セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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5話 幕間的日常と祭りの仕込み その5

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午後になり雨はようやく止んだ、止んだとはいえ曇天である、しかしミナとレインは取り合えず動きたいらしい、日課である市場への買い出しを自ら志願する、ソフィアとしては今日の夕食はありもので賄おうと考えていたが二人の熱意に負けて御使いを頼む事とした、

「そうねぇ、良いお魚があったら欲しいかしら、人数ぶんだから7匹~10匹で銅貨30枚迄ね、それと葉物野菜で良い感じのものを、これは銅貨20枚迄で適当にお願い」

ソフィアの指示は酷く曖昧なものである、

「任せるのじゃ」

「任せるのじゃ」

レインの言葉をミナが真似する、はいお願いとソフィアは懐の小銭入れを手渡した、んじゃ行くぞと二人が走りだす瞬間に、

「あ、待って、小銅貨入ってる?中身確認してなかったわ」

ソフィアは二人を呼び止め渡した小銭入れを検めさせた、銅貨が60枚、小銅貨が45枚入っている、

「ん、充分ね、いってらっしゃい」

あらためてソフィアは二人を送り出す、買い出しはこの街にくる前からレインの日課としていた、本人の希望もあった為であるが社会勉強と人間観察を兼ねての仕事である、こちらに生活を移してからは買い出しにミナが付いて回るようになっている、レインの報告によると店先での簡単な計算をしつつ、幼児独特の容赦無い質問で店の人には受けているらしい、どのように受けているのかについて親代わりとして興味があるが普段のミナとそう大きく変わる事はないであろうから、まぁ嫌われる事は無いだろうと信じていた、近いうちに二人に市場を案内して貰おうとソフィアは楽しみにしていたりもする。

「戻りましたーー、ソフィアさんいるーーー?」

「はいはい、お帰りなさい、どうしたの?」

帰寮したジャネットの緊張感の無い独特の言葉使いである、ソフィアはひょいと食堂に顔を出した、

「ソフィア様ーーー、お知恵を貸してーーー」

「どうしたんです、その言いぐさ」

ソフィアは苦笑いを浮かべつつ食堂に入った、

「初夏祭りあるでしょ?」

「初夏祭り?あるの?」

「あるの、そこで屋台か出し物を考えているのね」

「それで?」

「なんかない?」

「なんかとは・・・」

ソフィアはいよいよ渋い顔になる、

「っていうか初夏祭りって何?こっちではあるの?夏祭りじゃなくて?」

「あーー、そう思うよね、私も思ってね、詳細を聞いたらさぁ」

ジャネットは背にした勉強道具をテーブルにドンと置き肩を廻しながら話を続けた、

「ここはほら都会でしょ、人も多いけど神様もいっぱいなもんで3日に一度はお祭りをやってたんだって、あと、記念日も多いみたいだけど、それが大戦前の事ね、それが戦争になっちゃって満足にやれなくなったんだってさ、そりゃそうよねぇあの時期って食べ物も少なかった記憶あるよ、私でさえ、それで、問題は多いけど神様にも申し訳ないってんで、月に一度一番偉い神様の祭りの日に一月分のお祭りを纏めてやっちゃおうになったんだって、いや、神様としてはそれでいいならいいと思うけど、ちょっとって思うよねぇ、こっち来てからさ毎月何がしか大きなお祭りやってるなぁと思ったけど、まさかこんな理由とは思わなくてさー、ま、それはいいとして、今日10日でしょ、20日にね初夏祭りがあってそこでね、屋台か出し物を出したいってなっちゃって、それで・・・」

「何かないかって?」

「そう」

ジャネットは大きく溜息を吐いた、良くしゃべったからか悩みによるものなのかは分からない、

「うちの教室の中でも仲良い奴らが集まって小遣い稼ぎと思ったんだよね、ほらうちら金無いじゃない?」

「そう?生活には困る事はないでしょう、それにこの寮って裕福でないと入れない筈よ」

「そうだけど、それは実家が先払いしてくれてるのであって、私個人は自由にできるお金は無い・・・ようなもんでして・・・」

急に覇気が無くなった、確かにジャネットの言う通りで勉学に勤しむ分には何も不自由は無いように学園も学園寮も機能している、しかし、年頃の女性が自由にできるお金が無いのはそれなりに寂しいものではある、それも刺激の多い都会において。

「それに、他の寮生だと普通に仕事してたりするしね、それ考えると私も何かって思っちゃったりなんかして・・・」

このユーフォルビア第2女子寮は第1女子寮を含めて金銭的に裕福な世帯が入寮できるとされている、実際貴族出身のエレインが所属している事もその証左であるが、ジャネットら一般の生徒も一人部屋が与えられていた、他の寮では2人~4人部屋があたり前であったりする、ジャネットの言う他寮とはそんな下の階級の寮の事であろう、

「うーーん、ジャネットさん、貴女が恵まれている事は・・・」

「勿論、分かってるし、実家には感謝してる、うん、だから勉学に支障を来たすような事は絶対無い」

「それは当然です」

ソフィアはキッパリと言い切って、

「でも、まぁ、気持ちは分かるかな?うん、少し考えてみるよ、どういった商売がいいの?」

「簡単で儲かるの」

「うん、そんなものがあったら既に私がやってます」

冷ややかに笑ってみせる、ジャネットはソフィアの辛辣な笑顔にも負けず、

「んーー、美味しい物?もしくは楽しい事?」

「・・・なるほど、何もないのね」

「うん、だから知恵を借りたいなって・・・」

状況は理解できたが堂々巡りであった、

「そうね、分かった、うん」

ソフィアは眉間を押さえて話を切り上げた。



食後に出てきた一品は、表面は焦げたような茶色、所々黒色の塊が見えるパンケーキのような品で、それは良くも悪くも皆の視線を釘付けにし、その動きを止めた、

「ソフィ、これはぁ?見た事ないよぉー」

「そうかしら、タロウさんが良く作ってたわよ、覚えてない?」

「覚えてない・・・美味しいの?」

「あら、私が作る料理で美味しくないのあった?」

「むーーー、あった」

「あら、正直な子」

ソフィアは破顔した、

「それで、これは何なんじゃ?」

手を止めた皆を代表してレインが問う、

「あら、レインも覚えてない?おいしいわよ、タロウさんの家庭料理、ナベヤキっていうらしいわ」

ソフィアは2辺が長い三角に切られた一切れを取ると口に運ぶ、

「大丈夫ですよ皆さん、これはこういう色の料理であって、私が失敗したわけではないです」

次に手を伸ばしたのはオリビアである、言い訳染みた事を言いつつ口に運ぶ、

「うん、美味しいです、素朴な甘さが良いですね」

オリビアの感想を聞き一同はやっと手を伸ばす、ナベヤキと呼ばれた一品は先日供されたソバの薄いパンよりも黒ずんでおり、パンケーキよりもやや厚みがある、

「あぁなるほど、黒色のは黒糖なのか」

「そうですね、うん、確かに素朴です、優しい甘味が美味しいですね」

「若干塩味が・・・」

「あら、さすがエレインさんね、その塩味が甘味を引き立てるのよ」

ソフィアは楽し気に解説する、

「うん、美味しい、ソフィ、美味しいね」

ミナの満面の笑みにソフィアも微笑み返す、

「ね、美味しいでしょ、そうねぇ、お好みで蜂蜜かけてもいいと思うんだけど、あまり甘くしてもね、それとどう?オリビアさん合わせるとしたら良いお茶はある?」

「うん・・・そうですね・・・」

オリビアは口中に入れた分を慌てて飲み込みながら、答えを探し、

「はい、この甘さを引き立たせる為にちょっと渋めのお茶はどうでしょう?」

「そうね、渋みもいいけど、ほのかに甘い方が良いかもしれなくてよ、ほら、最近のお菓子ってガンガンに甘いでしょ、それに比べるとこのナベヤキでしたっけ、これは甘味が少ないですし」

「はい、なるほど・・・では、お茶比べしましょうか、わたくしは渋めでお嬢様は甘めのお茶で」

そう言ってオリビアは席を立ち厨房に引っ込んだ、

「もしかして、ソフィアさん、これって?」

ジャネットが2枚目に手を伸ばしつつ思い出したようにソフィアに問う、

「なんか手掛かりになるかしら?このナベヤキなら比較的簡単なお菓子よ、見た目が慣れないと、とも思うけど、それは全ての料理がそうだとも思うしね、如何かしら?」

「うん、嬉しい、作り方是非教えてください、それと、いや、ここからは私等でやらないと」

ジャネットは思案しつつ2枚目を口に運ぶ、

「何ですの?ジャネットさん、何か悪巧みですの?」

珍しくケイスがジャネットの言に喰い付いた、

「んーー、こっちの話ー、秘密でしゅー」

ふざけて誤魔化そうとするジャネットにケイスとエレインは眉根を寄せる、

「ソフィアさん、どういう事なんです?」

エレインは矛先をソフィアに向けた、

「どういう事って、ねぇ?」

楽し気にジャネットに話を振るソフィア、

「別にいいだろう、お嬢様がたには関係無い話だぜ」

「ミナも知りたーい、ジャネットーーー」

遂にミナが参戦しミナの上目遣いと猫なで声がジャネットに決定的一打を与える、

「うぬー、分かったよ、初夏祭りで屋台か出し物やりたくて、それで何かないかって相談したの、ソフィアさんに」

「なるほど、屋台か出し物ですか、小遣い稼ぎ?」

ケイスの核心をつく質問に、

「そりゃそうだよ、小遣い殆ど貰ってないしさぁ、きつくなってきたってのが本音」

ジャネットが入学してから次の秋で一年になる、恐らく自身の用向きを今まで貯めた小遣いで賄って来たのであろう、それが心許なくなった故の今回の発案である、

「ふーーん、一人でやるの?教室のお仲間と?」

「仲良い連中で、の予定」

ジャネットは視線を外しながら答える、

「ジャネットさん、是非細かいお話を伺いたいとお嬢様は仰せです」

茶を持ったオリビアがすっとエレインの後方に立ち実に事務的な口調でジャネットを追い詰める、

「はい、私も知りたいです」

ケイスが真剣に賛同し、

「儂も詳しく聞きたいのう?」

何故かレインが参戦した、

「じゃ、ミナも」

当然のようにミナも参加し、あらゆる方向から責め立てられたジャネットは、

「ええい、分かったよ、何を話せばいいのさ?」

観念したのかその計画の詳細を話し出した。
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