優しい言葉にエレインは笑顔と汗で答えた、日陰の中の作業とはいえコンロを使用した炎の近くである、オリビア同様に過酷な環境と言って過言ではなかった。
「はい、ありがとうございます、セットを10人分、果実入りを単品で10人分ですね」
少々お待ちくださいと作業台にトレーを並べコップを配する、かなりの手際の良さであった、
「はいどうぞ、次々お出ししますので、受け取られましたら、そちらのベンチか向うにもベンチがありますので、それから食事が終えられましたらこちらへトレーの返却をお願い致します、では、ごゆっくりどうぞ」
「はい、ありがとう」
一行の皆がトレーを受け取るとアフラが纏めて支払いを済ませる、ソフィアはキョロキョロとしつつ座って食せる場を探すが、ベンチはいっぱいでその間をオリビアが細かく素早い動きで顧客対応に勤しんでいる、一行はあそこでいいかと少し離れた木陰に座り込む事とした、
「まぁすぐですし、怒られたらそれはそれで楽しそうですわね」
パトリシアはどうもこういった悪ふざけが好きなようである、恐らく普段であれば立ち入る事も咎められるような場所である為周囲の目が少々気になるが、祭りという事とこの人の波である、怒られそうな事もまた楽しいかと一行は木陰に円陣を組むように丸くなって軽食を楽しむ事とした、
「うわ、確かに美味しいですわね、これは、お城の品よりも美味しいのではなくて?」
従者の一人が興奮して歓声を上げる、
「そうでしょう、わたくしが言った事を信じてませんでしたわね」
パトリシアは意地悪くニヤリと笑った、
「いえ、パトじゃなかった、リシア様のおっしゃる事を疑っていたという事などまったく・・・」
「あら、そうかしら」
パトリシアの追及に、
「リシア様、あまり虐めてあげないでください、なにせ、ほら、彼女はコックの・・・と・・・」
「えっ、そうだったのですか、ならしようがないというもの、でも、ふぅーーん」
「なになに、なんの話し?」
スポンジケーキを頬張ったミナが興味津々といった感じで会話に首を突っ込む、
「流石ミナさんですね、大人の話に喰い付きが良い」
「そうですわね、ミナさん、もう少し大人になったら混ぜてあげてもいいですよ」
パトリシアの言葉にブーと不満顔のミナ、
「あら、こちらのケーキも絶品ですね、私、干しブドウが大好物なのです」
「でしょう?」
と話題は再びケーキとソーダ水に奪われていった、
「それにしても、皆さんなんだか輝きが違いますね」
アフラが人混みに紛れるエレイン達を遠目に眺めてそう言った、
「そう・・・そうですわね、皆さん良い笑顔です」
パトリシアがその視線の先を追い、確かにとちょっとした違いに感づく、
「前掛けのおかげではありませんか?」
「いえ、それだけではないような?」
パトリシアは疑問を持ちつつ視線を戻す、
「あれ、ミナさんも・・・レインさんも小奇麗ですわね」
その視線は二人の少女に釘付けとなった、そしてその視線はソフィアに移り、
「ソフィアさんも・・・」
アフラは違和感の正体を掴み切れずしかめっ面でソフィア達を観察する、
「あぁ、きっと、昨日洗髪をしたからですね」
アフラの視線に耐えきれず、しれっとソフィアが呟いた、ねぇーとミナに同意を求めると、ミナはやや不機嫌ながら無言で頷き同意とする、
「洗髪ですか?贈った石鹸で?しかしあの石鹸は身体用ですよ」
アフラが不思議そうに問う、
「そうですね、若い連中は贈って頂いた石鹸で昨日ゴシゴシやってましたよ、あぁ、御免なさい、リシア様、正式な御礼がまだでしたね、申し訳ありません、皆喜んでいました、とても感謝しておりましたですよ」
「それは良かった、折角魅力的な女性達ですもの磨くことも覚えなければね」
「えぇ、特に石鹸の香りが素晴らしいですね、あれは何の香りなんです?」
「あら、ソフィアさんでも分からない事があるんですか?」
パトリシアは意地悪気で楽し気に微笑むと、
「あれは、薔薇ですわ」
「へぇー、すごいですね、確かにあの芳醇で広がりのある甘い香りは薔薇のものですね、なるほど、え、でもそれってかなり高価なものなのでは」
「そうですわね、でも、まぁ、良い物に触れるのも教育の一つでございましょう?」
「確かに・・・彼女達には贅沢すぎるとも思いますが、しかしそうなると、もしかして、薔薇の香りを抽出できるのですか?」
「えぇ、職人を招聘致しまして、香料の研究が飛躍的に進歩しましたのよ、薔薇以外にもリンゴ、アイリス、ジャスミン、ミカン、それぞれ良い香りですわよ」
「それは、素晴らしい、今度、御教授頂けますか、是非、活用したい事があるのです」
「あら、それは、興味深いですね、分かりました、御教授となるとどうかなという感じですが、今度何本か実際の品をお持ちしましょう、それを活用頂ければと思いますが、楽しみですわね、それと・・・その洗髪の件ですけど・・・ソフィアさん、詳しくお聞かせ下さらない?」
パトリシアはソフィアの言葉を聞き逃さなかったようだ、ニヤリと口の端と眉を上げてソフィアを見詰めた。
暫くして一行に順番が回ってきた、行列は確かに大人数ではあったが仕込みの量を増やした為に手際はその分良くなっていたようである、
「リシア様、御機嫌麗しゅう」
