上 下
40 / 1,050
本編

7話 ブノワトさんのスパルタ商売学 その2

しおりを挟む
ソフィアは鉄パイプ廻りの水分を綺麗に拭うと、とぐろの内側に炊き付けを盛り薪をくみ上げその下部に赤い魔法石を設置した、

「結界がまだ生きているから魔法の類は使えないけどこれならば」

ソフィアは魔法石を発動し炎を焚いた、その炎はじっくりと炊き付けを燃やしやがて薪に火が移る、丁度良い所で魔法石を小枝で回収して炎を治めると、

「さ、これでどうだろう」

皆の視線が集まる中、炎はゆっくりと大きくなりつつ鉄パイプを熱していく、コポリと小さな水音が樽の中に響き、それに気付いたレインが、

「成功のようじゃな」

と笑みを浮かべて樽を覗き込んだ、

「ほんと?」

ソフィアに続きユーリとブノワトが覗き込み、ミナは覗こうにも背が届かずユーリの身体にしがみ付いて無理矢理上体を樽の縁に載せてやって覗き込んだ、

「触って見て、熱かったら取り合えず成功ね」

ソフィアはミナの手をとって水に触らせる、

「わ、温かい・・・」

パイプの上部からでる空気の泡はそれと同時にお湯を排出しているようであった、

「なるほどねぇ、タロウさんが作ったんだっけ?」

「えぇそうよ」

「あの人もほんと何者なのかしら、でも、うん、これは実に単純だけど良い仕組みかもね」

「そうですね、最初聞いた時はどうなのか疑問でしたけど、実際目にすると面白いですね、でも・・・」

「でも?」

「はい、煙と風雨の対策が必要かなぁとも思いますね、しかし、その対策が出来れば手軽な湯沸し機構としてこれは便利ですよー」

「ふふ、ブノワトさんもそう思う?そこでまずはこのパイプの形状についてなんだけど」

ソフィアはブノワトを捕まえて鉄パイプの形状に関する事と周囲を囲む為のカバー、および薪をくべて灰を掻き出す扉の位置、煙突の形状とその位置等細かい点を相談する、

「大仕事になりそうだけど・・・大丈夫?」

ソフィアは最後にブノワトを心配するが、ブノワトの目は爛々と輝き口元には形容しがたい笑みが貼り付いている、

「ソフィアさん、わたし、やりますよ、楽しみにしていてください」

ブノワトの口から呪詛のように濃厚な闘気溢れる言葉が流れ出した、

「そう、ならいいわ、宜しくね」

ソフィアはブノワトから心理的な距離を取りつつ苦笑いでそのやる気に答える。

「で、ソフィアよこれはどうするんじゃ?」

レインが樽の中を覗き込みながら湯を混ぜている、うっすらと湯気が立ち上り始めているのが遠目にも確認できた、

「そうねぇ、お風呂にしたかったけど、もう少しお湯で樽の中を綺麗にしたいのよね・・・でも折角お湯も湧いたし、うーん、ミナ、レイン、髪洗おうか」

「えぇー、いいよー」

ミナがソフィアの言と視線を察しあっと言う間に距離を取った、

「ミナ、逃げないの、レイン、捕まえておいて、私は準備するから、ユーリとブノワトさんもついでに洗っていきなさい、気持いいわよ」

ソフィアの言葉にユーリとブノワトは小首を傾げる、

「ほら、くるのじゃミナ、逃げるでないわ」

「えぇー、めんどいー」

「なんじゃ、いっつも最初だけ逃げるんじゃから、洗った後は御機嫌じゃろう?」

「うー、知らないそんなのー」

「いいから来るんじゃ」

ミナとレインの追い掛けっこは内庭の端にミナを追い詰めたレインの勝利で終わった。
ソフィアは厨房からボールと小麦粉、塩、蜂蜜、夏ミカンを一つ持って戻ってきた、ボールに樽からお湯を汲むとそこに少量の小麦粉と塩を入れてゆっくりと混ぜ合わせる、さらに蜂蜜と夏ミカンのしぼり汁を加えてドロドロの液体を作り出した、

「さ、おいでって椅子があったら楽よね、ちょっと待ちなさいね」

ボールをその場に置いてソフィアは厨房に入る、残されたボールをユーリとブノワトが不思議そうに覗き込んだ、

「これは、また、パンケーキでも作るのかしら?」

「どうでしょう、でもずいぶん水っぽいですよ?」

食堂にあった椅子と厨房から桶を二つ持って来たソフィアは椅子を樽の側に置き、椅子の背を下にして横倒しにすると椅子の背と地面の間に桶を置いて高さを調整する、ちょうど座ったというよりも椅子に横たわった人間の頭が人の胸より下程度の高さにくるようにである、

