上 下
21 / 140
第一章.憤る山

2.初の討伐依頼

しおりを挟む
「クレル・シェパード、リーシャ・スミス両名様は受付までお越しください」

「……呼ばれたな、行こうか」

「……(コクッ」

 呼ばれたか、おそらく依頼の選別が終わったのだろう。リーシャを伴って受付まで赴く。師匠によると上のランプが青く点滅しているところに行けばいいとのこと……どうやら呼ばれた人以外には光は見えないようだ。受付に着くと鉄格子で顔は見えず、手元の向こう側から開く小さな小窓でやり取りするようだ。

「クレル・シェパード様とリーシャ・スミス様ですね? マーリン・アンブローズ様とセブルス・オリバー様両名から言付かっておりました初依頼の選別が終わりました」

 そう言って手元の小窓から依頼表を手渡される。未だに師匠の立場がわからないがこの協会にも融通がきく程度には地位はあるようだ。

「推定依頼難度はレベルII、種別は討伐依頼です。依頼主は帝国北部の領主から要請を受けた帝国政府でありますが当然のことながら口外禁止です」

 まぁ、そうだろう……自分たちが悪として魔女狩りを推奨し、狩人を放って迫害している相手に処理しきれない魔物の討伐を依頼するなど、あってはならないことだしな。

「依頼内容は帝国北部の中領地ヴィーゼライヒの山間の村々で家畜や薪など、越冬に必要な備蓄を何者かに奪われる事から始まったそうです」

 最初は野犬か小規模な山賊でも現れたかと疑ったようだが被害は段々とエスカレートし、その内容も毎日ランダムで取り留めもなく、遂には朝起きたら村の広場に隣村の村長の死体が吊されていた事もあったという。

「そこで困り果てた村々の有志が領主に直談判するための情報を集めようと大規模な山狩りをしたところ小鬼が発見されたそうです」

「……小鬼?」

 確か鬼とは東方諸民族に伝わる幻想生物だった筈だ……小鬼ということはそれを小さくしたもの、或いはその子どもだと言うことか。

「リーシャは小鬼について何か知らないか?」

「……(フルフルッ」

「そうか……いや、すまない」

「……(コクッ」

 まぁ、東方諸民族の血を引いていると言っても四分の一であり、魔法使いであることから両親ともまともに連絡を取っているのかすら怪しい……それが祖父母となれば音信不通は当たり前か……それに、彼女はガナン人だ。東方諸民族でないのだから知るはずも無いな。

「……続けてもよろしいでしょうか?」

「あぁすまない、続けてくれ」

 おっと、受付さんの説明を遮る形になってしまったな……気を付けなければ、こちらは新参者なのだから。

「……そこで小鬼が実在するはずもないために、これはそれに似た魔物だろうという判断がなされました」

 まぁそうだろう、明らかに実在する生き物ではありえない者が居たのだ……まず魔物の存在を疑う。

「また、発見当時に複数の存在も確認されたとの事で、地元の猟師に聞いてもそのような生物が群れを成しているのは知らないという事で帝国政府も魔物の可能性が高いと踏み、依頼されたそうです」

「魔物で同一存在が複数と言うと……」

「はい、ドッペルゲンガーです」

 『ドッペルゲンガー』……魔物は産まれてから直ぐに自身の願望や欲望を叶えるために動く、その時その魔物の起源を乗せた魔力に当てられた者は『共感者』となるが……これが長い期間魔力の影響を受けたり、魔物の起源に深く同調したりするとその者自身も魔物となってしまう……見た目は親となった魔物とまったく同じであり、倒したと思ってもそれは子であり、本体はまだ生きて被害が広がった、などはよく聞く。

「……既にドッペルゲンガーが居るのなら根絶は難しいな」

「はい、その小鬼は村人が姿を表しただけで逃げたのでそこまで強くはないとは思われますが既にかなりステージが進行しているため依頼難度はIIです」

 なるほど、なぜ依頼難度Ⅰではないのかと思ったがそういう事か……師匠たちは戦闘力よりも応用力を試そうとこの依頼を指定、もしくは要望を出していたのだろう。

「ただ逃げたと言ってもその理由はわかっておらず、戦闘も行われていないため不確定要素も多いです……お受けしますか?」

「当然」

「……その魔物の起源もわかっていないため、対処しづらいですが構いませんか?」

「あぁ、構わない……リーシャはどうだ?」

「…………大丈、夫……です……」

「だ、そうだ」

「……承りました」

 ……偉く渋ったな? そこまで何度も確認を取るほどの事だろうか? ……これは師匠たちがまたなにか企んでいるのか?

