16 / 52
本編
夢じゃない 3 〚カナ〛
しおりを挟む起きたら目の前にキサちゃんがいた。
驚きすぎて叫びそうになって慌てて口を押さえたら、その気配に気づいたのか眉間に皺を寄せる。
―――良かった、起きてない。
ほうっと息をついて、整った顔を見つめる。
まさかって、あと何回思うのかな。
また会えるなんて思わなかった。
仲良くなれるなんて思わなかった。
ボーカルになってくれるなんて。
好きになってくれるなんて。
ましてや、抱いてくれるなんて。
そして、こんなふうに、包み込んでくれるなんて。
こんな、幸せな朝が来るなんて、思ってもみなかった。
ゲイだということを受け入れることができて、差別や偏見に「だからどうした」と抗えるようになっても、誰かと付き合っている自分なんて考えられなかった。
トモとミヤを見ると幸せそうだと思ったけど、どこかに残るトラウマが「ゲイなんて普通じゃない」と思わせて。
だから、誰にも恋はしなかった。そう、思っていた。
本当のところは、きっと最初から、キサちゃんに恋していて。
キサちゃんが胸のうちにいるから、誰にも恋が出来なかったんだろう。
―――本当に、夢みたい。
「………カナ。見すぎ。穴開く。」
文句みたいにいうくせに、はちみつみたいな甘い声。
ぎゅうっと抱きしめながらの言葉なんて、とろけそうだ。
ふわーあと大きな欠伸をしたキサちゃんが、髪をふわふわと撫でる。
髪、好きなのかな。よく撫でられるし、キスされるし。
ふわふわの猫っ毛だからセットしにくくて嫌だったけど、キサちゃんが好きなら俺も好きかも。
大きな手が優しく髪をかき混ぜるのも、乱したそれを手櫛で整えてくれるのも、好き。
「キサちゃん、だいすき。」
想いがあふれて声に出したら、がらがらのひどい声だった。
声をあげて笑ったキサちゃんが、喘ぎすぎなんていうからかぁああっと顔が熱くなる。
わかってる、わかってるけど言わなくてもいいのに!
水を渡してくれてそれを飲むけど、むくれてお礼を言わないでいたらそのほっぺたに噛みつかれた。
鼻を、髪を、がじがじと噛むから思わずくすくすと笑ってしまう。
こんな、とことんでろあまになっちゃうなんて。
いつも死ぬほどかっこいいのに、こんなにかわいいなんて。
「―――カナ。」
あまぁく笑って、抱きしめて、耳元で名前だけ呼んで。
うそみたい、夢みたいって思うのに、こんなにも想いを声に載せられたら信じるしかない。
キサちゃんの心臓が、こんなにも速い鼓動を刻んでいたら。
キサちゃんが上機嫌で歌を歌う。
また溢れ出してきたんだろう。今度は、アップテンポで跳ねる、明るい歌。
きらきらとした喜びに満ちた、幸せな曲。
―――ほんとに、夢じゃないんだ。
実感したらまた涙があふれて、声を殺して抱きついた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
97
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる