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本編
6話 エレインさんのいちばん長い日 その1
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ソフィアは眼前に座る真剣な眼差しのエレインを見詰めながら取り留めも無い思考に捕らわれそうになった、昨日の夕食後の騒ぎの件で朝食後にしっかりとエレインに捕まってしまったのである、エレインの語る事は昨日と変わらない事で、さりとて何か具体的な方向性も案もある筈も無く、若さで済ませられる年齢ではもう既に無いよなぁとソフィアはエレインの顔をまじまじと観察してしまった、確か・・・オリビアに聞いた話ではそれなりに苦労人でそれなりに有名人であるが故に放逐されたも同然であったか、貴族としての籍はあるのだろうけど実家としても扱えなくなり、本人もまた燻っているのであろうか、そう考えると、ケイスの例の事件と境遇は同じ「ひきこもり」を外に出すそれも社会的な「ひきこもり」をである、ソフィアにとって縁の無い貴族社会に彼女を復帰させるのが最上の解なのであろうか、いやいやとソフィアは視線を外して思考を断ち切ると、
「では、あの3人にも聞いたのですが、何か方向性というかやりたいことはありますか?」
「えぇ、美味しいものが良いですわ、できればそう派手で楽しめるものかしら?」
「すると、屋台?」
「そうと思いますわ、物品も考えましたが作成の手間を考えたら時間が無いし、出し物も女3人となりますと・・・」
一応それなりに考えていたらしい、
「そこで、先生のあのホワイトソースですわ、学園長が来た時に供された、それとあの薄い丸パン等も面白かったと思いますの、あの食し方が屋台ではどうかなとも思ったのですが・・・」
「なるほど、考えはあるし、考える事も出来るという事ですね」
やや辛辣ながらソフィアはエレインをそう評した、
「・・・キツイ言い方ですわね、何も徒手空拳で挑もうなどと考えてはおりませんのよ、それに正直な事を申しますと、オリビアの教育をお願いしたのも諸々の一環であったりしますの・・・」
「諸々の一環・・・ですか?」
「はい、諸々の一環ですわ」
なるほどとソフィアは沈思した、ソフィア自身も案があるにはあるが、エレインの場合は自身で発案するのが最上であるだろう、ましてその諸々が何を差しているのかが不明であるが、彼女の気質を考えれば悪い事では無い筈である、まして自身から現状を打破しようと動き始めていたのである、少々他力本願ではあったが、
「独立ですか?」
ソフィアは素直な疑問をぶつけた、単刀直入のそのものズバリの聞き方である、
「・・・分かるかしら・・・」
「はい、ならば、はい、御協力致しますよ、お嬢様」
ソフィアはやっと笑顔を見せた、その笑顔にエレインもやっと肩の力を抜く、
「そう言って頂けると、嬉しい、ありがとうございます」
「礼は結果が出てから、言葉では無く、物でというのは如何です?」
ソフィアは実に彼女らしく無い事を口にする、ある程度の距離を取る為と彼女の自立の為にと冷徹に割り切った上での言葉であった、
「わかりましたわ、それではそういう契約で宜しいかしら」
「はい、そういう契約でいきましょう」
ではとソフィアは立ち上がる、
「こういう時は友人を頼みましょう、エレインさん、貴女、素晴らしい友人をお持ちなのをお忘れでは無くて」
そう言ってミナとレインを呼ぶとエレインを誘って寮母宿舎に向かった。
「昨日、お話を持ち掛けられた時から悩んでおりましてね、今日は朝からという事でしたので早朝に手紙をしたためましたの、そうしたら合いたいとの事でね、そこで・・・エレインさん、貴女が秘密を守れる人間であると信じてお連れしますね」
宿舎前でソフィアは事の次第を大雑把に伝えさらに念を押した、ミナとレインは宿舎内に駆け込んでおり、爽やかな朝の乾いた空気の中ソフィアの視線がエレインの心根を射貫くように突き刺さる、
「勿論ですわ、いえ、少々お待ちを、どういった内容の秘密であるかによると思います、あの、ソフィアさんがその普通では無いのは重々理解しておりますが・・・」
しどろもどろに何かを伝えねばならないとして口から言葉が出るにまかせた、
「それに、そうですね、私をそこまで信用して頂けるのは大変光栄でありますが、その、その責務に私が耐えられるかどうかは全く未知数ですし・・・」
「つまり、自信が無いと?」
「はい、そうなりますわね」
語尾が徐々に小さくなる、
「準備できたぞ、どうするんじゃ」
レインはヒョイと顔を出す、エレインは内心「この娘もよく分からないのよね」と改めて未知である事の恐怖を思い出し、背筋を寒くした、
「ありがとう、レイン、さ、まぁ行きましょうか、うーーん、ではこうしましょう、人の口に戸は立てられないといいます、エレインさん、貴女の判断で何を秘するかを考えてみてください」
