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本編
抱擁 1 〚キサ〛
しおりを挟む『ハァイ、イブ。キミの愛しのカナリアは預かったよ。返してほしければ、俺たちの城へ来るといいさ!ガラスの靴を忘れずにね!』
「はぁ!?おい、ちょっ、」
ブツリとそのまま通話は切れた。
折り返しても、電源が入っていないかというアナウンス。
いったいなんなんだ。いい大人のくせして、やることは子供か。
カナの方に連絡を入れれば、こちらもすげない機械音声。―――くそ。
俺たちの城というのは、例のボロアパートだろう。
ガラスの靴というのは、先日もらったアレのことか。
とりあえず、行ってみるしかない。ダグもルディも、悪ノリが過ぎることがままあるし。
カナの身に何かあるわけではないだろうが、……いや、耳に穴くらいなら開けられるかもしれない。
とにかく、一刻も早く。
必要なものだけポケットに突っ込んで走り出した。
✢
「―――なにやってんだ、いったい。」
ボロアパートは更地になっていた。
売り地と書かれた看板の横、ぽつりと残された塀の一部に3人が座っている。
駆け寄って、カナを抱きしめて、異常がないことを確認してから呆れたような声が漏れた。
へらりと笑ったルディと、仏頂面のままいたずらっぽく目を細めたダグが、口笛を吹いて囃してくる。
……いつか紹介しようとは思っていたが、こういう形は想定外だ。
「イブ、顔が怖いよ。心配しなくても何もしてないってば。むしろ助けた?ねー、ダグ。」
「ああ。お前の愛しのカナリアを泣かせてはいない。」
愛しのカナリアって。と胡乱な目つきになったら、カナが腕の中でもがいた。
ああしまった、締めすぎていた。
離してやると俯いたまま顔を上げない。
でも、ひよひよとしたピンクの髪から覗く小さな耳が、真っ赤だ。
するりと撫でたら、カナが小さく身を震わせた。
「はいストーップ。回収ー!例のモノを出しな、イブ!さもないとダグが相手だ!」
別に出すのもやぶさかではないし、元からカナに渡そうと思っていた。
……けれどカナを奪われるのは、抱きしめられるのは、たとえルディでも腹立たしい。
思わず鼻に皺を寄せたら、ダグが少し肩を竦めて笑った。
素直に聞かないと余計めんどくさいぞ、そんな風に諭されたのは5年も前だ。
………仕方ない。
「カナ」
腕を広げて呼んだら、カナが走ってきた。
抱きとめて、閉じ込めて、ふわふわの髪越しにルディを見やる。
さっきので妬いたダグに抱き込まれながらにやにやと笑っている。
きっと元からカナを捕まえておくつもりなんてなかったんだろう。武道オタクから素人がするりと逃げられるはずない。
「ルディ、ダグ、また。……これはありがたく、使わせてもらう。」
例のモノを軽く見せて、またポケットにしまう。
にっと笑ったダグが半ばルディを引き摺るようにして空き地を出ていき、後ろ手にぷらりと手を振った。
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