上 下
92 / 140
第五章.美しくありたい

1.父の手がかり

しおりを挟む
「おい師匠クソジジィ、用件はなんだ」

 そう『大樹』のセブルス様にぶっきらぼうな態度を取るクレル君を見ながら、私は本当に大丈夫なのかオロオロと二人の間に視線を彷徨わせる事しかできません……いくら師弟の関係でも、という不安が拭えません。

「誰じゃ、お前は」

「……ジジィ、お前」

 まさか……先ほどのクレルと同じ様に自己を見失って? セブルス様ともなれば、その身に取り込んだ魔力は如何程になるのでしょうか……最低でも百年も前から存在している人です。……少なくとも有り得ない話ではないです、クレル君もその可能性に思い至ったのか驚愕にその表情を──

「──ついにボケたか、殺害は任せろ。良いインテリアに加工してやる」

「ボケてねぇよクソガキィ!!」

「……」

 …………大丈夫みたいですね、どうやらお二人の軽い挨拶みたいで……見下した様な表情を浮かべながら『供物』を用意するクレル君に対して、セブルス様は怒鳴りながらその頭を叩きます。

「痛ってぇなぁ?! ジジィが紛らわしい大根演技をするからだろッ?!」

「はんっ! あんな見分けも付かんから、いつまで経っても半人前なんだよぉ~! ベロベロバー!」

「こ、コイツッ?!」

 ど、どうしましょう? クレル君と一緒に居ると、セブルス様に抱いていた畏敬の念がどんどん私の中で崩れていってしまいます……これではいけません、なんとかしなければ──

「──おっほ、ヤベェ鼻水垂れちまったわ」

「……やっぱボケてんだろ、クソジジィ」

「……」

 ごめんなさい、無理です。やはり私にはなんとか出来そうにありません……クレル君と一緒にセブルス様と接する度にそのイメージが凄まじい勢いで低下していってしまいます。……それを止めることは、もはや私自身には無理みたいです。

「それで? 用件ってなんだ、早く言え」

「まったく目上の者に対する口の利き方がなっとらんなぁ? ……まぁ、ええわい」

 やっと本題に入れるようですね。私の中のイメージが崩れて畏敬の念が無くなっていくと言っても、クレル君とセブルス様のこの様な軽いやり取りは見ていてまるで本当の親子の様で……決して不快ではありません。

「お前らに個人的なお使いを頼む」

「……個人的? また何か新人にやらせるには厄介な依頼を斡旋するのではなく?」

 そうですね、こう言ってはなんですが……セブルス様が私達に斡旋する討伐依頼はどれも厄介という一言に就きます。初の依頼で既に特殊過ぎましたし、二回目にはもう狩人と戦闘する事になりました。……初依頼の魔物は産まれたばかりでしたし、狩人は末端だったらしくなんとか凌いで来ましたが……。

「おう、俺の昔の知人にレナリア人が居ってな?」

「……レナリア人?」

 ……驚きました。まさかセブルス様のような方にレナリア人の知り合いの方が居たなんて……いや、でも長い年月を生きていればそういう事もあるのかも知れません。

「おう、孤児院を運営しとるソイツに頼んどった素材があってな? それを受け取りに行ってもらいたい」

「そんなの自分で行けばいいだろ?」

 まぁ、そうですね……セブルス様のような『転移』をなんでもない事かのように行使する大魔法使いであるならば、御自身ですぐに済ませられる用事かと思いますが……。

「俺はお前らと違って忙しいんだよ~、お前らよりも偉いからな~、カッー! 偉くて人気者じゃとつれぇわーッ!」

「……」

「……冗談だっつの、そう睨むでないわ。弟子であるお前の紹介も兼ねとる、リーシャも一緒なのはただ単に相棒じゃからな」

 ……そうですね、私がクレル君の相棒なのですからしっかりと……そう、しっかりと彼を見てあげないと、彼自身が見失った彼を見つけてあげないといけません。……でないと、彼は色々と不安定ですぐに消えてしまいそうです。

「俺もここ暫くは会ってないが……まぁ大丈夫じゃろ」

「適当だな……俺たちに利点はあるのか? どんな『対価』を示せる?」

「……(ビクッ」

 相手があの『大樹』のセブルス様ですから……『今ここでお前らの命を狙わないのが対価』などと仰られてしまったら経験も実力も足りない私達にはどうしようもありませんが……クレル君は本当に強気で大丈夫なのでしょうか?

