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第一章.憤る山

11.鬼殺し

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「……居たな」

「……(コクッ」

 翌日の早朝、日が昇り始めると共にすぐに先日の広場へとリーシャと二人で向かう。既に奴らを殺す準備も算段も整っている……後は万事上手くいくことを祈るのみ。

「……なにをしている?」

「……」

 山を登り迂回するようにしてまた降ってからの所にある山の斜面、そこで木々に身を隠し下方の奴らの広場を見ると先日の老いた小鬼を中心として、赤子の小鬼たちが円形に疎らに立っており、身体を左右にユラユラと揺らしている。

『──ァ"ァ"ァ"ア"ア"』

『『っ! ァ"ァ"ァ"ア"ア"』』

 それをずっと続けているのかと訝しながら伺っていると一人の小鬼が急に声を出し始める……それを皮切りに他の小鬼たちも真似をするように叫び始めるが誰も協調しようとぜす、リズムもテンポも音階もバラバラの不協和音が山に木霊する。

『……カ"ッ"カ"ッ"カ"ッ"』

 それを眺めて老いた小鬼は満足そうに声を震わせて耳障りな笑い声を上げる……周囲の小鬼共が思い思いに叫んでいるというのにその笑い声はこちらまで響いてくる。

「……聞くに堪えない、やるぞ」

「……(コクッ」

 リーシャと二人で奴らの合唱に顔を顰める。あまりにも酷いそれを、もう聞きたくないとばかりに開戦の準備をする。憎き奴らを見据えながら供物を取り出して魔法の準備をする。

「『我が願いの対価は嘆きの薔薇 望むは頑強なる肉体 君を愛で 君を育み 君を摘んだ私に その献身を』」

「『我が願いの対価は憎しみの鉄人形 望むは魔を打ち払う鋭き剣 主人に造られ 主人に尽くし 主人を護るため その身を武器と化せ』」

 リーシャから鍔の部分に笑顔の鉄人形の意匠が施された長剣を貰う、先日の反省でたとえ広場であろうと乱戦になったら槍は使いづらいからだ……ここらへんがまだまだ経験不足だと感じるな。

「リーシャは援護をする時護衛に最低三体は自身の周りに確保しておけ」

「……(コクッ」

 リーシャは非力で体力が無いからな、ここまで来る時も少し俺が背負った場面もあった……それを自分でも解っているのか素直に頷き、自律式の鉄人形を十体造り出す。

「……では行くぞ!」

「は、い……!」

「『我が願いの対価は悲しみの羊毛 望むは悪縛る縄 君を育む主人 燃える牧場 不当に略奪される君の悲哀 悪をその身で逃がすな』」

 彼女の準備ができたのを確認し、返事も返ってきたところで斜面から躍り出る……空中で発動した魔法によって地面から赤黒い羊毛でできた縄を出し、小鬼たちを縛り、転ばせ、行動範囲を狭める。

『ヤ"ァ"ッ"?!』

『ナ"ニ"ッ"?! ナ"ニ"ッ"?!』

 楽しく合唱をしていたところで奇襲され、混乱し俄に騒ぎ始める小鬼たち……その隙を逃さず羊毛の縄で首を絞め折り、足に巻き付けて小鬼同士をぶつけ、腹を貫き、着地と同時に首を落とす。

「『我が願いの対価は久しき鉄人形 望むは敵を寄せ付けない囲い 主人に造られ 主人に尽くし 主人を護るため その身を犠牲にせよ』」

 リーシャも着地と同時にさらなる魔法を行使して十字の鉄器を十三本出す……自身の傍に鉄人形三体と鉄器三つを残し、残りの人形達を暴れさせ、十字の鉄器で攻守共に援護する。

「露払、いは……任せ、て……!」

「あぁ……!!」

 リーシャに周囲の小鬼共を任せて核と思わしき老いた小鬼の元へと走る……羊毛の縄の妨害も効いているのか小鬼共はリーシャにどんどん駆逐されていく。

「シィッ!」

 こちらの道を阻むべく躍り出る小鬼たちを処理していく……飛びかかって来た小鬼をその場で回転ることで避け、自身の横に出た際に首を落とす。斜め下から拳を突き上げてくる者は背を逸らして躱しながら顎を蹴り上げ晒した喉を撫で切る。

『ブ"ァ"ッ"?!』

『ガ"ヒ"ュ"ッ"?!』

 やはり数が多い、奇襲とリーシャの露払いは予想以上と言っていいほど効果を齎したというのに……体感ではさほど減っていないように思える。

「ふんっ!」

『ガ"ッ"?!』

『ビ"ェ"ッ"?!』

 後ろから体当たりをしてくる小鬼を振り向きざまに斬り捨て、横の木から飛び降りてきた者を左脇から抜刀するように斜め上へと放った斬撃で顔を真っ二つにする……一斉に飛びかかってくる小鬼たちを走り抜けることで躱しつつ、合間に魔法による遠距離攻撃で牽制しながら手傷を負わせていく。

「死ね! 老いぼれ!」

 そこまでしてやっと老いた小鬼へと辿り着く……相変わらずこちらをジッと見詰めていた奴は、こちらが振りかぶる長剣を見て取ってから両腕の黒い不定形を作り替えて刃を造り出し、こちらの上段からの斬撃を受け止める……そのまま押し込もうとして──

『──歌ワナイノカ?』

 ──魔物の発した言葉に驚いた隙を突かれて蹴り飛ばされる。
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