「はい、おいでー、あ、レインごめんなさい、宿舎から櫛とタオル持ってきて」

「了解じゃ」

もう一つの桶にお湯を汲むとミナに優しく語り掛ける、ミナは遂に観念したのか渋々と倒れ込むように椅子に座った、すると椅子の背後にいるソフィアの丁度胸の高さに天を仰ぐ形でミナの頭部が収まる、

「はい、じゃ、お湯に漬けるわよ」

手にした桶にミナの髪をゆっくりと漬けるソフィア、ミナは目を閉じてジッと硬くなっている、ソフィアの手にする桶の中でミナの髪が舞い踊る、ソフィアは片手でその髪をお湯に馴染ませながら揉み洗いしていく、

「そういえば、暫く髪も洗ってなかったわね、どう?気持いい」

頭の上から優しく語り掛けるソフィアの声にミナは、

「気持ちいくない、はやく、終わって」

と何ともつれない反応である、

「ほい、櫛じゃ、なんじゃ、気持よさそうじゃのう、ミナ坊」

「うー、レインも洗われろー」

「うむ、ミナの次にな楽しみじゃのう」

「うー、レインの裏切り者ー」

レインは楽し気に高笑いをする、その横でソフィアはじっくりとミナの髪から汚れを落とすと、先程作ったドロドロの液体を手に取ってミナの髪に馴染ませつつ頭皮を優しく揉み上げる、

「はーい、ミナさん、痒い所ないですかー」

「うー、無い、まだぁー」

「もう少しよー、はい、だいぶ汚れてたわねー、お湯が真っ黒よ、ほら」

「うー、見えないー」

「ほんとじゃぞ、ミナ、真っ黒じゃ」

「じゃぁ、流すからねぇ」

樽から汲んだお湯をユックリと髪に流し掛ける、2度3度繰り返し洗い流すと乱れた髪を櫛で整えてタオルで包んだ、

「はい、終了、お疲れ様、気持よかったでしょ?」

「うーー、うん」

ミナは認めたくないが嘘を吐きたくもない、なんとも複雑な表情で椅子から飛び起きた、

「さ、次はレインよ、おいで」

「わ、確かに綺麗になってる、それにミカンの匂いが爽やかだわ」

「そうですね、なんか髪がしっとりしてます、なんででしょう?」

ユーリとブノワトが洗髪後のミナを捕まえてその髪をじっくりと調査している、

「ふふん、どう、貴方達も洗ってあげるわよ」

「え、いいんですか、お願いします」

「貴女がそういうなら・・・」

ブノワトは実に素直に、ユーリはややへそを曲げたように了承した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

異世界で趣味(ハンドメイド)のお店を開きます!

ree
ファンタジー
 波乱万丈な人生を送ってきたアラフォー主婦の檜山梨沙。  生活費を切り詰めつつ、細々と趣味を矜持し、細やかなに愉しみながら過ごしていた彼女だったが、突然余命宣告を受ける。  夫や娘は全く関心を示さず、心配もされず、ヤケになった彼女は家を飛び出す。  神様の力でいつの間にか目の前に中世のような風景が広がっていて、そこには普通の人間の他に、二足歩行の耳や尻尾が生えている兎人間?鱗の生えたトカゲ人間?3メートルを超えるでかい人間?その逆の1メートルでずんぐりとした人間?達が暮らしていた。  これは不遇な境遇ながらも健気に生きてきた彼女に与えられたご褒美であり、この世界に齎された奇跡でもある。  ハンドメイドの趣味を超えて、世界に認められるアクセサリー屋になった彼女の軌跡。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

KBT
ファンタジー
 神の気まぐれで異世界転移した荻野遼ことリョウ。  神がお詫びにどんな能力もくれると言う中で、リョウが選んだのは戦闘能力皆無の探索能力と生活魔法だった。      現代日本の荒んだ社会に疲れたリョウは、この地で素材採取の仕事をしながら第二の人生をのんびりと歩もうと決めた。  スローライフ、1人の自由な暮らしに憧れていたリョウは目立たないように、優れた能力をひた隠しにしつつ、街から少し離れた森の中でひっそりと暮らしていた。  しかし、何故か飯時になるとやって来る者達がリョウにのんびりとした生活を許してくれないのだ。    これは地味に生きたいリョウと派手に生きている者達の異世界物語です。

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

処理中です...