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本編
抱擁 3 〚キサ〛
しおりを挟むその日のセックスは、溶け合うようだった。
肉体も魂も境目がわからなくなって、ライブのとき以上に昂ぶって、混ざり合った。
いつもより敏感に反応を示す体に、囁くような喘ぎ声にいいだけ煽られて、いったい何度放っただろうか。
ただ熱を分け合うように繋がっていただけなのに、カナが全身で歓びを伝えるから。
首に縋り付きながら耳元で「いぶき、すき、」なんて囁かれて、理性なんて欠片も残らなかった。
やさしく抱こうと思っていたのを思い出したのは、何度目かを放ったとき。くったりと力の抜けた身体に我に返ったんだったか。
覚えたての猿じゃあるまいし、と自嘲して後始末をするのはいったい何度目だ。情けないにも程がある。
目覚めてからは、眠るカナをずっと見ていた。
カズ。“plena”の前ボーカル。
もう関係ないと言ったらしいが、本当かどうかはわからない。
仮に本当にもう絡んで来なかったとして、第二第三のアイツは出てこないだろうか?
大学では?あるいは、バイト先では?
可愛らしい顔立ちと華奢な身体は、ゲイにとっては垂涎ものなのではないだろうか。
「ん………、キサ、ちゃ……」
起きたかと思えば寝言だった。
いったいどんな夢を見ているのか。
幸せそうにふにゃりと笑った顔を撫でて、起こさないようにキスをひとつ。
今度、いちどカナの大学へ行こう。
周囲に危ないヤツがいないかだけでも確認しておきたい。
そのとき、どんな顔をするだろうか。驚く?喜ぶ?
嫌がる姿を想像できないあたり、俺も大概自惚れている。
✢
カナの大学は駅から然程遠くない。
あまり賢そうには見えないけど、推薦でここに入れるということは賢かったんだろう。……いや、ルナの書く歌詞は知的だから当たり前か。
未だにカナとルナが同一人物だと忘れることがある。
緑の多い坂道を歩きながら聴くのは、“plena”だ。
駄目元でボーカル抜きの音源が欲しいと言ってみたら、案外簡単にもらえた。
3人の音が、とても好きだ。重なり合って高め合って、けどそれぞれ個性的で。この音に、時々入るカナのコーラスに、歌いたくて仕方なくなる。
昼休みに近い時間。
カナが以前言っていた場所へと向かう。
広い大学だけど食堂は狭くて、いつも適当に買って屋外で食べると話していた。
学校内に芝生の公園みたいなところがあって、その脇の木陰のベンチが居心地がいいのだと。
ちょうど大学の中心あたりにあるそこへたどり着けば、カナがいた。
周りには数人の男女。友人だろうか。
後ろ姿でも、ひよひよと跳ねるピンクの頭はひときわ目を惹く。
ふっと笑みの溢れるまま、音の消えた世界を歩いた。
友人らしき何人かが揃ってこちらを見て、それに気づいて振り向こうとしたカナの目を片手で覆う。
周りをぐるりと見渡せば、驚いている顔ばかりだった。
そこに敵意はなく、さすがカナの友人だと満足して笑えば、さらに目が見開かれる。
いったい何にそんなに驚いてるんだろうか?
「っ、キサちゃん!」
やっと再起動したかと思えば、カナが俺の手を掴んで走り出す。
この反応は予想外だ。
ほんと、こいつは、よくわからない。
初めて会ったときの飛び降りといい、無理矢理に上げられたステージといい。
退屈なんて吹き飛ばして、カナが駆ける。
どこへだって行けそうなほど身体が軽くて、声を上げて笑った。
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