セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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6話 エレインさんのいちばん長い日 その5

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それからエレイン達は袋二つ分のソーダ粉末を分けてもらい昼前には女子寮に戻っていた、別れ際にパトリシアは、

「初夏祭り前に必ずお邪魔致しますわ、エレインさんの改良も気になりますし、それと氷菓子を食さなければなりませんわね」

と大層楽し気であった、食堂に入るとエレインは大きな溜息と共にいつもの席でテーブルに突っ伏した、

「お疲れねぇ、まぁ、そりゃそうよねぇー」

ソフィアは他人事全開である、

「いったい、全体どういう事であったのか、夢のようですわ」

エレインはガバッと起き上がりソフィアを正面から睨む、ソフィアはニコリと笑みを見せて、

「でね、確認なんだけど、先に言ったわよね、何を秘すれば良いか考えた?・・・場合によっては私達は此処から消えてなくなるのよね、おとぎ話の妖精みたいに・・・たぶんそれと同時にパトリシア様との友誼も無くなるわね、この意味分かるでしょ?さらに最悪はライダー家のおとり潰しなんて事も無くはない・・・のかしら、貴族社会は不案内ですけど」

ソフィアの言葉にエレインの眉間の皺はいよいよ深くなる、

「・・・分かりましたわ、では、このソーダ粉末の出所だけでも口裏を合わせないとと思いますの、どういたします?」

「うーん、私が隠し持ってたって事でいいわよ、そうね、量が少ないから大っぴらに使って無かったってことで、今日の作戦会議で秘蔵のソーダ水を教えてくれたって事でいいんじゃない?」

「分かりました、その言い訳に合わせます、しかしですね」

エレインは尚も食って掛かりそうになりつつ、言葉を飲み込む、どこから文句を言うべきか思考が追い付かないのであろう、

「はいはい、言いたい事は何となく分かるけど、先に全てを伝える事は難しいのは分かるでしょ、さらに言えば、もし先に伝えてしまったら、貴女、あの場所に行った?無理よね、するとこの粉末も手に入らなかった・・・今回は災い転じてなんとやらってね、・・・そうねぇ、少なくともパトリシア様に関してはあぁいう人だから、エレインさん、貴女が振り回される方の人なのよ、それを暫くは受け入れてみてね、あの人も勿論クロノスも付き合い方を間違えなければ貴女の力になってくれると思うわよ」

「・・・そうかもしれませんわね、いえ、あの感じだと私が間違わなければきっと良い友人として迎えてくれるのでしょう、それに何より、順当に行けば次期国王夫妻であらせられますし、どちらが王の座に着くかは分かりませんけれど・・・、しかし、私はその、どの立場でお付き合いするのがいいのか判断が出来ません、今の放逐貴族の立場が良いのか、子爵家令嬢の立場が良いのか、それとも平民になった方が良いのか・・・」

「うーん、たぶんだけど、パトリシア様はお友達として貴女を迎えたいと思うのよね、でも貴族のお友達ではないと思うわ、・・・確かに難しいわね、友達っていつの間にかなってるもんで、なりたくてなるもんでは無いわよね、でも、子供の頃ってどうだった」

「子供の頃ですか?」

「うん、私はね、ユーリとご近所だったのよね、年も同じで、何となく一緒にいる時間が多くて、それで幼い頃はユーリに振り回されながら、喧嘩したり、無視したり、いろいろあったけど、今でも仲良くしてもらっているわ、そのお陰で今私はここにいるんだけど、つまり、うん、友達としての関係性ってのは当事者二人が作り上げるもので、他人が口出せない部分ではあるのよね、そしてそれはとても時間の掛かる事なのかもしれないし、その時間を掛けた上で良くなるも悪くなるも結局は人間二人のぶつかり合いの結果なのかもしれない・・・かな?ようは、共に過ごす時間を多くとる事、それによってお互いの関係性を構築することかしら、でも面白いのはこれが夫婦だとまた別なのよね」

ソフィアはそう言ってほくそ笑む、

「・・・確かにそうなのかもしれませんね、では、私はパトリシア様を姉としてお慕いするのが最良かと思いますね、子供の頃を考えますに、私はお姉ちゃん子だったと思います、3つ年上の姉にいつも付いて行って、何をするにも姉の真似をして・・・」

「エレインさんにとってそれが楽なら取り合えずそこからって事でいいんじゃないかしら、そこから始めて良い関係性を築ければそれが良い友人の始まりかもしれないわね、あ、でもパトリシアさんが懐妊されているのは察してるよね?子供が生まれたらそれはそれでまた変わってくると思うのよ、ん?・・・でも、貴族だとあれか子守は乳母のお仕事かしら・・・そうするとどうなるんでしょう?」

「ふふ、確かにどうなるんでしょう、でも何となく言わんとしている事は分かりますわ、ありがとうございます、それと・・・なんですが」

エレインはふと視線を下げる、

「何?」

「クロノス様って以前からああなのですか?」

「ああって?・・・ああ少し太り気味ね、少し・・・かしら?」

「えっと、その言われるような真の勇者とか伝説の英雄と言うにはその・・・」

「しょうがないんじゃない、人は立場が変われば体型も顔も変わるのよ、あの人、剣を振り回したら並ぶもの無しなんだけど、政治の世界ではどうなのかしらね、今の生活が恵まれすぎているのかしら、今度会ったらひとこと言ってやろうかしら、でも、パトリシア様に言われてるかしら・・・」

ソフィアは遠くに視線を合わせて眉根を寄せた、

「それと、一番大事な事だと思うのですが・・・ソフィアさん自身は何者なんですか?」

「ん?聞いてない、ユーリと一緒よ昔一緒に冒険者やってたの、その時の知り合いがクロノス君で、今でも仲が良いの、それだけよ」

「・・・分かりました、その言葉信じておきます」

エレインはソフィアの言が誤魔化しである事を察するが、本人にこれ以上直接聞いても答えは出てこない事も察せられた、今日エレインの得た教訓の一つは知らなくても良い事は知るべきではない場合があるという事である、エレインは素直に引く事でソフィアとの関係維持を選んだのであった。

「ソフィア、始末が終わったぞ」

「ソフィー、お仕事あるー?」

ミナとレインが食堂に駆け込んできた、レインの始末とはあの空間系魔法の事であろう、ミナは単に暇を持て余しているのであろうか、その活力をエレインは心底羨ましいと思ってしまう。

「はい、ありがとうね、レイン、うーーん、そうだ、今日はエレインさんがいるのでお勉強にしましょう、エレインさん先生役に御協力頂けるかしら?」

「えっと、勉強ですか?先生?」

「えぇ、ほら二人共自分の黒板用意して、エレインさんは壁の黒板を使ってね、そうね、オリビアさんが戻るまで文字と計算のお勉強ね、私は掃除、エレインさんのおかげで日常業務が滞っておりますから、さ、準備して」

ソフィアは手を叩いて腰を上げる、ミナとレインは既に黒板を手にして期待の視線をエレインに向けていた、エレインは物事の進む速度に付いてゆけず腰をあげる事も出来なかった。
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