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第四章.救えない

7.凸凹親子

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​──なぜ俺はこんな事をしているのだろう

「お嬢ちゃーん! こっちにもお願いするよー!」

「はーい!」

 今俺は……太ももまでのミニスカートのウェイトレス服を着用し、慣れない満面の笑みでむさ苦しい男どもに愛嬌を振り撒きながら給仕をしている……。
 生まれてこの方膝上まで丈が短い服など着たこともなく、ふとした拍子に下着が見えやしないかと恐々としながら店内を駆けずり回っている。

「こっちにも……兄ちゃん相変わらず無愛想で怖ぇよ」

「……」

 ガイウス先輩は先輩で慣れない接客業に顔の表情筋が固まっていやがるな……そんなところも可愛くて素敵だけどさ。
 親子としてっていうのが少し気に入らないけれど、ガイウス先輩とこうして近くで働けるのは役得かも知れない……いやまぁ、潜入捜査の一環なんだけど。

「働き者だねぇ……どうだい? お嬢ちゃん、うちの倅の嫁に来ないかい?」

「っ?!」

 なんだと? 倅ってお前の向かい側に座っている坊主か? 急に話しかけられるのにもビックリするがその内容にも驚く……こいつまだ成人してねぇだろ絶対。そんな奴の嫁とか捕まるわ! ……俺ってそんなに小さい子に見られるのか。

「お嬢ちゃん?」

 おっといけない、ちゃんと受け答えしないと怪しまれる……なんの為にこんな破廉恥な服装でガイウス先輩以外の男どもに愛嬌を振り撒いていると思っているんだ! 潜入捜査のためだろ?
 恐らく向こう側もこちらを怪しんではいるだろうが、変に動き回れるよりはと踏んで雇ったのだろう……いわばこの状態はお互いの利害が変な形で一致した状態、先にボロを出した方が負けだ。

「私ねー、パパと結婚するからやだー!」

「ぶっ?!」

 ハッハッハッ、どうだ? 完璧な言い訳だろう?! 小さい子どもが親と結婚したがるのは良くあること……さらに言えば嘘ではない! 願望が入っているかも知れないが嘘ではない!
 嘘を見破る魔法を使われても完璧だな! ……そんな魔法あるのか知らないが『未来視』みたいな奴も居るし、あるだろう! まさに完璧! ガイウス先輩がビックリして吹き出しているが……ごめん、今顔が熱くてまともにそっちを見れないんだ。

「ハッハッハッ! そうかそうか、なら仕方ねぇな!」

「振られちまったな坊主!」

「うるさい!」

 すまんな坊主。そんなに睨み付けられても私の心は既にガイウス先輩の物なんだ。……そのガイウス先輩本人からも微妙な視線が背中に突き刺さっている気がしないでもないが気にしない。
 破廉恥な格好で遠回しに告白してみるも……やはり通じないのは分かっていたさ、落ち込まない訳では無いがこんなもの……シーラにかけられる心労に比べたらまだマシというもの!

「……おい、どういうつもりだ」

「……どうせ任務が終わったらそれまでなんだ、変に繋がりは作らない方が良いだろ?」

 ガイウス先輩が近付いてきてこっそりと小声で先ほどの真意を尋ねてくるが……知らない、教えてあげない。今までだってアピールしていたのに気付いてくれないガイウス先輩に惚けて見せる。

「それよりもこの店で当たりっぽいぞ」

「……それは本当か?」

「あぁ、俺が索敵特化なのガイウス先輩も知ってるだろ?」

 チョーカーとして擬態させている猟犬から魔法使いでさえも感知できないほどに薄くし、形質を変えた魔力を伸ばしてこの建物の全容を時間をかけて把握したところ……地下室があり、そこで凄惨な実験が行われているのが解った。

「……あと、まだ全容は把握した訳ではないが他にも脱出経路がありそうだ……ここでは無い何処からか、子ども位の大きさの人間が運び込まれているようだ」

「それが本当なら問題だな」

「あぁ」

 普通にレナリア人を攫っているのなら帝国軍の失態だし、人権があるため人質に取られると少しだけ不味い……人質ごと吹っ飛ばすことは出来るが、魔法使いのせいだと宣伝工作する時間がかかるし、奴らもそれを待ってましたと言わんばかりにプロパガンダは打ってくるだろう。
 ではガナン人なら良いのかと言われるとそうでもなく、奴らは同胞意識は高いくせに平気で肉親だろうと『対価』に捧げ大魔法を放つ……いや、『対価』としての価値を高めるために態と同胞意識を高く、仲間を大事にするのかも知れない。……まぁ、彼らの生態について考えるだけ無駄だな。

「本当に親子で仲が良いのね~」

「パパのことだーい好き! ……でだ、どちらであろうと早めに突入した方が良いかも知れん」

 話し掛けて来たオバサンに笑顔を振り撒きながらガイウス先輩の首元に抱き着く……役得だと感じている事を悟られないように、すぐ様シリアスな雰囲気を出しながら話の続きをする。

「手のかかる娘です……帰ったらアリシア達と話し合うか」

「アイツらも何か掴んでいるかも知れないしな……シーラの面倒でそれどころじゃなかったかも知れないが」

 いや正直すまないとは思っている……新人にシーラの相手は荷が重いことは重々身をもって承知してはいるが潜入捜査するのなら索敵特化の俺が必要だし、それにシーラを連れて行く訳にはいかないし……後で駅前のシュークリームでも奢ってあげよう。

「……そんなんでシーラ少尉は大丈夫なのか?」

「……まぁ、クビになっていない時点で解るだろ?」

 数多の問題行動を起こし、莫大な食費を経費として落として会計係を悩ませながらも従軍僅か一年で昇進した事から見て、上が彼女をどれだけ優遇しているのか判るというもの。

「……それにシーラ少尉は既に名持ちを狩っている」

「それは事実か……?」

「あぁ」

 あの歳で既に名持ちを狩っていて実力も申し分ないことから『ボーゼスの再来』『二代目乱獲』とまで言われ出している……まだまだボーゼス中佐には及ばないが、これから年齢で衰える事を考えると次代の主力と期待されているのは確実だろう。

「だから上手く手綱を握るのが大変でな……」

「……アリシアは大丈夫か?」

「今のところは大丈夫だろう……多分」

 何か問題が起きたと連絡も入っていないし、ここら近辺で騒ぎが起こったとも聞いていないから上手くやっているとは思うが……自分で言っていて不安になってきたな。

「……今日は早めに切り上げるか」

「……そうだな」

 できるだけ早めにアリシア准尉を助け出そうとガイウス先輩と一緒に給仕に戻るの​──おかしいな、なんか変な寒気がするぞ……?

「……?」

「どうした?」

「……いや、なんでもない」

「そうか」

 まぁ、寒いのは恐らくこんな破廉恥なミニスカートを履いているからだろう……早くこんな任務は終わらせるに限る。





「​──ほうほう? ヴェロニカが可愛らしい服を着ているでありますよ!」

「……そうなの?」

「ほら! アリシア殿も見るでありますよ!」

「どれどれ? …………あら本当ね」

 その頃、隠れ家の準備が終わり、上官二人が潜入している飲食店を監視していたアリシアとシーラの二人は、ヴェロニカの格好を見てはしゃいでいた。

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