ソフィアはエレインを心底信用してくれているようである、その言葉の真意に気付きエレインは足りない思考と言葉は飲み込むこととした。
寮母宿舎内は特段変わった事は無い、一階に居間と台所があり2階への階段があった、殺風景な一般的な家屋である、
「こっちよ」
ソフィアが玄関のすぐ脇を指し示す、
「これは」
とエレインは言葉を無くした、玄関とほぼ同じ大きさの長方形の魔法陣が描かれその中に魔法陣の形に則した別の部屋への戸口が口を開けていた、その壁の裏は内庭であるにも係らずである、さらにその先に見える部屋は何とも懐かしさすら感じる貴族趣味全開の豪奢な一室で、金糸で縁取られた分厚い絨毯が敷かれ、壁には巨大な壁画が、調度品は白い大理石と金それに水晶でつくられた雄々しい立像である、朝であるにも係らず壁際には松明が灯されていた。
「ま、慣れるわよ、私は全然慣れないんだけど」
ソフィアは朗らかに笑う、何に慣れないのかが不明である、この魔法に対してか、貴族趣味の部屋に対してなのか、
「どうぞ、普通に潜っていいわよ、あら、二人共先に入っちゃってもう」
当たり前のようにソフィアはその先に一歩を踏み出し、躊躇うというよりも身体が動かなくなっているエレインは、その背に縋りつくようにやっと魔法陣の中へ進入をはたした。
「ようこそ、ソフィア様、ライダー様」
その部屋には宿舎側から見えない位置に女中が一人立っていたらしい、潜り抜けた二人は恭しい一礼で迎えられた、
「御機嫌よう、アフラさん、突然でごめんなさいね」
「いえいえ、パトリシア様は大変喜ばれていましたよ」
「ならいいんだけど、パトリシア様は御身体は大丈夫?」
「はい、今朝がたは少々つわりがあったようですが、御訪問の件を告げましたらそれはもう元気になられて」
アフラは楽し気に話しているが、エレインはいよいよ目が回るようであった、
「先日は、お土産を頂きましてありがとうございました」
「あぁ、そうでしたね、つまらないもので申し訳なかったです」
「そんな、とても美味しく頂きました冷めても美味しかったですよ、今度は是非出来立てを頂きたいです」
「そうね、では、次来る時はリンドさんを差し置いていらっしゃらなければね」
アフラと呼ばれた女中とソフィアは親し気に会話を交わしている、エレインが何とも居心地の悪さを感じた刹那、
「御機嫌よう、ライダー様、本日はお越し頂きありがとうございます、お会いできて光栄でございます」
エレインが一言も発さず固まっているのを見兼ねてアフラは丁寧に頭を下げる、
「大丈夫です、いえ、失礼致しました、本日は不躾にお邪魔致しまして真に申し訳ありません」
正気を取り戻しつつ、貴族の作法を何とか思い出しながら謝辞を伝え、優雅に礼をする、アフラはその様を微笑ましく見詰め軽く返礼をすると、
「さ、どうぞ、ミナ様とレイン様が既に奥へ」
「あっ、そうだった、あの子達、失礼してないわけないわよね」
「それはどうでしょう」
アフラは優しい笑みを浮かべて二人を奥の部屋へ誘導した。
「では、あの3人にも聞いたのですが、何か方向性というかやりたいことはありますか?」
「えぇ、美味しいものが良いですわ、できればそう派手で楽しめるものかしら?」
「すると、屋台?」
「そうと思いますわ、物品も考えましたが作成の手間を考えたら時間が無いし、出し物も女3人となりますと・・・」
一応それなりに考えていたらしい、
「そこで、先生のあのホワイトソースですわ、学園長が来た時に供された、それとあの薄い丸パン等も面白かったと思いますの、あの食し方が屋台ではどうかなとも思ったのですが・・・」
「なるほど、考えはあるし、考える事も出来るという事ですね」
やや辛辣ながらソフィアはエレインをそう評した、
「・・・キツイ言い方ですわね、何も徒手空拳で挑もうなどと考えてはおりませんのよ、それに正直な事を申しますと、オリビアの教育をお願いしたのも諸々の一環であったりしますの・・・」
「諸々の一環・・・ですか?」
「はい、諸々の一環ですわ」
なるほどとソフィアは沈思した、ソフィア自身も案があるにはあるが、エレインの場合は自身で発案するのが最上であるだろう、ましてその諸々が何を差しているのかが不明であるが、彼女の気質を考えれば悪い事では無い筈である、まして自身から現状を打破しようと動き始めていたのである、少々他力本願ではあったが、
「独立ですか?」
ソフィアは素直な疑問をぶつけた、単刀直入のそのものズバリの聞き方である、
「・・・分かるかしら・・・」
「はい、ならば、はい、御協力致しますよ、お嬢様」
ソフィアはやっと笑顔を見せた、その笑顔にエレインもやっと肩の力を抜く、
「そう言って頂けると、嬉しい、ありがとうございます」
「礼は結果が出てから、言葉では無く、物でというのは如何です?」
ソフィアは実に彼女らしく無い事を口にする、ある程度の距離を取る為と彼女の自立の為にと冷徹に割り切った上での言葉であった、