「……リーシャや、そう怯えんでもちゃんと『対価』は支払うでな?」

「あっ……えぅ……そ、の……………………すい、ま……せん……」

 あ、あぅ……どうしましょう? 私の内心の不安を見抜かれてしまいました……クレル君が強気で大丈夫なのか心配している場合ではありません、私が弱気すぎて大丈夫ではありませんでした。

「あまりリーシャを虐めるな……それで『対価』とは?」

 自然な動きで私の前に立ち、セブルス様の視線から身体を使って遮ってくれるクレル君に思わずホッと安堵の息をつきます……って、これではどっちが相棒を見ているのか分かりませんね。

「虐めとらんわ、クソガキ……『対価』はお前の父親の情報、でどうじゃ?」

「っ?! ……それは本当か?」

「……(チラッ」

 クレル君の父親、ですか……そういえば依頼を通して世界中を巡る事で探していると言っていまいしたね。……今までの依頼でまったく情報は掴むことができませんでしたが、まさかここで手に入るとは……。

「あぁ本当じゃ……その俺の知人が何かを知っとるらしいぞ?」

「そ、そうか……」

「……(ジッ」

 なにやらクレル君が考え込んでしまいました……それ程までに自分の父親を見つける事が彼の中で重要なのでしょうか? ……私の両親は既に居ない、というよりも物心ついた時から居ませんでしたのでその感覚が分かりません。

「遂に殴れる……」

「? ……??」

 あれ? あれれ? な、殴る? クレル君の顔もなにやら複雑な心情が渦巻いているようですが……一番上に来ているのは『憤り』の感情のように思えます。……どうやら私が想像するような感動的なものではないみたいですね。

「それで? 場所はどこだ、何を受け取れば良い?」

「手のひら返しよって……場所は帝国西北西にある『ブリーティア領』……その森の中だな。受け取って欲しい物はこの紙に書いてある」

 『ブリーティア領』と言えば……セブルス様の言ったように帝国の西北西にある『大ブリーティア島』と『小ブリーティア島』を中心とする様々な島々から成る海に囲まれた領地ですね。……あまりご飯が美味しくないと聞きますが、実際のところどうなんでしょう?

「『ブリーティア領』の森? そんな場所に孤児院が?」

「まぁガナン人の孤児も居るし、仕方のないところじゃろ」

「それは……そうだな」

 海に囲まれた『ブリーティア領』……そのさらに森の中という不便な土地で隠れ住んでまでガナン人の孤児も助けるレナリア人ですか……奇特な方も居るのですね。

「最後にその人物の名は?」

 そうでした……相手の名前が分からないと、行っても見つけられません。『ブリーティア領』の森の中にある孤児院という事なので、見つけられれば名前は分からなくとも最悪なんとかなりそうではあります。
 それに受け取って欲しい物が書かれた紙には植物の名前らしきものが羅列されていますし、その場所でしか採れない貴重な物なのだとしたら場所の特定も容易です。……後はどうやって海を渡るかですね

「あぁそうじゃったな、其奴の名は──」

 ですが聞かなくても良いという訳ではありません……魔法使いにとって名前というものは本当に大事な物です。それをおざなりにするのはあまり褒められた事ではありませんからね。……たとえその方がレナリア人であっても……そんな事を考えながらセブルス様の口元を注視します。