「エレインさん、挨拶は不用です、お仕事をなさってください」
パトリシアの厳しくも優しい言葉にエレインは笑顔と汗で答えた、日陰の中の作業とはいえコンロを使用した炎の近くである、オリビア同様に過酷な環境と言って過言ではなかった。
「はい、ありがとうございます、セットを10人分、果実入りを単品で10人分ですね」
少々お待ちくださいと作業台にトレーを並べコップを配する、かなりの手際の良さであった、
「はいどうぞ、次々お出ししますので、受け取られましたら、そちらのベンチか向うにもベンチがありますので、それから食事が終えられましたらこちらへトレーの返却をお願い致します、では、ごゆっくりどうぞ」
「はい、ありがとう」
一行の皆がトレーを受け取るとアフラが纏めて支払いを済ませる、ソフィアはキョロキョロとしつつ座って食せる場を探すが、ベンチはいっぱいでその間をオリビアが細かく素早い動きで顧客対応に勤しんでいる、一行はあそこでいいかと少し離れた木陰に座り込む事とした、
「まぁすぐですし、怒られたらそれはそれで楽しそうですわね」
パトリシアはどうもこういった悪ふざけが好きなようである、恐らく普段であれば立ち入る事も咎められるような場所である為周囲の目が少々気になるが、祭りという事とこの人の波である、怒られそうな事もまた楽しいかと一行は木陰に円陣を組むように丸くなって軽食を楽しむ事とした、
「うわ、確かに美味しいですわね、これは、お城の品よりも美味しいのではなくて?」
従者の一人が興奮して歓声を上げる、
「そうでしょう、わたくしが言った事を信じてませんでしたわね」
パトリシアは意地悪くニヤリと笑った、
「いえ、パトじゃなかった、リシア様のおっしゃる事を疑っていたという事などまったく・・・」
「あら、そうかしら」
パトリシアの追及に、
「リシア様、あまり虐めてあげないでください、なにせ、ほら、彼女はコックの・・・と・・・」
「えっ、そうだったのですか、ならしようがないというもの、でも、ふぅーーん」
「なになに、なんの話し?」
スポンジケーキを頬張ったミナが興味津々といった感じで会話に首を突っ込む、
「流石ミナさんですね、大人の話に喰い付きが良い」
「そうですわね、ミナさん、もう少し大人になったら混ぜてあげてもいいですよ」
パトリシアの言葉にブーと不満顔のミナ、
「あら、こちらのケーキも絶品ですね、私、干しブドウが大好物なのです」
「でしょう?」
と話題は再びケーキとソーダ水に奪われていった、
「それにしても、皆さんなんだか輝きが違いますね」
アフラが人混みに紛れるエレイン達を遠目に眺めてそう言った、
「そう・・・そうですわね、皆さん良い笑顔です」
パトリシアがその視線の先を追い、確かにとちょっとした違いに感づく、
「前掛けのおかげではありませんか?」
「いえ、それだけではないような?」
パトリシアは疑問を持ちつつ視線を戻す、
「あれ、ミナさんも・・・レインさんも小奇麗ですわね」
その視線は二人の少女に釘付けとなった、そしてその視線はソフィアに移り、
「ソフィアさんも・・・」
アフラは違和感の正体を掴み切れずしかめっ面でソフィア達を観察する、
「あぁ、きっと、昨日洗髪をしたからですね」
アフラの視線に耐えきれず、しれっとソフィアが呟いた、ねぇーとミナに同意を求めると、ミナはやや不機嫌ながら無言で頷き同意とする、
「洗髪ですか?贈った石鹸で?しかしあの石鹸は身体用ですよ」
アフラが不思議そうに問う、
「そうですね、若い連中は贈って頂いた石鹸で昨日ゴシゴシやってましたよ、あぁ、御免なさい、リシア様、正式な御礼がまだでしたね、申し訳ありません、皆喜んでいました、とても感謝しておりましたですよ」
「それは良かった、折角魅力的な女性達ですもの磨くことも覚えなければね」
「えぇ、特に石鹸の香りが素晴らしいですね、あれは何の香りなんです?」
「あら、ソフィアさんでも分からない事があるんですか?」
パトリシアは意地悪気で楽し気に微笑むと、
「あれは、薔薇ですわ」
「へぇー、すごいですね、確かにあの芳醇で広がりのある甘い香りは薔薇のものですね、なるほど、え、でもそれってかなり高価なものなのでは」
「そうですわね、でも、まぁ、良い物に触れるのも教育の一つでございましょう?」
「確かに・・・彼女達には贅沢すぎるとも思いますが、しかしそうなると、もしかして、薔薇の香りを抽出できるのですか?」
「えぇ、職人を招聘致しまして、香料の研究が飛躍的に進歩しましたのよ、薔薇以外にもリンゴ、アイリス、ジャスミン、ミカン、それぞれ良い香りですわよ」
「それは、素晴らしい、今度、御教授頂けますか、是非、活用したい事があるのです」
「あら、それは、興味深いですね、分かりました、御教授となるとどうかなという感じですが、今度何本か実際の品をお持ちしましょう、それを活用頂ければと思いますが、楽しみですわね、それと・・・その洗髪の件ですけど・・・ソフィアさん、詳しくお聞かせ下さらない?」
パトリシアはソフィアの言葉を聞き逃さなかったようだ、ニヤリと口の端と眉を上げてソフィアを見詰めた。
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