「わかりましたわ、それではそういう契約で宜しいかしら」
「はい、そういう契約でいきましょう」
ではとソフィアは立ち上がる、
「こういう時は友人を頼みましょう、エレインさん、貴女、素晴らしい友人をお持ちなのをお忘れでは無くて」
そう言ってミナとレインを呼ぶとエレインを誘って寮母宿舎に向かった。
「昨日、お話を持ち掛けられた時から悩んでおりましてね、今日は朝からという事でしたので早朝に手紙をしたためましたの、そうしたら合いたいとの事でね、そこで・・・エレインさん、貴女が秘密を守れる人間であると信じてお連れしますね」
宿舎前でソフィアは事の次第を大雑把に伝えさらに念を押した、ミナとレインは宿舎内に駆け込んでおり、爽やかな朝の乾いた空気の中ソフィアの視線がエレインの心根を射貫くように突き刺さる、
「勿論ですわ、いえ、少々お待ちを、どういった内容の秘密であるかによると思います、あの、ソフィアさんがその普通では無いのは重々理解しておりますが・・・」
しどろもどろに何かを伝えねばならないとして口から言葉が出るにまかせた、
「それに、そうですね、私をそこまで信用して頂けるのは大変光栄でありますが、その、その責務に私が耐えられるかどうかは全く未知数ですし・・・」
「つまり、自信が無いと?」
「はい、そうなりますわね」
語尾が徐々に小さくなる、
「準備できたぞ、どうするんじゃ」
レインはヒョイと顔を出す、エレインは内心「この娘もよく分からないのよね」と改めて未知である事の恐怖を思い出し、背筋を寒くした、
「ありがとう、レイン、さ、まぁ行きましょうか、うーーん、ではこうしましょう、人の口に戸は立てられないといいます、エレインさん、貴女の判断で何を秘するかを考えてみてください」
ソフィアはエレインを心底信用してくれているようである、その言葉の真意に気付きエレインは足りない思考と言葉は飲み込むこととした。
寮母宿舎内は特段変わった事は無い、一階に居間と台所があり2階への階段があった、殺風景な一般的な家屋である、
「こっちよ」
ソフィアが玄関のすぐ脇を指し示す、
「これは」
とエレインは言葉を無くした、玄関とほぼ同じ大きさの長方形の魔法陣が描かれその中に魔法陣の形に則した別の部屋への戸口が口を開けていた、その壁の裏は内庭であるにも係らずである、さらにその先に見える部屋は何とも懐かしさすら感じる貴族趣味全開の豪奢な一室で、金糸で縁取られた分厚い絨毯が敷かれ、壁には巨大な壁画が、調度品は白い大理石と金それに水晶でつくられた雄々しい立像である、朝であるにも係らず壁際には松明が灯されていた。
「ま、慣れるわよ、私は全然慣れないんだけど」
ソフィアは朗らかに笑う、何に慣れないのかが不明である、この魔法に対してか、貴族趣味の部屋に対してなのか、
「どうぞ、普通に潜っていいわよ、あら、二人共先に入っちゃってもう」
当たり前のようにソフィアはその先に一歩を踏み出し、躊躇うというよりも身体が動かなくなっているエレインは、その背に縋りつくようにやっと魔法陣の中へ進入をはたした。
「ようこそ、ソフィア様、ライダー様」
その部屋には宿舎側から見えない位置に女中が一人立っていたらしい、潜り抜けた二人は恭しい一礼で迎えられた、
「御機嫌よう、アフラさん、突然でごめんなさいね」
「いえいえ、パトリシア様は大変喜ばれていましたよ」
「ならいいんだけど、パトリシア様は御身体は大丈夫?」
「はい、今朝がたは少々つわりがあったようですが、御訪問の件を告げましたらそれはもう元気になられて」
アフラは楽し気に話しているが、エレインはいよいよ目が回るようであった、
「先日は、お土産を頂きましてありがとうございました」
「あぁ、そうでしたね、つまらないもので申し訳なかったです」
「そんな、とても美味しく頂きました冷めても美味しかったですよ、今度は是非出来立てを頂きたいです」
「そうね、では、次来る時はリンドさんを差し置いていらっしゃらなければね」
アフラと呼ばれた女中とソフィアは親し気に会話を交わしている、エレインが何とも居心地の悪さを感じた刹那、
「御機嫌よう、ライダー様、本日はお越し頂きありがとうございます、お会いできて光栄でございます」
エレインが一言も発さず固まっているのを見兼ねてアフラは丁寧に頭を下げる、
「大丈夫です、いえ、失礼致しました、本日は不躾にお邪魔致しまして真に申し訳ありません」
正気を取り戻しつつ、貴族の作法を何とか思い出しながら謝辞を伝え、優雅に礼をする、アフラはその様を微笑ましく見詰め軽く返礼をすると、
「さ、どうぞ、ミナ様とレイン様が既に奥へ」
「あっ、そうだった、あの子達、失礼してないわけないわよね」
「それはどうでしょう」
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