「──アグリー醜い

▼▼▼▼▼▼▼
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する

鈴木竜一
ファンタジー
旧題:工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する~ブラック商会をクビになったので独立したら、なぜか超一流の常連さんたちが集まってきました~ 【お知らせ】 このたび、本作の書籍化が正式に決定いたしました。 発売は今月(6月)下旬! 詳細は近況ボードにて!  超絶ブラックな労働環境のバーネット商会に所属する工芸職人《クラフトマン》のウィルムは、過労死寸前のところで日本の社畜リーマンだった前世の記憶がよみがえる。その直後、ウィルムは商会の代表からクビを宣告され、石や木片という簡単な素材から付与効果付きの武器やアイテムを生みだせる彼のクラフトスキルを頼りにしてくれる常連の顧客(各分野における超一流たち)のすべてをバカ息子であるラストンに引き継がせると言いだした。どうせ逆らったところで無駄だと悟ったウィルムは、退職金代わりに隠し持っていた激レアアイテムを持ちだし、常連客たちへ退職報告と引き継ぎの挨拶を済ませてから、自由気ままに生きようと隣国であるメルキス王国へと旅立つ。  ウィルムはこれまでのコネクションを駆使し、田舎にある森の中で工房を開くと、そこで畑を耕したり、家畜を飼育したり、川で釣りをしたり、時には町へ行ってクラフトスキルを使って作ったアイテムを売ったりして静かに暮らそうと計画していたのだ。  一方、ウィルムの常連客たちは突然の退職が代表の私情で行われたことと、その後の不誠実な対応、さらには後任であるラストンの無能さに激怒。大貴族、Sランク冒険者パーティーのリーダー、秘境に暮らす希少獣人族集落の長、世界的に有名な鍛冶職人――などなど、有力な顧客はすべて商会との契約を打ち切り、ウィルムをサポートするため次々と森にある彼の工房へと集結する。やがて、そこには多くの人々が移住し、最強クラスの有名人たちが集う村が完成していったのだった。

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。 アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。 だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。 それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。 しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。 ☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*) 今後ともよろしくお願い致します🍀

ペンギン転生 異世界でペンギンになったが美少女に飼われたので別に良い

レオナール D
ファンタジー
イジメが原因で引きこもっていたら、クラスメイトが一度に行方不明になった。急に教室が光って消えたらしい。 いや、それって異世界召喚だろ。今頃、アイツら大変な思いをしてるんだろうな、ざまあ。 そんなことを考えていたら僕も召喚された。ペンギンになって美少女に使役されているが可愛いのでギリ許す。  ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

捨てられた第四王女は母国には戻らない

風見ゆうみ
恋愛
フラル王国には一人の王子と四人の王女がいた。第四王女は王家にとって災厄か幸運のどちらかだと古くから伝えられていた。 災厄とみなされた第四王女のミーリルは、七歳の時に国境近くの森の中で置き去りにされてしまう。 何とか隣国にたどり着き、警備兵によって保護されたミーリルは、彼女の境遇を気の毒に思ったジャルヌ辺境伯家に、ミリルとして迎え入れられる。 そんな中、ミーリルを捨てた王家には不幸なことばかり起こるようになる。ミーリルが幸運をもたらす娘だったと気づいた王家は、秘密裏にミーリルを捜し始めるが見つけることはできなかった。 それから八年後、フラル王国の第三王女がジャルヌ辺境伯家の嫡男のリディアスに、ミーリルの婚約者である公爵令息が第三王女に恋をする。 リディアスに大事にされているミーリルを憎く思った第三王女は、実の妹とは知らずにミーリルに接触しようとするのだが……。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

魔がさした? 私も魔をさしますのでよろしく。

ユユ
恋愛
幼い頃から築いてきた彼との関係は 愛だと思っていた。 何度も“好き”と言われ 次第に心を寄せるようになった。 だけど 彼の浮気を知ってしまった。 私の頭の中にあった愛の城は 完全に崩壊した。 彼の口にする“愛”は偽物だった。 * 作り話です * 短編で終わらせたいです * 暇つぶしにどうぞ

処理中です...