「依頼の受注が完了致しました、期限は最長三ヶ月までとなっております」

「わかった」

「それではご武運を」

 受注済みの判子の押された依頼表を受け取り、リーシャを伴って奈落の底アバドンから出る……初めての依頼だ、万全を期そう。

▼▼▼▼▼▼▼
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜

赤井水
ファンタジー
 クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。  神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。  洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。  彼は喜んだ。  この世界で魔法を扱える事に。  同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。  理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。  その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。  ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。  ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。 「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」  今日も魔法を使います。 ※作者嬉し泣きの情報 3/21 11:00 ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング) 有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。 3/21 HOT男性向けランキングで2位に入れました。 TOP10入り!! 4/7 お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。 応援ありがとうございます。 皆様のおかげです。 これからも上がる様に頑張ります。 ※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz 〜第15回ファンタジー大賞〜 67位でした!! 皆様のおかげですこう言った結果になりました。 5万Ptも貰えたことに感謝します! 改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

魔がさした? 私も魔をさしますのでよろしく。

ユユ
恋愛
幼い頃から築いてきた彼との関係は 愛だと思っていた。 何度も“好き”と言われ 次第に心を寄せるようになった。 だけど 彼の浮気を知ってしまった。 私の頭の中にあった愛の城は 完全に崩壊した。 彼の口にする“愛”は偽物だった。 * 作り話です * 短編で終わらせたいです * 暇つぶしにどうぞ

龍皇伝説  壱の章 龍の目覚め

KASSATSU
現代文学
多くの空手家から尊敬を込めて「龍皇」と呼ばれる久米颯玄。幼いころから祖父の下で空手修行に入り、成人するまでの修行の様子を描く。 その中で過日の沖縄で行なわれていた「掛け試し」と呼ばれる実戦試合にも参加。若くしてそこで頭角を表し、生涯の相手、サキと出会う。強豪との戦い、出稽古で技の幅を広げ、やがて本土に武者修行を決意する。本章はそこで終わる。第2章では本土での修行の様子、第3章は進駐軍への空手指導をきっかけに世界普及する様子を独特の筆致で紹介する。(※第2章以降の公開は読者の方の興味の動向によって決めたいと思います) この話は実在するある拳聖がモデルで、日本本土への空手普及に貢献した稀有なエピソードを参考にしており、戦いのシーンの描写も丁寧に描いている。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する

鈴木竜一
ファンタジー
旧題:工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する~ブラック商会をクビになったので独立したら、なぜか超一流の常連さんたちが集まってきました~ 【お知らせ】 このたび、本作の書籍化が正式に決定いたしました。 発売は今月(6月)下旬! 詳細は近況ボードにて!  超絶ブラックな労働環境のバーネット商会に所属する工芸職人《クラフトマン》のウィルムは、過労死寸前のところで日本の社畜リーマンだった前世の記憶がよみがえる。その直後、ウィルムは商会の代表からクビを宣告され、石や木片という簡単な素材から付与効果付きの武器やアイテムを生みだせる彼のクラフトスキルを頼りにしてくれる常連の顧客(各分野における超一流たち)のすべてをバカ息子であるラストンに引き継がせると言いだした。どうせ逆らったところで無駄だと悟ったウィルムは、退職金代わりに隠し持っていた激レアアイテムを持ちだし、常連客たちへ退職報告と引き継ぎの挨拶を済ませてから、自由気ままに生きようと隣国であるメルキス王国へと旅立つ。  ウィルムはこれまでのコネクションを駆使し、田舎にある森の中で工房を開くと、そこで畑を耕したり、家畜を飼育したり、川で釣りをしたり、時には町へ行ってクラフトスキルを使って作ったアイテムを売ったりして静かに暮らそうと計画していたのだ。  一方、ウィルムの常連客たちは突然の退職が代表の私情で行われたことと、その後の不誠実な対応、さらには後任であるラストンの無能さに激怒。大貴族、Sランク冒険者パーティーのリーダー、秘境に暮らす希少獣人族集落の長、世界的に有名な鍛冶職人――などなど、有力な顧客はすべて商会との契約を打ち切り、ウィルムをサポートするため次々と森にある彼の工房へと集結する。やがて、そこには多くの人々が移住し、最強クラスの有名人たちが集う村が完成していったのだった。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

処理中です...