セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

9話 豊穣の神の祭りあるいはレインの日 その1

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祭りの当日である、陽の明けぬ頃から準備は始まった、二つの屋台が戦場に向かい、薄暗闇の中ソフィアはそれを見送る、彼等には準備が終わったら食べれるようにとパンとチーズそれから果物を入れた籠を持たせてある、生徒達の顔は皆戦場に向かう兵士のそれであった、いや、それよりもより晴れ晴れとしていたであろうか、

「あとから行くからね、気を付けて」

ソフィアは優しく激励する、寮生達は言葉少なにあるいは無言で頷いた、

「あれー、みんな、早いー、いつもはミナが一番なのにー」

ミナとレインが寝ぼけまなこで起きてきた、暗闇の中を静かに遠ざかりつつある人影に目を凝らす、

「そうよ、今日はみんな朝から忙しいの、さ、ミナも顔を洗って」

ソフィアは二人を追い立てる様に寮に戻らせた、朝が白み始め星々が急速にその存在を無くしていく、今日は晴れそうである、暑くなり過ぎなければ良いなとソフィアは朝日を睨んだ。



遠くでドラの音が響いた、それは各街区の鐘楼や神殿の鐘を巻き込んで街全体に祭りの始まりを宣言する、

「さぁ、始まりだぁー、次のドラの音でパレードが始まるよー、豊穣の神レスファルトインゲリス様へ祈りのパレードだ、さぁ、始まるよー」

寮の前の大通りを祭りの開始を告げる広報官が練り歩く、それが本日の初夏祭り、正式には豊穣の神レスファルトインゲリスへの感謝の祭りの始まりであった。
広報官が告げるように次のドラで神殿の巫女達と選ばれた町娘が神殿への道を行進する、その後巫女達は神殿内で祈祷をし午後一番で再び街の中心部から耕作地帯迄行進するのである、それがこの祭りのメインとなるイベントであった、豊穣の神は女神である事と、争いを好まないという伝承に従って、初夏祭りは実に平和で華やかな祭りなのである。
そんな祭りの中で街の人々が熱狂するのは、行列中に巫女達が振り撒く花びらである、豊穣のお守りとして子孫繁栄、子宝、豊作等の御利益があるとされている、また、巫女や町娘の行進中の艶やかな仮装にも関心が集まっている、仮装は毎年作り変えるためその年の仮装の評価が暫く庶民の口の端に上るほどであった。

「ソフィ、ソフィ、お祭り、お祭り、始まったって」

早速ミナが興奮を隠そうともせずにピョンピョンと跳ね回る、食堂で久しぶりにゆったりとした時間を過ごしていたソフィアは、

「そうねぇ、始まったみたいねぇー」

気の抜けた返事をして伸びをする、

「行くよね?行くんだよね?」

ミナは今にも走り出しそうである、

「レインはどうなの?」

ソフィアは何とはなしにレインの素性を思い出して問うた、

「どうとはなんじゃ」

「いや、どんな感じなのかなって」

「どうもしないし、どんなでもないぞ」

「気にしなくていいって事?」

「あぁ、そうじゃな、それでいい」

「分かった、なら、午後一番にお祭りに行きましょうか、巫女様方は午後の行列で花びらを撒くんだって、それがお守りになるって聞いたわ、だから午後からね、まだちょっと早いかな?」

「うん、うん、分かった、午後ね午後行くのね?」

ミナは納得したような事を言うが、ソワソワと落ち着かない様子である、放っておいて掃除でもとソフィアは腰を上げた瞬間、

「おはようございます、ソフィアさん、御機嫌いかがかしら」

さらに面倒そうな声が厨房から響いてきた、

「そりゃ、来るよねぇー」

小声で呟き、額に手を当ててさてどうしたものかと思いつつ、厨房へ顔を出す、

「おはようございます、リシア様、御機嫌麗しゅう」

厨房の勝手口からリシアと供の者が数名自分の家のように入って来る、先日のクロノスといい、この夫婦はとソフィアは苦笑いを浮かべる、

「おはようございます、ソフィアさん、あら、ミナちゃんもおはよう」

「おはようございます、えっと、リシア様ね、今日も」

「そうよ、ふふん、ミナちゃんは賢いわね」

純粋な誉め言葉にミナは笑みを浮かべる、

「いらっしゃるとは思いましたけど、ちょっと早いと思いますよ」

「そうでしょうか?今さっきのドラの音が始まりでございましょう?」

「えぇ、そうですけれども」

「早いも遅いもありませんのよ、大事な豊穣の神への感謝のお祭りですもの、皆で楽しまなくては、ねぇ」

後ろに続く従者に同意を求める、アフラ以外の従者は初見の者ばかりであったが皆静かに笑顔を見せた、

「はいはい、それじゃ、どうしましょう、私達は午後から見物にいこうと考えていたのですが」

「行く、行く、ねぇ、ねぇ、リシア様と行きたい、ね、いいでしょ、ソフィ」

案の定ミナはピョンピョン跳ねている、

「しょうがないわねぇ、レインはどうする?」

「うむ、どうでもよいぞ、今行くのも午後に行くのもそう変わらんじゃろ」

「そうかぁ、なら、リシア様、お供に3名追加で宜しいですか?」

「勿論ですわよ、さぁ、まいりますよ」

パトリシアは満面の笑みである。
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